【番外編1完結】騎士リリアム・ガーウィンは、もとより理性を持ち合わせていない

砂山一座

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王子様みたいじゃないですか!

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 騎士棟に戻って、いくらか飲み食いをした後、グリアとリリアムは自分の寝床にたどり着くこともなく、部室で仮眠をとった。ソファと椅子とでそれぞれ泥のように眠る。
 自力で動けない賊を運ぶのに、何往復もすることになり、全員を連行できたのは夜中だった。
  グリアとリリアムは状況の説明のため、帰るわけにもいかない。ユーイン家の捕り物にも参加したリリアムは、へとへとだった。
  先にグッドヘン家に伝令を走らせて、無事の報告だけしてあるが、日が昇ったら改めてグッドヘン家に出向かなければならない。
 
 まだ眠い目をこすりながらシャワー室へ向かい、着替えをして食堂へ向かう。
 騎士棟の食堂は朝食も提供する。忙しい昼と違って早番の料理人がいちいち朝食の好みを聞いてくれる。
 寮にも食堂があるが、そちらはメニューが決まっているので、何人かは騎士棟までやってきて朝食をとっている。
 
 二人で向かい合ってそれぞれの朝食をつついていると、徹夜明けの顔をした部員がグリアの無事を確認しにやってきた。
 部員が徹夜をしたのは別にグリアの身を案じてのことではない。自分の分野の研究を続けていて夜を明かしたに違いない。技術振興部はあくまで横並びの部署なのだ。

「俺だけでは心許ない。ガーウィン、お前も付き合え」

 グリアはグッドヘン家にリリアムも同行させるつもりのようだ。

「嫌ですよ。先輩の家、疲れます。おばさんもお姉さんも、なんだかすごく肩がこる!」

 グリアは機嫌を取るように、自分の皿にあった腸詰を一つ、リリアムの皿に移す。

「叔母もいる。三人を相手に今回のことを説明するのは面倒だ。目くらましが要る」

 リリアムは腸詰を口の中に入れると、グリアの皿にあった付け合わせもつつく。

「叔母さんにも会いましたよ。三人とも、みんな美人ですね。そうだ、ニコラ隊長を連れて行けばいいじゃないですか。幼馴染なのでしょう?」
「俺とニコラで行っても状況はたいしてかわらん。ニコラは結婚したのにと、ぐちぐちと言われるだけだ」

 リリアムはグッドヘン家の堅苦しい雰囲気を思い出して、グリアが実家を嫌がるのが分かる気がした。グリアは結婚もしていないのに孫はまだかと、言われ続けているのだ。

「私が行ったら余計にそういう話をされませんか?」
「されるだろうが――お前、俺が家のことを相談しなかったと怒っていただろう? 自分に頼ればよかったと言っていたと思ったよな。今が頼りどきだな」

 珍しくグリアがしつこく懐柔しようとしてくる。

「それとこれが同じことだとは思いませんね」

 どうにも嫌な予感がする。自分を引っ張り出して、どうするつもりなのだろうかとリリアムは警戒する。

「そうだ、お前、褒美が欲しいと言っていたな。対価は体で払えばいいのか?」

 懇願に近くなってきたグリアの調子に、リリアムは少し心が動く。頼みごとをされるのは好きだ。

「う~ん、そうきたかぁ。私が何につられるかよくご存じですね。胡散臭いですけど、やりましょう!」 

 リリアムはまんざらでもない顔で頷いた。

「それで、グッドヘンの女性方の前で私の武勇伝を語ればいいのですか? それとも寡婦になられた姉君を体でお慰めすればいいので?」

 なんにしても、ご褒美ときいて、貰っておかない手はない。グリアからもたらされるもので、はずれを引いたことは、まだない。

「任務の肩書きは、俺の部下ではなくて、名門ガーウィン家令嬢だ。頼めるか?」
「う……また面倒な役を。私を実家との緩衝材として使うつもりですね。公爵家の御曹司を救出した勇敢な騎士って肩書きがよかったのに」
「すまないが、今回は脱出時に俺に助力した部下という筋書きだ」
「えー? 賊を殴ったのは私なのに! 手柄を独り占めですか?!」

 リリアムはグリア救出と、オルカの関係者捕縛の立役者だ。それなりの栄誉を受けるにふさわしい働きをしている。

「そういうわけではない。ガーウィン教官から、娘がオルカ絡みの関係者をボコボコにしたことは内密にしてくれと言われてな。全て俺が指揮したことになっている。肩を脱臼させたのも俺の指示ということで、お咎め無しだ」
「書類を書かなくていいのはありがたいですけど……」

 グッドヘン家とオルカに関係する者を、格下のガーウィン家が成敗したという話は昇格には良い話だ。しかしながら、ウィリアムが望むガーウィン家の静かな日常からは遠い。グリアの指示だったとすれば、外聞的にも都合がいい。グッドヘン家がオルカの悪行に関係していない証明にもなる。

「お前の活躍は騎士団内では、正しく伝わっている。昇進の為の心証なら心配ない。外向きの話を整えるだけだ」

 元王族のオルカと、元公爵家の婿の話だ、またしばらくざわついた日々になるだろう。あえて騒ぎを大きくする必要がないのは、リリアムも承知している。

「別に今のところ、あんまり昇進に興味ないので。私が活躍したと広まっているなら気分がいいので、それでいいです。昇進するとなったら推薦してくださいよ。それと、もう一本腸詰をください!」

 リリアムには、活躍の場はこれからいくらでもあるという自信がある。今すぐ華やかな話が必要なわけではない。





 打ち合わせの後、一度家に帰って、着替えてから騎士棟に再集合して出発する。
 先に無事を報告してあるので、早く行っても遅く行っても変わらないということになったのだ。

 着替えたリリアムが騎士棟にやってきて、団内は騒ついた。
 メイド服のリリアムを見たことがあった団員も、落ち着いた薄青いドレスを着て、額を出し、ゆるく巻いた優美な髪型に銀のリボンをあしらったリリアムに息を呑んだ。いつもより淡い色の紅が上品だ。
 黙ってグリアを待つだけなら、リリアムの見てくれは完璧だった。
 騎士服から私服に着替えたグリアを貴婦人の礼で迎える姿は、もはや別人の域だ。

「せんぱーい! 少しトウが立ってますけど、王子様みたいじゃないですか!」

 リリアムは立ち上がり、どたどたとグリアに走り寄る。

「その格好でバタバタ動くな。お前の靴で踏まれたら足に穴があく。自分が重いことを自覚しろ」

 リリアムは細く引き締まっているが、体重がある。筋肉は重いのだ。

 グリアがやってきた途端に崩れ去った令嬢らしさをみて、いち早く正気に戻った騎士が、他の騎士に「正気に戻れ、あれはガーウィンだ。お前ら騙されるなよ」と注意を促す。次々と正気に戻った団員たちは、頭を振ったり叩いたりしている。

「そうだ、あれはリリアム・ガーウィンだった。猛毒がどれだけ着飾っても猛毒だ」
 誰もが、厳しい現実にため息をつきながら、それぞれの持ち場に戻っていく。

「なんだその色は?」

 着付けられたドレスは、グリアを意識した色彩に見える。イヤリングやネックレスも石のついていない繊細な銀の細工のものだ。

「父上はまだ、私をグッドヘン家に嫁にやるつもりでいるんですってば。それで私を先輩色に飾ったわけです。嫌だって言ったんですけど、母様を取り込んできたようで、有無を言わさず着せられちゃいました。あからさますぎるからって抗議したんですけどね」

 グリアはリリアムの格好を見て、難しい顔をしている。
 頭の上から足先、回り込んで背中や手袋まで観察された。リリアムも、さすがに居心地が悪くて、更衣室に戻ろうと向きを変える。

「あはは……ダメですよね。やっぱり騎士服で行きますよ」
「いや、馬子にも衣装だ。それでいい。なるほど、逆にそれはいい作戦かもしれんな――少しここで待て」

 グリアは一度騎士寮に戻り、シャツとカフスの色をリリアムに合わせて黒に替えてきた。ますますカップルのような出立ちになり、騎士棟はさらに騒ついた。

「片恋中の上司でも、付き合い前の恋人でも、なんでもいい。関係を聞かれたら、意味深にほのめかせ。刺客を送ってこられないようにする」

 グリアが作戦を告げれば、リリアムが悪い笑顔を作ってにたりと笑う。

「ははぁ、それはなかなかいい思いつきかもしれませんね。グッドヘン家が動かないのなら、こちらもしばらく時間が稼げそうです。でも、引っかかってくれますかねぇ」

 二人とも悪い笑みを浮かべて作戦を話している。屋敷内の地図まで描き出して、側から見て、とても恋愛沙汰の話をしているとは思えない。
 
 夫婦のような出立ちだが、刺客がどうのこうのと言っている。何かの任務のようだから、関わり合いにならないほうがいい――という注意が、居合わせた騎士から騎士棟全体に伝達された。
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