前世は救国の騎士だが、今世は平民として生きる!はずが囲われてます!?

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それぞれの始まり~テオドール~

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魔法士を志したことはない。
気づけば、目の前にはその道しかなかっただけだ。
だからといって、不幸だとは思っていない。
もちろん、幸福だとも思っていないが。
自分の人生で幸福だと感じたことは何だろうかと考えてみた時に……ルカの笑顔しか思い浮かばない僕は、本当は不幸なのかもしれない。
それでも、出会えないよりずっといい。




魔法士を志す生徒たちと共に講堂に入ると、何か圧のようなものを感じた。
これが、結界のためなのかは分からないが、広いこの講堂の中だけ空気が重い。
講堂の教壇の前にはすでにネラル先生が立たれていた。
慌てて皆、着席する。

「この教室に入って、少し空気が違うと感じた者はいますか?」
その問いかけに、僕を含めた数人が手を上げた。

「今、手を上げた者以外は魔法士に向いていない。この部屋には結界と共に魔力を少しずつ削っていく罠を仕掛けていました。せめて、異変を感じる能力がなければ、この先は難しいです。今、その縛りをなくします」
ネラル先生が詠唱すると、ふっと楽になった。

「魔法士は攻撃魔法、防御魔法を使います。騎士に対して、回復魔法や補助魔法で手助けすることもできる。だからこそ、戦闘において重要な役割をもつ。つまり、一番狙われます。先ほど、ここに仕掛けていたレベルの罠を察知できなければ、戦闘においては一瞬で命を奪われる可能性もある。先ほど手を上げた者たちも、異変を感じながらも、この講堂に入ることを止めた者はいません。その時点で、ここが戦場であれば、全滅です。……もちろん、今日は初日で戦場のような危機意識を持っていなかったでしょう。だから不問にしますが、これから先は授業といえど、気を抜かないように」

……初日でこれなんだ……。
レベルが高いとは聞いていたけど、確かにこの調子で鍛えられるのなら、即戦力になれるんだろうな。
僕も改めて気を引き締めよう。

「えー、初日ですから、まずは回復魔法を。詠唱、できますね?」

ルカ、いなくて良かったな……。
ルカがいたら、知ってて当然の流れで進んでいくネラル先生に「えっ!?」って言いながら焦って教科書をめくり出すんだろう。
そんなルカを想像するだけで、顔がほころぶ。

「魔法は想像力です。そして、適切な詠唱。そこに、魔力をのせる。もちろん、早さも必要ですが、まずは正確さに重きをおきましょう。では、各自、自傷して下さい。もちろん、自分が治せる程度の軽い傷にするように。想像力欠如、詠唱間違いなどあれば、歪に傷跡が残ったりしますから、目立たない所にしましょう。私が見ますから、やる時は挙手するように」

講堂がざわつく。
それはそうだ。
できるかどうかも分からない回復魔法のために、わざわざ自分の体に自分で傷をつけないといけないなんて。
まさか、最初から自分自身を実験台にするとは……。

まぁ、僕はそんなことは慣れているんだけど。

挙手をする。
ざわついていた空気が一気に静まる。
「テオドール、もういいんですか?」
「はい」
「じゃあ、こちらへ」
ネラル先生の前へ進むと、銀の短剣を手渡される。
「好きな所を好きなだけどうぞ」

好きなだけ……試されているんだな。

銀の短剣を右手に持つと、左手の掌にそっとその剣先をあてる。
剣先が掌に食い込み、ちりっとした痛みがあった。
ポタリ、と血の雫が床に落ちる。

どこからか「あれくらいでいいのか。良かった」との声が聞こえる。
その声が聞こえてきた瞬間に、右手に力を込めそのまま掌に突き刺した。

「ひっ」
誰かが小さく悲鳴をあげる。
僕の左手の掌は銀の短剣が貫通し、ボタボタと血が流れ出ている。
歯を食いしばり、右手にまた力を込め、その貫通した剣を引き抜き、その剣を捨てる。
左手は血に濡れ、もう傷口も判別できない。
僕は痛みで感覚のない左手に右手をかざし、浅く呼吸をしながら、回復魔法の詠唱をする。
徐々に痛みと共に、体の内からも魔力が失われていく感覚がある。

浅い呼吸を少しずつ戻し、左手を見ると、完全に回復していた。
「お見事」
ネラル先生は、満足げに微笑んでいた。

「テオドール、なかなか見た目に反し、過激ですね?初日からここまで大胆に自傷した生徒は初めてです。傷口の回復も問題ない。褒めるべきは、血液もすべて戻した所」
「ありがとうございます」
「なかなかの回復魔法の使い手になれそうです。ですが、問題点は自分の魔力量を過信してはいけないことです。流れた血液をすべて戻すのはかなりの集中力と魔力を必要とします。時と場合により、失血死しないのであれば、傷口の回復のみに注力する必要もあります。まぁ、今回は正しい選択だったと言えますよ」

及第点、ではあったか。
ホッとし、元の席に下がろうとすると、ネラル先生の口角が上がる。

「あぁ、全てではなかったようですね。拭いておいて下さいよ?」

どういうことだ?
疑問に思い、先生の視線の先を見ると、血の雫の跡が床に残されていた。
最初の……!
自分の意識は突き刺した後にあり、その一滴は失念していた。

……まだまだだ。

「失礼しました」
そっと、その雫を拭い、席に戻った。
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