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第八章 魔法と工業の都市編

146.分配

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 野外食堂へ戻ってみるとすっかりご機嫌なレナージュとイライザ、そしておろおろしながらパンをかじっているナウィンを見つけた。どうやら串焼きは並ぶのが嫌で諦めたようだ。

「ちょっとミーヤ? ちょっとアレ見なさいよ。あの屋台の串焼きってあなたが教えたんでしょ。猫の看板がついていたからすぐに分かったわ。並び始めてすぐに気が付いてよかったわ」

「そうそう、ミーヤに作ってもらえばいつでもタダで食えるんだからな。わざわざ並ぶのなんてばからしいぜ」

「あなた達ねえ…… 別にただってわけじゃないのよ?旅用の資金から出してるってことをわかってちょうだい? 確かに調理代なんて貰ってないからただみたいな気にもなるだろうけどね」

「なんで取ってないの? ほぼ毎食ミーヤが作ってるんだから勝手に貰っておけばいいのよ。どうせ今どのくらいあっていつ増えたり減ったりしてるかなんてわからないんだもの」

 レナージュは気楽に言うけれど、経理を任されているからには勝手な真似はできない。そんな横領じみたことしていたら罪悪感で眠れなくなってしまいそうだ。

「ちなみにパーティー資金って今はどのくらいあるの? バタバ村で魔鉱を大分とったし、食費や宿泊費もかからなかったから結構あるんじゃない? 私の見立てでは十万以上はあるわね」

「ほう、バタバ村で見つかった洞窟には魔物がいたのか。いい稼ぎになったのか?」

「魔物はほとんどいなかったわね。でも地下水脈があって魚が獲れたのよ。途中で出したさつま揚げはその魚で作ったものよ」

「おお、アレはうまかったな。ふわふわした食感と刻み野菜がよく合うけど、あれは魚料理だったのか。想像もして無かったよ」

「村へ来た人たちにも好評で名物になりそうね。お土産として持って帰れるのが良いみたい。それよりもパーティーの資金だったわね。先に言っておくと、レナージュの見立てはまったくの大外れよ」

「そうなの? もしかして飲み代は取られてたとかそういうこと? 魔鉱だけでも数万にはなったはずなんだけどなあ」

 ミーヤは事実をそのまま話すのはためらったが、変にごまかしたり嘘をついたりするのはもっと良くないと考え、ナウィンを一瞥いちべつしてから正直に話すことにした。

「実は魔鉱は売却してないのよ。高純度結晶を作る練習で大量に使うから全部ナウィンへあげちゃったの」

「あー、錬金術の修行ね。それなら仕方ないわ。路銀が不足しそうなら狩りにでも行ってこようかしら。ジョイポン周辺のことは知らないけど、北に森があるから獣くらいは獲れるでしょ」

「えっとね、魔鉱は売却してないけどお金がないとは言ってないわよ? 洞窟探索で盗賊を一人捕まえた分が入ったし、地下水脈の魚は資源とみなされたわけ。そのおかげでバタバ村の改革が出来たしね」

「もう、随分ともったい付けるじゃないのよ。結局バタバ村の働きでいくらくらい入ったわけ?」

「その後も出入りがあったから正確じゃないけど、探索でもらったのが……」

 ミーヤは周囲をキョロキョロと見回してからみんなに顔を寄せてから、テーブルの中央へ手のひらを開いてスマメの残高欄を見せた。

「へえ、五十万も貰ったのかよ。アタシも参加しておけばよかったなあ。毎日酒が飲み放題だったらしいから、それだけで十分元が取れただろうに」

「イライザ? 桁を間違ってるわよ? 盗賊捕縛の分だけで二十万だったもの」

「ということは合計で二十五万かあ。大変じゃなかったからまあ妥当だろうけど、意外と少なかったわね」

「だから二人とも桁が違ってるんだってば。受け取った時は私気絶するかと思ったんだから」

「いちじゅうひゃく―― おい、ウソだろ? 五百二十万って何ごとだよ? 洞窟探索しただけでこんな大金ありえないぜ!」

「ちょっとミーヤったらからかってるんでしょ? いくらなんでもそれはあり得ないわよ。第一そんな大金、何に対しての報酬なわけ? いや、貰ったものは返さなくていいけどなにか交換条件とか出されなかった?」

「ううん、ヴィッキーが国王へ伝えてくれた内容が大げさだったのかも。ただ魚がいた、じゃなくて使い道も示して特産物にしちゃったからね。水牛料理やマスタードソースとかレシピと使用権その他あれこれひっくるめての金額なの。落ち着いたら話そうかと思ってて忘れてたわ」

 ミーヤは説明しながら考えていた。綿花栽培や布造りまでの一式を揃えるのにいくらくらいかかるのだろうか。今回の稼ぎを等分したとしても結構な金額になる。

 どれくらいあれば紡績機に織機、その他欲しい器具や設備等々すべてをそろえることが出来るのだろうかと。分からないと言うことは、お金がいくらあっても困りはしない。

「それでミーヤはそこからいくら引いたの? パーティー用資金を引いてから分配するんでしょ? 私新しい防具が欲しいからちょっと大目に貰えないかしら? できれば一割…… は欲張り過ぎ?」

「あの、えっと、あの…… 修行用に魔鉱をもっと手に入れたいので私も少しいただければ……」

「ボクはミーヤさまに預けとくからなんでもいいよ。でも水飴はいっぱい買ってね」

 意外とみんな欲はあるようで身を乗り出してきて自分の分け前を欲しがった。とはいってもその金額はささやかなものだ。一番具体的だったレナージュでさえ一割でいいと言うのだから。

「一割ずつって、そんなのでいいわけ? 今回は四人だったけど残り六割をパーティー資金として預かればいいのかしら」

「何言ってるの? パーティー資金なんてそんなたくさんいらないわよ。二割でも百万になるんだからさ。普通に旅して何年分にもなるじゃないの」

 街に滞在しているときは一晩で一万ゴードルくらい飲む人が何か言っている。だがあえてそこは突っ込まないことにして話を進めた。

「じゃあ残りを等分ってことでいい? パーティー資金を引いてから四等分すると一人当たり百五万ね」

「もうミーヤったら全然ダメ、ダメダメよ! 村の開拓でもらった分はミーヤの物でしょうに。それにもともと持ってたお金もごっちゃになってるんでしょう? 全部ひっくるめてだから細かい計算はできないけど、相場を考えても私たちが一割ずつでも多いくらいだわ。パーティー資金は端数含めて百二十ゴードルってとこね。残りがミーヤの分ってのが妥当じゃない?」

「いくらなんでも多すぎない? 私が六割貰うことになっちゃうわよ?」

 いきなり三百万受け取れと言われて戸惑っているミーヤに向かってイライザが説明を始めた。

「いやいや、未踏破地域の地図を持って帰ってもせいぜい十万くらいだよ。魔物がろくにでなくて危険性の少ない場所ならなおさらな。あとは得られる資源によって色がつくくらいだけど、鉱石でも出ない限りは微々たるもんさ。今回みたいな百万超えなんて異常、さすが王族案件なことはあるな」

「なるほどね、もしかしたらヴィッキーが納めることになったからかも。王都では居場所がないって悩んでたし、国王も気にしてたんじゃないかしら。だから気前よく出してくれたのかもしれないわね」

「そうさ、そう言うことにしておきゃいいんだよ。こんなおいしい仕事もう二度とないかもしれねえんだからな」

 とは言えミーヤは、バタバ村で出している料理の利益から二割貰うことになっているので今後も継続的な収入が期待できる。加えてジスコの三店舗にジョイポンの屋台も入れるとそこそこの稼ぎになっているはずだ。

 カナイ村を離れてからまだ一年にも満たない。それなのにミーヤを取り巻く環境は随分と変わってきている。きっと今後もいいこと悪いことどちらもいろいろあるだろう。だが最後にはきっと明るい未来があると信じて今を楽しむミーヤだった。
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