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始まりの章

25.ディジーの決断。

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時間を欲しいと言ってから、ドムさんは少し間を空けながら首を振る。



「ディジー、時間を空ければ解決する問題なのか?何がお前の心を迷わせている?」


そう強い眼差しで問われる。

目線を合わせたら吸い込まれそうで、咄嗟に目を、顔を逸らす。
『私は……ドムさんとディーさんに救われました。たくさんの事を教えて貰って、たくさん迷惑もかけて……』

「あぁ。俺たちがしたくてしたことだな。」

『それは違いますっ!』

「何が違う?こっちを向いて話せ。何を怖がっているんだ?」


怖がる?
怖がっているんだろうか。


………そうなのかもしれない。

私にはこの世界に親も兄姉も、友人や同僚さえいない。
頼れるものはいない。

それに、これまでの常識が一切通じない。普通だと思って行動したことが目立ってしまう。

精霊達と過ごした時にはこんな感情は生まれなかった。
ただ、いつまでも覚めない夢…
悲しくなり、ヒトが恋しくてあそこから出て来た。


ドムさん達と過ごした2週間、楽しかった。

一緒にいた時間は、短いようで長すぎた。まるで家族のように、身近に感じてしまった。
離れたくない、そう思ってしまった。



私の事情に、この魔法の力に、ドムさんが巻き込まれて怪我をしたり、最悪の結末になる可能性だってある。この世界はヒトの生き死にが身近すぎる気がする。

看護師として、人が儚くなるのを何度も経験した。でも、それは病気が相手。
ここでは、年齢なんて関係なく、魔物によって容易に失われていく…。


「何を考えている?言葉に出すんだ。大丈夫。俺が受け止める。何だって受け止めてやる。」

そんなの……


家族がこいしい。
寂しいんだよ、ドムさん。


会いたい、という気持ちとともに哀しくなる。ドムさんの優しさに家族を重ねてしまう。ドムさんを失いたくない…


…っ


「話せ、声に出してくれ。うちに閉じこもるな。」


私のせいで失うくらいなら、どこかで元気にしてくれていた方が…いい。
寂しくても、一人暮らししていた時と一緒のように。

離れて暮らすこの世界の家族のようなもの。


視線を逸らす私に、ドムさんの手が肩に乗る。覗き込むようにして話しかけてくる。


そして、ドムさんの手が私の頬にのび、そっと何かを拭う。

「小さな肩を震わせて、1人で泣かないでくれ…。」

拭ったその手がぐっと握られたかと思うといつの間にかドムさんの暖かい腕の中にいた。

そっと背中をさすられると、私は自分が泣きたかったことに気づいた。
そのまま我慢出来ずに声をはりあげて泣いた。

寂しい。寂しくて涙が止まらない。


ドムさんはずっと  大丈夫だ、俺がそばにいる、そう言って背中をさすり続けてくれた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


泣いたことで落ち着いたら、恥ずかしくなってきた。早く離れないと。

でも、この暖かな腕の中にいたい、とも思ってしまう。それに、目が腫れてるんじゃないかと思うと恐怖だ。

いくら美少女になっていても、泣き腫らした顔なんてきっと化け物だ。

どうしよう。
とりあえず目元を冷やさないと。

ゴソゴソと動く動作にドムさんが気づいたようで少し腕の力が緩まる。

癒しの魔法をかける。すると、ドムさんの腕の力がギュッ強まった。



『ドムさん。すみません、恥ずかしいところを…。もう、大丈夫です。』

身じろぎするが、腕の力は緩まることはない。



『ドムさん?』
「なぁ、ディジー。ディジーは大丈夫って言う時、大抵無理をしていることをわかっているか?何に怯えている?俺じゃ解決出来ないのか?」



………。


人里に行けば見知った顔があって、いつもの日常に戻れるんじゃないかって、どこかで期待していた。


でも、現実はどんどんとここが違う世界なのだと、突きつけてくるようで。

深く考えず、曖昧にして笑って、魔法の楽しさで寂しさや辛さを、家族に会えない恋しさを紛らわせて…


もうここはお前のいた世界ではないのだと、つきつけられるのが怖くて。



夢ではないことを、現実をまだ受け入れたくなかったのかもしれない。
3年で諦めが着いた、そう思っていたけれど…



この街に来て、現実をみて。

自分の魔法の力がみんなと違うと知って。夢の中のような気分から、引きずり出されたように感じた。


この世界での私は異端………なのだと。



今まで平凡な生活を送ってきた。誰かに注目されたり、トップとされるような人達に関わることなんてなかった。

でも、ここにきてギルド長にも手に負えないような扱いになり…


怖くなった。
受け入れて貰えるのだろうか、と。


逃げたくなった。




今までだって、なんとかなった。
3年だ、私はこの世界に馴染むために、夢から覚めるのに、3年もかかってしまった。

それでも、まだ夢だと思いたかったのだろう。もう、逃げることはやめて、現実をみよう。その方がきっといい。







『ドムさん…。私は、寂しい。そして、同時に自分の力が怖い…。
何を自惚れたことを、と思われるかもしれませんが、恐らく私は…世界でも数える程の人しか使えない、そんな魔法が使えます。』

ドムさんはじっと聞いてくれている。

『…常識がないために、きっと驚くことをして目立ってしまう。だから一緒にいると問題に巻き込んでしまうかもしれません。でも、それでも、私はドムさんと一緒にもう少し…過ごしたい。

それに、何か大切なものを奪われるとなったら、私は誰が相手でも我慢できない。ワガママなんです。
何をしてしまうか分かりません。この魔法を使って、きっと何でも出来てしまう。その結果何が起こるか、想像も出来ない。』

………。


『ドムさん、私はあなたの優しさを知ってしまった。温もりを、覚えてしまった。離れたくない、と思ってしまった。頼りたいと、思ってしまった。

それに私は卑怯なんです。きっとこう言えば優しいドムさんは受け入れてくれる、そう知っている。っつ、だから…』

ドムさんが優しい手つきで髪を、頭を撫でる。

「ディジー、俺をお前が見てきたように、俺だってディジーを見てきた。ディジーが笑顔の下に、寂しさを感じてることは分かっていた。俺がその寂しさを埋めてやりたい、そう思っていた。
魔法が凄い?俺だって強いぞ?SSSランクは、化け物だぞ?
白虎というのはな、虎族になる。虎族の獣人は決して多くはない。その上白虎と言うと、今この世界で数人いるかどうかだ。俺は自分の家族以外に会ったことは無い。それくらい珍しい。ディジーより、全然目立つ存在だぞ?
それにな、俺たち白虎にはある掟がある。護ると、決めた人は決して見捨てない。命をかけて守るんだ。勿論心も、だ。そして俺は…ディジーを守りたい。俺こそ迷惑をかけることがあるだろう。珍しいが故に、目立ってしまう。よからぬ輩も寄ってくることがある。でも、必ず俺がディジーを守る。だから、俺こそ一緒にいて欲しい。」

そのあともずっとドムさんの優しい言葉を聞いて、私の心は救われた。
いつまでこの優しい人と一緒に入れるのか分からないけど、分からないことを怖がっても意味が無い。
今を楽しく過ごしたい、そう思えた。元々前向きな性格だったけど、異世界という場で少し心が弱っていたようだ。


ドムさんが支えてくれたこの瞬間は、私をこの先支えてくれるだろう。思い出となっても、忘れずに、大切に生きよう。

そう、心から思えた……

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