【本編完結】初恋のその先で、私は母になる

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】

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第二章

5 浄化

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「リュージン大丈夫??  私歩こうか?」

「オリビアちゃん……、ごめん……」
 
 リュージンは眉をひそめ、さらに苦しそうな表情をした。
 
「なんで、謝るの?今からでも降りようか?なんか、リュージン辛そうだし」

 リュージンは熱のこもった瞳で私を見つめた。

 そんな目で見られると、何だか居心地が悪くなった。


「その……、オリビアちゃんいい香りだし、耳に吐息が当たるし。その……素敵な胸もあたって……。我慢してたんだけど、興奮してしまって……。本当にごめん……」

 私がリュージンに息を吹きかけ、胸を押し付けた……? リュージンが軽くなればと思ってしがみついた事が、こんな結果に!!

 顔に熱が集まるのを感じた。

 私、なんて破廉恥なことをしてしまったの!? 若い男の子を弄ぶ、痴女じゃない!

「リュージンは何も悪くないわ……。少しでも軽くなればと思って、しがみついてしまった私が悪いの。嫌な思いさせてしまってごめんね……」

 私は腕の力を緩めて、リュージンに身を任せた。

「オリビアちゃんは、何も悪くないよ。俺が勝手に興奮しちゃっただけだから。その……、それくらいオリビアちゃんが魅力的ってことだから」

 リュージンにこんな優しい嘘までつかせてしまった。

 本当に申し訳ない。元気な赤ちゃんを産んだら、しっかり恩返ししなきゃね。

「ありがとう!リュージンのお嫁さんになる人はきっと幸せものね。本当に優しいもの」

 リュージンの表情がすこし曇ったように感じた。

「じゃ……、およめさんになってよ」

 私には聞こえない程小さな声で、リュージンが何か呟いた。

「えっ? 今なんて言ったの?」
 
 私はリュージンの顔を覗き込んだ。

 するとリュージンはニコッと笑い「なんでもないよ」と言った。
 
「さぁ、ついたぞオリビア。リュージンもありがとう、オリビアを降ろしてやってくれ」

 前をさっそうと歩いていた叔母が振り向いた。
 
「はーい」とリュージンは返事をして、私を降ろしてくれた。

「リュージン、本当にありがとう。お腹が張らずにすんだわ」

「うん、それなら良かったよ」
  
 私は恥ずかしさから、リュージンと目を合わせられなかった。




 ――着いた場所は山の奥深い所にあり、木が生い茂っていた。

 その中央に平べったい大きなテーブルのような石があり、その周囲に二人の人影があった。

 一人はターラン様だった。私たちの顔が見えると、手を挙げてくれた。

 そして、もう一人は背中の曲がった白髪の女性で、その顔には皺が深く刻まれていた。

 えっ、長老様って女性なの!?勝手に男性だと思ってた。

「今日はよろしくお願いします! 初めまして、オリビアと申します」

 私は長老様に自己紹介をして、頭を下げた。

「うん、話は聞いてるよ。あの子の若い頃にそっくりだね。さぁこれを首からかけて、すこしひんやりするけど、石の上に寝ておくれ」

 沢山の緑色の葉っぱで作られた長いネックレスのような物を渡されて、私はそれを首から下げた。
 
 そして長老様に促されるまま、大きな平たい石の上に上がり、横になった。

  
「じゃあ、はじめるよ。目をつむって……」

「はい」

 私は長老様に言われた通り、目をつむった。すると、顔の上にも何か冷たい大きな葉っぱのようなものが乗せられ、目をつむっていても視界がさらに暗くなった。

 パサパサと体も顔と同様の薬草の香りのする、葉のような物が置かれていき全身を覆われた。

「大地の神よ、我ら癒しの民にどうか力を与えたもう。この者の魂と体に巣食う毒を浄化し、元の体の戻すよう力をお与え下さい」

 長老様は聞き取れない言葉を発しながら、私の周りを歩き回った。
 
 そして葉に覆われた体が急に温かくなった。それはまるで全身の血の流れがわかるかのように、足の先から手の先、頭まで全身くまなくそのやさしい温かさが巡っていく。

 寝ていてもわかるくらい、どんどん体が軽くなるのを感じる。

 そして、手足にみるみる力がみなぎってくる。いや、今まで力が入らなくてこの感覚を忘れていたといえるだろう。

 そっと、顔の上に置かれた葉のような物が取られた。

「さぁ、目を開けなさい」

 私は急に視界が明るくなり、眩しさに目を細めながらゆっくり目を開けた。

 そこに見えたのは、木々たちのきれいな緑色の葉がゆらゆらと揺らめき、まるで踊っているかのように見えた。

 日の光に透けた葉っぱたちは、それは美しく、なぜだか心を揺さぶられた。

 世界はこんなにも美しいのかと。私の目尻からはとめどなく涙があふれていたが、それすらも心地よかった。

 叔母さんが私が起きるのを手伝ってくれた。心配そうに私を覗き込む叔母に、泣きながら微笑んだ。

 その時、長老様は手に大きな葉を持ちこう言った。

「終わったよ。これを見てごらん?」
 
 そう言って、私の周りにある無数の葉っぱを指さした。その葉はこげ茶色をしていて、まるで枯れた葉のようだった。

「これはもとは綺麗な緑の葉っぱだったのさ。あんたの毒気を吸い取って、こんな色になったんだよ」

 私はハッとして自分にかけた葉のネックレスを首から外した。

 その葉は一番色が濃く、まるで黒く焦げたような色をしていた。

「これは一番色がひどいね……」

 長老様がそのネックレスを手に取り、ターラン様に渡した。

 長老様が私をまっすぐ見た。

 そして、「もう大丈夫、大地の神様が力を貸して下さった。きっと元気な赤ちゃんを産めるよ」と言った。

 長老様は目じりの皺をさらに深くして、やさしく微笑んだ。

「ありがとうございます。長老様……。なんとお礼を言って良いか……。本当に本当にありがとうございます」

 私は今思いつくだけの感謝の言葉を、長老様に伝えた。

「私に礼はいらんよ。大地に神様に認められたのは、あんたの心が綺麗だったからだよ。そうじゃないと、きっと応えてくださらんかった」

 皺だらけで働き者の大きな手は、私の頭を撫でてくれた。

「命がけでここまで来たんだものね。本当によく頑張ったね。あんたは私たち民の孫だし、そのお腹の子どもは私たちのひ孫だよ」

 私は長老様がどんどんぼやけて見えなくなってしまった。

「おやおや、そんなに泣いてはお腹の子が不安になるよ。よしよし」

 そう言って、長老様は私を優しく抱きしめ背中を撫でてくれた。お日様の香りとハーブの香りがした。幼い頃に母から抱きしめられた時と同じ香りに懐かしさがこみ上げ私の涙腺をさらに刺激した。

 お母様、ありがとう。お母様の故郷で、元気な体を取り戻せました。

 愛するマティアス様の子どもを産んで見せます。天国から見守っていてください。

「落ち着いたかい?」と長老様が聞いてくれた。

「はい……」

「ここで子供を産めばいい」

「え?」

「私たちのひ孫を抱かせてほしい」と長老様はニコッと笑った。

 私はつられて笑顔になった。

「ありがとうございます! うれしいです!」

「長老様、でも一番先に抱っこするのは私ですからね!」

「はっ! 何をいっとる! 私は産婆もやってるんだよ。私が一番だよ!」

 長老様と叔母がにらみ合っていて、それを見たターラン様がため息をついて首をふった。

 気まずかったリュージンと目が合った。彼は良かったですねと笑顔で言ってくれた。

 私もありがとうと返事をした。

 叔母も、リュージンもターラン様も長老様も、そして大地の神様……、本当にありがとうございます。

 生かされたこの命、大切にします。そして、この御恩は決して忘れません。私は両手を組み、心の中でお礼を言った。


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