24 / 24
24 二人きりに……
しおりを挟む
心臓が早鐘をうち、おもわず胸元を抑えた。
柱からもう一度彼を見た。誰かを探しているようで、キョロキョロとあたりを見渡している。
本当に本人なの?そんなはずないわよね。そっくりさん?えぇ?どういうこと?
もう一度、柱から覗くとこちらに向かって歩いてきていた。
どうしよう!もし本人だったら……。
私は会場を抜け出し、庭園まで走った。
歩きなれないヒールとドレスで、すでに疲れてしまった。
庭園の中央広場に噴水があり、私はそこの淵に腰を下ろした。
はぁ~と深くため息が出る。
せっかくここまで準備してきたのに、ターゲットを見つけるどころか逃げてきちゃうなんて。
しかもディートハルト本人かどうかも、わからないのに……。彼は今日も副団長になるための引継ぎで遅くなるって言ってた……。
やっぱり、よく似た人って事なのかな……。仮に本人だとしても、今日はピンクヘアだしバレてはないはず……。
会場に戻るべきか、考えていると……。
「レディ……、お隣よろしいでしょうか?」と声を掛けられた。
えっ……ウソ、この声……。全身に鳥肌が立った。
恐る恐る振り向くと、そこには先ほど会場で見かけたディートハルトのそっくりさんが立っていた。
「あ……、え……」と言葉にならない声がもれる。
そっくりさんは優しい笑みを浮かべ、彼は私の横に腰を下ろした。
「息が切れていますが、大丈夫ですか?レディ……」と白い清潔感のあるハンカチを差し出してきた。
「あ……、ええ。大丈夫ですわ」と慌ててセンスをだし顔を隠した。
「ど、どうしてこちらに……?」という私の質問に、そっくりさんは頬を赤らめた。
「あなたに……一目ぼれしてしまいました」
「は?」と思わず、心の声がもれてしまった。
ディートハルトはこんなこと言うはずがない。
やっぱり、この人はディートハルト本人ではなくそっくりさんということ?
それに女性が苦手だから、こんなに近寄ることもできないはずだし……。
「コホン! 顔を隠してるのに、どうして一目ぼれができるのかしら?」
また、遊び人でも困っちゃうから、少し探りをいれないと……。
「あなたが会場に入って来て、目が合ったときに、体に電気が走りました! これは運命だと!」
そういって、彼は私の手を取り指先にキスをした。
慣れない作法にカッと頬が熱くなる。
本人じゃないってわかっているのに、まるでディートハルトにされたように感じて胸が苦しくなった。
「で、でも、たくさんのご令嬢に囲まれていましたわ!」とプイッと外を向いた。
ちょっとわがままなご令嬢はこんな感じで合っているだろうかと、自問自答した。
「あぁ、レディ……。やきもちを焼いてくださったのですか? うれしいです……」と今度は手の甲にチュッと音をたててキスをした。
ひぃ……。どうしたらいいの……!?
いや、でもこれは良い機会かもしれない!
これだけ容姿も声も似ているのだから、代理父親にはもってこいだわ。
勇気を出さなきゃ!
「そ、そんなこと……誰にでも言っているんじゃなくて?」
その時、グイッと腰を引かれて分厚い胸板に顔を押し付けられた。仮面が外れないように咄嗟に抑えた。
彼の胸からはドクンドクン……と早い鼓動が感じられた。
「私の胸の音が分かりますか? こんなにもドキドキしているんです……」
その鼓動に共鳴するかのように、自分の鼓動も早くなっていく。
「あの、離してください……」
その時、下を向いた彼と至近距離で目が合った。それはディートハルトのように美しい翡翠の瞳だった。
私はその瞳に吸い込まれて、動けなくなってしまった。
「レディ……、瞳を閉じて……」と言われ、素直に聞いてしまった。
唇に優しく何かが触れた。そして彼は背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめてきた。
そして彼が耳元で囁いた。
「レディ……、二人きりになれるところに行きましょう……」と。
◇◇◇
──少し前の話……。
騎士団本部の訓練場には私だけが残っていた。
剣の自主練をし、時間をつぶしていた。
「もう女性は愛せない」とアーシュに体の関係を拒絶した。
なんとなく、申し訳なくてまっすぐ家に帰れなかった。
「毎日、よくやるわね」と見知った声がした。
振り向くと、そこにはピンクの髪の毛に丸眼鏡をかけたイヴェッタが腕を組んで立っていた。
「あぁ、イヴェッタ、久しぶり」
「えぇ、そうね」
イヴェッタはいつもクールだが、今日はいつもとは雰囲気が違う気がする。
静かな態度の中に、何か怒りのようなものを感じた。
「今日はどうしたんだ? 俺に用か?」
あの事をアーシュがイヴェッタに話したのかもしれない。俺は剣を強く握りしめ、腰に着いている鞘に戻した。
「アーシュ、あなたと離婚したくないみたいね」
離婚しろと言われると思っていたため、少し気持ちが軽くなった。
「俺も離婚は考えてない」
それを言うと、イヴェッタがフッと口元だけ笑い、顔を背けた。それは軽蔑の表情だった。
「あの子、代理父親制度を利用するって息巻いてるわよ」
「代理父親……制度……」
確か新しい法律で、夫婦間に子供が出来なかった時、代理父親を設ける事が出来るっていうものだったはずだ……。
「どうして、そんな……」
「は? よくそんなことが言えるわね。そこまで、あの優しいアーシュを追い詰めたのは、ディートハルトあなたよ」
確かに、追い詰めたのはわかってる。でも、どうしようもなかったんだ……。私には……。こんな気持ちのまま、アーシュに触れるなんて……。
「男色だかなんだか知らないけど、勝手にやってくれる?」
「は? 男色!?」
女性は愛せないって言ったから、アーシュはそう解釈したのか!
体から血の気が引いていくのが分かった。
アーシュにとんでもない誤解を与えてしまった……。
柱からもう一度彼を見た。誰かを探しているようで、キョロキョロとあたりを見渡している。
本当に本人なの?そんなはずないわよね。そっくりさん?えぇ?どういうこと?
もう一度、柱から覗くとこちらに向かって歩いてきていた。
どうしよう!もし本人だったら……。
私は会場を抜け出し、庭園まで走った。
歩きなれないヒールとドレスで、すでに疲れてしまった。
庭園の中央広場に噴水があり、私はそこの淵に腰を下ろした。
はぁ~と深くため息が出る。
せっかくここまで準備してきたのに、ターゲットを見つけるどころか逃げてきちゃうなんて。
しかもディートハルト本人かどうかも、わからないのに……。彼は今日も副団長になるための引継ぎで遅くなるって言ってた……。
やっぱり、よく似た人って事なのかな……。仮に本人だとしても、今日はピンクヘアだしバレてはないはず……。
会場に戻るべきか、考えていると……。
「レディ……、お隣よろしいでしょうか?」と声を掛けられた。
えっ……ウソ、この声……。全身に鳥肌が立った。
恐る恐る振り向くと、そこには先ほど会場で見かけたディートハルトのそっくりさんが立っていた。
「あ……、え……」と言葉にならない声がもれる。
そっくりさんは優しい笑みを浮かべ、彼は私の横に腰を下ろした。
「息が切れていますが、大丈夫ですか?レディ……」と白い清潔感のあるハンカチを差し出してきた。
「あ……、ええ。大丈夫ですわ」と慌ててセンスをだし顔を隠した。
「ど、どうしてこちらに……?」という私の質問に、そっくりさんは頬を赤らめた。
「あなたに……一目ぼれしてしまいました」
「は?」と思わず、心の声がもれてしまった。
ディートハルトはこんなこと言うはずがない。
やっぱり、この人はディートハルト本人ではなくそっくりさんということ?
それに女性が苦手だから、こんなに近寄ることもできないはずだし……。
「コホン! 顔を隠してるのに、どうして一目ぼれができるのかしら?」
また、遊び人でも困っちゃうから、少し探りをいれないと……。
「あなたが会場に入って来て、目が合ったときに、体に電気が走りました! これは運命だと!」
そういって、彼は私の手を取り指先にキスをした。
慣れない作法にカッと頬が熱くなる。
本人じゃないってわかっているのに、まるでディートハルトにされたように感じて胸が苦しくなった。
「で、でも、たくさんのご令嬢に囲まれていましたわ!」とプイッと外を向いた。
ちょっとわがままなご令嬢はこんな感じで合っているだろうかと、自問自答した。
「あぁ、レディ……。やきもちを焼いてくださったのですか? うれしいです……」と今度は手の甲にチュッと音をたててキスをした。
ひぃ……。どうしたらいいの……!?
いや、でもこれは良い機会かもしれない!
これだけ容姿も声も似ているのだから、代理父親にはもってこいだわ。
勇気を出さなきゃ!
「そ、そんなこと……誰にでも言っているんじゃなくて?」
その時、グイッと腰を引かれて分厚い胸板に顔を押し付けられた。仮面が外れないように咄嗟に抑えた。
彼の胸からはドクンドクン……と早い鼓動が感じられた。
「私の胸の音が分かりますか? こんなにもドキドキしているんです……」
その鼓動に共鳴するかのように、自分の鼓動も早くなっていく。
「あの、離してください……」
その時、下を向いた彼と至近距離で目が合った。それはディートハルトのように美しい翡翠の瞳だった。
私はその瞳に吸い込まれて、動けなくなってしまった。
「レディ……、瞳を閉じて……」と言われ、素直に聞いてしまった。
唇に優しく何かが触れた。そして彼は背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめてきた。
そして彼が耳元で囁いた。
「レディ……、二人きりになれるところに行きましょう……」と。
◇◇◇
──少し前の話……。
騎士団本部の訓練場には私だけが残っていた。
剣の自主練をし、時間をつぶしていた。
「もう女性は愛せない」とアーシュに体の関係を拒絶した。
なんとなく、申し訳なくてまっすぐ家に帰れなかった。
「毎日、よくやるわね」と見知った声がした。
振り向くと、そこにはピンクの髪の毛に丸眼鏡をかけたイヴェッタが腕を組んで立っていた。
「あぁ、イヴェッタ、久しぶり」
「えぇ、そうね」
イヴェッタはいつもクールだが、今日はいつもとは雰囲気が違う気がする。
静かな態度の中に、何か怒りのようなものを感じた。
「今日はどうしたんだ? 俺に用か?」
あの事をアーシュがイヴェッタに話したのかもしれない。俺は剣を強く握りしめ、腰に着いている鞘に戻した。
「アーシュ、あなたと離婚したくないみたいね」
離婚しろと言われると思っていたため、少し気持ちが軽くなった。
「俺も離婚は考えてない」
それを言うと、イヴェッタがフッと口元だけ笑い、顔を背けた。それは軽蔑の表情だった。
「あの子、代理父親制度を利用するって息巻いてるわよ」
「代理父親……制度……」
確か新しい法律で、夫婦間に子供が出来なかった時、代理父親を設ける事が出来るっていうものだったはずだ……。
「どうして、そんな……」
「は? よくそんなことが言えるわね。そこまで、あの優しいアーシュを追い詰めたのは、ディートハルトあなたよ」
確かに、追い詰めたのはわかってる。でも、どうしようもなかったんだ……。私には……。こんな気持ちのまま、アーシュに触れるなんて……。
「男色だかなんだか知らないけど、勝手にやってくれる?」
「は? 男色!?」
女性は愛せないって言ったから、アーシュはそう解釈したのか!
体から血の気が引いていくのが分かった。
アーシュにとんでもない誤解を与えてしまった……。
251
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
初恋をこじらせたやさぐれメイドは、振られたはずの騎士さまに求婚されました。
石河 翠
恋愛
騎士団の寮でメイドとして働いている主人公。彼女にちょっかいをかけてくる騎士がいるものの、彼女は彼をあっさりといなしていた。それというのも、彼女は5年前に彼に振られてしまっていたからだ。ところが、彼女を振ったはずの騎士から突然求婚されてしまう。しかも彼は、「振ったつもりはなかった」のだと言い始めて……。
色気たっぷりのイケメンのくせに、大事な部分がポンコツなダメンズ騎士と、初恋をこじらせたあげくやさぐれてしまったメイドの恋物語。
*この作品のヒーローはダメンズ、ヒロインはダメンズ好きです。苦手な方はご注意ください
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です
くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」
身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。
期間は卒業まで。
彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。
夫は私を愛してくれない
はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」
「…ああ。ご苦労様」
彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。
二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。
大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました
柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」
結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。
「……ああ、お前の好きにしろ」
婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。
ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。
いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。
そのはず、だったのだが……?
離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。
佐藤 美奈
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。
幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。
一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。
ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。
結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。
結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。
アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。
アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる