【本編完結】初恋のその先で、私は母になる

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】

文字の大きさ
28 / 50
第三章

3-1 静かな日々の終わり

しおりを挟む
母と叔母が住んでいた家は、この段々畑の上の方にある。

椅子が揺れてきしんだ音が響いた。

族長さんが、おなかが大きくても疲れないように、椅子を作ってくれた。

適度に揺れるその椅子は、まるでゆりかごのようで、時々ウトウトしてしまう。

朝晩は冷えるが、昼間なら日差しが当たって心地いい。

あ、網目がとんだ……。

我が子だし、きっと気にしないでしょう。

里の人が編み物を教えてくれた。

最初は小さな靴下を編んだ。不格好で、編み目も不ぞろいで左右非対称だった。

でも、これでいいよと里の人は言ってくれた。

靴下になるように、縫い合わせてくれた。

こんどは長方形のおくるみを作っている。

ひたすら編んでいて、立派なひざ掛けくらいの大きさになった。

ここはほぼ自給自足の里。

だから、この糸も動物の色で白になりきれない色だったり、グレーだったり、いろんな色が混じっている。でも、肌にあたってもちくちくしないし、とても暖かい。

ザー、ザーと豆が平たいザルを行き来している。

ここでは多くの乾物を作っている。お日様の香りがして、香ばしく、私の好物になった。

里の人との何気ない会話が、まるで音楽のようで耳に心地よかった。

「オリビア! どうだ~? そろそろ完成か?」

叔母が私の編み物の具合を見に来ていた。

足元は土で汚れ、服にもオレンジ色の乾いた土が付いていた。

「うん、もう少しで完成しそう! 叔母さんは今日の畑仕事は終わり?」

「ああ、今日は終わりだ」

叔母はそう言うと、急にしゃがんだ。

シルバーグレーの髪がいたずらになびく。

そして、おなかがやさしく撫でられた。

「かわいい赤ちゃん~! 早く出ておいで~。 ライラ様がじきじきに抱っこしてあげるよ~」
と猫なで声をだした。

「いや~、正直赤ちゃんつぶしかねないでしょ。危ないですよ、オリビアちゃん!」

低く積まれた石の塀から、ひょいっとリュージンが顔を出した。

「ああ? なんだと? お前だって、そんな太い腕じゃ、赤子が怖がるわ!」

叔母が腰に手をあてて、リュージンを見下ろした。

私は、編み物の手を止めて、笑ってしまった。

抱っこするにも一喜一憂する、叔母やリュージンを想像してしまったからだ。

「やはり、私が抱っこするしかないね……」

長老様が豆を選別しながら、そう言った。

「私は、オリビアの叔母だ!」

叔母が今度は、座って作業する長老様に腰を曲げてそう言った。


「オリビアは、もう里の娘だ。みんなの子供だ……」


「ぐっ……」

叔母がそれ以上言えなくなり、声をもらした。

私のおなかはもうこれ以上大きくなれないくらいに、皮膚が張っている。

胎動も大きくて、足や手の形がわかる位、しっかりと動いてくれる。

おかげで、おなかの張りも頻繁になってきた。

長老様はここ3日がいいところだねと言った。


──その時、何か下の方で人だかりができていた。

乾いた土地は遠くの音も拾いやすい。

リュージンが人だかりをチラッとみて、目を細めた。


そして、私をじっと見た。


「ねぇ、オリビアちゃんの元だんななんて、金髪?」と聞いた。


……その問いに、


──心臓がドクンとはねた。


リュージンがいつになく真剣な表情で立った。

髪はカラフルな紐で編みこまれ、族長と同じ民族衣装を着ている。茶色く焼けた肌に、引き締まった筋肉。もう、すっかりここの里の人だった。

そして私の近くまで来て、「一緒にいこう」と手を差し出した。


私はごくりとつばを飲み込んだ。

そして、叔母や長老様をみた。

みんな静かだった。

叔母が、揺れる椅子を止めてくれた。

私はリュージンに支えてもらいながら、立ち上がった。

乾いた土の階段を一歩ずつ降りていく。

ゆっくりと、慎重に。

リュージンも歩幅をあわせてくれて、「焦らなくていいよ」とかがんで言ってくれた。

私たちがはじめてこの里に着た場所に、多くの民が集まっていた。

一人が振り向き、また一人と、私を見て里の人が道を譲ってくれた。

最後の一人がどいてくれたところで、族長さんが立っていた。

そして、足元に人が一人倒れていた。

仕立てのよさそうな白いシャツに、紺色のズボン。ここにはそぐわない革靴だった。

しかし、シャツやズボンは葉や土でよごれ、所々破れて肌が見えていた。その肌からもうっすら血がにじみ白いシャツにシミを作っていた。

族長さんが私を見た。

「オリビア。……本当に、お前の知り合いか?」


──その髪は金色に輝き、眩しかった。


──すべてが完璧な配置の王子様のような顔……。


──瞳の色は分からない、でも金色の長いまつげは見間違うはずがなかった。




ちゃんと確認したいのに、視界が歪んでこれ以上見ることができなかった。



「……はい。……間違いありません」と、私は声を振り絞った。



────ドクン……。


───ドクン。


──ドクン。


ドクン!



「っ!」


私はおなかをささえて、その場にしゃがみこんだ。


リュージンがとっさに体を支えてくれた。


「だれか! 長老様を早く!」そう、リュージンが叫んだ!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、すれ違いの末に離れ離れになった夫婦の物語。 再会したとき、二人が選ぶのは「離婚」か、それとも「再構築」か。 妻を一途に想い続ける夫と、 その想いを一ミリも知らない妻。 ――攻防戦の幕が、いま上がる。

「やり直したい」と泣きつかれても困ります。不倫に溺れた三年間で私の心は死に絶えました〜捨てられた元妻、御曹司の傍らで元夫を静かに切り捨てる〜

唯崎りいち
恋愛
三年間の夫の不倫で心も生活も壊れた私。偶然出会ったレトルト食品に救われ、Webデザインで再出発。過去に縛られず、自分の人生を取り戻す静かな再生の物語。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

私たちの離婚幸福論

桔梗
恋愛
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

「妹の方が可愛い」と不倫夫に捨てられた私。どうぞ借金まみれの実家ごと引き取って。私が肩代わりしていた負債、すべてお二人に引き継いでおきました

唯崎りいち
恋愛
「お前より妹の方が可愛い」 不倫した夫は私を追い出し、略奪した妹と笑った。 どうぞ、その「可愛い妹」と地獄までお幸せに。 私が肩代わりしていた実家と店の多額の借金、すべてお二人に引き継いでおきましたから。 「財布」を失った元夫と、逃げ場を失った妹。 身の丈に合わない贅沢を望んだ寄生虫たちの、惨めな末路を特等席で眺めさせていただきます。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

処理中です...