悪役令嬢に転生したけど、旦那様が臆病すぎ! ヒロイン、この人で本当に大丈夫?

花魁童子

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第一章

父との出会いと専属メイド

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「おぉスピネルよ‼ 目が覚めたのか! パパ心配したんだぞ!」


 あれ? さきほどの記憶では寂しい思いを…。


 ん? 記憶の中では……。


 ──お父様が話してくれない…。仕事が忙しいのかしら。いつもは、一時間抱きしめてくださるのに今日は…三十分だけですわ! 寂しい‼


 あぁ、私が見ていたのは寂しい思いをしているところだけ。本来はこのお父さんがだる絡みしすぎてそれが当たり前になってしまったのか。


 親も親だな。


 子どもを甘やかせすぎれば、それが定着し、今後の子育てに支障をきたす。例えば、駄々をこねてどうにかしてお願いを聞いてもらおうといろんな手を使うだろう。それが罪であっても本人には自覚がない。あったとしても「自分の言うことを聞いてもらうためだから仕方がない」。きっとそう考えるはずだ。スピネルもそう。


「お父様、お忙しい中、申し訳ございません」


「…お、おう体調は大丈夫か?」


「おかげさまで。お騒がせしてすみません」


「スピネルよ。頭でも打ったのか?」


「…?」


 ちょうど、扉の前にはラリマーが礼儀正しく、静かに立っているのが見え、目を合わせると口パクで何か伝えようとしている。


 け・い・ご・は・だ・め



 最後は分かりやすく大胆に自分の顔の前に両腕を持ってきて『×』と記した。


「あ…」


 さっきラリマーが言っていたことを思い出し、つい声が漏れてしまった。


「どうしたんだ? スピネルよ」


 やばい、やばい。なんと言い訳をしよう…。


「お、お嬢様は少し疲れていて、あの…お父様の威厳が凄すぎて、感極まってしまったのだと思います!」


 な、なるほど? 言い訳的には変でしかないが、彼女なりのフォローだ。ありがたくうけとめておこう。


「ははは‼ そうかそうか。スピネルがな」


 高笑いで少し頭痛を患っている身にとっては悪影響でしかないが、どうにか話が無理やりでもまとまったようで一安心。


「え、えぇ! お父様を心の底から尊敬していますから‼」


 とりあえず、彼女に合わせるので精一杯。深く聞かないでくれ…。


 今の私には説明を考えるのがめんどくさいし、頭が痛い。


「スピネルよ愛しているぞ‼」


「……旦那様、急遽クォーツ・アンバー様がいらっしゃいました」


「またあいつか、聞き分けの悪い者だな」


 突然、笑顔だった男は、ある人の名前でおもむろに怪訝な顔を出している。


「ではスピネル。また夜食の時間に会おう。ラリマー、スピネルに何かあれば近くの大人に報告せよ」


「「はい、お父様」」


 彼の足音は少し重く威圧のあるもの。大体、足音で予想できるが、きっと喧嘩をするような会話になるだろう。






「…ラリマー。クォーツ・アンバーとは誰ですか」


 足音一つ立てず、私の座るベッド横の椅子に腰かけると、質問に応えてくれた。


「クォーツ・アンバーとは、隣国の王様で、政治と経済については一流と持て囃《はや》されているが、計画性に難ありと言われている男です」


 政治と経済は良くて、計画性がダメってそれで国が成り立っているのなら、相当なものね…。ただ、上司がその人であれば私はすぐにでも逃亡したい。前世の上司とほぼ変わらないじゃない。


「ラリマーありがとう」


「いえ‼ お嬢様、体調は大丈夫ですか?」


「えぇ、さきほどの大声は頭に響きましたが、多分大丈夫です!」


「…ふふ、そうですね。お父様は声が大きいですから」


「演説では活躍しそうな声ですよね」


「ですね」


 二人で父の話をメインに笑い合う。前世ではこういう時間なんて取る暇すらなかった。


 あっても年に数回程度、有休ももらえなかったものだから、今この時間、この雰囲気、すべて居心地が良い。落ち着くし、ラリマー可愛いから癒される。スピネルも目がないわね。


 こんな可愛い子をいじめるなんて…。でも私の世界では男同士も女同士も抵抗なく恋愛ができた者だ。


 記憶上、この世界ではそれがおかしなこと。そう認識されてもおかしくないのかもしれない。だからといっていじめる理由にはならないはずなのに…。


「お嬢様⁉ やはりどこか医者を呼ぶべきですか⁉」


 え? どうして?


 私の頬あたりに何か冷たい小さなものが下へと落ちていく。手に触れると、水のようなもの。でも、私はこれを知っている。だってさっきも出したから。


「……いや、呼ばなくて大丈夫。ただ今までやってきた罪は消えないのを理解して泣いただけ。ごめ…」


「謝らなくていいです。私は今のお嬢様が好きです。だから過去のことは気にしません。それに過去を後悔だけしても何も良いことは残りません」


 そうだ。前世でも経験した。後悔は自分を負のどん底に突き落とすだけ。それを登ろうとしても力が足りず、再び底に尻もちをつくだけ。



「そうだね、分かった。ありがとう愛しのラリマー」



「え⁉ あ、ありがとうございます‼ 私もお嬢様のことが好きです!」


 こんな癒しの時間が続けばいいな…。

 夢見た物語ではこの後、平凡じゃなくなるけど本当なのかな。それとも物語だけ?

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