騎士にも色々いる 続

砂山一座

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ナガオの名前はギルド組合員ヒューストン

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  私は昨日から最悪だ。
 でも、元を正せば私が悪かったのだ。
 ずっと居心地の良さに甘えて、その由来を考えもしなかった。
 長年積み重ねてきたものを全て否定されたみたいで、ぺちゃんこだ。

 いまさらロイを異性として意識しろなんていわれたって、何をどうしたらいいのか分からない。
 そりゃ、基本的にロイに何をされても特に嫌だと思うことはない。
 勝手に部屋の掃除をされていても、酔い潰れたのを見兼ねて寝巻きに着替えさせられていても。
 私たちはそうやって長い間側にいたから、今からそれを変に意識しなくてはならないっていうのが、もうモヤっとする。

 何をされても、というというところに偽りはない。
 仮にロイが敵になったとして、ロイの剣で貫かれて死ぬなら、それはそれで構わないと思う。
 とはいえ、殴られたり、蹴られたりじゃない方がいいにきまっている。
 抱きしめられれば嬉しいし、ロイに触れられるのは好きだ。

 長い指に似合う縦長の爪なんかはロイの中でも特に好きだと思う部位だ。
 あれで撫でられると上等な猫にでもなったような気になる。
 その手が何処かで別の女を愛撫したであろう手でも。

 私の中で何かが変わったということはない。
 キスをされれば気持ちいい、というのが追加されただけだ……しかし、あのキスは凄かったな。
 あれが腰が砕けるってやつかー。

 私は別にロイが側にいるのなら何でもよかったのだ。
 ロイの存在が私の持っているものの全てだったから。
 もちろん家族もいるし、仕事もある。
 なけなしの趣味なんかも。
 でもそれは自分のもののようにみえて、そうじゃないのかも、と思うこともある。
 ただ、ロイだけはずっとそばに居た。
 なんの繋がりもないのにそこに居るということが大事で、何かのカテゴリーに入れてしまえば、いつかなくなってしまうんじゃないかとか。
 意識したことはなかったけれど、そんな事を感じていたのかもしれない。

 昨日、全て自分の手の中にあると思っていた物がこぼれ落ちた。
 挙句に恋心が見つからなければ、あの変な騎士に嫁げなんて……考えただけでしんどい。


 ロイが帰ってからは、なんかもう悲しくて泣いてしまった。
 ロイは私とはもう一緒にごはんも食べないそうだ。
 兄のユウキに慰められながら王都に向かう。
「タリィ、お兄ちゃんが、寮までついてってやろうか?」
「いい」
 ベソベソ泣いているうちに王都に帰ってきてしまった。
 明日からどうやって生きていこう。
 こればかりは、兄が付いてきたところで役に立たない。
 ロイはちょっとやそっとでは意見を曲げないだろうし。
「じゃぁ、一緒にごはんたべるか?」
「うん」

 宿舎の側にはギルド直営の食堂がある。
 ギルド関係者は割引で食事が出来るので、ギルド関係者の溜まり場になっている。
 貢献度合いによって割引率は大きく異なる。
 兄は食堂の割引率がいいので一緒に食事をしない選択はない。
 二人で列に並んでメニューを確認する。
「タリィ、定食どっちがいい?」
「鶏肉のほうかな」
「俺は魚のにしようかな」
 頭を寄せ合ってメニューを見ていると、他の客が分かりやすくザワついている。
 私がロイ以外と食事をとることなんて、なかなかお目にかからないので珍しいのだ。

 みなさーん、兄ですよ。

 似てないから説得力はないか。
「タリィ、いいこと思いついた。
 いいかい、これからお兄ちゃんをお兄ちゃんと呼ぶんじゃないぞ。
 ロイに置き土産を作って行ってやろう」
 なんだか分からないが、兄はろくでもないことを思いついたようだ。
 謀略が得意な兄の事だ、乗ったら変な事に巻き込まれるに決まっている。
「やだよ、お兄……んぐ、んぐ……はぁ、やめてよ。
 もう、わかった、わかりましたよ。
 なんて呼べばいいの? ユウキ?」
 途中で手で口を塞がれて遮られたので、なけなしのやる気がごっそり削げた。
 もうどうでもいい。
「ユッキーって呼ぶがいい!」
「キモいよ。
 彼女にそんなふうに呼ばせてるの?」
 兄の彼女は激しい系だ。
 一度会ったことがあるが、なんかこう、一日に聞く量の会話を三分くらいで喋り切ってしまうような人だった。
 言葉を操る魔女がいるとしたらこんな感じだろうな、と思った。
「ユウキ君って呼んでもらってる」
「余計気持ち悪いんですけど」
 身内の惚気を聞くのは精神的に辛い。
 今日は無理。
「じゃあ、無難にユウキ・シアン?」
「シアンはここではまずいだろ、ユウキでいい。
 どうせ家族だし」
「はいはい、ユウキだね。
 恋人ごっこでもやるの?」
「いや、ちょっと実験」
 悪い顔で笑う。
「こういう時に顔が似てないのは便利だな」
「そりゃ、一滴も血を分けてない兄妹だもんね」

 だらだらと話をしながら食事をしていると、また食堂がざわっとする。
 ロイが食堂に来たのだ。
 いつもは私の向かいに座るが、今日はここから真逆の端に座る。
 そこでまた筋肉の塊たちがざわついた。

 そうですよ、ロイはもう私と一緒に食事をしないんだそうですよ。

 ロイはチラリともこちらを見ずに食べ始める。
 あの感じ、意地悪すぎないだろうか?
 あまりの仕打ちに鼻がツンとする。
 人前ではあまり表情がでないほうだが、兄にはわかったのだろう、短くなった髪をわしゃわしゃと撫でられた。
 一瞬ロイから私たちに殺気が飛んだような気がしたが、再びロイを見れば、もう澄ました顔をして黙々と食事を進めている。



 次の日から受難の日々が始まった。
 夕飯を食べに食堂に行くたびに誰かが話しかけてくるのだ。
 昨日は、鞭使いの、名前はなんだったかな……なんか風が吹いてきたみたいな名前だったような……前髪長男(仮)が話しかけてきた。
 ナガオは一緒に仕事をする人員を探しているようだった。
 一人仕事が気が楽なので断ると、今度は昼食を奢ってくれるらしい。
 知らない人とご飯食べるのは疲れるから遠慮すると断れば、甘い菓子は好きかと訊かれる。
 私の食事は冷めていき、疲れだけが残った。

 元々ギルドで仕事する者たちの為の食堂なので、商売っ気があるわけでもなく、夕刻の同じ時間に開いて、深酒させないように閉める。
 ギルド側も次の日の仕事に差し障りがあると困るのだ。
 食堂が開けば皆そこに溜まる。
 ロイだって例外ではない。
 そして私は食べかけの肉の次の一口を、どのタイミングで口に入れていいのかわからずにいる。
 今日は、弓使いの、名前はなんだっけ……灰皿みたいな名前だったような……金髪モジャ男(仮)が話しかけてきている。
 モジャ男は、私の髪が短くなったことについてしつこく聞いてくる。
 乾かなくなってきたから切ったと言ったら、そうだね、涙は乾かないね、と返してくる。
 先日兄がしたように頭に手を伸ばされるかが、水を取りに行くフリをして逃げる。
 ロイから時々飛んでくる殺気を感じないではないが、だからといって助けてくれるわけでもない。
 もう、ここ数日、食堂で何を食べたのか分からない。
 食事に集中させてほしい。

 ぐったりと食堂を出ると、先に食べ終わっていたらしいロイが待ち構えていた。
「お前はいったい何をやってるんだ」
 ロイが私を一人にしているくせに説教とかひどい。
「なにもやってませんよ」
 心当たりがあるとしたら、先日の兄の言っていた置き土産だ。
「毎日毎日、よくも俺の目の前で口説かれやがって」
「仕事に誘われてただけですよ」
「ンなわけあるか。いい加減、自分で露払いしろよ」
「紛らわしくてわからないです」
 それならもっとそ分かりやすく言ってくれれば、もっと違う対応が取れただろうに。
「心配してやってるんだろうが」
 心配しているならこのわけのわからない状態を終わりにしてほしい。
「心配ですか? それとも、嫉妬ですか?」
 そうだ、ロイはもう恋愛脳で行動する人になってしまったんだった。
 ロイが難しい顔をする。
 腕を組み顎を捻る。
「……し、嫉妬か? なるほど、これは嫉妬だな」
「へ?」
 グシャリと頭を撫でられると、何かの期待がせり上がってくるのに、ロイはさっさと手を離してしまう。
「ちょっと待ってろ」
 食堂に戻って行くロイは鬼気迫る気迫をまとっていた。
 恐る恐る覗くと、ロイがさっきの金髪モジャ男のシャツを掴んで吊り上げている。
 うわー、何? ロイ、野蛮。
「何をどう判断したのか知らないが、タリムは以前と変わらず俺のものだ。
 粉かけるつもりなら、俺に断りを入れてからにしろよ。
 アシュレイ組合員、貴様には訓練所の予約を取っておいてやる。
 三時間コースだ。
 胃の中は空にしてこないとキツいぞ」
 ああ、これは、酷いし、惨い。

 王都ギルドの名物訓練士でもあるロイは、「悪魔のトロン」と影で呼ばれている。
 トロンは嘔吐剤の材料になる植物だ。
 ロイの訓練は馬鹿みたいにキツいので、ロイの訓練に当たると、皆一度はキツすぎて吐く。

 そうか、こうやって脅してたのか……。
 今まで誰も私に声をかけてこなかった理由が今繋がった。
 これがわかりやすい嫉妬の表現なのだとすると、私はエライものを世に放ってしまったのではないだろうか。
 申し訳なくて胃が痛い。
 早いこと恋心とやらを探さないとギルドが荒れる……・。

 私はまた一つ頭の痛い現実を知った。
 あと、モジャ男の名前も思い出した。
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