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続編

月華の竜

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 外に飛び出して見えた光景は……

 大量のオークの死骸と倒れ伏す冒険者数名。
 そして巨大なオークと戦ってるのはカイン一人!?
 ナスカとエレナはどうしたんだ!?
 それと他の冒険者はどこだ!?

 役所の前に行くと、遠くから未だ押し寄せるオークの群れと戦う冒険者の一団が見える。
 数を見誤った…… まだ増えてるんだ。

 それよりもナスカとエレナだ!

 化け物に近付くと破壊された家や店が複数。
 その中に倒れ伏すエレナの姿が見えた。

「エレナ!!」

 駆け寄ってエレナを診るが怪我はそれ程酷くない。
 頭から血が出てるからこの家屋にぶつかって気を失ったんだろう。

「カイン!! ナスカは!?」

 エレナの額に手を当てて回復しながら問いかけた。

「ゆっ、勇飛! ナスカはこの家の裏に落ちてるんだ! こいつは僕がなんとか引き付ける! 二人を頼んだよ!」

 カインは遠距離だし何とかなるか……
 しかしあれを倒すとなるとオレ一人じゃキツいしエレナとナスカに起きてもらわないと。



 よし、傷は塞がったし体力の回復も終わった。
 あとはエレナには悪いが引っ叩いて起こすか。

 パァン!!

 いい音が鳴ったけど回復しておこう。

「う…… うぅ…… ん…… はっ! 勇飛!? あの化け物は!?」

「今カインが一人で引き付けてる。いけるか!?」

「当たり前でしょ!!」

 意識もはっきりしたエレナは立ち上がって化け物に向かっていく。
 オレはナスカを救出しないとな。

 ……

 んでもあの化け物の背中が見えるし隙だらけじゃね?
 とりあえずぶん殴って転ばせておくか?
 よし、そうしよう。

 全力で走って足裏爆破でジャンプ、一気に距離を詰めて重心の乗った右の膝裏をぶん殴る。
 爆破して表面が弾けたけど固てーなこいつ……
 グラリとバランスを崩して後方に倒れ込む化け物と、その下にはエレナ、が。

「うっ、うわぁっ!?」

 横に飛び退いて避けた。
 潰されなくて良かったな。

「くぉらぁぁあ!! 勇飛!! あとで覚えてなさいよ!?」

「おう! その怒りをそいつにぶつけてくれ!」

「アンタにもぶつけるのよ!!」

 風魔法使って斬り掛かったしとりあえずここは任せよう。



 カインはかなり息が上がってるみたいだしオレは屋根に登ってカインを回復する。

「ナスカはどこに落ちてるんだ?」

「回復ありがとう。でも早くナスカのとこに行って! そこの裏に落ちてるけど怪我の度合いはわからないんだ!」

 カインが指差す方にナスカと思われる足が見える。

「うるせー、膝が笑ってんだから黙って回復されてろ! あの化け物倒すのにお前の力が必要なんだからよ」

 カインの体力を回復して牽制だけ任せてナスカに向かう。

 ナスカは…… 無事だ!
 意識を失ってるけど怪我も大したことはなさそう。
 とりあえず回復しながら叩き起こすか、と、また頬をパァン! と引っ叩く。
 回復しながらだからきっと気付かないし怒られない。

「ケホッ、ケホッ、クフッ…… むっ? 勇飛か」

「おう、痛いとこはないか?」

「痛みはないようだ。はっ! あの化け物はどうした!?」

「カインとエレナが引き付けてる。さっき殴った感じだとたぶんオレの爆破じゃ倒せねーから全員でやるぞ」

「初めて勇飛の口から倒せないって聞いた気がする。と言う事はあれをやるんだな?」

「そそ。オレが奴の動きを止めるからとどめは頼む」

 表面の傷と体力の回復が終わったら反撃に出る。
 これで倒せないならはっきり言って絶望的だが、そのあとは死ぬまでオレが殴り続けるだけだ。



 ナスカが再び屋根に登ってカインと合流。
 オレは下から化け物に駆け寄る。



 エレナも無事、カインも牽制のみで魔力の消費を抑えながら耐えていてくれたみたいだ。

「エレナ! あれやるぞ! こいつはオレが引き付ける!」

「わかったわ! 

 化け物が持っていた丸太は焼け落ちたのかエレナ目掛けて素手で殴り掛かるが、カインが化け物の目を狙って火矢を射る事で狙いを逸らす。
 余裕を持って躱すエレナに代わってオレが前に出る。
 先程同様右の膝裏を爆破して化け物を蹌踉けさせ、堪えようとしたところに左膝裏も蹴りで爆破。
 両膝裏を打ち抜かれて後方に倒れていく化け物。



 腕から一気に駆け上がって跳躍し、顔面に落下すると同時に全身爆破と左右の連打。
 抵抗しようとオレを払おうとする腕を爆破で防ぎながら顔面を殴り続ける。
 それを何度も繰り返したら両手で挟み込むように殴りつけてきた。
 流石にオレも魔力の放出が足りなくて爆破で威力を殺しつつも潰された。
 肋骨が数本折れたけど気にしてられねー。
 回復に回す魔力も惜しい。
 骨折に構わず拳を握り締めて全力爆破で目ん玉を叩き潰す。
 左の目ん玉が爆散し、血と目の中の体液が飛び散った。

 両手で潰された目を覆い隠し、超巨大な足で地団駄を踏む事で大地が揺れる。
 顔を覆う手を避ける為に跳躍し、手の甲に着地して指の隙間から右目を狙って拳を振るう。
 オレの魔力を察したのか、右手を払って吹っ飛ばされた。
 家に突き刺さりながらも爆破で一気に詰め寄って、キツく閉じた瞼に殴り込む。
 瞼の表面に爆破が生じたところで横を向いて眼球を避け、自分の顔を叩くようにオレごと掌を叩き付けた。
 このままじゃ捕まる。
 掌を蹴りの爆破で弾き飛ばしてまた顔の上から殴り掛かる。



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 一方カインとナスカ、エレナの三人。

 ナスカとエレナは石造りの屋根の上で魔法陣を描いて呪文を唱えながらその時を待つ。
 二人の魔法陣は下級魔法陣ファイアとウィンド。
 長い呪文を唱え、高い集中力と安定した魔力供給ができないとまともに発動する事はできない。

 カインも二人の真ん中で魔法陣を描き、呪文を唱えながらミスリルの矢を構える。
 この世界にも数える程しか使用できる人間はいないとされる魔法陣、上級魔法陣インフェルノという超高等魔法陣を集中力を高め、数分に渡る詠唱に魔力を乗せながら発動条件となる呪文を紡いでいく。

 カインの詠唱を終えるまで勇飛の戦いを見守らなければならないナスカとエレナ。
 状況を見るに勇飛でもそう長い時間押さえつける事は出来ないだろう。
 助けに向かう為飛び出したい衝動を必死に堪えつつカインを待つ。



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 この化け物を殴り続ける事数分。
 何分経った?
 こんな全力で殴り続ける事は今までなかったし、オレの全力で倒せない魔獣なんて存在しなかった。
 こんな危機的状況はオレがこのアースガルドに来てから初めてだ。
 普段体力の回復に回してる魔力も全部攻撃と防御に割り振って殴り続けてる。
 呼吸も整わねーこんな状態じゃ魔力の強度も全然上がんねー。
 さっき殴って付いた傷も今は治ってるし、こいつもどうやら回復能力を持ってるらしい。
 派手に吹っ飛ばした左目はまだ回復終わらないみたいだけどな……
 あれが終わって左手も振るわれたらもうほんとお手上げだ。
 流石に抑えきれねー。

 オレの予想だがカイン達もこの一撃を放ったら残りの魔力は底を尽きる。
 意識をギリギリ保てても魔法を発動するだけの体力は残らないはずだ。

 だがオレ達は絶対に勝つ。

【月華の竜】の力を見せつけてやれ。



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 屋根の上から燃え上がる巨大な火柱。
 それはカインの上級魔法陣が発動した事を意味する。
 カインとその背後には巨大な火蜥蜴サラマンダーが顕現し、火柱を吸収しながらその背の炎を空へ噴き上げる。
 デンゼルを照らし、月夜をも照らすかの如き炎がオークと戦っていた冒険者達の目にも映る。
 残り僅かとなったオークも炎の精霊を恐れて逃げ出した。



「これが僕達の放つ最強技、バックドラフトだ!」

 弓を引き絞り、矢を化け物の胸元目掛けて更に魔力を高めるカイン。
 エレナの魔法陣ウィンドによって強化された竜巻に似た風の魔導が放たれ、その中心にカインの矢が放たれる。
 カインの矢はサラマンダーのブレスとなって射ち出され、化け物の胸に深く突き刺さると同時に風を巻き込んで、大気を揺るがす程の爆発と化け物を包み込む炎が燃え上がる。

 そして駆け出して跳躍したナスカの炎の斬撃。
 魔法陣ファイアによって強化されたナスカの斬撃は、首筋に深く斬り込まれると同時に傷口を焼く。

 腹部を貫かれ、爆散され、最後に首筋を斬られては耐えられる魔獣などはいないだろう。



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「うおぉぉぉおっっっ!!」

 エレナの風に吹き飛ばされて地面を転がった。
 背中に傷が付くけど斬撃を狙った魔法じゃねーからそれ程ダメージはない。
 それより速く逃げっ……



 !!!!!!!!!!!



 すっげー威力。
 オレ達っつかカインとエレナのバックドラフト。
 まあ技名はちょっと地球感覚で考えると笑っちゃうけど、なんか必殺技っぽくて付けてみた。
 絶対に笑われるだろうから迷い人に知られない事を祈る。
 最後にナスカの炎の斬撃がとどめの一撃なんだけど、元々は敵の正中から真っ二つにする技だ。
 今回は敵がでけーし寝転がってたから首筋にだな。

 これで倒せなきゃもうマジでどうするんだって感じの威力がある。

 屋根の上ではカインが倒れたしエレナも膝から崩れたな。
 ナスカは危ねーからとりあえずこっち連れてくるか。



「ナスカ、無事かよ」

「勇飛こそ平気か? 見た限り何本か骨が逝ってるだろう」

「まぁな。すっげー痛え」

 ナスカの肩を担ぎながら場所を移動する。
 移動しながらも回復魔法を掛けるんだけど、やっぱ魔力を消耗してるせいか意識を失った。
 安全そうな場所まで運んで戻ってきた冒険者仲間にナスカを預けた。

 オークの死骸の他にもオレの知ってる冒険者の亡骸が横たわってる。
 顔の原型がない程叩き潰されてるあいつはクルドだな。
 その下に倒れてるのはアイツのパーティーメンバーか。
 酒に酔うとめんどくせー奴だったけど仲間想いのなかなかいい奴だったな……
 あっちにはプラド、向こうにはヘンリーとジェシー、カナン。
 まだ新米のくせに頑張ってたのにな……
 オセルス達はパーティー全員か……
 知ってる奴が死ぬのがこんなにキツいと思わなかったな……



 とりあえずこの化け物が死んでるのか確認しないと。
 こんだけデカい魔獣だと死んでてもオレ一人じゃ魔石に還せないみたいだ。
 これじゃ死んでるのか確認できない。
 心臓か顔あたりを確認すればわかるかもしれない。
 体を登って心臓付近に立ったけど鼓動はよくわかんねーな。
 顔はどうだろう。

 顔の上に登って息を確認する。
 息は…… してない気がする。
 瞳孔を確認すりゃわかるだろうしオレが火花を散らせば確認できるか。
 上瞼を左手で持ち上げて右手で火花を散らす。

 ……

 ん? 瞳孔が動いた?

「うおっ!!?」

 左の拳を受けて吹っ飛ばされた。
 くっそ…… まだ生きてやがった……
 けど相当ダメージはあるだろ、血が大量に流れ落ちてるし回復もしてねぇ。

「おい!! 誰でもいいから屋根の上のカインとエレナを連れて逃げてくれ!! そのまま街の皆んなを連れて避難も頼む!」

「で、でも勇飛さんは!?」

「こいつはオレがやる!! お前らはカイン達が死なねーように頼む!!」

「でも四人掛かりで倒せなかったんですよ!?」

「ターナー!!」

「はいっ!!」

「そいつら頼む。死なせたくねーんだ……」

「…… はい」

 悪いなターナー。
 お前にも死んでほしくねーよ。
 これ以上この街の誰にも死んでほしくなんかねーんだわ……
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