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思っていたよりとろあま溺愛新婚生活
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時はいまだ天津神――天上(高天原)で生まれ、天上で暮らしてきた神――と、国津神――地上(葦原中国)で生まれ、地上で暮らしてきた神――とがいわば別々の民族として、天と地、それぞれがそれぞれを一個の「国」としていた頃……天は天照大御神が、地は大国主神がそれぞれ治められていた。
しかしあるときアマテラス様は、地上もまたご自身の子孫が統治するべきだ、とお考えになられた。
つまり彼女は天と地の王権の統一を志されたのである。
それでご自身の子神・正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命を天降らせようとした…――ものの、この方は実際に降りる前に地上を眺めおろし、そのひどい荒みようを見ては、『お母さま、僕、あんな危ないところに降りたくない』と母に申し上げた。
一応地上はオオクニヌシのおじさんが少彦名命――スクナヒコナのおじさんと平定したのち治めてはいたものの、そこはいまだ、粗暴な危険な神々(反乱因子)がはびこるままになっていたのである。
ためにアマテラス様は天の神々をあつめて相談し、二柱の神を降ろしてはなんとかしようと試みた――が、その一柱・天菩比神はオオクニヌシのおじさんにおもね入り、では二柱目の天若日子はというと、オオクニヌシのおじさんの娘と結婚し、その妻とのんべんだらりしあわせに暮らしながら、ゆくゆくは自分が地上を治めてやろうだなんて目論みやがり…――すなわち、いずれの神もアマテラス様を裏切った。
ちなみに余談だが、それはアマテラス様に君主としての信望がなかったわけではなく、むしろ十二分なほどそれはあったのだが、しかしオオクニヌシのおじさんが彼女のそれをさえ上回るほど、ある種魔性のレベルで「人(神)たらし」だっただけなのである(ついでにおじさんは女たらしでもあるのだが)。
ところが彼女は二度も裏切られたために、そのときあやうく自信を失いかけたばかりか人間不信…ならぬ神不信になりかけて胃を傷め、この頃はつねに土気色の顔をし、胃薬を常飲…――。
『えー…では次に誰を派遣…、…ていうかいる…? 我を裏切らない神とか本当にいる…? 正直いないのではないか…? いやもういないよ多分、なあ……我はもう誰を信じたらよいのだ…、…もう誰も信じられない…っ』
と…いった情緒不安定状態であったそうだ。実は。
しかし三度目の正直で、やっとアマテラス様を「裏切らない神」があらわれる。
そう…その神こそが、僕たちの祖父・建御雷神――そして経津主神、その二神であった。
というのも、その二度の失敗(裏切り)を経てのち、再びどうしようかと(神不信状態の)アマテラス様が神々に相談したところ――神々の口に、タケミカヅチの爺を推薦する声があがったのだ。
もっとも厳密にいえばタケミカヅチそのひとは二の次で、稜威尾羽張神というタケ爺の父親(僕らの曽祖父)はどうか、それで駄目ならばその息子のタケ爺がよかろう、という感じだったらしい。――そしてその親子神のもとへ使者をつかわせて応否をうかがったところ、僕らの曽祖父は『謹んで我らが君主にお仕え申す。しかし此度の御役目は是非、某の愚息に御一任願えれば幸いでござる。』と返答し、そうして若きころのタケ爺はその地上への派遣を任せられることとなった。
しかしちょうどそのころ、地上の邪神はびこるすさまじい荒れよう、そして聡明かつ「人(神)たらし」のオオクニヌシのおじさんのうまいやり口をかんがみれば、タケ爺のみでは平定も心許ないように思われた高皇産霊尊は、アマテラス様のもよおした会議とはまた別個に神々を集め――その会議の場で「地上遠征の将軍(リーダー)は誰が適任か」という話し合いをされていた。
「皆、誰が適任と思うか」
と真剣な顔をされてその場に集まった神々を見わたしたタカミムスヒ様は、…ちなみに線の細い中性的な、若い男神の姿をされている。――というのも、彼と神皇産霊尊は僕と同様両性具有の神であり、容貌や役割的には、タカミムスヒ様が男神寄りであり、カミムスヒ様が女神寄りではあるものの、(一応両性具有ではあっても正真正銘男神である僕とは違って、)その二柱には厳密には「性別」というものはないのだそうだ。
さて、…するとある神がタカミムスヒ様にこう進言した。
「高皇産霊様、この度の遠征の将軍には、かの豪傑・経津主神などいかがでございましょう」
「あぁ、あの磐筒男・磐筒女夫妻のところの子か…」
「左様にございます。あの聡明かつ勇ましい神であれば、まさに将軍に相応しく……」
「よおよおよお!」――しかし、そこに大声で割って入ってきた二メートル超の大男がある。
その男神は、大きな無骨な片手ににぎる大剣を肩にのせ――またその筋骨隆々とした肉厚な全身には、赤と黒の着くずした甲冑をまとっている――ズカズカと大きな、豪胆な足どりであらわれた。
なかなかの美丈夫である。
よく焼けた小麦色の肌に、彫りの深い勇ましい顔立ち――エラが張って角ばった、さらに頬はややこけている男らしい輪郭をもっている――、太い直線的な眉は眉尻がつり上がったいわば逆八の字、またその眉尻は鋭利にふたつに割れ、そしてその黒い太眉と大きな二重のツリ目との距離はかなり近い。気迫のある瞳の色はくすんだ緑である。眉間には常に不満げなしわが寄っている。
その男神の黒いもみあげは角ばった顎のつけ根まで伸びているが、髭はない。こまかく波うつボリューミーな黒髪をポニーテールにしている。――獣のように口が大きい。またその口は頑固そうにほとんど横一線となっているが、その口角はやや下がっている。
「あの感じの良い鹿に、ワシのような益荒男にしか地上の荒くれ者共を蹴散らせぬと言われて来てみりゃあ、何じゃあ! 誰だか知らんが、このワシ建御雷神よりもその男神のほうが益荒男だってんか!!」
そう……突然粛々とした会議に割って入ってきたかと思えば、そう血走った目を見開き、獰猛そうな犬歯もむき出しに雷鳴のごとき大声で怒鳴った――この不遜なほど自信に満ちあふれた猛者こそ、若き頃のタケミカヅチノカミそのひとであった。
ちなみに「あの鹿」というのは、アマテラス様からの依頼で――他の神では到底たどり着くのも困難な天の安川の川上、それもその川の水を逆さに激しく流れる滝のように噴き上げさせて、住まう岩屋への道を閉ざしていた――イツノオハバリ爺のもとへ派遣された、天迦具神という鹿の神様のことである。
タカミムスヒ様はタケ爺のこの自信過剰っぷりに、内心ほとほと呆れかえったのだという。
そして己の武力の過信による慢心の気配をも覚った。――たしかに腕っぷしは多少立ちそうにうかがえるが、といってこのたびの遠征は、力押しばかりで目的が果たされるようなものではない。
多くの戦がそうであるように、平定には武力のみならず知略も必要不可欠である。
しかし、それであってもこれが役に立たないということはなかろう、とタカミムスヒ様は考えられた。
いや、馬鹿と鋏は使いよう、かえってやりようによっては……と瞬時に思索をめぐらしたタカミムスヒ様は、あえてタケ爺をこう焚き付けた。
「ああ、そのように聞いておる。磐筒男・磐筒女の子神・経津主神ほどの益荒男など、天上天下およそどこを探してもおらぬ…とな。」
すると(ばかに単純な)タケ爺はまんまとひっかかり、そのいかつい顔をさらに鬼のように険しくし、こう叫んだ。
「んだとぉー?! っんなはずぁないわい! その経津主とやらがこのワシより勇ましい神だってんなら、今すぐここに連れてくるがよいわ! 今にこのワシが木っ端微塵に……」
「まあ待て。」――タカミムスヒ様は少し笑いながら、片方の白魚のような手のひらをタケ爺に見せる。
「将軍はやはり経津主神とする。お主のような、すぐにカッとなる血気盛んなようなのには、まあ将軍などまともには務まらぬからな。――だが、お主もなかなか勇猛と名高き男神のようである。…すると此度のお主の働きぶりによっては、あるいは名実ともに〝天上天下唯一の益荒男〟と……」
タカミムスヒ様がそれを最後まで言う前に、せっかちな(それこそ血気盛んもゆき過ぎな)タケ爺は、怒ったようにこう声を張り上げた。
「おおやってやらあ!!! 此度の任で〝天上天下唯一の益荒男〟との名を上げるのは、まさにこの建御雷神で決まりよ!!」
………で…そうして啖呵を切ったタケ爺と――その勅命を受けたために(いつの間にか)ニコイチの協力関係となった(なっていた)フツ爺は、初めて顔を合わせたときのことをこう回顧していた。
まずフツ爺はこう……。
『うぅん、いかにも力馬鹿というような印象だったよ。あぁこりゃあ…この男にゃあ考えのない力押しだけしかできまいなと…。なに、なぜっての、われわれはともかく協力せねばならぬ同志だというのに、あれは顔を合わせて開口一番、徒な力比べをふっかけてきたのさ…――だけどねぇ、ちょっと好い男だった。その力比べにしても丁丁発止と、力でいったら五分五分といったところでの…、私は自分とまともに張り合える男なんぞには初めて出逢ったもんだから、それだけでなにかこう、おタケにだけは絶対的な信頼を寄せられると思ったものよ…――ただなぁ…ほほほ…遠征中においても、何かにつけてすぐ私に張り合ってきてばかりのおタケが、次第に可愛くもなっていってね。ずいぶんと可愛い男だと思ったものだよ』
さらに、タケ爺はこう語っていた。
『んん…まず一目見て、〝こんな女みたいな顔をしたひょろっこいモヤシが、ワシに勝る益荒男のわけがない!〟と思ったのぉ…』――というのもフツ爺は、(益荒男と呼ばれて、わかりやすく筋肉だるま的な体型のタケ爺とは違い、)背は二メートル超と高かったが、若いときから細身のひとであった。
銀髪・直毛のポニーテールに真っ白な肌、濃い灰色の柳眉とツリ目のほっそりとしたきつね顔の、線の細い涼やかな美男子といった感じである。――すると一見は勇ましい軍神とも思われないが、彼は軍神にしても刀神の神格のほうが強い男神であるので、むしろ「日本刀の擬人化」とおもえばその細身もうなずける。
なお僕は母上に顔が似ているとよく言われるが、しばしばフツ爺の若い頃にもよく似ていると言われる(僕はフツ爺のきつね顔を、もう少し猫顔の母上寄りにした感じらしいのだ)。
『だが、』とタケ爺は続ける。
『そんな女みたいな姿のくせに、腕っぷしだけは確かでのお! 初めて戦ったときにゃあ、その実決着がつかんかったんじゃ! ガーハッハッハ! いやーーびっくりしたものよ、――ワシゃきっとその時にフツに惚れちまったんじゃろうが、しかしそれはなかなか認められんかった、…なぜって、フツはワシが〝自分こそ天上天下唯一の益荒男じゃ〟と言えば必ず〝そうだよ、その通りだよ〟と、なあ! ちぃ~~っとも張り合ってこないんじゃ! ――そしたら余計~むかっ腹が立っちまってのぉ、かえって負けているような気がしてしょうがなく、ワシゃずいぶん長ぁ~~いこと、フツと張り合ってばかりおった…、――いやあ~~、ワシも若かったのおぉ~~!!』
しかしふたりとも口を揃えてこういうのである。
はじめは好敵手であった。相手がくれたその闘争心は自分の実力はもとより、精神的にも自分を成長させた。――さらにその好敵手から進んで次の段ともなると、お互いの力を認めあったその二神は、やがて唯一無二の同志、親友、相棒となった。
件の遠征における地上の邪神制圧や帰順宣告の戦では、フツ爺は、タケ爺の手にしっくりとくる刀に変化してそのひとに身をあずけ、タケ爺はフツ爺という愛刀をもって遺憾なく力を揮った。――その戦いぶりは、ほとんどフツ爺がタケ爺の右手そのものと化したかというほど、すさまじく見事なものであったという。
そしてその絶対的な信頼感、連結感、その固い友情それそのものは克明なまま…――やがて二柱の関係性は共にあればあるだけ、次第に「唯一無二の対」のそれへと移り変わってゆき…――そうしていつしか、これまでのその感情全てをひっくるめた、お互いへの「唯一無二の愛」を自覚しあったのだという。
まあとまれかくまれ…――そうしてタケ爺とフツ爺は、二柱そろって地上へと降り、葦原中国の邪神や魑魅魍魎をいともたやすく平らげ……、
そしてその国の王・オオクニヌシのおじさんや、そのひとの子神である高名な益荒男のおひとり・建御名方のおじさんなどをさえ、なかば脅すようにして「国譲り」をさせたのだというのである。
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