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第1章 さよなら、愛するヘリオトロープちゃん
麗しい桜の蕾
しおりを挟むこの世で、金で買えないものは存在しない。
これはお父様の口癖であり、今は私の口癖でもある。
窓から時間とともに部屋の空気に溶け込もうとする熱い光と優しくもカーテンをたなびかせる風が窓前の花瓶に入った白いゼラニウムがしっとりと揺れ動く。
私の部屋は豪華である。それも私のような美しき女性を際立てるほどの広く壮麗。そして家の至るところに肖像画を置き、使用人の掃除は欠かせない。少しでもホコリがあれば…。
「この紅茶美味しい」
そんなことを考えるほど、心は落ち着いているのだろう。ティーカップの音が、風の声にかき消されてしまう。悲しさも、もしかしたらあったのかもしれない。だけどこの窓から美しいアートのような庭を見ていれば、誰もが悲しさを忘れるはずだ。私もその一人なのだから。
──私は完璧なのだ。
私の家系は完璧を求めている。傲慢で金使いの荒いお父様を見習ってできた言わば家訓のようなもの。
紅茶を飲む姿や菓子を口にするまでの姿、一つ一つの礼儀を幼少期から学び、身に付け、気品のある貴族に仕上げてきた。
しかしあの方には勝てなかった。それは私のお母様、ガーベラのことである。
ガーベラは礼儀に長けていたが、どうしても家族の名を呼ぶ時は礼儀が成っていない。私のことを「ヘリオトロープちゃん」と甘々な声を出しては上級の使用人にいつも注意されている。そこが可愛らしいところであり、優しさの秘訣なのかもしれない。私はそう思っている。
そんなお母様は、私が八歳の時に暗殺された。理由は私が七歳を迎えた四日後にお祖父様が亡くなったためだ。ずっと話し合っていた遺産相続の件と親族同士の地位争いが要となった。お母様は遺産はいらないと言っていたのに、貴族たちはそんなお母様の言葉に耳を傾けず、暗殺を試みた。私からすれば憎い敵のように考えてはいるが、貴族社会ではこんなことは日常茶飯事と毎回お父様に言い聞かされていた。それも耳に胼胝ができるくらいには。
あの時からだろうか。
あの子が崩れたのはいや、それより後か?
もうそれすらも分からなくなっている。
コンコン。
乾ききった扉を叩く音が、私の優雅な憩いを醜い現実世界に引き戻した。
「お嬢様、私です。ローズマリーです。入ってよろしいでしょうか」
「えぇいいわよ」
キーッと掠れた金切り声のような音が私の耳を奪い、不快な思いを誘った。
ローズマリー。
彼女は私の専属使用人であり、最も地位の高い上級の使用人。
この館では服のデザインによって地位が異なる。上級の使用人なら花の刺繍がされ、華やかさを際立たせた服。メイド服のような長いスカートがその華やかさを増す。しかし、下級の使用人の服装は、黒と白が組み合わさって構成されたメイド服そのもの。しかし服は何年も引き継がれていて、ボロついているのが分かるほどに色が滲んだり、所々が切られていたりといかにも貧しい女性のようだ。今まで上級の使用人からそういった行為をされていたのが原因だろう。私の屋敷ではそういった権威主義的な社会を見ることができる。幼少期はガーベラが止めてはくれていたがやはり自分の地位を維持するには他者を蹴落とすしか方法はない。ガーベラは上級の使用人からは蔑まれていた。
可哀想にあの頃の私はそんな強者に食われかける弱者を助けようと必死で自分にまで反感を買われそうになったのだ。バカにもほどがある。上に立つものは傲慢で凛々しくないと釣り合いが取れない。だからこそ、今の私には威厳がある。それで上級の使用人からは「美しく高貴な牡丹」と持て囃されている。
「失礼いたします。旦那様からお見合いの申し出がございました。いかが致しましょうか」
何度目のことだろう。
成人してからこの五年間、ずっとお見合いをさせられている。もう二十五歳だというのに結局は失敗する。私が美しすぎて手が出せないということもあるだろう。ですが、男どもが単純で何も面白みがないのです。そのせいで恋仲になる人もおらず、結婚の申し込みもない。それなのにお父様は諦めるそぶりがない。
「はぁ、そうですか」
良いことを思いつきました。お見合いの仕方を捨てましょう。
「…では今度のお見合いは、貴族同伴の舞踏会をなさるのはどうでしょうか」
行動を変えなければ、また同じ結果になってしまう。
「かしこまりました。旦那様には、そのようにお伝えします。では、失礼致します」
やはり、上級の使用人は、礼儀が成っている。見て様になっている。まぁ私にとってはそこも腹立たしいことの一つですが…。
扉が閉まると同時に、再び穏やかな景色が窓から流れ込んでくる。
お父様に舞踏会の件が了承され、名高い家系だから順調に事が進み、あっという間に月日が流れていき、当日まで、意識もが瞬間移動した。
この舞踏会は貴族同伴ということもあり、予想を超える人の多さに少し驚愕してしまった。
だが、貴族たるもの礼儀を忘れてはいけない。
自慢の笑みを振りまき、男の心をつかみ取る。
──これが私の戦略だ。
案の定、馬鹿な男どもは私の美貌に食われ、視線に私を取り入れようと顔を向ける。
私の笑顔は偽りの笑顔以外にもう一つの気持ちが重なっている。
それは、侮辱の笑顔である。
あぁ、本当に単純な男は滑稽ね。
そんなことを考えつつ、笑みを振りまいていると、私のことを見向きもしない男がそこにいた。
童話に出てくる王子様のような美形。言葉が幼稚になってしまったが、それ以外の言葉で表現ができない。
私は無意識なのか、小走りをしていた。
私の目はまさに、獲物を狙うようで、しかもその顔で彼に近づいていた。
己がどんな顔をしているのか想像し兼ねる。
落ち着きを取り戻そうと、一度立ち止まり、息を整え、貴族であることを胸に刻み直し、声を発した。「ハイドレンジア殿、初めまして」
男は私の顔を見ても、表情一つも変えずにそっけなかった。
──噂通りの素っ気ない男ね。
彼の反応のおかげで私の欲望はさきほどより増して心に火がついた。
私のような美貌の持ち主を前にしても、興味を持たない。絶対にこの男を婿として迎えたい。彼のすべてが欲しい。この思いは彼の行動次第では、変わってしまうのであろう。
ほのかに甘味を醸し出すパンは朝の熱い日の光によく合う。食べ物を食べる際は、静かに心を落ち着かせて食すのが礼儀である。
昨日のあの男が頭から離れない。
夜は寝ることができず、化粧師に怒られてしまった。
私の心は乱れている
どうしても、あの男を手に入れて、私の心や身体に魅了されてしまえばいいのに。
今、不敵な笑みを浮かべたのだろう。
近くにいる下級の使用人が泣きそうな顔をして、隠そうと必死だ。
──本当に不愉快だ。
「そこの使用人よ、あなたに二つの選択肢を与える。それは、解雇か売り飛ばすかだ」
考えている間に言葉を無意識に投げていたようだ。口からスラスラと嫌みのごとく飛んでいく。
すべてはあの男のせいなのだ。私のものにならないから、私は狂ってしまった。
使用人の声は馬鹿でもわかるように震えている。
「わ、私は、解雇をねがいます」
「そうか。解雇であるな」
両手で2回音を鳴らすと、乾いた音が鳴り響く。これは、上級の使用人を呼び出す合図である。
部屋の扉が勢いよく開いたとき、上級の使用人がずらりと集まった。
するとひとりの老いた使用人が「お呼びですか。お嬢様」と言葉を発した。
「そこの使用人を売り飛ばせ」
声に張りがあったのか、部屋中に響き渡った。
「どうしてですお嬢様⁉ 私は解雇を願ったはずです」
声が荒く、汚い。だから下級の使用人は礼儀がなってないから嫌いだ。
「私が素直にお前の言葉を聞くとでも」
礼儀のない奴は嫌いだが、その顔は好きだ。裏切られ、誰も味方する者が居らず、涙で歪み、「絶望」という言葉が似合う醜い哀れな顔。
「その者に一週間ばかりの食料だけでも渡しておけ。これは私からの土産だ」
なんて心優しいのだ。やはり、この私をあの男は欲しがるだろう。
「……ありがとうございます! お嬢様」
泣いていて、もう誰なのかわからない。元々名前すら覚えていないが。
この者に愛情など微塵もないが、周りへの私の立場を見せつけるには良い脇役だ。
「明日はあの男の屋敷にお邪魔するか」
やはり、ストレリチア家の豪邸は広くてムカつくほどに手入れが施されている。私の家のように何か着飾って貴族を見せるのではなく、素朴ではないが凛々しく貴族としての立ち振る舞いは随一。貴族のほとんどはストレリチア家を経済面でしか見ていないが、こういったところもこの家系は特化しているのだろう。
「失礼いたします」
「おや、リンドウ・ヘリオトロープ女公爵ではないですか。はるばる、我がストレリチア家へ。今日はどうなされましたか」
堂々としていて、スラスラと話すこの男は、私が気になっているあの男の父親である。周りからは「飄々とした者」と評判されている。
「ハイドレンジア殿はいらっしゃいますか」
「息子は、今自室で学問に励んでおります。呼んでまいりましょうか」
作り笑いがまる分かりである。やはり昔から私はこの男が苦手だ。
何を考えているかわからず、裏があるのではないかと考える。
「いえ、私自ら参ります」
はやくこの者から離れたい。その気持ちが強くなっていた。
あの男の自室まで、メイドが案内してくれた。
その道中には、いろんな有名な画家が描いた絵が美しく並んでいた。
あの男の父は古代学者だから、相当な収入があるのだろう。
メイドがとある部屋の前まで来ると扉をノックせずに、大声で「お坊ちゃま、ヘリオトロープ女公爵がお見えです。失礼いたします」
まさかの許可を取る前に部屋に押し入る。住む場所が異なれば礼儀や作法も違うものか。
その現実に思わず驚愕した。
部屋に入るなり、先生らしき老人とあの男、ハイドレンジアが勉強していた。
一番、目が向いたのは、腰の曲がった老人よりもあの男だ。
ちょうど目と目が合う。
某ラブストーリーなら、ロマンティックな情景なのに。
あの男となると話は別だ。
表情は、呼吸をするよりも早く嫌悪感をはっきりと表し出している。
うわ、顔を合わせた瞬間に睨みつけてくるってどれだけ礼儀のなっていないのだ。私も嫌悪感が込み上げてくる。
しかし、彼女からすれば、ハイドレンジアは、一度でも思いを馳せた者。あの下級の使用人よりは、捉え方が優しい。
「なにか用か、手短に済ませて欲しい、こちらには勉学に励みたい」
要するにさっさと帰ってくれと言いたいのだろう。不満が駄々漏れだす。これだから、「男」という生き物は、いけ好かない。
「舞踏会の件についてです。あのお話…」
「舞踏会ですか、あれはもうお見合いの間違いじゃないですか?」
人が話している最中に割り込むなど、途方もなく不愉快だ。
しかし、仮にも思い人。
彼女の思いは現在、混乱し、恋心と憎悪が入り乱れている。
「そう捉えてもらって構いません」
お見合いと思われてもおかしくない雰囲気だったし。
「あの話は、俺は却下したはずだが」
「はい。ですが私はどうも諦め切れなかったので直接お会いして話そうと参りました」
淡々と話す私を疑い深く見つめる彼。
恐怖と好意がさっきの感情を波のように呑み込んでしまった。
彼女の心は、その二つの感情が来たことを喜ぶほど、もう後戻りのできないところまで追い込まれた。
「何をニヤニヤと不気味な笑みを漏らしている」
男の声でハッと気づいたが、遅かった。
「少し考え事をしておりました」
「そうか、無駄話はしたくない。用がないなら、もう帰ってくれないか。勉学に励みたいが、Störenfriedが居ては
集中できない」
ハイドレンジアは言語学者を目指している。他言語を話していたのだろうが、彼女には理解できなかった。
しかし、ハイドレンジアに、馬鹿にされたと彼女は自覚することはできた。顔が引きつっている。そう思ってしまうぐらい、彼女の心は落ちた。そしてヘリオトロープは誓った。
この男を殺してもいいから、手に入れたい。私の物になれば、気持ちを分かってくれる。私の心も晴れるだろう。
そして、一生私と一緒に過ごせる。この後の人生はきっと幸福に満ちたものになる。絶対に。
ヘリオトロープの人生は、今後、彼女の選択によって、道が分かれる。
感情の歪みは行動の歪みと同等。
「それでは、このお話は、また後日。私は諦めません」
最後まで、あの男は嫌悪感を放ち続け、私を忌み嫌っている。
それもまた、良いもの。あの男を必ず手に入れる。
──ならば、あの男を私のもとへ、引きずり込もう。
「私は、女公爵である。権力は持っている。偽りの罪を下しても、逆らえるものはいない」
訪問から一週間も経っていない日の民衆の集う街中。
「国民の皆に告げる。ハイドレンジアは罪を犯した。一つ、女公爵である私、ヘリオトロープ女公爵を侮辱した。これは、反逆罪と私は見なした。よってハイドレンジアを我が地下牢に監禁する」
ヘリオトロープの声が集会場を埋め尽くすほど迫力があった。
彼女の言葉にほとんどの国民が唖然とした。しかし、彼女は国民そしてハイドレンジアの反逆罪に反対していた親を押し切って決めたことだった。
この行動で、どれほどあの男が欲しいのかは、嫌でも伝わってくるだろう。
もう彼女の思いは歪み、崩壊寸前。誰にも治すことができない。
「ハイドレンジアよ、今夜私の部屋に来なさい。今後の話をします」
「わかりました」
ハイドレンジアは、自分の名前や思いに傷をつけられた。
その姿はもはや空っぽになった器のように軽い。
今の天気は白雨。
ハイドレンジアの気持ちが真っ白く、もはや何も残っていない抜け殻のようだ。月の光が窓からやってきて、美しい私の体を覆う。
──そう、私は美しい。
「ハイドレンジアよ、お前の未来はもうない。最後に問う。私の婿になってくれないか」
「なるわけない。こんな悪魔に」
今の夜空に合わない稲妻が、私の心に落ちた。彼女は苛立ちを覚えたのだ。
希望を与えてもなお、否定するのか、この男は。もったいない、腹立たしい。
この私を拒否するとは、もう、声を出せぬくらいにしてしまおう。
こんな気持ちになっていると己が理解するまでそう時間はかからなかった。
そして、目の前には、赤く美しい男が、狂った顔で涙を垂らしていた。
彼女の服には赤い花びらが飛び散る。
徐々に冷たく枯れる花。
「やっと、私の物になるのだから、お前も嬉しいだろう」
明朗快活なさまは、無邪気な子供を連想させる。
しかし行動を見れば、狂気の沙汰だ。
「あぁ|誓いの女神、リナリア様。あなたは私のことを見捨てなかったのですね。あぁ良かった。私は神に愛されていたのですね。やっと、これで彼を私のものにすることができる。ありがとうございます…‼」
哀れな女だ。
己の心を優先したことで、その後を考えない。なんて可哀想なのだ。人生の選択を間違えれば己を壊す。もう、戻ることも治すこともできない。
ヘリオトロープはハイドレンジアの肉を剥ぎ取り、肉や髪を礼儀正しく食し、骨として自室に飾った。
この行為は言わば、証拠隠滅である。
頭蓋骨は机に、その他の骨は、使用人たちにばれないように物置部屋にある鎧の像に隠した。
案外、すぐにはばれなかった。ヘリオトロープは毎日、ハイドレンジアに話しかけている。けれど、やはり言葉を投げても返ってこない。
その現状がヘリオトロープの心を槍のごとく何本も突き刺し、抜けることはなかった。
「ハイドレンジアよ、お前を殺してよかったのだろうか」
彼女は今更、後悔をしている。
「私は、なんて重い罪を犯してしまったのだろう」
彼女の部屋の隅には、椿が満開に咲き誇っている。椿と目が合い、また悲しむ。ヘリオトロープも女性だ。花言葉の一つや二つを知っていておかしくない。
椿は、良い言葉を持っているが反対に悪い言葉も持ち合わせている。
──椿よ、今の私と同じだな。
彼女には、主に二つの感情が混ざることなく存在している。
一つ、罪を犯してしまった罪悪感。
一つ、私は悪くないと心の中で自己弁護。
これらは、決して合わさることがなく己を乱す。しかし、彼女も人間。考えないという選択肢はない。
「あぁ、生きたお前と話したい。一方的な愛情も今になってはそちらの方がよかったのか」
ヘリオトロープの心はこんなことばかりで哀れだ。今後のことを軽く考えて、後々になって後悔する。
迂闊な考え。
「私が死ぬことで罪が償えるのか。死んだ方が良いのか」
そう、人は追い詰められれば、自らを犠牲にして罪滅ぼしを求める。
意識が薄れていき、気が付けば自分のベッドに横たわっていた。
その間にある夢を見た。
「お前は、重く一生消えない罪を犯した。もう後戻りなどできない。死んでも罪は消えないからな」
目の前には、私らしき者が立っていた。
「しかし、死ねばあの男に会えるかもしれない」
やはり、ヘリオトロープの気持ちの中には、希望がまだ残っている。
「それは自分の慰めにしかすぎない」
怒りが篭った言葉が、銃弾のごとく身に貫かれるのが分かる。
「もう、お前も終わりだな。そんな希望のみでしか話せなくなると、今後は落ち続ける」
私は終わりなのか。
ヘリオトロープの心はもう黒い。
しかし朝日は無慈悲に彼女を浄化させる。
ベッドから起き上がり、机に置いてあった、少し冷めたティーカップを震える手で持ち、口まで運ぶ。
後悔の混ざった紅茶を喉に通す。
そしてその瞬間、彼女の思考に喜びが溢れ出た。
「あの男が呪いを掛けたのか」
そう錯覚した。
その後、ヘリオトロープは息を絶った。
死因は、下級の使用人が紅茶に毒を忍ばせて彼女が飲んでしまった。
生前、彼女の行いが今回の事態を起こしたのだ。しかし今日死んだというのに、部屋の中に充満したのは喜びと解放感だった。
彼女は最後の最後まで自分の地位や権力を気にして、自ら死のうと行動はできなかった。
惨めで悲しき存在。彼女を愛する人は自分の館にすらいなかった。
それが事実であり現実だ。
結局、ヘリオトロープ女公爵の行ったことは、明らかにされず、ハイドレンジアの罪も消えることはなかった。
彼女の意志ではないが、彼を道連れにする結果となってしまった。
ヘリオトロープ女公爵の葬儀は、ヘリオトロープの父が行ったそうだ。
だが、父は娘が亡くなってもなお、「遺産は俺のもの」だとか「あいつの地位を俺は引き継ぐ」だの、言いたい放題言った結果。
運悪くガーベラの両親に出会い、粛清されたのだそうだ。
欲に溺れてしまえば、感情の制御が効かず、壊れ、崩れる。
あの頃は優しく、誰とも分け隔てなく接していたのに、あの父のせいで狂ってしまい、己を忘れた。もうあの頃の彼女ではないのね。
そして、あなたは私とは別の世界に行き、会えることは叶わないのですね。
変わったあなたでも私は愛し続けます。
これは、母親という言葉の鎖に縛られたためではありません。
あなたが大好きだからです。そこは間違えてはいけません。
「さよなら、愛するヘリオトロープちゃん」
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