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24 二人きりに……
心臓が早鐘をうち、おもわず胸元を抑えた。
柱からもう一度彼を見た。誰かを探しているようで、キョロキョロとあたりを見渡している。
本当に本人なの?そんなはずないわよね。そっくりさん?えぇ?どういうこと?
もう一度、柱から覗くとこちらに向かって歩いてきていた。
どうしよう!もし本人だったら……。
私は会場を抜け出し、庭園まで走った。
歩きなれないヒールとドレスで、すでに疲れてしまった。
庭園の中央広場に噴水があり、私はそこの淵に腰を下ろした。
はぁ~と深くため息が出る。
せっかくここまで準備してきたのに、ターゲットを見つけるどころか逃げてきちゃうなんて。
しかもディートハルト本人かどうかも、わからないのに……。彼は今日も副団長になるための引継ぎで遅くなるって言ってた……。
やっぱり、よく似た人って事なのかな……。仮に本人だとしても、今日はピンクヘアだしバレてはないはず……。
会場に戻るべきか、考えていると……。
「レディ……、お隣よろしいでしょうか?」と声を掛けられた。
えっ……ウソ、この声……。全身に鳥肌が立った。
恐る恐る振り向くと、そこには先ほど会場で見かけたディートハルトのそっくりさんが立っていた。
「あ……、え……」と言葉にならない声がもれる。
そっくりさんは優しい笑みを浮かべ、彼は私の横に腰を下ろした。
「息が切れていますが、大丈夫ですか?レディ……」と白い清潔感のあるハンカチを差し出してきた。
「あ……、ええ。大丈夫ですわ」と慌ててセンスをだし顔を隠した。
「ど、どうしてこちらに……?」という私の質問に、そっくりさんは頬を赤らめた。
「あなたに……一目ぼれしてしまいました」
「は?」と思わず、心の声がもれてしまった。
ディートハルトはこんなこと言うはずがない。
やっぱり、この人はディートハルト本人ではなくそっくりさんということ?
それに女性が苦手だから、こんなに近寄ることもできないはずだし……。
「コホン! 顔を隠してるのに、どうして一目ぼれができるのかしら?」
また、遊び人でも困っちゃうから、少し探りをいれないと……。
「あなたが会場に入って来て、目が合ったときに、体に電気が走りました! これは運命だと!」
そういって、彼は私の手を取り指先にキスをした。
慣れない作法にカッと頬が熱くなる。
本人じゃないってわかっているのに、まるでディートハルトにされたように感じて胸が苦しくなった。
「で、でも、たくさんのご令嬢に囲まれていましたわ!」とプイッと外を向いた。
ちょっとわがままなご令嬢はこんな感じで合っているだろうかと、自問自答した。
「あぁ、レディ……。やきもちを焼いてくださったのですか? うれしいです……」と今度は手の甲にチュッと音をたててキスをした。
ひぃ……。どうしたらいいの……!?
いや、でもこれは良い機会かもしれない!
これだけ容姿も声も似ているのだから、代理父親にはもってこいだわ。
勇気を出さなきゃ!
「そ、そんなこと……誰にでも言っているんじゃなくて?」
その時、グイッと腰を引かれて分厚い胸板に顔を押し付けられた。仮面が外れないように咄嗟に抑えた。
彼の胸からはドクンドクン……と早い鼓動が感じられた。
「私の胸の音が分かりますか? こんなにもドキドキしているんです……」
その鼓動に共鳴するかのように、自分の鼓動も早くなっていく。
「あの、離してください……」
その時、下を向いた彼と至近距離で目が合った。それはディートハルトのように美しい翡翠の瞳だった。
私はその瞳に吸い込まれて、動けなくなってしまった。
「レディ……、瞳を閉じて……」と言われ、素直に聞いてしまった。
唇に優しく何かが触れた。そして彼は背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめてきた。
そして彼が耳元で囁いた。
「レディ……、二人きりになれるところに行きましょう……」と。
◇◇◇
──少し前の話……。
騎士団本部の訓練場には私だけが残っていた。
剣の自主練をし、時間をつぶしていた。
「もう女性は愛せない」とアーシュに体の関係を拒絶した。
なんとなく、申し訳なくてまっすぐ家に帰れなかった。
「毎日、よくやるわね」と見知った声がした。
振り向くと、そこにはピンクの髪の毛に丸眼鏡をかけたイヴェッタが腕を組んで立っていた。
「あぁ、イヴェッタ、久しぶり」
「えぇ、そうね」
イヴェッタはいつもクールだが、今日はいつもとは雰囲気が違う気がする。
静かな態度の中に、何か怒りのようなものを感じた。
「今日はどうしたんだ? 俺に用か?」
あの事をアーシュがイヴェッタに話したのかもしれない。俺は剣を強く握りしめ、腰に着いている鞘に戻した。
「アーシュ、あなたと離婚したくないみたいね」
離婚しろと言われると思っていたため、少し気持ちが軽くなった。
「俺も離婚は考えてない」
それを言うと、イヴェッタがフッと口元だけ笑い、顔を背けた。それは軽蔑の表情だった。
「あの子、代理父親制度を利用するって息巻いてるわよ」
「代理父親……制度……」
確か新しい法律で、夫婦間に子供が出来なかった時、代理父親を設ける事が出来るっていうものだったはずだ……。
「どうして、そんな……」
「は? よくそんなことが言えるわね。そこまで、あの優しいアーシュを追い詰めたのは、ディートハルトあなたよ」
確かに、追い詰めたのはわかってる。でも、どうしようもなかったんだ……。私には……。こんな気持ちのまま、アーシュに触れるなんて……。
「男色だかなんだか知らないけど、勝手にやってくれる?」
「は? 男色!?」
女性は愛せないって言ったから、アーシュはそう解釈したのか!
体から血の気が引いていくのが分かった。
……そう受け取られていたのか。
柱からもう一度彼を見た。誰かを探しているようで、キョロキョロとあたりを見渡している。
本当に本人なの?そんなはずないわよね。そっくりさん?えぇ?どういうこと?
もう一度、柱から覗くとこちらに向かって歩いてきていた。
どうしよう!もし本人だったら……。
私は会場を抜け出し、庭園まで走った。
歩きなれないヒールとドレスで、すでに疲れてしまった。
庭園の中央広場に噴水があり、私はそこの淵に腰を下ろした。
はぁ~と深くため息が出る。
せっかくここまで準備してきたのに、ターゲットを見つけるどころか逃げてきちゃうなんて。
しかもディートハルト本人かどうかも、わからないのに……。彼は今日も副団長になるための引継ぎで遅くなるって言ってた……。
やっぱり、よく似た人って事なのかな……。仮に本人だとしても、今日はピンクヘアだしバレてはないはず……。
会場に戻るべきか、考えていると……。
「レディ……、お隣よろしいでしょうか?」と声を掛けられた。
えっ……ウソ、この声……。全身に鳥肌が立った。
恐る恐る振り向くと、そこには先ほど会場で見かけたディートハルトのそっくりさんが立っていた。
「あ……、え……」と言葉にならない声がもれる。
そっくりさんは優しい笑みを浮かべ、彼は私の横に腰を下ろした。
「息が切れていますが、大丈夫ですか?レディ……」と白い清潔感のあるハンカチを差し出してきた。
「あ……、ええ。大丈夫ですわ」と慌ててセンスをだし顔を隠した。
「ど、どうしてこちらに……?」という私の質問に、そっくりさんは頬を赤らめた。
「あなたに……一目ぼれしてしまいました」
「は?」と思わず、心の声がもれてしまった。
ディートハルトはこんなこと言うはずがない。
やっぱり、この人はディートハルト本人ではなくそっくりさんということ?
それに女性が苦手だから、こんなに近寄ることもできないはずだし……。
「コホン! 顔を隠してるのに、どうして一目ぼれができるのかしら?」
また、遊び人でも困っちゃうから、少し探りをいれないと……。
「あなたが会場に入って来て、目が合ったときに、体に電気が走りました! これは運命だと!」
そういって、彼は私の手を取り指先にキスをした。
慣れない作法にカッと頬が熱くなる。
本人じゃないってわかっているのに、まるでディートハルトにされたように感じて胸が苦しくなった。
「で、でも、たくさんのご令嬢に囲まれていましたわ!」とプイッと外を向いた。
ちょっとわがままなご令嬢はこんな感じで合っているだろうかと、自問自答した。
「あぁ、レディ……。やきもちを焼いてくださったのですか? うれしいです……」と今度は手の甲にチュッと音をたててキスをした。
ひぃ……。どうしたらいいの……!?
いや、でもこれは良い機会かもしれない!
これだけ容姿も声も似ているのだから、代理父親にはもってこいだわ。
勇気を出さなきゃ!
「そ、そんなこと……誰にでも言っているんじゃなくて?」
その時、グイッと腰を引かれて分厚い胸板に顔を押し付けられた。仮面が外れないように咄嗟に抑えた。
彼の胸からはドクンドクン……と早い鼓動が感じられた。
「私の胸の音が分かりますか? こんなにもドキドキしているんです……」
その鼓動に共鳴するかのように、自分の鼓動も早くなっていく。
「あの、離してください……」
その時、下を向いた彼と至近距離で目が合った。それはディートハルトのように美しい翡翠の瞳だった。
私はその瞳に吸い込まれて、動けなくなってしまった。
「レディ……、瞳を閉じて……」と言われ、素直に聞いてしまった。
唇に優しく何かが触れた。そして彼は背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめてきた。
そして彼が耳元で囁いた。
「レディ……、二人きりになれるところに行きましょう……」と。
◇◇◇
──少し前の話……。
騎士団本部の訓練場には私だけが残っていた。
剣の自主練をし、時間をつぶしていた。
「もう女性は愛せない」とアーシュに体の関係を拒絶した。
なんとなく、申し訳なくてまっすぐ家に帰れなかった。
「毎日、よくやるわね」と見知った声がした。
振り向くと、そこにはピンクの髪の毛に丸眼鏡をかけたイヴェッタが腕を組んで立っていた。
「あぁ、イヴェッタ、久しぶり」
「えぇ、そうね」
イヴェッタはいつもクールだが、今日はいつもとは雰囲気が違う気がする。
静かな態度の中に、何か怒りのようなものを感じた。
「今日はどうしたんだ? 俺に用か?」
あの事をアーシュがイヴェッタに話したのかもしれない。俺は剣を強く握りしめ、腰に着いている鞘に戻した。
「アーシュ、あなたと離婚したくないみたいね」
離婚しろと言われると思っていたため、少し気持ちが軽くなった。
「俺も離婚は考えてない」
それを言うと、イヴェッタがフッと口元だけ笑い、顔を背けた。それは軽蔑の表情だった。
「あの子、代理父親制度を利用するって息巻いてるわよ」
「代理父親……制度……」
確か新しい法律で、夫婦間に子供が出来なかった時、代理父親を設ける事が出来るっていうものだったはずだ……。
「どうして、そんな……」
「は? よくそんなことが言えるわね。そこまで、あの優しいアーシュを追い詰めたのは、ディートハルトあなたよ」
確かに、追い詰めたのはわかってる。でも、どうしようもなかったんだ……。私には……。こんな気持ちのまま、アーシュに触れるなんて……。
「男色だかなんだか知らないけど、勝手にやってくれる?」
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女性は愛せないって言ったから、アーシュはそう解釈したのか!
体から血の気が引いていくのが分かった。
……そう受け取られていたのか。
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