13 / 24
13 夢でも会いたい
「はぁ…………」
「ちょっと、最近ため息ばかりじゃない……」
私のデスクを通りかかったイヴェッタが、私にそう声をかけてきた。
「だって、来る日も来る日もおんなじ物ばかり作ってて、辛くなってきちゃうんだもの。早く新しい魔道具作りたいな~」
「まぁね、その気持ちもわかるけどね」そういって、イヴェッタもため息をついた。
今日も魔道具課は大忙しだ。遠征部隊に追加発注されている物が多く、その製作に追われている。
魔獣は各地に散らばっており、ふたを開けてみればかなり大変な事態だった。
山という山に、魔獣が現れ、市民が住む麓まで魔獣の生息が確認された。
イヴェッタの兄も戦力として、討伐隊に参加している。
幸い負傷者は少ないが、それもどこでどうなるかわからない。
防御や回復アイテムの消費が激しく、それを作るのが魔道具課の仕事だ。
ディートハルトが討伐に行ってから、もう10か月が過ぎた。
魔道具課も普段の業務から、討伐隊の為の製作に追われ、毎日残業し、休日出勤が常となってきている。
伯爵家に帰るのは週末の晩餐の時だけで、あとは臨時に設けられた宿舎で寝泊まりしている。
ディートハルトがいない伯爵家は息がつまってしまうので、宿舎に泊まるのは正直ありがたい……。
「アーシュレイさん、手紙おいておきますね」と、総務課の職員がデスクに手紙を置いていった。
「ありがとうございます」と私はお礼を言って、手紙を確認した。
一つはディートハルトで、もう一つはお義母様からだった。
ディートハルトの懐かしい筆跡に、心がじんわり温かくなる。
さっそく開けてみた。
『親愛なるアーシュへ
なかなか手紙を書けずに、すまない。
魔道具課が送ってくれる物資のおかげで、皆ケガを最小限に抑えられ、とても助けられている。
もしかして、魔獣除けパウダーはアーシュが作った? なんかそんな気がしたんだ。
あのパウダーのおかげで、突然魔獣に出くわしても、一瞬奴らがひるんでくれるから、こっちも態勢を組みやすいんだ。
本当にありがとう。
討伐も残すところ一カ所になった。
魔道具課も不眠不休だと聞いた。もう少しの辛抱だから、お互い頑張ろう。
早く、アーシュに会いたい。
ディートハルト』
私は今は会えないディートハルトに、思いをはせて、手紙を抱きしめた。
私は早く会いたい。あなたの声が聞きたい。あの逞しい胸に飛び込みたい……。
「あら~?なんだかんだ、ラブラブじゃない」
イヴェッタがニヤニヤしながら、また声をかけてきた。
「そ、そんなことないわよ。ただ、ケガしてなかったようだから、安心したの。あと、魔獣除けパウダーは効果あったみたい」
「そうなんだ!良かったじゃない。さすが、魔道具課きっての発明家ね」
「ははは……。それ、言ってくれるのイヴェッタだけよ」
私は乾いた笑いをした。
私はもともとの魔力量が、他の職員より低い。魔道具は、制作時に物に魔力を流してつくる。その魔力量に比例して、つくれる大きさが決まってくる。
イヴェッタは豊富な魔力を持っているため、大型武器や防具を製作できる。
そして、魔力量が少ない私は、小型武器や道具、小さな回復アイテムなどの細々した物を製作している。
魔獣除けパウダーは、魔獣が嫌いな薬草をブレンドして、微量の魔力を流したものだ。体に振りかけると、一時的に魔獣が近づきにくいように作った。
試作品だったが、効果がでて良かった。でも、私の魔力ではせいぜい10分持てば良い方だろう。
「皆!作業を止めて聞いてほしい!」
魔道具課の所長だ。……もしかして……。
「とうとう、最後の山間部で、無事に魔獣の討伐が終わったと魔鳥から知らせが届いた!これで、討伐は終わった!皆、今日まで本当にご苦労だった!」
そうか、手紙は荷馬車だからかなり時間がかかる。それにくらべて、魔鳥は数時間で到着する魔道具の鳥だ。かなり貴重な品の為、私たちは使用できない。
よかった……。やっと終わったんだ……。
魔道具課の面々が、やっと帰れると抱き合って喜んでいる。
私もデスクに伏せた。これで、ゆっくり眠れる……。そして、ディートハルトに会える……。
また、妊活の事があるけど、それは追々考えていこう……。今はとにかく眠りたい……。
私は重くなった瞼をそのまま閉じた。
もう一つの手紙を開けていないことに気づくのは、だいぶあとになってからのことだった。
◇◇◇
あれ……?ずいぶん静かだなぁ……。確か……と思った所で、目が開いた。
目に映ったのは見慣れた天井だった。魔道具課の天井ではなく、なぜかいつも寝泊まりしている宿舎の天井だった。
あ……、討伐が終わったって言うのは夢だったのね。
そうよね、まだまだ時間かかるわよね。
じゃ、今は何時なんだろう……。全く時間の感覚がない……。そうとう疲れが溜まってるわね。
私は横向きになって、時計を見ようとした。そこに人の後姿があった。
どうやら、ベッドサイドに座って寝ているようだ。
このはちみつ色の髪の毛、知っている……。かなり伸びたようで、襟足で一つに結んでいた。
これも夢なのだろうか……。だってまだ帰ってこれるはずないもの。
私は恐る恐る手を伸ばした。
柔らかく、ふわふわの金色の髪の毛の感触が確かにあった。
日焼けした首筋に、盛り上がった肩の筋肉も見える。
髪の毛からそのまま、首に指をはわせた。確かに温かい……。夢なのに良く出来ている……。
夢なら、もう少し触っても良いだろうか……。私はそのまま逞しい肩のラインもなぞる。
毎日剣の稽古を欠かした事なかったもんね。
すごくいい筋肉……。努力のたまものだわ。それにしても、本当に再現度が高いわ。
そのまま胸の方に手を滑らしたときに、ガシっと手を捕まえられた。
「ちょっと、最近ため息ばかりじゃない……」
私のデスクを通りかかったイヴェッタが、私にそう声をかけてきた。
「だって、来る日も来る日もおんなじ物ばかり作ってて、辛くなってきちゃうんだもの。早く新しい魔道具作りたいな~」
「まぁね、その気持ちもわかるけどね」そういって、イヴェッタもため息をついた。
今日も魔道具課は大忙しだ。遠征部隊に追加発注されている物が多く、その製作に追われている。
魔獣は各地に散らばっており、ふたを開けてみればかなり大変な事態だった。
山という山に、魔獣が現れ、市民が住む麓まで魔獣の生息が確認された。
イヴェッタの兄も戦力として、討伐隊に参加している。
幸い負傷者は少ないが、それもどこでどうなるかわからない。
防御や回復アイテムの消費が激しく、それを作るのが魔道具課の仕事だ。
ディートハルトが討伐に行ってから、もう10か月が過ぎた。
魔道具課も普段の業務から、討伐隊の為の製作に追われ、毎日残業し、休日出勤が常となってきている。
伯爵家に帰るのは週末の晩餐の時だけで、あとは臨時に設けられた宿舎で寝泊まりしている。
ディートハルトがいない伯爵家は息がつまってしまうので、宿舎に泊まるのは正直ありがたい……。
「アーシュレイさん、手紙おいておきますね」と、総務課の職員がデスクに手紙を置いていった。
「ありがとうございます」と私はお礼を言って、手紙を確認した。
一つはディートハルトで、もう一つはお義母様からだった。
ディートハルトの懐かしい筆跡に、心がじんわり温かくなる。
さっそく開けてみた。
『親愛なるアーシュへ
なかなか手紙を書けずに、すまない。
魔道具課が送ってくれる物資のおかげで、皆ケガを最小限に抑えられ、とても助けられている。
もしかして、魔獣除けパウダーはアーシュが作った? なんかそんな気がしたんだ。
あのパウダーのおかげで、突然魔獣に出くわしても、一瞬奴らがひるんでくれるから、こっちも態勢を組みやすいんだ。
本当にありがとう。
討伐も残すところ一カ所になった。
魔道具課も不眠不休だと聞いた。もう少しの辛抱だから、お互い頑張ろう。
早く、アーシュに会いたい。
ディートハルト』
私は今は会えないディートハルトに、思いをはせて、手紙を抱きしめた。
私は早く会いたい。あなたの声が聞きたい。あの逞しい胸に飛び込みたい……。
「あら~?なんだかんだ、ラブラブじゃない」
イヴェッタがニヤニヤしながら、また声をかけてきた。
「そ、そんなことないわよ。ただ、ケガしてなかったようだから、安心したの。あと、魔獣除けパウダーは効果あったみたい」
「そうなんだ!良かったじゃない。さすが、魔道具課きっての発明家ね」
「ははは……。それ、言ってくれるのイヴェッタだけよ」
私は乾いた笑いをした。
私はもともとの魔力量が、他の職員より低い。魔道具は、制作時に物に魔力を流してつくる。その魔力量に比例して、つくれる大きさが決まってくる。
イヴェッタは豊富な魔力を持っているため、大型武器や防具を製作できる。
そして、魔力量が少ない私は、小型武器や道具、小さな回復アイテムなどの細々した物を製作している。
魔獣除けパウダーは、魔獣が嫌いな薬草をブレンドして、微量の魔力を流したものだ。体に振りかけると、一時的に魔獣が近づきにくいように作った。
試作品だったが、効果がでて良かった。でも、私の魔力ではせいぜい10分持てば良い方だろう。
「皆!作業を止めて聞いてほしい!」
魔道具課の所長だ。……もしかして……。
「とうとう、最後の山間部で、無事に魔獣の討伐が終わったと魔鳥から知らせが届いた!これで、討伐は終わった!皆、今日まで本当にご苦労だった!」
そうか、手紙は荷馬車だからかなり時間がかかる。それにくらべて、魔鳥は数時間で到着する魔道具の鳥だ。かなり貴重な品の為、私たちは使用できない。
よかった……。やっと終わったんだ……。
魔道具課の面々が、やっと帰れると抱き合って喜んでいる。
私もデスクに伏せた。これで、ゆっくり眠れる……。そして、ディートハルトに会える……。
また、妊活の事があるけど、それは追々考えていこう……。今はとにかく眠りたい……。
私は重くなった瞼をそのまま閉じた。
もう一つの手紙を開けていないことに気づくのは、だいぶあとになってからのことだった。
◇◇◇
あれ……?ずいぶん静かだなぁ……。確か……と思った所で、目が開いた。
目に映ったのは見慣れた天井だった。魔道具課の天井ではなく、なぜかいつも寝泊まりしている宿舎の天井だった。
あ……、討伐が終わったって言うのは夢だったのね。
そうよね、まだまだ時間かかるわよね。
じゃ、今は何時なんだろう……。全く時間の感覚がない……。そうとう疲れが溜まってるわね。
私は横向きになって、時計を見ようとした。そこに人の後姿があった。
どうやら、ベッドサイドに座って寝ているようだ。
このはちみつ色の髪の毛、知っている……。かなり伸びたようで、襟足で一つに結んでいた。
これも夢なのだろうか……。だってまだ帰ってこれるはずないもの。
私は恐る恐る手を伸ばした。
柔らかく、ふわふわの金色の髪の毛の感触が確かにあった。
日焼けした首筋に、盛り上がった肩の筋肉も見える。
髪の毛からそのまま、首に指をはわせた。確かに温かい……。夢なのに良く出来ている……。
夢なら、もう少し触っても良いだろうか……。私はそのまま逞しい肩のラインもなぞる。
毎日剣の稽古を欠かした事なかったもんね。
すごくいい筋肉……。努力のたまものだわ。それにしても、本当に再現度が高いわ。
そのまま胸の方に手を滑らしたときに、ガシっと手を捕まえられた。
あなたにおすすめの小説
婚約者のいる運命の番はやめた方が良いですよね?!
月白みき
恋愛
結婚に恋焦がれる凡庸な伯爵令嬢のメアリーは、古来より伝わる『運命の番』に出会ってしまった!けれど彼にはすでに婚約者がいて、メアリーとは到底釣り合わない高貴な身の上の人だった。『運命の番』なんてすでに御伽噺にしか存在しない世界線。抗えない魅力を感じつつも、すっぱりきっぱり諦めた方が良いですよね!?
※小説家になろうにも投稿しています※タグ追加あり
【完結】最後に貴方と。
たろ
恋愛
わたしの余命はあと半年。
貴方のために出来ることをしてわたしは死んでいきたい。
ただそれだけ。
愛する婚約者には好きな人がいる。二人のためにわたしは悪女になりこの世を去ろうと思います。
◆病名がハッキリと出てしまいます。辛いと思われる方は読まないことをお勧めします
◆悲しい切ない話です。
彼女よりも幼馴染を溺愛して優先の彼と結婚するか悩む
佐藤 美奈
恋愛
公爵家の広大な庭園。その奥まった一角に佇む白いガゼボで、私はひとり思い悩んでいた。
私の名はニーナ・フォン・ローゼンベルク。名門ローゼンベルク家の令嬢として、若き騎士アンドレ・フォン・ヴァルシュタインとの婚約がすでに決まっている。けれど、その婚約に心からの喜びを感じることができずにいた。
理由はただ一つ。彼の幼馴染であるキャンディ・フォン・リエーヌ子爵令嬢の存在。
アンドレは、彼女がすべてであるかのように振る舞い、いついかなる時も彼女の望みを最優先にする。婚約者である私の気持ちなど、まるで見えていないかのように。
そして、アンドレはようやく自分の至らなさに気づくこととなった。
失われたニーナの心を取り戻すため、彼は様々なイベントであらゆる方法を試みることを決意する。その思いは、ただ一つ、彼女の笑顔を再び見ることに他ならなかった。
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。
たろ
恋愛
幼馴染のロード。
学校を卒業してロードは村から街へ。
街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。
ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。
なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。
ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。
それも女避けのための(仮)の恋人に。
そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。
ダリアは、静かに身を引く決意をして………
★ 短編から長編に変更させていただきます。
すみません。いつものように話が長くなってしまいました。
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。