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救出へ~バーン視点~
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林の前に建つ、決して華奢ではないが、どこか厳かな雰囲気のある館。
それは、屋根も外壁も、見える範囲すべてが白や白銀で統一されているからかもしれない。
家令のクレインから渡された地図に付けられた印の中で、寄宿学校から一番近いのがこの建物だった。
一見、貴族の所有する館のような、目を引く大きな建物。
周囲には林が広がるばかりで、民家などもない。
その林の一部に身を潜め、その建物を伺う。
周囲にはこの建物しかないにも関わらず、目の前の道は美しく補整されている。
頻繁に馬車が行き交うのだろう。
今現在も、その建物の前に豪華な馬車が停めてあり、従者らしき者が馬に水を与えていた。
この中に、貴族、もしくは匹敵するほどの裕福な者がいるのは間違いなく、そいつが聖教の関係者である白装束の男にルカを拐かすように依頼したのだと推察できる。
地図には他にも数ヶ所印が付いていたが、そこまで遠くに転移はしていないだろうと近くから調べることにしたが、当たりを引いたようだ。
このまま踏み込んで、その依頼者を捕らえようか……。
しかし、建物は大きい。
特に人の気配はなく、周辺に見張りもいないが、内部は分からない。
あの白装束の男は間違いなくいる。
拐う時の手際を見ても、かなりの使い手だろう。
闇雲に乗り込み、自分が捕まってしまえば、ルカとテオドールを助けるどころかむしろ新しい枷となってしまう。
館は何か結界のようなものがはってあるのか、魔力量を探知することもできない。
魔法を使うことができない場所では、テオドールがルカの救出をすることは難しいだろう。
二人とも拘束されている可能性もある。
私は体術も自信があるが、あの白装束の男レベルの使い手が何人もいるのであれば、太刀打ちできない。
どう、動くのが正しいのか……。
自分には圧倒的に経験値が足りない。
一度戻り、シュラ先生に指示を仰いだ方が……。
脳裏に、血に濡れたルカの姿が浮かぶ。
ダメだ、今、この中でルカが、テオドールが、どんな目に遭っているか分からない。
一刻を争う状況かもしれない。
自分の信条を曲げ、父から情報を得た。
これでルカを救出できなければ、ますます母上に申し訳が立たない。
自分の命に換えても……自然とそんな気持ちが湧く。
こんな状況の中、自分の変貌ぶりに思わず苦笑した。
二人を助けるのだ。
自分の最善を尽くせ!
正面突破は得策ではない。
まずは裏手に回り、どこか侵入できる場所を……とその場を動こうとした時に、馬に水を与え終え、休憩をしていた従者が慌てて動き出す。
見ると、建物の中から着飾った女性と男性が連れだって出てくる。
この二人がルカを?
少し離れた場所で目を凝らすも、特に見覚えはない。
高位の貴族であれば、見覚えがあってもよさそうだが……。
二人はそのままその馬車へ乗り込み、走り去る。
どうする?
ルカもテオドールもあの馬車に乗せられてはいない。
あの馬車を襲撃し、どちらかを捕獲し、人質として館に乗り込むか?
だが、あの二人が依頼者だという確証もない。
確証もない相手に対し、非道な行いはできない。
あの二人の顔は覚えた。
念のため、馬車の車体底へ魔法の印を刻む。
いざという時は、これで追跡もできる。
やはり、裏手に回ろう。
林間を移動し、館の裏手に回る。
館からは相変わらず何の音も、人の気配もしない。
裏手にも、警護の人員はおらず、館に近づくのは容易そうだ。
見渡し、やはり見張りもいないと確信し、館の敷地に侵入する。
建物に近づき侵入経路を探していると、人が入れそうな大きめの窓を見つけた。
しかし、結界のせいか魔法が使えないため侵入が難しい。
窓を割ると音が鳴る。
上手く建て付けを外せないかと窓枠に手を掛けると、容易に外すことができた。
外す時に少し音が鳴り、人が現れるのを警戒したが、人の動く気配はなかった。
外した窓枠をそっと地に起き、そのまま窓枠に手と足を掛け、室内に侵入する。
室内はこれといった特徴のある部屋ではなかった。
華美でもなく、どちらかといえば質素な佇まいで、椅子とテーブル、一人用の寝台が配置されていた。
相変わらず、人の気配も音もしない。
……まさか、罠か?
こんなに簡単に侵入できるとは思っていなかった。
ルーツ寄宿学校から生徒一人を拉致したんだぞ?
目撃者をそのままにしていることから、すぐにではないにしろ、いずれは知れると分かっていたはず。
それなのに、あまりにも容易に侵入を許している。
いや、罠ならば、あの貴族風の二人を拘束して乗り込んでくることを想定しないか?
あの二人も顔を晒していた。
協力するにしても、仮面でも着けるなどできたはず。
もしくは、裏手から侵入するのを想定していたとしても、入った瞬間に捕らえる罠を仕掛けておけば……。
そこまで考えて、はたと気づく。
侵入を、想定していない?
ここはただの聖教の支部で、先ほどの二人もただの信者。
見張りも警護も必要ない。
ここに、二人は、いない。
一気に血の気が引く。
私は、思い違いをしていた!
寄宿学校から近く、父上からあの白装束の男に依頼した貴族がいるだろうと聞かされて、あの馬車を見た時にすべてが結びつき、間違いなくこの館だと思い込んでしまった。
無駄な時間を!
この間にも、苦しんでいるかもしれないというのに!
早くこの館から出て、別の場所に転移しようと踵を返した瞬間に、今まで物音一つしなかった館の中から、人の気配を感じた。
ここで、見つかる訳にはいかない。
身動きせず、気配を消す。
少しずつ、足音が近づいてくる。
扉に手をかける音。
見つかる!
侵入が見つかり、騒がれる前に気絶させるしかない。
「そこに、誰かいるのだろう?」
扉を開け、現れた人物が一歩中に踏み込んだ瞬間に背後に素早く回り込む。
気絶させるべく握った拳を、目の前に現れた銀糸の髪にはっと一瞬気をとられたと同時に払われる。
「乱暴せずともよい。誰も呼ばぬ」
素早く飛び退き、距離をとる。
目の前には、白銀の長い髪をもち、天色の瞳、銀糸に彩られた真っ白な長衣を身につけた男がたおやかに立っていた。
「救国の騎士、ルカ……?」
それは、屋根も外壁も、見える範囲すべてが白や白銀で統一されているからかもしれない。
家令のクレインから渡された地図に付けられた印の中で、寄宿学校から一番近いのがこの建物だった。
一見、貴族の所有する館のような、目を引く大きな建物。
周囲には林が広がるばかりで、民家などもない。
その林の一部に身を潜め、その建物を伺う。
周囲にはこの建物しかないにも関わらず、目の前の道は美しく補整されている。
頻繁に馬車が行き交うのだろう。
今現在も、その建物の前に豪華な馬車が停めてあり、従者らしき者が馬に水を与えていた。
この中に、貴族、もしくは匹敵するほどの裕福な者がいるのは間違いなく、そいつが聖教の関係者である白装束の男にルカを拐かすように依頼したのだと推察できる。
地図には他にも数ヶ所印が付いていたが、そこまで遠くに転移はしていないだろうと近くから調べることにしたが、当たりを引いたようだ。
このまま踏み込んで、その依頼者を捕らえようか……。
しかし、建物は大きい。
特に人の気配はなく、周辺に見張りもいないが、内部は分からない。
あの白装束の男は間違いなくいる。
拐う時の手際を見ても、かなりの使い手だろう。
闇雲に乗り込み、自分が捕まってしまえば、ルカとテオドールを助けるどころかむしろ新しい枷となってしまう。
館は何か結界のようなものがはってあるのか、魔力量を探知することもできない。
魔法を使うことができない場所では、テオドールがルカの救出をすることは難しいだろう。
二人とも拘束されている可能性もある。
私は体術も自信があるが、あの白装束の男レベルの使い手が何人もいるのであれば、太刀打ちできない。
どう、動くのが正しいのか……。
自分には圧倒的に経験値が足りない。
一度戻り、シュラ先生に指示を仰いだ方が……。
脳裏に、血に濡れたルカの姿が浮かぶ。
ダメだ、今、この中でルカが、テオドールが、どんな目に遭っているか分からない。
一刻を争う状況かもしれない。
自分の信条を曲げ、父から情報を得た。
これでルカを救出できなければ、ますます母上に申し訳が立たない。
自分の命に換えても……自然とそんな気持ちが湧く。
こんな状況の中、自分の変貌ぶりに思わず苦笑した。
二人を助けるのだ。
自分の最善を尽くせ!
正面突破は得策ではない。
まずは裏手に回り、どこか侵入できる場所を……とその場を動こうとした時に、馬に水を与え終え、休憩をしていた従者が慌てて動き出す。
見ると、建物の中から着飾った女性と男性が連れだって出てくる。
この二人がルカを?
少し離れた場所で目を凝らすも、特に見覚えはない。
高位の貴族であれば、見覚えがあってもよさそうだが……。
二人はそのままその馬車へ乗り込み、走り去る。
どうする?
ルカもテオドールもあの馬車に乗せられてはいない。
あの馬車を襲撃し、どちらかを捕獲し、人質として館に乗り込むか?
だが、あの二人が依頼者だという確証もない。
確証もない相手に対し、非道な行いはできない。
あの二人の顔は覚えた。
念のため、馬車の車体底へ魔法の印を刻む。
いざという時は、これで追跡もできる。
やはり、裏手に回ろう。
林間を移動し、館の裏手に回る。
館からは相変わらず何の音も、人の気配もしない。
裏手にも、警護の人員はおらず、館に近づくのは容易そうだ。
見渡し、やはり見張りもいないと確信し、館の敷地に侵入する。
建物に近づき侵入経路を探していると、人が入れそうな大きめの窓を見つけた。
しかし、結界のせいか魔法が使えないため侵入が難しい。
窓を割ると音が鳴る。
上手く建て付けを外せないかと窓枠に手を掛けると、容易に外すことができた。
外す時に少し音が鳴り、人が現れるのを警戒したが、人の動く気配はなかった。
外した窓枠をそっと地に起き、そのまま窓枠に手と足を掛け、室内に侵入する。
室内はこれといった特徴のある部屋ではなかった。
華美でもなく、どちらかといえば質素な佇まいで、椅子とテーブル、一人用の寝台が配置されていた。
相変わらず、人の気配も音もしない。
……まさか、罠か?
こんなに簡単に侵入できるとは思っていなかった。
ルーツ寄宿学校から生徒一人を拉致したんだぞ?
目撃者をそのままにしていることから、すぐにではないにしろ、いずれは知れると分かっていたはず。
それなのに、あまりにも容易に侵入を許している。
いや、罠ならば、あの貴族風の二人を拘束して乗り込んでくることを想定しないか?
あの二人も顔を晒していた。
協力するにしても、仮面でも着けるなどできたはず。
もしくは、裏手から侵入するのを想定していたとしても、入った瞬間に捕らえる罠を仕掛けておけば……。
そこまで考えて、はたと気づく。
侵入を、想定していない?
ここはただの聖教の支部で、先ほどの二人もただの信者。
見張りも警護も必要ない。
ここに、二人は、いない。
一気に血の気が引く。
私は、思い違いをしていた!
寄宿学校から近く、父上からあの白装束の男に依頼した貴族がいるだろうと聞かされて、あの馬車を見た時にすべてが結びつき、間違いなくこの館だと思い込んでしまった。
無駄な時間を!
この間にも、苦しんでいるかもしれないというのに!
早くこの館から出て、別の場所に転移しようと踵を返した瞬間に、今まで物音一つしなかった館の中から、人の気配を感じた。
ここで、見つかる訳にはいかない。
身動きせず、気配を消す。
少しずつ、足音が近づいてくる。
扉に手をかける音。
見つかる!
侵入が見つかり、騒がれる前に気絶させるしかない。
「そこに、誰かいるのだろう?」
扉を開け、現れた人物が一歩中に踏み込んだ瞬間に背後に素早く回り込む。
気絶させるべく握った拳を、目の前に現れた銀糸の髪にはっと一瞬気をとられたと同時に払われる。
「乱暴せずともよい。誰も呼ばぬ」
素早く飛び退き、距離をとる。
目の前には、白銀の長い髪をもち、天色の瞳、銀糸に彩られた真っ白な長衣を身につけた男がたおやかに立っていた。
「救国の騎士、ルカ……?」
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