妻とは死別する予定ですので、悪しからず。

砂山一座

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何もない

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 愛を告げられることが、こんなに苦しいことだとは知らなかった。
 
 心の中を探してみたけれど、ダグラスが受け取りたがっている言葉が見つからない。
 
 人の恋慕の情を喜べないのは、なんて浅ましいのだろう。美術でも音楽でも、愛は等しく美しいはずなのに。
 
(あなたはいい人だけど……兄のように思っているけれど……大切な幼馴染だけれど――形ばかりの優しい言葉は浮かんだけれど、不誠実なものばかり)
 
 そんなごまかしも言えないくらい、私の心のどこにもダグラスの居場所がない。
 私の中に巣食った竜は、とぐろを巻いて、ミスティ以外を心から締め出してしまう。
 
 ダグラスにごまかしは言えない。
 せめて泣いて困らせないようにと、高く頭を上げる。

「――私個人では、ダグラスに渡せるものが……何もないわ。本当に何もないの」

 瞬きも出来ずに、ダグラスの目を見て告げる。偽りのない言葉は、ダグラスの心にまっすぐ届くだろうか。

「……そうですか」
 
 ダグラスはいつもと変わらず、微笑むだけだ。
 この微笑みは見慣れたものだけれど、本当はダグラスがどんなことを考えて生きているのか、私は知らない。
 そういえば、ダグラスに興味がないくせに、とミスティに言われて、違うと否定もできなかった。

「ダグラス、私……」
 
 その後に続ける言葉もなくて黙り込む。
 ――私は、ひどい幼馴染だ。

「姫様、そんな顔をなさらないでください。それでいいのですよ。言ったでしょう『好いていた』と。近頃では私の恋は過去のものとなりつつあります。寂しそうなあなたを見て、支えになりたいと思っていたのは事実です。しかし、見守ってきた者として、そういう了見の狭い感情が姫様に芽生えたことは、たいへん喜ばしいことでもあるのです。自分でも驚いているのですが、どうやら私は支える役が私でなくても不満がないらしい」
 
 ダグラスは、そっとユーノを引き寄せる。

「それに、私の心の中も貴女一人に占められていたわけではなかった。姫様を想う心とは別に、ユーノの献身に応えたいと思っていたのも偽らざる心。不誠実だとミスティにも詰られました。竜のような視野の狭いものにはわからないでしょうが、どちらも等しく、大切に思っていたのです」
 
 ミスティに向けての言葉だったが、視野の狭さは私にも当てはまる。
 ダグラスは、少し笑みを歪ませて、ユーノの肩を抱いた。ダグラスとユーノの間には偽物ではない温かな繋がりを感じる。
 
「ユーノ、わかっただろ? 姫様は過去も未来も、私を召し抱えたりはしない。姫様には僕に送る心が何もないのだそうだ。手厳しいな」
「でも……」
「姫様はもう大丈夫なんだよ。心を傾ける先があるとおっしゃっているんだから」
 
 暗にミスティのことを言っているのが分かって、私は声を高くして慌てる。

「そ、そういうわけじゃないのだけれどっ!」
「では、私を心の片隅にも置いていただけないのは、どういった事情なので?」
 
 ダグラスは少し意地悪そうに口の端を上げる。何もかも見透かしたような目は、私よりも視力がよさそうだ。

「私の結婚は国のものだから、自由に恋愛を楽しむようなことはしないっていうだけよ。それだけ」
「そうでしょうか? あなたの心はもうすでに何者かによって占領されていて、私が入り込む場所がないのでは?」
「違うわ。端くれとはいえ、国を担う者が、恋などしても無駄なことよ」

 ミスティとの結婚が政略であることは、ダグラスにばれてしまっている。
 ミスティと恋仲だという芝居も、さっきの喧嘩で嘘だとわかってしまっただろう。
 
「それではユーノが納得しません。どうしてこれだけのやり取りで、私が長年気にかけてきた姫様を諦める気になるのか、ユーノにもかわかるように説明してやってくださいませんか?」

「ええ?」

 わたしの口から、すっかり裏返ったようなおかしな声が出る。

「姫様はあれほど頑なに、ご自分に恋を禁じてきたのに、あの軽薄な竜と分かちがたい絆を築いてしまわれた。そうではないのですか?」
 
 ダグラスはいつもの貴族的な表情をやめてしまって、腕を組んでいる。
 微笑の代わりに、眉の間に皺を寄せて、度し難いものを見る表情で私を見ている。
 
 私はこの瞬間をよく知っている。
 ジェームズが私に敬意をもって接しなくなったのも、ヒースが私を単に婚約者の友人として扱い始めたのも、兆候は仮面のような微笑をやめたときだった。
 
「ダグラス、違うわよ、違うってば! 取り消して!」
 
 自分の心を誰かに言い当てられるなんて、恥ずかしくて生きていけない。
 それに、竜が相手を番だと思うことと、男女の恋が同じものなのか、私はまだ結論を出していない。 
 私は耳まで熱くして、ダグラスに発言を撤回してもらおうと、否定の言葉を繰り返した。

「往生際の悪いことですね。本当にあなた方はそっくりだ。夫婦ではなくて双子のようですよ」
「本当に、違うのよ……やめてよ」
 
 ユーノは私が情けなくからかわれている様子を見て、納得できない様子でダグラスの腕を引く。

「ダグラス、どういうこと? クララベル様とミスティ様の結婚は、国がバロッキーからの利益を得るための政略結婚だって……さっきだって、すごく喧嘩していたわ」
「ああ、姫様とミスティの結婚は国政だ。そう疑っていたし、実際そうだったんだ」
 
 ダグラスは意味深にうなずいて、私の方を見る。

「姫様、ユーノは今後、私の片腕として秘密を共有する相手となります。私はミスティから銅山の詳細も亡命のことも聞いています。姫様がお話にならなければ、私が憶測で、あることないことをユーノに言って聞かせなければなりません。それでもかまいませんか?」
「あることないこと? だ、だめよ! 今日のダグラス、とても意地が悪いわ」
 
 私がミスティに恋をしてしまったとか、誕生日の絵のことも含めて、おもしろおかしく吹き込まれてはたいへんだ。

「姫様は、ミスティとあのような喧嘩をなさるのですね。驚きました。お互いに、ご自覚がないのですか? いや、自覚があるからそうなのか……難儀なことだ」
「やめて、憶測で変なことを言わないで! ちゃんと、私からユーノに説明するから」
 
 私は、これ以上とんでもないことを語られては困ると、自らミスティとの馴れ初めをユーノに語ることにした。
 
「ユーノ、ダグラスの言ったことを信じちゃだめよ。私とミスティは出会った頃から、とても仲が悪かったの。初対面で大喧嘩をするほどよ。ある事件がきっかけで、私たちは便宜上の婚約をしたわ。もともと国の方針として、バロッキーの血をカヤロナ家に引き込むことを望まれていたのだけど、ミスティは亡命するため、私は縁談を妹に譲るため、お互いの利害が一致したの。それに、ほら、仲が悪いから、別れるときに後腐れがなくていいとおもって。外で仲睦まじくしているのは全部演技よ。私もミスティもよくやれているわ。私がダグラスと恋仲でないのと同じように、ミスティと相思相愛って事実もないわ」
 
 嘘はないと思う。少し歯車が狂ってしまっているだけで、今も大枠は間違っていない。

「それでは、ハッサン王子との縁談が嫌でアイリーン様に押し付けたというのは作り話だったのですね」
 
 その話にはいろいろな憶測が飛び交っていた。どの話も、結局のところ私が我儘を通したところだけが残っている。

「別にそう思われててもいいの。事実、妹の初恋の相手と結婚だなんて、アイリーンを泣かせることになるから嫌だったし。誤解されて、かえって都合がいいことだってあるわ。ミスティの美貌を手に入れるために我儘をで婚約したとされた方が、政略結婚に信憑性が増すでしょ?」
「それで、便宜上の結婚を良しとされる方が、ダグラスの心を受け入れられないとおっしゃるのはどういったことで?」
 
 ユーノはなかなか油断ならない。納得するまで許してもらえそうにない。
 ダグラスと関係が無いことを証明するのは難しい。
 だからといって、ミスティへの気持ちが、こうなのだ、と断言できるほど固まってはいない。
 
「え……と、あの、心がというか、もっと具体的な問題で。何と言ったらいいか……私、ミスティ以外の異性に触れられると、どうにも我慢できない不快感に苛まれるようになってしまったの……よ、ね……」
 
 竜になったからだとも言えずに、身に起きていることだけを伝えると、ユーノは眉間に皺を寄せた。

「ですから、それは、どういった理由からですか?」
「どうしてって、ど、どうしてかしらね~ほんと、変よね~」
 
 手のひらを見せて、ほほほほと笑うと、ユーノとダグラスは互いに顔を見合わせる。気が付かれないように溜息をついたの、筒抜けよ。
 
 わかっている。
 そんなのどうしたって、ミスティ以外に心を傾けられなくなってしまったからだ。

「だからね、もし次の夫を持ったとしても、意にそぐわない関係を持つことなんてできないの。分からないけど、もしかしたら死んでしまうかも? そういう意味で、次の夫には何も与えられないってことなのだけど……」
「では、姫様は、そのような状態なのに、ミスティ様が国外に出ることを止めないのですか? 、ミスティ様しか受け入れられないというのに?」
 
 ユーノもダグラスに倣って腕を組み始めた。
 私の立場が、どんどん危うくなってきていないだろうか?

「止めないわ。だって、私、画家であるミスティがとても大切だから。ミスティが望むことならなんでも叶えたいの。ミスティが画家として自由になりたいっていう気持ちは、私が無駄話をする相手がいなくなってつまらないと思う気持ちよりも尊重されることなの」
 
 これだけは何の抵抗もなくするりと口から出た。
 画家であるミスティのことを思うとき、泣き出しそうなほどのあたたかい大きな感情に支配される。
 目の奥にチリリと熱く燃えるような刺激があって、思わず目をつぶった。
 目を開けると、ダグラスはユーノの肩を抱いて、いつもの柔らかな微笑を浮かべていた。
 
「私は姫様を心配していました。それが淡い恋にすり替わってしまったのでしょうね。姫様はいつでも自分を明け渡してばかりで、何を奪われても文句をおっしゃらなかった。本当は、母君が亡くなって距離を置くようになった陛下やレニアス殿下に怒りを感じていたはずなのに。自分はこの国の姫だから仕方がないと言って済ませてしまわれた」
「だって、それは本当に仕方がなかったから……」
 
 今になって思えば、父や兄は私の身に危険が及ばないようにそうしたのかもしれない。それがきっとレトがいつも私の傍にいた本当の理由だ。

「恋もしないとおっしゃって、春が来た者たちを遠くから眺めているばかりだった。ご自分の身に危険が及んでも、王女の立場ばかりを優先して――国が乱れるくらいなら、自分の純潔なんて安いものだとおっしゃったそうですね。ミスティがたいそう腹を立てていましたよ」
「狩りの時のことね。いやだわ、ダグラスまで知っているの? あれは、ただ面倒ごとを避けただけよ」
「そうでしょうか? 今回の騒ぎの原因の一端は姫様です。貴女がそのような方だから、ミスティは心配して、私を頼るようなことをしたのですよ」
「だって……」

 心配されているのは分かる。しかし、国に残り務めを果たす私の未来は、これから世界に羽ばたくミスティには関係のないことだ。ミスティの負担になんかなりたくない。 

「姫様が狩りの騒ぎの後にサンドライン家を次の行き先にすると言った話を聞いて驚きましたし、心配致しました。降嫁するにしても、オリバーはない。それは私もミスティも共通の感想でした」
 
 ダグラスが言うのだからそうなのだ。この騒ぎは、私とミスティがそれぞれに相手を気遣おうとしてしまったことが原因だ。仲の悪いままの私たちには起きなかったすれ違いだ。
 
「私がうっかり立ち聞きしてしまった時に、ミスティ様は、ダグラスの傍に居れば姫様が穏やかに暮らせるだろうとおっしゃっていました。二人とも人の気配がしたのか、すぐに話を止めてしまったけれど……あれは、姫様をサンドライン家に行かせない為の話だったのね。ああ、オリバー様はさすがに……」

 ユーノは不味いものを食べた顔をして頭を横に振る。どうやらユーノもオリバーに良い印象は持っていないようだ。

「う……皆に、心配をかけたことは認めるわ」
 
 うっかりしていた。皆が、それほどまでにオリバーを毛嫌いしているとは思わなかったのだ。
 思いついたときは、すごくいい解決法だと思ったのだけど。

「姫様、私が暴言を吐いてもお許しいただけますか? 私、昔から本当に姫様のことで苦悩するダグラスを見て、苦しんでまいりましたの」
 
 ユーノはすっかり涙が乾いたようで、本来の芯の強さを取り戻した声で私に向き直る。
 
「ごめんなさい。ダグラスを巻き込んで。私をフォレー領に預けようだなんて、馬鹿なことを考えたミスティが悪いのよ」 
「私、姫様がどのようなお立場でいらっしゃるか知っています。公爵家から必要な加護を受けることなく、たったお一人でお城で過ごされているのをダグラスから聞いて育ちました。ダグラスだけを頼りに生きているのだろうと思っていたのです。だからこそ、ダグラスを譲ろうと思ってきました。可哀そうなお姫様なのだからと、我慢してきましたのに、ミスティ様と恋愛結婚だなんて。そんな馬鹿みたいなこと、ダグラスの王女様に限ってありえないと思っていたのに……本当にダグラスのこと、ちっとも好きじゃないなんて……ヘラもびっくりしますわ」
 
 ユーノの咎めるような声に、少し身をすくめる。人から叱られるのは苦手だ。

「ええと、そこまでは言ってないと思うのだけど……」 
「大変失礼なことを申し上げますが、これほど拗れるまで、ご自分の事がお分かりにならない姫様は大馬鹿です。せめて、ちゃんとなさってください。私たちの苦悩が浮かばれません」
「ええっ?!」
「申し訳ないけれど、私もそう思うよ」

 すかさずダグラスも加勢する。大馬鹿だといわれたけれど、の意味が分からないので、ちゃんと説明してほしい。

「姫様はミスティ様のことが大好きで、大切で、そのほかの異性のことは考えられないってことですのよね。それが分かったからダグラスは諦めがついた。そういうことですわよ」
「え……そ……そうなの、かしら?」
 
 だんだん自分に自信がなくなってきた。竜の血に影響されることと、恋が同じものだとしてしまえばいいのだろうか。
 二人で言い含めるようにいうから、そうだといわれればそうなのかもしれないと思えてきてしまう。
 いや、そんなはずはない。こればかりは、納得がいかないことを受け入れていいはずがない。
 
「ち、違うってば! ミスティは……」
「違うとおっしゃるなら、私は安心することはできません。いつか姫様がダグラスを奪いに来るのではないかと、おびえながら暮らすでしょう」

 形のないものをどう表せばいいか分からない。悪魔の証明がこんなに面倒なことだとは思わなかった。

「そんなこと絶対にないったら。まだうまく説明できないけれど、ミスティが特別なのは本当なの。今はまだ……そういう答えじゃダメかしら?」
「納得は致しかねますが、姫様には行動で示していただくことに致しましょう。私、ご命令通りメイドのように姫様にお仕えいたしましたわ。フォレー家の妻に姫様が推してくださる約束はお忘れではありませんね」
「そ、それは、もちろんよ、ユーノ! この領の次代を担うのはユーノ、あなたよ。とっくにダグラスの心はユーノにあるわ。フォレー家の皆が分かっている。あなたほど領のために努力している者はいないわ。今後はダグラスの妻として、フォレー領のために尽くしてちょうだい。あなたたちの絆はかたい。最近、私そういうの、分かってしまうのよ」

 ヘラがダグラスの妻になるのではなくてよかった。久しぶりに自分が演じた我儘姫を思い出して、顔を覆いたい気持ちになる。
 
「……それと、私、常にあんなひどい態度で生活していないのよ。誰が犯人か分からなかったし、ああするしかなかったの。私、本当はあんな我儘姫じゃないんだから」
「存じております。本当に、お人好しで、少し迂闊な……ダグラスが言うような方だったのね」
 
 ダグラスは口元に手をやって、噴き出すのを我慢している。

「ダグラス、私、そんなんじゃないわ!」
「私としても姫様をフォレー家に迎えるのは負担だと思っておりました。国王の命であるなら仕方ないにしても、姫様をお迎えすることはユーノにも苦しい思いをさせるものになるだろうと」
 
 事件を起こしたヘラが、ダグラスの婚約者になることはないだろう。銅山が動き出せば、ゴーシュ家の干渉も少なくなる。ながらく保留されていたフォレー家の婦人候補がユーノに決まることにより、私がフォレー家に嫁ぐ筋書きはなくなるだろう。

「ダグラスの事情もよくわかりました。私、姫様を信用いたします。ダグラスがずっと心を傾けてきた方ですもの。確かに次がオリバー様というのは本当にお可哀そうだし、ミスティ様が必死にどうにかなさろうとされるのも理解できます。ですが、せめて姫様が幸せに暮らして、心配を募らせた者を暴走させないくらいの配慮をお願いしたいのですが」

 ユーノの言うことはもっともだ。
 外向きの行動を億劫がるミスティが、勝手に私の降嫁先まで見繕ってくるとは思わなかった。
 そんなに私の考えに不満があったのだろうか。 

「ごめんなさい。皆を心配させていたのはわかったわ。出来る限り、捨て鉢な結婚はしないと約束するから」
「具体的に、どうなさるおつもりですか?」
 
 ユーノは、ちっともおっとりなんかしていない。人の言葉尻をとらえて追及してくるのは、サリ以上かもしれない。
 
「――考えていたのだけれど、私個人が国にとって役に立つようになるのならどう? 結婚に頼らなくても王族として利用価値が出てくれば、粗末に扱われることは無くなるのではなくて? 今はちょっと明かせないけど、自立の糸口があるの。一人でってわけにはいかないから、バロッキー家に協力してもらうことになるかもしれないけど、どうにかやってみるわ」
 
 ミスティが行動している間、私だって何も考えずにいたわけではない。
 今は自分が竜であるということを明かすことは出来ないが、ミスティが去った後、が芽生えたと公表して、竜の力を国の為に使うことを模索していた。
 芸術家とパトロンをつなぐ事業を起こして、国力の象徴となれば、次の結婚をしないでも城に残ることが許されるかもしれない。そうでなければ、練習すれば少しくらい宝石がさがせるようになったりしないだろうか?
 
「なるほど、そのような計画があるのでしたら、フォレー家は姫様の事業に投資する形で協力することもできるでしょう」
「頼りにしているわ。よろしくね」

 ダグラスは大きく頷いて、いつもより感情のこもった笑みを浮かべた。

「では、今すぐミスティ様と仲直りしていらして。姫様は、まだ熱愛夫婦を演じる必要がございましょう?」
「確かに。まだここで偽装が明るみに出るのは早すぎます。うちの父上や母上の前で喧嘩を続けるわけにはまいりませんね」

 ユーノが言い出したことにダグラスが同意する。すぐに行けとドアの方に導かれて私は慌てた。

 そんなこと言われても、ちっとも心の準備ができていない。

「ええ!? 無理よ、無理! ああいう怒り方をしたミスティ、すっごくしつこいんだから。だいたい、ミスティとダグラスが変なことを計画したのが悪いんじゃない」
「私たちはあなた方の痴話げんかに巻き込まれただけです。我々はヘラのことでまだ色々と後処理がごさいますし。ミスティの世話までは出来かねます」

 私は押し出されるようにドアの外に出た。向こうをレトとフォレー家の執事が歩いてくる。
 私は何の心構えも出来ていないのに、穏やかな顔を作って背を伸ばすしかなかった。
 
(ああ、もう! みんなどうして私のいうことをきいてくれないの? 私、王女なのに!)

 心の中で文句を言いながら、ミスティの待つ部屋へしぶしぶ足を向けた。
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