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始まりの章

27.嫌いだから仕方ない

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逃げるってどこに?なんで?
さっきの紅い鳥なら飛んでいなくなったし…

???

声をかけてくれた人に聞こうにも、姿が見えない。

???


ピュイーーー、ピュイーーーッ



上から聞こえる音に視線を上げると、屋根を走り去って行くヒトカゲ。

声をかけてくれた人だろうか?
何を聞くべきかも分からないが、聞こうにも既に姿は見えず、見失ってしまった。

そうこうしている間に、道からも人は消え、誰の姿もない。


困った。



…そうだ!いい事考えた!


たーちゃん、高いとこ平気かな??
ふふっ



数分後。

『…何して?!危ないから、早く降りて来いっ!!』
「なんでしょうね。」


降りれたら、とっくに降りてるよ。


………



私は見知らぬ男に下から見上げられるはめに陥っていた。
たーちゃんは、男の横で大きく口を開けてこちらを見ている。


仕方ないじゃない。
飛ぶのが目立つから、屋根に登って見渡せばいいと思ったの。

だって、屋根を走っていく人がいたんだから、私だって出来ると思ったの!
近くに足台になりそうないい木材もあったし、いけるかなって。
一応安全を確保してからたーちゃんは連れていこうと思ってたから、下で待機させたんだけど。

窓の冊子みたいな所に足をかけて、屋根に手が届いたまでは良かったんだけど、その後が問題だった。

思ってた以上に腕力がなかった。

うん。

女の子はか弱くていいよね。
うん。


…屋根にぶら下がる形になったんだけど、この高さから落ちたら、きっと私は足を怪我する。
勿論すぐ治せるんだけど、見知らぬ男が来たから、そう簡単にはいかない…。
痛いのやだし。


出来れば男が立ち去ってから、羽根を出して飛ぶのがベスト。
たーちゃんは、小さいから誤魔化せるはず。
この男はそうはいかないだろう。

うぅ…もう腕が痛くなってきた。。。


だめだ。
もう限界。

本当はもう少しこの世界を知ってからがいいと思ってたけど、仕方ないよね。


羽を出した、その瞬間。

「…ディジー!待てっ」
目を見開いてドムさんがこっちを見てた。


でももう遅い。
私は羽を生やし、ふわっと浮いて屋根に足をつけた。

男は、まさに絶句状態。

たーちゃんは、目をキラキラさせて笑ってる。おぉ、たーちゃん、可愛い。


ドムさんは、すぐに男に向かって何も見てないよなって、詰め寄ってる。

『女神様……』
男はなんか呟いてたけど、こっちをじっと見ていた。心ここに在らずって感じ?
今ならサラッと流せる?

はぁー。って大きなため息。
「ディジー、降りてこい。」

…怒られる…かな?
どうしよう、降りたくない。

「怒らないし、今は危ないんだ。早く来てくれ。」

「……」


ドムさんの目が座ってるように見える。昨日と大違いで怖い…

ウジウジ考えている間にタムって音がしたと思ったら、ドムさんが屋根の上にいて、腕を掴まれていた。


「羽根をしまえ」

って、条件反射でしまってる間にヒョイッて。
ドムさんとあっという間に下にいた。

ドムさんだけ地に足をつけていて、私はドムさんの腕の上。


ぽけっとしてる間にさっきの男に声をかけ、もう片方の腕にたーちゃんを抱えるドムさん。


『あ、あ、あ』

「とにかく、ここからすぐ離脱するぞ。」
そうドムさんは言って、私たちを抱えて走り出す。
さっきの男も慌てて着いてくる。

「切り替えろ。俺は彼女たちを施設に逃がしてから向かう。お前は先に東門へ行け。それから、さっきのことは他言無用だ。いいな?!」

『…はいっ。』

そう言って睨みつけるドムさんに返事する男。
そして、違う方向へと走っていった。

私は自分で走ると言ったが、早急に安全な場所に行きたいと言われてしまう。

どうせ、足遅いよ。運動得意じゃないよ。
でも、魔法を使えばあっという間なんだから!

ちぇっ。


そうして走っていると何かが大きく壊れる音と土煙が舞う。スタッとドムさんがジャンプして近くの屋根に登り、私を腕から降ろす。

「シールドを張れ!」
ドムさんが叫んだと同時にパッとシールドを展開する。

土煙の後に見えたのは、壊れた家々となぎ倒された木、そして…



ヒッ!
蜘蛛だろうか?
赤い目とダラダラと垂れる涎、足の1本が2人分程の太さがある。屋根の上でなお見上げるほどの大きさ。


虫は昔からダメなのだ。ゾッとする。
本能が拒絶する。

蜘蛛がこちらを見定めた瞬間、粘着質そうな糸を飛ばしてきた。
避けたくても動けない。固まる私にたーちゃんを渡し、ドムさんが剣でその糸を切った。しかし、剣に糸が絡みつく。

ゾッとした。

ドムさんと蜘蛛の力比べが始まる、そう思った。

私たちより前に出たドムさんに今シールドが張られていない。

ドムさんの前にもうひとつシールドを展開、すると、シールドに蜘蛛の糸は弾かれた。



赤い目がこちらを捉える。
ヒッ。
まるで私の仕業だと分かっているように。


シールドから変更、すぐさま私はバリアを展開、拡大した。



私を中心に50メートルくらいのイメージ。

バリアに弾かれるように巨大な蜘蛛は押し出されていく。足で踏ん張ろうとするが、ひっくり返りそのまま外壁の向こう側へ。

街の端にいたようだ。外壁があんなに近いとは思わなかった。なんにせよ、アイツはもう居ない。

ドムさんは動かない。

私は涙目でドムさんをみる。
たーちゃんは、私の腕の中で気を失っていた。

「ドムさん…?」

「…あ、あぁ。」何か動揺した様子のドムさん。


こんなことあるのか?シュピネンだぞ???
なんて言っている。
シュピネン?あの蜘蛛の名称だろうか?

なんにせよ、近寄って欲しくない。起きてまた来ようものなら恐ろしい。
もっと遠くに行くようにバリアを広げるべきだろうか?

うん、広げるべきだよね。

自己完結して、いざ広げるために集中しようとすると、ドムさんに肩を掴まれた。

「?」


「…いま、何をしようとしてる?」
と、ちょっと怖い顔したドムさん。肩を掴む手が少し痛い。

「ドムさん??アイツをもっと遠くにって考えてますけど…」

はぁー。
ドムさんが大きな溜息をついて、沈黙する。

そんな間にもアイツが動き出すかもしれない。

ドムさんの相手は取り敢えず後でもよさそう?沈黙してるドムさんが悪いよね、うん。

集中して、バリアを広げる。

ハッとした様子でドムさんが待てって言った気もしたが、もう既にバリアは広がっている。
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