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第二章
悪なる神との戦い
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社の中には日の光と冬になりたいと囁く風が吹き、心地好いくらいには、温度も下がってきている。この時間が続けばいいのに。と思うが時の流れに逆らうことなどできない…それを知っているから悲しい。
「では、掃き掃除をしてきます!」
綾人の大きくて活気のある声が童の耳にツンと入ってきた。
「そんなに急いで転ぶなよ」
背を向け、忠告をしかけた途端、。ドンっと何か音が響いた。振り返ると綾人が階段を踏み外して転んでいる。
本当にドジだな。と思いながら綾人の手を取り、立ち上がりに協力した。
えへへ、と可愛らしい声を出して、お礼をしてくれた。
「ありがとう」
やれやれ、と子どもを見るような気持ちを抱きながら縁側にゆっくり歩み寄り座る。
先ほど綾人と共に出向いた甘味処で買った菓子を頬張る。わざわざ綾人がお皿に入れて持ってきてくれた。
気が利くせいなのかついつい綾人に頼ってしまうのは、あまりよくない。そう考えて雲一つない秋の太陽を仰ぎ、暇を満喫している。
もう、綾人と会って五カ月が経ったごくごく平凡な日。
神様になってからはつまらない日が多くて退屈ばかりだったが、綾人が来てくれたおかげで毎日が楽しくて飽きない。しかしいつも息を吐くように告白をしてくるのは、心臓に悪い。
でも、心のどこかでは言われることに抵抗がなく、期待をしてしまっているのもまた事実。
「綾人よ、愛しているぞ」
小声で、掃き掃除を一生懸命にしている綾人には聞こえぬように、思いを漏らした。
「お主は、童と付き合いたいと言っているが、童のようなもので務まるのだろうか。もっと良い者もいるはずじゃ。もっとゆっくり探せばいいのではないか」
睡蓮は綾人が好き。だからこそ、自信をなくし、本当に自分で良いのかと、本人ではなく無に話しかける。これも綾人への愛情の裏返し。
しかし、思いを伝えられないのも、自分の気持ちとしては、寂しいし悲しい。伝えたいのだが神と人間が付き合うことはできない。
しかし、神と神ならば話は別。綾人にも可能性はあることにはある。だが、まだ条件は全て満たされていない。
童はもう一つの条件を満たしてほしくない。
その条件は…。
「睡蓮様!落ち葉、掃き終わりました~」
いつものように綾人の元気な声が社内に響く。
にしても、綾人の声は落ち着く。
「睡蓮様、一緒に遊ぼう!」
童の手首を優しく、痛くないように引っ張り、綺麗になったばかりの石道に足をつけた。
「睡蓮様は、俺のこと好き?」
「好きじゃよ。お主と出会えてうれしい」
そう囁くと掴んでいた手に力が若干抜けたのか、違和感があった。綾人の顔を覗き込むと、照れて顔が赤く火照っていた。
お主がその反応はずるいじゃろ…。
案の定、二人とも顔を赤らめて沈黙が起こった。
「す、睡蓮様!目をつぶってください」
「?分かった」
言う通りに目をつぶり、暗闇一色に染まった視界。
口づけをされるのか?!もしそうなのであれば。
頭が混乱している中、一向に待っても何もされていない。
少し目を開くとニヤニヤと笑みを浮かべている。
「な、なんじゃ!」
慌てて言葉を発したせいで甘噛みしてしまって言えなかった。
「いや~、睡蓮様がキスを待っている姿があまりにも可愛くて、見惚れていたの!」
けろっと話す綾人とは裏腹に口づけをしなかったという怒りより見られてしまったという恥ずかしさの方が勝ってしまった。だからこそ、すぐに言葉が出ず、一拍を置いて「ばか。」と小さな罵倒しかいうことができなかった。
でも、こういう平凡だけど楽しいと思える時間が愛しいのかな。
「うっ」
痛い。
急に胸に無数のとげが至る所に突き刺さる感覚があった。
体が耐え切れず、横転という形となってしまった。
最後に見た者は、驚愕していた綾人の顔だった。
あんな顔、見たことなかったな。そうくだらないことを考えていると、意識が遠のき、気を失った…。
「睡蓮様!睡蓮様!大丈夫ですか?」
最初は何が起きたか分からなかった。しかし、目の前に起こったことは事実だ。
その目の前に起こった光景は、睡蓮様が倒れた。ということだ。
俺は慌てて倒れかけた睡蓮様の頭を支え、なんとか最小限の怪我で済んだ。呼びかけても反応がない。気を失っているのか…もしくは…。いや、神様死なないはず…だよね。不穏な空気が流れた後、その後のことを悩んだ。
「神様って病院行かないよね。どうしよう」
あたふたとしていると、鳥居の方向から一人の声が俺の耳に届いた。
「綾人くん~どうしたの?」
ラナンキュラスの声だ。そう向くとラナンキュラスとは別に幸と厄も一緒にいた。
「睡蓮様が!睡蓮様が!」
落ち着ける状況じゃなかったため、言葉が詰まり、駆け付けてくれたラナンキュラスの手が背中をさすってくれて深呼吸をする余裕ができた。
「ラナンキュラスありがとう」
「いえ、それはいいのだけど。この状況を教えてくれる?」
「俺にも分からない。急に睡蓮様が倒れて…」
先ほどよりかは話すのが楽になったがどうしても動揺が出てしまう。
「「睡蓮様大丈夫?」」
幸と厄も睡蓮様のことを心配してくれて嬉しかった。安心したのか、目から一滴、また一滴と雫が石道に落ちた。
「ちょっと、見せて」
ラナンキュラスが睡蓮様に向けて手を伸ばした。
「あぁ、これはやばいね。幸と厄!睡蓮ちゃんと綾人くんを社の中に避難させて」
「「分かった!」」
幸が睡蓮様を軽々と持ち、厄は俺の背中を押して避難させた。
「どうしたの?!」
俺は状況が掴めなかった。だから、社の中でラナンキュラスに質問を投げた。
集中しているせいか、返ってこなかった。しかし、幸と厄が答えてくれた。
「「微かだけど睡蓮様の気配から邪神さんの気配がしたの」」
「なんで?」
「「分からないけど、確実なのは睡蓮様の近くまたは中にいるかもってこと」」
「来るよ!」
ラナンキュラスの言葉が来たすぐに、俺でもわかる嫌な気配。
「はぁ、やっと来れた」
鳥居に座る一つの影。天候も荒れ、天には無数の雲の大群。
「あれは…」
「「あれが邪神くんだよ」」
男物のチャイナ服を着た不審者がその場に溶け込んでおらず、違和感がすごい。
「お前、睡蓮様に何をした」
綾人の頭には怒りを通り越して邪神への哀れみが湧いていた。
「力を借りただけだよ」
ノリが軽く、癪に触る者だ。
力を吸うだかなんだか知らないけど、俺の思い人に手を出したことには変わりない。
綾人の感情は、黒く邪神に対して怒りが増し、感情制御をするだけで一苦労だった。
「ラナンキュラス、幸と厄。俺が指示をするから俺たちのために動いてくれる?」
優しく言葉を投げかける裏には3人にとって怖さが醸し出されていた。
「睡蓮様、待っていてください」
社の中で睡蓮様を強く抱きしめ、涙を拭って覚悟を決めた。
「3人の能力を活性化する!」
俺は、左右の手をみんなに向けた。念じた途端、手から青くラピスラズリのような色が放たれた。
「邪神ちゃん、私だけを見てね!」
そう唱えるとラナンキュラスの体から甘い香りと色づいた空気が周りを舞った。
案の定、邪神は嫌々な顔をしながらも強制的に視点を奪われていた。
「な、なんだ。目が動かない」
「幸と厄。幸はラナンキュラスに癒しを!厄は邪神に災いを!」
「「はーい」」
「貴殿、癒しと治しの希望を」
幸がそう唱えるとラナンキュラスの体から出るオーラが回復し、俺の予測だが身体強化が施されていた。
「己、災いの意味を知り、天や地に変異を」
そう唱えた瞬間、天が荒れ、ゴロゴロと音を立てて邪神に向かって雷が降り注いだ。
邪神の体は黒く焦げたが、一瞬にして回復したのか、その無惨な姿は消え、元の姿に戻った。
「腹立たしい。そなた、邪の者に食らわば消えて無くす」
邪神の影から狼だろうか獣の何かが作り出された。狼と気づいたときには、狂暴に「わぉーん。」と遠吠えをしていた。
「この子は我の眷属獣。あの女を噛みちぎれ」
「ばぅ」と吠えたのを合図に狼がラナンキュラスに攻撃を仕掛けてきた。
牙はラナンキュラスの体めがけてまっすぐに飛ぶ。がラナンキュラスも強く、フィジカル一つで狼の撃退に成功した。しかし、狼の姿は黒く墨汁のように液体化し、邪神の影に戻っていった。そしてまた出てきたかと思うと再びラナンキュラスに奇襲を仕掛けた。
「うっとうしいわね」
煩わしいと呟いた彼女は、すぐさま攻撃をした…が、先ほどのようにすべての攻撃が当たったわけではなく、1割のみが当たっただけだった。
「厄!お願い!」
厄は察したのか言葉を発せず、また呪文を唱えた。次は、雷に加えて地面を揺らし、邪神の体の重心を崩した。
邪神の動きは鈍くなり、相手側には眷属獣のみが切り札のように見える。
「眷属獣、その女を早く倒せ」
「くぅーん」と弱々しい声が耳に入ってきた。おおよそ、無理だ。と言っている。
邪神は何か呪文を唱え、異なる戦術を行った。
「虫けらが。そなた、邪の目に対し、意志を吸い取れ」
唱えた瞬間、俺の横で眠っていた睡蓮様がうなされて、胸辺りを手で押さえている。苦しそうだ。
「睡蓮様!?大丈夫ですか?!」
能力活性化に集中できず、とっさに睡蓮様の体を抱きしめ、睡蓮様に対して能力を使った。
…無駄だと知っている。
しかし、俺の予想とは違い、睡蓮様は眠ったまま俺ら3人に援助してくれた。
「え、睡蓮様!?大丈夫?!」
「綾人くん、睡蓮ちゃんは眠っているが私たちのために助けてくれるんだ。睡蓮ちゃんの力は縁仲を癒やす。私たちは睡蓮ちゃんの意志に答えるだけ!」
そう叫んでラナンキュラスは戦闘に戻った。ラナンキュラスを見ていて思ったのが、さっきほどの戦いよりも強くなっていて、5割も眷属獣に当たるようになった。
「しかし、倒せるのはいいのだが、この獣ちゃんすぐに回復するからキリがない」
どうしたらいいのだろうか。この獣は、必ず邪神の影に入って回復する。ということは影の明度を減らすことによって改善できるのではないか?
「厄!天に光を」
厄は疑問に思いながらも俺のことを信用してくれているおかげで、説明を省くことができた。
「己、天に聖の光を与える」
さっきまで暗く一面雲の大群があったのに、すぐさま消え去り光が放出された球体が出現した。
ラナンキュラスが攻撃した眷属獣は回復をうまくできず、姿を保つので精一杯だ。
「ちっ、回復が間に合わないのか。そなた、影を作り、その者の力を吸え」
無理やり、影ができるはずのない場所から影が出現し、小さな円が作り出された。
「無駄な力を使ってオーラ的には力が弱まっているね」
ラナンキュラスの言葉を信じ、新たな指示を告げた。
「幸!睡蓮様の力を回復させて。完全には回復しないでダメ。またあいつが吸う可能性がある。厄は災いを繰り出して足止めを。ラナンキュラスは視点を操作しながらフィジカル重視で!」
「「はーい」」
二人同時に手を挙げて元気よく答えた瞬間、各々で呪文を唱えて作戦を実行。
ラナンキュラスは眷属獣に苦戦している。だから俺の力で活性化を施した。少しでも力になれるように加勢しよう。
「君、力を増し、君のために使え」
再び呪文に集中して3人の援助を行った。
睡蓮様は気を失っていても力を吸われているせいか顔色が悪い。
「睡蓮様、大丈夫です。俺たちが助けます」
言葉が届いたのか睡蓮様の顔色は少し良くなり、心が少し和らいだ。社の奥の壁に睡蓮様を休ませてから、またラナンキュラスや幸と厄の能力活性化。
睡蓮様…活性化…睡蓮様…活性化…活性化…。
頭の中はもはや睡蓮様のことを考えている暇はなく、能力に専念するしか手はなかった。
「厄!眷属獣に鎖を頼めるか!」
「できるよ!」
呪文を唱えると眷属獣の影から鎖を放出し、素早く行動不能にさせ、眷属獣を覆った。
「厄ちゃんナイス!」
最終的にラナンキュラスの一手で眷属獣は粉々に…。ぐろいと思うかもしれないが、俺にとってはどうでもいいことの一つだ。それに、粉々といっても所詮は影からできたもの。影に帰るのが当たり前。
ちなみに厄には思考読みで細工を頼んでおいた。
それは…眷属獣は必ず主の影に戻ることをラナンキュラスとの対戦で見てわかっていた。ということは、厄の力で眷属獣に崩壊の災いを頼んでおいた。しかし、惜しいことはばれずに注ぎ込むためごく少量しか入れられなかったこと。それでも、多少の時間稼ぎになるはず。
そして、災いは主である邪神にまで反映された。崩壊の災いのはず…なのに、崩壊はせず、一部が崩れていく。やはり、邪神という名に負けないくらいの力なのか。
しばらく、俺と幸が厄とラナンキュラスのバフ、能力活性化を行った。厄はちょくちょく災いを起こして足止めやラナンキュラスの援護を担っている。ラナンキュラスはとういうと、誘惑は使わず、体に見合わずフィジカル一本で邪神と互角に戦っている。今のところ、睡蓮様の力を吸おうという素振りはない。しかし、互角とはいえ長引けば多分ラナンキュラスが負けるだろう。俺の能力はその者の今の力の度合いも図ることが可能。しかも、俺の能力は、活性化はできるが回復はできない。そのため、ラナンキュラスの体力次第で勝敗がきまるだろう。
「ラナンキュラス!無駄な動きは避けられるか!」
「難しいかもね。邪神の攻撃を避けるので精一杯よ。しかも邪神は少しずつ回復しているみたいなの」
「一気に畳みかけるしかない」
俺らも油断はできない。それにもう三人にも体力がほとんど残っていない。
「あ、ラナンキュラス~。何しているの?」
「では、掃き掃除をしてきます!」
綾人の大きくて活気のある声が童の耳にツンと入ってきた。
「そんなに急いで転ぶなよ」
背を向け、忠告をしかけた途端、。ドンっと何か音が響いた。振り返ると綾人が階段を踏み外して転んでいる。
本当にドジだな。と思いながら綾人の手を取り、立ち上がりに協力した。
えへへ、と可愛らしい声を出して、お礼をしてくれた。
「ありがとう」
やれやれ、と子どもを見るような気持ちを抱きながら縁側にゆっくり歩み寄り座る。
先ほど綾人と共に出向いた甘味処で買った菓子を頬張る。わざわざ綾人がお皿に入れて持ってきてくれた。
気が利くせいなのかついつい綾人に頼ってしまうのは、あまりよくない。そう考えて雲一つない秋の太陽を仰ぎ、暇を満喫している。
もう、綾人と会って五カ月が経ったごくごく平凡な日。
神様になってからはつまらない日が多くて退屈ばかりだったが、綾人が来てくれたおかげで毎日が楽しくて飽きない。しかしいつも息を吐くように告白をしてくるのは、心臓に悪い。
でも、心のどこかでは言われることに抵抗がなく、期待をしてしまっているのもまた事実。
「綾人よ、愛しているぞ」
小声で、掃き掃除を一生懸命にしている綾人には聞こえぬように、思いを漏らした。
「お主は、童と付き合いたいと言っているが、童のようなもので務まるのだろうか。もっと良い者もいるはずじゃ。もっとゆっくり探せばいいのではないか」
睡蓮は綾人が好き。だからこそ、自信をなくし、本当に自分で良いのかと、本人ではなく無に話しかける。これも綾人への愛情の裏返し。
しかし、思いを伝えられないのも、自分の気持ちとしては、寂しいし悲しい。伝えたいのだが神と人間が付き合うことはできない。
しかし、神と神ならば話は別。綾人にも可能性はあることにはある。だが、まだ条件は全て満たされていない。
童はもう一つの条件を満たしてほしくない。
その条件は…。
「睡蓮様!落ち葉、掃き終わりました~」
いつものように綾人の元気な声が社内に響く。
にしても、綾人の声は落ち着く。
「睡蓮様、一緒に遊ぼう!」
童の手首を優しく、痛くないように引っ張り、綺麗になったばかりの石道に足をつけた。
「睡蓮様は、俺のこと好き?」
「好きじゃよ。お主と出会えてうれしい」
そう囁くと掴んでいた手に力が若干抜けたのか、違和感があった。綾人の顔を覗き込むと、照れて顔が赤く火照っていた。
お主がその反応はずるいじゃろ…。
案の定、二人とも顔を赤らめて沈黙が起こった。
「す、睡蓮様!目をつぶってください」
「?分かった」
言う通りに目をつぶり、暗闇一色に染まった視界。
口づけをされるのか?!もしそうなのであれば。
頭が混乱している中、一向に待っても何もされていない。
少し目を開くとニヤニヤと笑みを浮かべている。
「な、なんじゃ!」
慌てて言葉を発したせいで甘噛みしてしまって言えなかった。
「いや~、睡蓮様がキスを待っている姿があまりにも可愛くて、見惚れていたの!」
けろっと話す綾人とは裏腹に口づけをしなかったという怒りより見られてしまったという恥ずかしさの方が勝ってしまった。だからこそ、すぐに言葉が出ず、一拍を置いて「ばか。」と小さな罵倒しかいうことができなかった。
でも、こういう平凡だけど楽しいと思える時間が愛しいのかな。
「うっ」
痛い。
急に胸に無数のとげが至る所に突き刺さる感覚があった。
体が耐え切れず、横転という形となってしまった。
最後に見た者は、驚愕していた綾人の顔だった。
あんな顔、見たことなかったな。そうくだらないことを考えていると、意識が遠のき、気を失った…。
「睡蓮様!睡蓮様!大丈夫ですか?」
最初は何が起きたか分からなかった。しかし、目の前に起こったことは事実だ。
その目の前に起こった光景は、睡蓮様が倒れた。ということだ。
俺は慌てて倒れかけた睡蓮様の頭を支え、なんとか最小限の怪我で済んだ。呼びかけても反応がない。気を失っているのか…もしくは…。いや、神様死なないはず…だよね。不穏な空気が流れた後、その後のことを悩んだ。
「神様って病院行かないよね。どうしよう」
あたふたとしていると、鳥居の方向から一人の声が俺の耳に届いた。
「綾人くん~どうしたの?」
ラナンキュラスの声だ。そう向くとラナンキュラスとは別に幸と厄も一緒にいた。
「睡蓮様が!睡蓮様が!」
落ち着ける状況じゃなかったため、言葉が詰まり、駆け付けてくれたラナンキュラスの手が背中をさすってくれて深呼吸をする余裕ができた。
「ラナンキュラスありがとう」
「いえ、それはいいのだけど。この状況を教えてくれる?」
「俺にも分からない。急に睡蓮様が倒れて…」
先ほどよりかは話すのが楽になったがどうしても動揺が出てしまう。
「「睡蓮様大丈夫?」」
幸と厄も睡蓮様のことを心配してくれて嬉しかった。安心したのか、目から一滴、また一滴と雫が石道に落ちた。
「ちょっと、見せて」
ラナンキュラスが睡蓮様に向けて手を伸ばした。
「あぁ、これはやばいね。幸と厄!睡蓮ちゃんと綾人くんを社の中に避難させて」
「「分かった!」」
幸が睡蓮様を軽々と持ち、厄は俺の背中を押して避難させた。
「どうしたの?!」
俺は状況が掴めなかった。だから、社の中でラナンキュラスに質問を投げた。
集中しているせいか、返ってこなかった。しかし、幸と厄が答えてくれた。
「「微かだけど睡蓮様の気配から邪神さんの気配がしたの」」
「なんで?」
「「分からないけど、確実なのは睡蓮様の近くまたは中にいるかもってこと」」
「来るよ!」
ラナンキュラスの言葉が来たすぐに、俺でもわかる嫌な気配。
「はぁ、やっと来れた」
鳥居に座る一つの影。天候も荒れ、天には無数の雲の大群。
「あれは…」
「「あれが邪神くんだよ」」
男物のチャイナ服を着た不審者がその場に溶け込んでおらず、違和感がすごい。
「お前、睡蓮様に何をした」
綾人の頭には怒りを通り越して邪神への哀れみが湧いていた。
「力を借りただけだよ」
ノリが軽く、癪に触る者だ。
力を吸うだかなんだか知らないけど、俺の思い人に手を出したことには変わりない。
綾人の感情は、黒く邪神に対して怒りが増し、感情制御をするだけで一苦労だった。
「ラナンキュラス、幸と厄。俺が指示をするから俺たちのために動いてくれる?」
優しく言葉を投げかける裏には3人にとって怖さが醸し出されていた。
「睡蓮様、待っていてください」
社の中で睡蓮様を強く抱きしめ、涙を拭って覚悟を決めた。
「3人の能力を活性化する!」
俺は、左右の手をみんなに向けた。念じた途端、手から青くラピスラズリのような色が放たれた。
「邪神ちゃん、私だけを見てね!」
そう唱えるとラナンキュラスの体から甘い香りと色づいた空気が周りを舞った。
案の定、邪神は嫌々な顔をしながらも強制的に視点を奪われていた。
「な、なんだ。目が動かない」
「幸と厄。幸はラナンキュラスに癒しを!厄は邪神に災いを!」
「「はーい」」
「貴殿、癒しと治しの希望を」
幸がそう唱えるとラナンキュラスの体から出るオーラが回復し、俺の予測だが身体強化が施されていた。
「己、災いの意味を知り、天や地に変異を」
そう唱えた瞬間、天が荒れ、ゴロゴロと音を立てて邪神に向かって雷が降り注いだ。
邪神の体は黒く焦げたが、一瞬にして回復したのか、その無惨な姿は消え、元の姿に戻った。
「腹立たしい。そなた、邪の者に食らわば消えて無くす」
邪神の影から狼だろうか獣の何かが作り出された。狼と気づいたときには、狂暴に「わぉーん。」と遠吠えをしていた。
「この子は我の眷属獣。あの女を噛みちぎれ」
「ばぅ」と吠えたのを合図に狼がラナンキュラスに攻撃を仕掛けてきた。
牙はラナンキュラスの体めがけてまっすぐに飛ぶ。がラナンキュラスも強く、フィジカル一つで狼の撃退に成功した。しかし、狼の姿は黒く墨汁のように液体化し、邪神の影に戻っていった。そしてまた出てきたかと思うと再びラナンキュラスに奇襲を仕掛けた。
「うっとうしいわね」
煩わしいと呟いた彼女は、すぐさま攻撃をした…が、先ほどのようにすべての攻撃が当たったわけではなく、1割のみが当たっただけだった。
「厄!お願い!」
厄は察したのか言葉を発せず、また呪文を唱えた。次は、雷に加えて地面を揺らし、邪神の体の重心を崩した。
邪神の動きは鈍くなり、相手側には眷属獣のみが切り札のように見える。
「眷属獣、その女を早く倒せ」
「くぅーん」と弱々しい声が耳に入ってきた。おおよそ、無理だ。と言っている。
邪神は何か呪文を唱え、異なる戦術を行った。
「虫けらが。そなた、邪の目に対し、意志を吸い取れ」
唱えた瞬間、俺の横で眠っていた睡蓮様がうなされて、胸辺りを手で押さえている。苦しそうだ。
「睡蓮様!?大丈夫ですか?!」
能力活性化に集中できず、とっさに睡蓮様の体を抱きしめ、睡蓮様に対して能力を使った。
…無駄だと知っている。
しかし、俺の予想とは違い、睡蓮様は眠ったまま俺ら3人に援助してくれた。
「え、睡蓮様!?大丈夫?!」
「綾人くん、睡蓮ちゃんは眠っているが私たちのために助けてくれるんだ。睡蓮ちゃんの力は縁仲を癒やす。私たちは睡蓮ちゃんの意志に答えるだけ!」
そう叫んでラナンキュラスは戦闘に戻った。ラナンキュラスを見ていて思ったのが、さっきほどの戦いよりも強くなっていて、5割も眷属獣に当たるようになった。
「しかし、倒せるのはいいのだが、この獣ちゃんすぐに回復するからキリがない」
どうしたらいいのだろうか。この獣は、必ず邪神の影に入って回復する。ということは影の明度を減らすことによって改善できるのではないか?
「厄!天に光を」
厄は疑問に思いながらも俺のことを信用してくれているおかげで、説明を省くことができた。
「己、天に聖の光を与える」
さっきまで暗く一面雲の大群があったのに、すぐさま消え去り光が放出された球体が出現した。
ラナンキュラスが攻撃した眷属獣は回復をうまくできず、姿を保つので精一杯だ。
「ちっ、回復が間に合わないのか。そなた、影を作り、その者の力を吸え」
無理やり、影ができるはずのない場所から影が出現し、小さな円が作り出された。
「無駄な力を使ってオーラ的には力が弱まっているね」
ラナンキュラスの言葉を信じ、新たな指示を告げた。
「幸!睡蓮様の力を回復させて。完全には回復しないでダメ。またあいつが吸う可能性がある。厄は災いを繰り出して足止めを。ラナンキュラスは視点を操作しながらフィジカル重視で!」
「「はーい」」
二人同時に手を挙げて元気よく答えた瞬間、各々で呪文を唱えて作戦を実行。
ラナンキュラスは眷属獣に苦戦している。だから俺の力で活性化を施した。少しでも力になれるように加勢しよう。
「君、力を増し、君のために使え」
再び呪文に集中して3人の援助を行った。
睡蓮様は気を失っていても力を吸われているせいか顔色が悪い。
「睡蓮様、大丈夫です。俺たちが助けます」
言葉が届いたのか睡蓮様の顔色は少し良くなり、心が少し和らいだ。社の奥の壁に睡蓮様を休ませてから、またラナンキュラスや幸と厄の能力活性化。
睡蓮様…活性化…睡蓮様…活性化…活性化…。
頭の中はもはや睡蓮様のことを考えている暇はなく、能力に専念するしか手はなかった。
「厄!眷属獣に鎖を頼めるか!」
「できるよ!」
呪文を唱えると眷属獣の影から鎖を放出し、素早く行動不能にさせ、眷属獣を覆った。
「厄ちゃんナイス!」
最終的にラナンキュラスの一手で眷属獣は粉々に…。ぐろいと思うかもしれないが、俺にとってはどうでもいいことの一つだ。それに、粉々といっても所詮は影からできたもの。影に帰るのが当たり前。
ちなみに厄には思考読みで細工を頼んでおいた。
それは…眷属獣は必ず主の影に戻ることをラナンキュラスとの対戦で見てわかっていた。ということは、厄の力で眷属獣に崩壊の災いを頼んでおいた。しかし、惜しいことはばれずに注ぎ込むためごく少量しか入れられなかったこと。それでも、多少の時間稼ぎになるはず。
そして、災いは主である邪神にまで反映された。崩壊の災いのはず…なのに、崩壊はせず、一部が崩れていく。やはり、邪神という名に負けないくらいの力なのか。
しばらく、俺と幸が厄とラナンキュラスのバフ、能力活性化を行った。厄はちょくちょく災いを起こして足止めやラナンキュラスの援護を担っている。ラナンキュラスはとういうと、誘惑は使わず、体に見合わずフィジカル一本で邪神と互角に戦っている。今のところ、睡蓮様の力を吸おうという素振りはない。しかし、互角とはいえ長引けば多分ラナンキュラスが負けるだろう。俺の能力はその者の今の力の度合いも図ることが可能。しかも、俺の能力は、活性化はできるが回復はできない。そのため、ラナンキュラスの体力次第で勝敗がきまるだろう。
「ラナンキュラス!無駄な動きは避けられるか!」
「難しいかもね。邪神の攻撃を避けるので精一杯よ。しかも邪神は少しずつ回復しているみたいなの」
「一気に畳みかけるしかない」
俺らも油断はできない。それにもう三人にも体力がほとんど残っていない。
「あ、ラナンキュラス~。何しているの?」
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凪が生まれ育った湯滝村は、温泉地として栄えた地域だ。凪は湯滝村で一番老舗とされている温泉宿、「椿屋」の一人息子。幼い頃から両親の手伝いをして、椿屋を支えている。そんな湯滝村にある湯花神社には、湯の神「湯玄」が祀られ、村人たちから信仰されてきた。
湯滝村には湯玄に花嫁を捧げるという風習ある。湯玄は花嫁から生気を貰い、湯滝村に温泉をもたらすのだ。凪は自ら志願し、花嫁となって湯滝神社へと出向いたが「子供には用がない」と追い返されてしまった。村に戻った凪は「出来損ないの花嫁」と村人たちから後ろ指をさされ、次第に湯玄を恨むようになる。
凪が十七歳になり、美しい青年へと成長した頃、湯玄より「もう一度凪を花嫁として捧げよ」という申し渡しがあった。しかし凪は、湯玄からの申し渡しを受け入れることができずにいる。そんな凪に痺れを切らした湯玄は、椿屋に押しかけてきてしまったのだった。
湯玄が椿屋に来てからというもの、貧乏神、アカシャグマ、商売繁盛の神に五穀豊穣の神……色々な神が椿屋を訪れるようになる。椿屋を訪れる神々は実に個性豊かで、椿屋は次第に以前のような活気を取り戻していく。
はじめのうちは突然椿屋にやってきた湯玄に反発していた凪。しかし、強引に迫ってくるだけではなく、自分を溺愛してくる湯玄に少しずつ心を許し、二人の距離は次第に縮まっていく。
出来損ないの花嫁凪と、温泉の神湯玄。そして八百万の神々が送る温泉宿物語。
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