君を見つけたあの日から

花魁童子

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第一章

デート

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「睡蓮様~、そろそろ俺と共に一夜を過ごそう?」
「いつも過ごしているではないか」
 いつも通りの鈍感さで本当に呆れる。

「睡蓮様って本当に大人?」
「お主、童に喧嘩を売っているのか?売っているのであれば買うぞ」
「喧嘩じゃないけどさ、もっと危機感を持ってよ」
 もし、他の人に襲われでもしたら怖いな。
「そうだ、睡蓮様!」
「なんじゃ」
「この近くに美味しいコロッケ屋さんがあるんだ」
 少し距離はあるが、かすかに香る揚げ物の匂い。
「じゃぁ、今日はコロッケがおかずじゃな」
 睡蓮様は、コロッケのことを教えた俺よりもルンルンな気持ちで舞い上がりながら歩いていた。
「じゃぁ、奢りますよ」
「本当か!綾人よ、ありがとう!」
 満面の笑みに思わず打たれかけた。正気を保つのに精一杯だ。
「なんじゃ、綾人よ!童を押し倒して・・・童はまだ寝ない!」
「違いますよ~」

 睡蓮様の倒れて無防備な耳にそっと近づき、「睡蓮様、愛していますよ」と囁いた。

 耳がリンゴのように赤くなったのがすぐわかり、顔全体を見下ろすと抵抗をしたいのか唇を上歯で噛み、無理やり目を閉じていた。

「何でそんな可愛いの?」
 純粋に聞いてみても帰ってくるのは「知らない」という言葉のみ。

「その前に綾人よ、この体制を何とかせい」
「どうしてー?」
「は、恥ずかしいのじゃ」

 思わぬ言葉に俺が唖然としていると、やっと抵抗を見せた睡蓮様に無意識に強く押さえつけてしまった。

「いたっ」
 睡蓮様が、そう言葉を発するのと同時に我に返り、手を離し「ごめんなさい」と素直に謝った。

 睡蓮様はゆっくりと起き上がり、「お主も強くなったな。童は神じゃ、お主なんていくらでも薙ぎ倒せる」と呑気に話した。

 しかしどうしても認められなくて心の中で否定した。

「もう、睡蓮様は本当にばか!」
 呆れるように言ってゆっくりと睡蓮様と抱擁した。

「な、なんじゃ。綾人よ」
 慌てている睡蓮様は、俺がばかと発したことを気にする余裕はなかったみたいだ。

「もう寝ましょう」
 自分から仕掛けたことなのに、睡蓮様の行動で、一気に恥ずかしさが芽生えた。

 呆気に取られた睡蓮様を一旦無視して、布団をひき、寝る支度を済ませた。

「何しているんですか?早く寝ますよ」
 冷たく話す俺とは裏腹に、あの時の出来事を思い出しては、顔を赤らめる睡蓮様は忙しい。

 襲いたい欲を我慢して、無理やり睡蓮様を自分のベッドに押し入れた。
「おやすみなさい」
「お、おやすみ」



 陽の光が少しだけ開いた障子から差し込む頃、俺は昨日のことを後悔して眠りにつけておらず、目には少し黒くなった隈ができている。

 しかし、後悔と言っても悔しいというよりは自分を恥じているだけ。
「なぜ昨日はあんなことをしたのだろうか」

 そうささやいて睡蓮様が起きたことに気づかないでいると、「おはよう」と背後からゆっくりと耳に到達した。

 慌てて背後を見て、土下座をする俺。
 何で土下座をしたのか起きたばかりで理解しきれていない睡蓮様。

「ど、どうしたんじゃ」
 俺のことを心配してくれる睡蓮様に、「優しい方だな」と呑気に心の中でささやくとは裏腹に、言葉では昨日の件について謝罪していると説明した。

「そんなことは気にしていない」
 優しく、そして落ち着く声で言ってくれた睡蓮様の前で俺は子供のように泣いている。
 睡蓮様からしたら俺は子供と同然。しかし、どうして俺は大人だと勘違いした自分を悔やんだ。

「睡蓮様!」
「な、なんじゃ」
 急に大きな声を出して、叱られるのではないかと勘違いして身構えた睡蓮様。

「愛しています!」
 今の気持ちを素直に伝える俺を呆気に取られて、応答に手間取ってしまったみたいだ。
「急じゃな!?」とツッコミを入れられるのも何度目の話か。
 睡蓮様と出会って毎日告白しているのに、一向に慣れていない様子。

 そこもまた可愛い。
 


 
「睡蓮様!俺とデートしましょう!」
「唐突にお主は何を言っておるのだ」
 睡蓮様は呆気にとられて、俺だけを見つめていた。
「で、デートではなく、お主とはどこかに出かけたいとは思っておったぞ」
「え、俺と!?」
 睡蓮様は時折俺の心を壊したいのか、恥ずかしいことをサラッと言う。
「睡蓮様!この近くにあるデパートに行きましょう!今すぐに!」
「お主、目が怖いぞ。しかも、今すぐは無理じゃ。お主は仮にも童の眷属で神主じゃ。ある程度のことをすれば今日でも行ってよいぞ」
「いいの!!じゃぁ、頑張ってやってきます!」
 綾人は駆け足で掃除用具を両手に持ち、テキパキしていた。そして、睡蓮様と自分の家だからこそ、埃一つ残さず完璧だった。そのため、睡蓮様の綾人への信頼度が下がることは知らなかった。
「お主の掃除の完璧さは童では勝てないな」
 そう軽口を言って睡蓮様は日の光が反射する床に寝そべり、まるで猫のように可愛らしく目をつぶっていた。

「…れんさま…睡蓮様!やっと起きた。もうあらかた終わりましたよ」
「もう、終わったのか」
 目を開けると昼間の光に慣れていない視界がぼやけて瞬きをしている。だんだん慣れて見えたのは可愛い綾人の表情だ。口をフグのように膨らまして、拗ねている。
「何を拗ねている」
「拗ねていない。睡蓮様が起きてくれないから、ただ…」
 また癖が出ている。出会った時も今までもそうだ。すぐ考えていることが表情に出る。
 だからこそ、揶揄うことがやめられない。
「睡蓮様が早く終わらせたら行くって言ったんでしょ~!寝ちゃっていたから焦ったよ」
 しょんぼりしていて涙もろいが負けず嫌いな綾人は泣くのを堪えて涙の雪崩を止めている。
「して、今何時じゃ」
「今は午後一時になりそうなころ」
 話を変えてご機嫌を直してもらうために思ったが、まだ引きずっていて拗ねている。

「いいから、睡蓮様!早く行こう?」
 俺は、上目遣いを使って睡蓮様を攻撃した。
「う、分かった」
 効果抜群だ。

 デパート内に続く入口が開き進むと、外の晴天をかき消すような薄暗い照明が俺らを優しく照らす。
 音楽は活気があり、しかし激しすぎず、ゆっくりすぎない丁度いい曲だ。
 曲選択が神がかっている。と無駄なことを考えていると睡蓮様が俺の手を引っ張って本屋に直行した。
「睡蓮様は本当に本が大好きだよね」
 睡蓮様をいつも観察して分かったことは、人間界の小説や漫画が大好きということ。特にファンタジーと恋愛を嗜んでいる。
 そしていつも本を読んでいる睡蓮様に「本を読むのは楽しい?」など、聞くと
「当たり前!人間世界の本は面白くて見ていて飽きない!」
 そうこの今のと同じ返答が来る。
 睡蓮様が店の境を潜って行きつく先は、少年漫画コーナー。
 ついつい思ってしまうことが「子どもみたいでかわいい」ということ。しかし、そのことを考えても「子どもじゃない」と返ってくる。
 今回も言われてしまった。心の声が聞こえるのはまだ慣れない。
「おぉ!この新作また出たのか!綾人がこの前進めてくれた漫画面白かったぞ!」
 テンションが上がりすぎて、緊張感が全く見られない。本を見て目がキラキラして、喜びが満ち溢れている。
「よかった!睡蓮様なら好むのかなって思ったんだ」
 睡蓮様に渡したのは実は…薔薇の作品。序盤はほのぼの系でもう、癒し!って感じだけど、ネットでは後半が結構アレになるって囁かれている。流石に睡蓮様はネットをやってないからわからないだろうし、主人公、女っぽいけど、よくよく見ると男!
 あぁ、早く全部読んでくれないかな~。
「何を早く読んでくれないかじゃ」
 やべ、睡蓮様は心読めるから迂闊に言葉を発せない。
「そ、その漫画面白いらしいから、最後まで見てくれないかなって思っただけ!」
 慌てて言葉を出したせいで甘噛みをしてしまった。しかし、睡蓮様は、漫画に集中して「ほぉ!」と再び本に目を配った。

 その後は、睡蓮様が選んだ本数冊と俺が欲しかった本二冊を買い、鞄の中に綺麗に並べて昼飯を食べていなかったことにお腹が鳴って気づき、飲食店へ二人で足を向けた。

「「おぉ!睡蓮ではないか!」」
 
 
 飲食店に向かっている最中、背後から幼い声が耳に伝わってきた。二人で振り向くと、小さな二人が仁王立ちをしていた。
 睡蓮様は見覚えがあるようで、目を光らせて言葉を発した。
さちやくじゃないか!」
 俺はこの二人を知らないせいで、睡蓮様が話を進めようとしたので頭が混乱した。
「睡蓮様!さちとやくって誰ですか?」
「幸と厄は運命の神様。幸が幸福で、厄が不幸」
 なるほど。
北命町ほくめいちょう輪廻りんね神社。」
「北命町の神社の神なんですね。」
 てか、俺らの周辺の神様って案外、神社から離れてどこにでもいるのかな。
「綾人よ、正確には人間が作る者に興味があるのじゃ。人間の作ったものは面白いものばかりじゃ。例えば、先ほど童が買った本もじゃ」
「神様って自由人なんだね」
「「僕らは自由人じゃないよ!睡蓮は、自由人だけど…」」
 まるで双子のように声がハモって…てか、双子じゃね?違うのかな、身なり的にも顔つきにも双子っぽい雰囲気を醸し出しているけど。
「「僕らは、元々双子だったよ」」
 元々?神様たちってもしかして兄弟とか作っちゃダメなのかな?
「いや、そういうわけではない綾人よ。ただ、この二人には悲しき思い出があるのじゃ」
 悲しき思い出…睡蓮様がだんまりするということは言えないことなのだろう。
 綾人は聞こうとしていた口を素早く閉じ、口のチャックを閉めた。
「「睡蓮、良いよ、僕らの失態でもあるよ」」
「幸と厄は、本当に優しいのう」
 綾人は黙っているだけのはずなのに、心の中で暗い何かがうごめいた。綾人にとってそのものはなんなのか正体を今は分からない。だが、良くないものだとは長年付き合ってきた体の感覚で分かる。
「「そうだ、睡蓮よ。最近あの件についてどうだ」」
 あの件?
「あぁ、今度その内容の巻物を渡すよ。ところでお主らは何しにこの場へ?」
「眷属がもうすぐ誕生日なんだ。だから何かあげたいね~って僕らで話し合っていたの」
 誕生日かぁ。家族に祝われたことなんて、能力が分かってから一度もなかったな。
「…綾人よ、そういえばお主の誕生日はいつじゃ」
「ん?俺はね、先週だったよ」
「え、…それは本当か?」
 あれ?睡蓮様の顔が曇っていく。
「うん。本当だよ~」
 軽く答えると、今にも泣きそうで俺のことを睨みつけてくる。
「綾人よ!今すぐお主の誕生日の贈り物を見に行くぞ!」
 泣きそうな顔は見る見る崩れていき、かわいい。
「ならば、僕らも一緒に行っても良いか?」
「もちろん良いぞ!」
 活気に満ち溢れた声で答える睡蓮様。そしてすぐさま手をつかみ、幸と厄と共にデパートの店という店をすべて回り歩いた。


 随分回って日が落ちたと感じた頃、幸と厄はお互いに感謝を交わしてその場解散となった。

「綾人よ、なぜそんなに心が荒れているのだ。童が渡した贈り物は気に入らなかったか?」
 睡蓮様が俺に贈ってくれたものは、ペンダントだった。どうしてもお揃いにしたいとねだると、しぶしぶ承諾してくれた。

「お主、いつまでそれを見ておるのじゃ」
「ん~、ずっと!睡蓮様が買ってくれた贈り物だから!」
 綾人は貰ってからずっとペンダントを身に付け、輝き続けているものを眺める。
「睡蓮様!愛していますよ!」
「ありがとう」
 とうとう、体勢が付いてきたのか、揶揄っても照れてない。


「この日々がずっと続けばいいね」
「続くに決まっている。絶対お主がいれば童は嬉しいぞ!」

 日が暮れ月夜の世界。
 縁側で月を眺める二つの影はずっと共にまさに赤い糸で結ばれた存在。しかし繋がり混ざることはまだまだ先のこと。
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