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旅立ちとギルド
第17話、魔力回路の解説
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「おっ、女の子? エルが? 」
「はい! エルちゃんは、正真正銘の女の子です! 」
なんだと!?
そして私の目の前で、俯きはぁはぁと呼吸を荒げてしまっているエルを改めて見てみる。
たしかに女の子座りをしているが——
いや、それは恐らく関係がない。だがいくら若がろうが、女性なら多少は胸があるのでは?
……まさか、貧乳だとでも言うのだろうか!? しかし自身の事をボクっと言って——
もっ、もしかして噂に聞いた事がある、ボクっ娘って奴なのか!?
先入観を捨てジロジロ見た結果、長いまつ毛に瞳が大きく幼いが整った顔。……不思議とエルが女の子に見えてきてしまう。
私は——
エルの服の中から、震え始めていた手をそっと引き抜く。
「……エル、本当なのか? 」
すると背中を向けたままのエルが、視線をこちらに向けず俯いたままコクリと頷いた。
そして世界が停止した。
いや、これは切り離された私の頭の中の世界が停止しているのだ。聞こえるのは私の呼吸音のみ。頭の回転が重く、真っ白のまま何も考えられない。ただボーとしてしまっている。
それからどれくらいの時が流れただろうか? 遠くからリーヴェの声が聞こえる気がした。
そしてなんの前触れもなく私は覚醒する。
私の眼前にはリーヴェの顔が。
どうやら肩をガクガク揺さぶられながら、私の名が呼ばれていたようだ。
「アルドくん、大丈夫ですか!? 」
「あぁ、すまない。もう大丈夫だ」
まだカクカク揺さぶられているため、リーヴェの手を握り止める。
そこでエルが視界に入る。
「……知らなかったとは言え、すまない事をした」
「あっ、いや、ボクもこんな話し方だし、アルドさんは何も、悪くないです」
そして私たちの間で会話が途切れた。気不味い空気が辺りに充満し、ただただ時間だけが流れる。
と不意に、エルが太ももを擦り合わせている事に気がつく。そして目が合う。
「……あの、アルドさん」
「どうした? 」
「その、今、身体中が暖かいんですけど? 」
「あぁ、それなら魔力回路が機能し始めている証だ。直ぐにその熱自体に身体が慣れ、それが普通になる」
「そう、なんですね」
「因みに魔力回路が機能し始めると、各々の歯車により何かしらの恩恵が得られるようにもなる」
「えっ? 歯車、ですか? 」
「あぁ、そうだったな」
説明しないと分かるわけないな。
私は木の枝を拾い上げると、からくり時計などの部品として使われる一般的な歯車の絵を地面に一つ書く。
「魔力回路を可視化して表すと、このような歯車の形になる」
次に歯車の隣に次々と六つ、計七つの歯車が数珠繋ぎになるようにして絵を書く。
「このように体内には七つの魔力回路が存在するのだが、その一つ一つが本人が持つ才能だ。そして主となる大元の一つが動き始めると、つられるようにして残りの付随する六つの魔力回路も動き始める」
「へぇー」
「そして日々の鍛錬や経験により歯車が現す才能の練度が上がれば、より効果が出るようその才能の歯車が小さくなってくる。
そうだな、詳しく言うならば、本人の主となる歯車の練度を上げれば、自ずと他の歯車の才能も底上げされ、また主となる歯車から遠い歯車はいくら練度を上げ歯車を小さく出来たとしても、その間の歯車に一つでも大きな物があればその分効果が損なわれてしまう。
更に言うならば、全ての歯車を覚醒、練度を最大限まで持っていければ、その個人にあった何かしらの能力を発現させる事が出来る者がいて——」
ん?
説明モードになっていたため今気付いたのだが、エルは首を捻り呻くようにしながら声を漏らしている。
早足で説明をしてしまったため、少しだけ分り辛かった、かな。
因みにリーヴェは、のほほんと私たちの会話を聞いているため、恐らく理解していないだろう。
「ウオッフォン! つまりだな、自身の魔力回路を知る事が、その人間の今後を大きく左右すると言う話だ」
「そうなんですね。それでボクの魔力回路は、どんな魔力回路なんですか? 」
「大まかだが、簡単な道具があれば誰でも確認は出来る。ただ今はその道具すらないからな。町に立ち寄った時にでも——」
そう言えば、現在一文無しであった。ただ幸いな事に、リーヴェは多くの兎を狩ってきている。街で売ればそこそこの金額にはなるはずだから、何匹かはここで食べずに取っておいたほうが良いかもな。肉は多少傷んでいても売り物になるから。
「アルドさん? 」
「あぁ、すまない。金銭に余裕があれば調べてみよう」
「わかりました」
「あの、アルドくん」
「どうしたリーヴェ? 」
「その時はリーヴェも、魔力回路の解放と確認をして貰っても良いですか? 出来たら、冒険の足手纏いになりたくないのです」
「あぁ、元々リーヴェも調べないといけないと思っていたから、全然構わないよ」
「ありがとうございます! 」
そうして遅い朝食を済ませた私たちは、ここ数日間と同じように小休憩を取りながら森の中を進む。
それから時は流れ、太陽の位置が結構高くなっているため正午を過ぎた辺りだろうか。
そろそろ今晩の野宿の心配をしないといけないなと思っていると、後ろを歩くエルから声をかけられる。
「アルドさん、ちょっと良いですか? 」
「あぁ、どうした? 」
「今日一日身体が軽くて、ずっと歩いているのに全然疲れないんですけど、これってやっぱり魔力回路が働き出しているからですか? 」
「恐らくそうだろう。……そうだな、それとエルの主となる歯車が、戦士向きの肉体強化系統の可能性が高いな」
「へぇー、そうなんですね」
とそこで隣でキョロキョロしていたリーヴェが、突然一点を見つめたあと走り出す。そして少し先まで行くと、立ち止まってこちらに振り返り笑顔を見せる。
「アルドくん! 街が見えました! 」
ローゼル、そこはレコ王国で二番目に大きな街であり、この国で唯一冒険者ギルドが存在する街でもある。
そのため多くの冒険者がこの街を拠点にして活動をしているのだが、冒険者目当ての商人が集まり物々交換や買い物に訪れる近隣の街の者も訪れるため、街全体が活気に満ち溢れているらしい。
私たちは高い塀に囲まれた街の出入り口、南方の通用門を潜ると大きな道が真っ直ぐに伸びている大通りを進む。道の両端には連なるようにして店が立ち並び、多くの人が店の前で足を止めたり目的地に行くために徒歩や馬車で移動をしている。また長年住んでいたバーバラとは違い、多くの人々の中に冒険者風の姿の者がちらほら確認出来た。
「うわぁー、凄い人です」
その人の多さに圧倒されたリーヴェは、立ち止まり口を開いて目を白黒させている。
「リーヴェ、危ないよ」
道のど真ん中で立ち止まっていたため後続の人とぶつかりそうになり、それを回避させるため彼女の肩を掴み引き寄せる。
「あっ、ありがとうです」
「礼はいいよ。それより早速、その兎を売りに行こうか」
「はい! 」
そこでエルが、何か言いたげな表情でこちらを生暖かく見ている事に気づく。
「エル、なにかあったか? 」
「いや、ラブラブだなーと」
「なんの話だ? 」
「はい! エルちゃんは、正真正銘の女の子です! 」
なんだと!?
そして私の目の前で、俯きはぁはぁと呼吸を荒げてしまっているエルを改めて見てみる。
たしかに女の子座りをしているが——
いや、それは恐らく関係がない。だがいくら若がろうが、女性なら多少は胸があるのでは?
……まさか、貧乳だとでも言うのだろうか!? しかし自身の事をボクっと言って——
もっ、もしかして噂に聞いた事がある、ボクっ娘って奴なのか!?
先入観を捨てジロジロ見た結果、長いまつ毛に瞳が大きく幼いが整った顔。……不思議とエルが女の子に見えてきてしまう。
私は——
エルの服の中から、震え始めていた手をそっと引き抜く。
「……エル、本当なのか? 」
すると背中を向けたままのエルが、視線をこちらに向けず俯いたままコクリと頷いた。
そして世界が停止した。
いや、これは切り離された私の頭の中の世界が停止しているのだ。聞こえるのは私の呼吸音のみ。頭の回転が重く、真っ白のまま何も考えられない。ただボーとしてしまっている。
それからどれくらいの時が流れただろうか? 遠くからリーヴェの声が聞こえる気がした。
そしてなんの前触れもなく私は覚醒する。
私の眼前にはリーヴェの顔が。
どうやら肩をガクガク揺さぶられながら、私の名が呼ばれていたようだ。
「アルドくん、大丈夫ですか!? 」
「あぁ、すまない。もう大丈夫だ」
まだカクカク揺さぶられているため、リーヴェの手を握り止める。
そこでエルが視界に入る。
「……知らなかったとは言え、すまない事をした」
「あっ、いや、ボクもこんな話し方だし、アルドさんは何も、悪くないです」
そして私たちの間で会話が途切れた。気不味い空気が辺りに充満し、ただただ時間だけが流れる。
と不意に、エルが太ももを擦り合わせている事に気がつく。そして目が合う。
「……あの、アルドさん」
「どうした? 」
「その、今、身体中が暖かいんですけど? 」
「あぁ、それなら魔力回路が機能し始めている証だ。直ぐにその熱自体に身体が慣れ、それが普通になる」
「そう、なんですね」
「因みに魔力回路が機能し始めると、各々の歯車により何かしらの恩恵が得られるようにもなる」
「えっ? 歯車、ですか? 」
「あぁ、そうだったな」
説明しないと分かるわけないな。
私は木の枝を拾い上げると、からくり時計などの部品として使われる一般的な歯車の絵を地面に一つ書く。
「魔力回路を可視化して表すと、このような歯車の形になる」
次に歯車の隣に次々と六つ、計七つの歯車が数珠繋ぎになるようにして絵を書く。
「このように体内には七つの魔力回路が存在するのだが、その一つ一つが本人が持つ才能だ。そして主となる大元の一つが動き始めると、つられるようにして残りの付随する六つの魔力回路も動き始める」
「へぇー」
「そして日々の鍛錬や経験により歯車が現す才能の練度が上がれば、より効果が出るようその才能の歯車が小さくなってくる。
そうだな、詳しく言うならば、本人の主となる歯車の練度を上げれば、自ずと他の歯車の才能も底上げされ、また主となる歯車から遠い歯車はいくら練度を上げ歯車を小さく出来たとしても、その間の歯車に一つでも大きな物があればその分効果が損なわれてしまう。
更に言うならば、全ての歯車を覚醒、練度を最大限まで持っていければ、その個人にあった何かしらの能力を発現させる事が出来る者がいて——」
ん?
説明モードになっていたため今気付いたのだが、エルは首を捻り呻くようにしながら声を漏らしている。
早足で説明をしてしまったため、少しだけ分り辛かった、かな。
因みにリーヴェは、のほほんと私たちの会話を聞いているため、恐らく理解していないだろう。
「ウオッフォン! つまりだな、自身の魔力回路を知る事が、その人間の今後を大きく左右すると言う話だ」
「そうなんですね。それでボクの魔力回路は、どんな魔力回路なんですか? 」
「大まかだが、簡単な道具があれば誰でも確認は出来る。ただ今はその道具すらないからな。町に立ち寄った時にでも——」
そう言えば、現在一文無しであった。ただ幸いな事に、リーヴェは多くの兎を狩ってきている。街で売ればそこそこの金額にはなるはずだから、何匹かはここで食べずに取っておいたほうが良いかもな。肉は多少傷んでいても売り物になるから。
「アルドさん? 」
「あぁ、すまない。金銭に余裕があれば調べてみよう」
「わかりました」
「あの、アルドくん」
「どうしたリーヴェ? 」
「その時はリーヴェも、魔力回路の解放と確認をして貰っても良いですか? 出来たら、冒険の足手纏いになりたくないのです」
「あぁ、元々リーヴェも調べないといけないと思っていたから、全然構わないよ」
「ありがとうございます! 」
そうして遅い朝食を済ませた私たちは、ここ数日間と同じように小休憩を取りながら森の中を進む。
それから時は流れ、太陽の位置が結構高くなっているため正午を過ぎた辺りだろうか。
そろそろ今晩の野宿の心配をしないといけないなと思っていると、後ろを歩くエルから声をかけられる。
「アルドさん、ちょっと良いですか? 」
「あぁ、どうした? 」
「今日一日身体が軽くて、ずっと歩いているのに全然疲れないんですけど、これってやっぱり魔力回路が働き出しているからですか? 」
「恐らくそうだろう。……そうだな、それとエルの主となる歯車が、戦士向きの肉体強化系統の可能性が高いな」
「へぇー、そうなんですね」
とそこで隣でキョロキョロしていたリーヴェが、突然一点を見つめたあと走り出す。そして少し先まで行くと、立ち止まってこちらに振り返り笑顔を見せる。
「アルドくん! 街が見えました! 」
ローゼル、そこはレコ王国で二番目に大きな街であり、この国で唯一冒険者ギルドが存在する街でもある。
そのため多くの冒険者がこの街を拠点にして活動をしているのだが、冒険者目当ての商人が集まり物々交換や買い物に訪れる近隣の街の者も訪れるため、街全体が活気に満ち溢れているらしい。
私たちは高い塀に囲まれた街の出入り口、南方の通用門を潜ると大きな道が真っ直ぐに伸びている大通りを進む。道の両端には連なるようにして店が立ち並び、多くの人が店の前で足を止めたり目的地に行くために徒歩や馬車で移動をしている。また長年住んでいたバーバラとは違い、多くの人々の中に冒険者風の姿の者がちらほら確認出来た。
「うわぁー、凄い人です」
その人の多さに圧倒されたリーヴェは、立ち止まり口を開いて目を白黒させている。
「リーヴェ、危ないよ」
道のど真ん中で立ち止まっていたため後続の人とぶつかりそうになり、それを回避させるため彼女の肩を掴み引き寄せる。
「あっ、ありがとうです」
「礼はいいよ。それより早速、その兎を売りに行こうか」
「はい! 」
そこでエルが、何か言いたげな表情でこちらを生暖かく見ている事に気づく。
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