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出逢い
1話【桜の精の様に】
しおりを挟む・・・もう失敗はしない。必ず君を救いだしてみせる。
だから、幸せなあの頃に戻ろう。もう一度二人一緒に笑い合おう。
これが成功すればもう、大丈夫・・・。
君に二度とあんな辛い思いさせない、苦しみなんて消してあげるから。
あの時を取り戻す・・・
・・・ン,キーンコーンカーンコーン
学校のチャイムに途中で気付き顔をあげる。
『礼』、『『さようなら』』
律儀に教師へ挨拶をしている様に見える光景。だが、実際は長々話す
教師の話を、チャイムにかこつけて遮り終わらせようとしているだけだ。
そんな教師は、話を無理矢理切られたにも関わらず、笑顔で近所にいそうな小太りのオバサンだ。
なんて、考えてる間に生徒達は教室から出ていく者、友人と話している者、等
個々で自由にしている。どうでもいい思考を打ち切り、僕は本に栞を挟んで立ち上がる。
『お~いっ!!ま~たHR中本読んでたろ~。な~にやってんだよ、全く~。』
なんの馴れ合いなのか誰も好んで話しかけない僕に、何かと話しかけてくる生徒
男子学級委員長、【真道 智記 シンドウ トモキ】
どうやら読書に集中しすぎて、礼で立ちもしなかった僕を咎めに来たようだ。
『・・・・・・・・・お前に関係ないだろ』
『間がなげぇよ!って、おいお~い。クラス委員長が話しかけてんだからもちっと反応しろよ~』
なんでこんな、間延びしたしゃべり方のチャラ男が委員長なのか。甚だ不思議で堪らない。
そんな事を考えていると帰りの準備が整い、黙ってヤツの隣を素通りして扉へ向かう。
『あ、ちょ~い~!・・・はあ。じゃ~また明日な~!』
無論、返事なんてしない。"また明日。"なんて、言い合う様な仲でもないからだ。
ただのクラスメイトで友人でもないヤツは、根っからのおっせっかい焼きなのか人懐こいだけか。
そんなことに興味はないが、ヤツには1つだけ感謝している事がある。
理由は最近の僕の気に入りの、静かで穏やかな読書にもってこい。と、言う様な場所。
そこを知る切っ掛けとなったのが、ヤツなのだ。僕はすっかりそこに行き付けになっている。
今日も今日とて真っ直ぐ・・・家路に着くと言う訳ではなく、気に入りの場所へと赴く。
浮わつく思いは、早く着きたい。と、僕を急がせ足のスピードを加速させていく。
かいた汗も向かい風にさらわれていく。鼓動が高鳴り、息が切れて、そして駆け抜けた先には・・・
満開に咲くとても大きな桜の木。その美しさに、見る度に息を呑む。
見えてからはスピードを段々と落として、木の下に着くと木に凭れる様にしてボスッと座り込み、目を閉じる。
肩は、体育祭のリレーですら見せないほど上下している。
暫くして目を開けると、学生鞄に大切に入れていた本を取り出す。
本の上部分、そこからは紐のついた栞が見え隠れしていて、それを頼りに本を捲る。
シンとしたそこでただひとつ聞こえるのは己の本を捲る音1つ。
それがとてつもなく心地よく、捲るスピードが落ちていくと共に、支えの手の力も弱まり、段々と瞼が重くなる。必然的に隠された瞳。
・・・そこには本を捲っていた音の代わりに、一人の寝息が、小さく聞こえていた。
・・・ぱちり、と言う効果音は付けにくい様な鈍い開眼。
ぼーっとする頭がゆっくりと冴えてきて、ハッとする。辺りを見渡せばすっかり暗くなった景色。
木の枝と桜の狭い隙間から覗かせる満月の姿。
漫画ならタラリ、と汗が頬をつたりそうな状況だ。なんて言っていられない!
やばい。と、寝ていたのに片手でしっかり持っていた本を開きっぱなしの鞄にしまう。
そして閉めようとして、気付く。目の前がボヤけている・・・。
イコールに続くのは眼鏡を掛けていない。と言うことだ。
寝る前は確かに着けてた筈だろ。と、自分に多少イラつきながらも、自分の座っていた周りを探す。
草が生えているのにも関わらず膝をついて、眼を凝らして探していた。
その時・・・
『ねぇ、そこの君』
後ろから聞こえた、鈴の鳴るような声に弾かれる様に体勢を直し振り返る。
その間、まるでスローモーションに、時が流れている様に感じた・・・
・・・それが、彼女との出逢いだった・・・・・・
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