前世は救国の騎士だが、今世は平民として生きる!はずが囲われてます!?

文字の大きさ
135 / 146

失われた記憶~バーン視点~

しおりを挟む
アクラム大神官……この聖堂に向かう途中に目を通した、クレインに渡された資料を思い出す。
この聖教における最高位の神官であり、すべての権限を掌握している人物。
神の代理人とも白の王とも呼ばれ、信徒からは信仰の象徴ともされている。
眼前にしたアクラム大神官は、腰までのびた長い銀糸の髪、天色の瞳、身に纏っている白銀の衣服でほぼ全身が覆われているものの、僅かに露出したその手足や顔は透き通るような白い肌であり、そのかんばせ怜悧れいりな印象を受けつつも、あまりに整っており、まるでお伽噺に出てくる精霊のようなそのお姿は、伝聞していた救国の騎士そのままだった。
信徒から信仰の象徴とされていることも頷ける。
聖教を信仰していない私ですら、神々しく感じた。

そのお姿に一瞬気を取られたが、倪下げいかを前に片膝をつき、頭を垂れお言葉を待つ。

……思わず救国の騎士の名を口に出してしまったが不敬ではなかっただろうか?
倪下の名を当然知っていたというのに、違えたこと。
また、この聖教の神である救国の騎士の名を安易に口にしたこと。
どちらにせよ、倪下が不敬だと思われ、私を遠ざけようとされた時点で今回の訪問自体が無意味に終わる。

父上から代理の任を賜ったというのに……私は何という失態を……。
倪下の前で片膝を付き、頭を垂れた状態でくっと唇を噛む。

「ふふ。此度こたびも同じことを言う。前も言っただろう?ルカは私などよりも美しいと」

……前?
倪下と何処かでお会いしたことが?
……いや、このようなお方にお会いして忘れるはずがない。
しかし、倪下のお言葉を否定することはできない。
私と似たような者と間違えておられるのだろうか?

「そう仰々しくしなくてもよい。ここは聖堂。神の元には皆平等であろう?私のことを知らなかったあの時のようにしろ。……まぁ、それは無理というものか。だが、お前とはいろいろと話がしたい。……まずは形式を済ませよう。面をあげ、その場に立位せよ」
倪下のお言葉を受け、顔をあげ、その場に立ち、右腕を胸元の前にあてる。
しっかりと視界に捉えた倪下は、あの豪奢な椅子に腰かけられていた。
しっとりと足を組み、こちらを睥睨へいげいする。
「発言を許す」
倪下のお言葉を受け、軽く頭を垂れた。
「この度は謁見の許可を頂き、恐悦至極に存じます。オルレラ公爵家の者として聖教に帰依致したく、倪下の指示を仰ぐために参りました」
決められた台詞を述べ、倪下の返答を黙して待つ。
「……許す」
瞳を閉じ緊張感のあまり身を固くしていたが、荘厳な響きを持ったその一言を頂き、ふっと力が抜けた。
良かった……!
とりあえず、第一段階として役割は果たせたようだ。

「倪下」
倪下の背後から神官が音もなく現れる。
「こちら、オルレラ公爵の書簡と寄付の一覧です」
神官は倪下に書簡と寄付について記入された紙を手渡すと、また消えるように背後に下がり、姿も気配すらもなくなった。
倪下は手渡された父上からの書簡と紙に目を通すと、少し目を見開かれた後、微笑む。
「さすが。今までの貴族達すべての寄付を集めても、エルンスト一人に及ばない。相変わらず、だな。しかし、聖教に帰依ね……何を考えているのか。何も信じていないくせに。……まぁ、いい。面白くなってきた」
先程までの雰囲気とは打って変わって少しくだけた声音になった猊下は視線を背後に向ける。

「……さぁ、人払いは済ませた。ここからは普通に話そう」
視線をこちらに戻すとにこりと微笑まれる。
先ほどの視線は人払いのためか。
普通に話そう、と言われてもな。
特に猊下と話すこともないのだが……。

「その後、友とはどうだ?」
「友、ですか?」
やはり、私を別の人物と間違えているのだろうか?
「ココにエルンストの命で暫くは滞在するのだろう?お前の友は寄宿学校にいるのだろうから離れるな……寂しかろう?終局を迎えるその日まで、もうあまり時間がない。大切な者と過ごした方がお前も幸せだろうに、エルンストも酷なことをする」
倪下は気だるげに椅子にもたれ掛かると憐憫の目を私に向ける。

どういうことだろう?
倪下のお言葉の意味が分からない。
寄宿学校と言われていたが、やはり私のことなのだろうか?
寄宿学校の、友。
そのような者……いただろうか。
知りもしない貴族の子息達はすり寄ってきていたが、当然友と呼べる相手ではなく、既知であったのはテオドールくらいだが、あれともそこまで親しくしていた訳ではない。
しかも、その存在をなぜ倪下が?
それに、終局を迎える日、とは?
聖教の教義にそのようなことは記載されていなかったが。
不穏な響きが、混乱を加速させる。

「どうした?そのような顔をして」
つい、顔に出てしまったようだ。
使者として未熟ではあるが、困惑したまま会話を続ける技量が自分にはまだない。
「恐れながら、倪下。どなたかとお間違えでは?私は倪下とお会いするのは初めてです。友の話も……」
倪下の間違いを指摘するのは悪手かもしれないが、そうしなければ話を続けられない。
「ん?隠さずとも私邸に侵入したのがオルレラ公爵家の者だということは会う前から分かっていたぞ?それを咎めるつもりもない。そもそもお前や友のような少年に対して無体を働くのは私の本意ではない。私はお前と友の話が聞きたいだけだ」

なっ……。
倪下のお言葉を聞き、驚愕する。
倪下の私邸に侵入?私が!?
オルレラ公爵家の者として、律して生きてきた私がそのような真似をするはずがない!
倪下のお言葉を聞く前には失った記憶の中で倪下にお会いしていたのか?と一瞬頭をよぎったが、それは私ではないと断言できる。
「倪下!それは私ではありません!」
力強く宣言した私に、倪下は胡乱な目を向ける。
「異なことを言う。記憶違いをするほど時は経っていないぞ?それに私の何もない日常に波風が経ったのは久方ぶりで鮮明に覚えている。咎めぬと言っているのに、なぜそのように否定する?」
「……っ」
どういうことだ!?
本当に私が?
そんなはずは……。
身体が小刻みに震える。
混乱しすぎて、無様な醜態を晒さないように保つのがやっとのことで、倪下に返答することができない。
私のあからさまな動揺を見て、さすがに倪下もいぶかしむ。
「お前は双子でもいるのか?そのような報告はないが。この短期間に記憶でも失うようなことでもあったか?」
倪下のそのお言葉にはっと顔をあげる。
「恐れながら……」
あまりに現状を把握することができず、倪下にお聞かせする話ではないと思いつつも、服毒による記憶障害があることをお伝えする。
「ふぅん」
「しかしっ、たとえ記憶にはないとしても、私が倪下の私邸に侵入するなどとっ!……私は、オルレラ公爵家としての自分の立場を理解しています。その私が……倪下の思い違いではないですか?そんなはずはっ……」
「それほどの相手だったのだろう?その友が。お前がオルレラ公爵家としての立場を賭けても良いと思えるほどの」
倪下の涼やかな声音が頭の中に響く。

そんな相手……?
私が自分の全てを賭けるような相手……?
……思い、出せない。

自分の中に、空洞を感じた。
何か、私の中の多くを占めていた何かを失った感覚。
寄宿学校のことがあれほど頭をよぎるのはそのためだろうか?
この私に、そんな相手が……。
どんな人、なのだろう……?
父上の命を終えたら、寄宿学校に行ってみよう。
そう思うだけで、ほんのり心が灯った。

「お前からその友の話を聞きたかったのだがな。……まぁ、いい。いつか、聞かせてくれ。そのような相手のことは忘れたくても忘れられない」
倪下は少し瞳を伏せられる。
……倪下にもそのような方がいるのだろうか?
しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

処理中です...