ぼくはきみに鍵をかけたい

🫎藤月 こじか 春雷🦌

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 俺たちはふたたび「対面立位」の体勢となってキスをしている。俺は腰を動かしていない。――すなわちユンファさんはまたその背を玄関扉にあずけ、俺の片腕に片方の膝の裏をひっかけ、そのももから俺の手に片脚を持ち上げられながら、今は止まっている俺の勃起をその膣で受け入れている状態である(先ほどまで俺は動いていたが、俺たちはちょっとした休憩に今キスをしているのである)。
 そして、彼は俺の両方の肩をその手でやわらかく包みこむようにつかみ、軽く俺のことを引きよせながら、俺とあむあむお互いの唇を斜めから食み合うキスをしていたが、
 
「……、は……」
 
 ふと唇を離し、つと俺の目をあまい上目遣い気味に見てくる。
 しかし彼は俺の瞳を三秒ほど見つめたあと、わりとすぐに目を伏せた。するとこの玄関の天井にあるほとんど真上からの青白い照明の光は、そうして長い黒いまつ毛がふちに生えそろった切れ長のまぶたを伏せる彼の頬、その赤味の濃い桃色にじゅわりとそまった頬に、繊細な嬌羞きょうしゅうのまつ毛の影を落とす。
 
「……隣の人に、聞かれたかな…、声、とか……どうしよう……」
 
 しかしそう言う割に、ユンファさんのその艶のある赤い唇の両端はどこか幸福げに一、二ミリほど上がっている。
 ……確かに帰宅の道すがらこの部屋の玄関扉の前を通ったことだろう隣人には、あのときにはガタガタと揺れていた扉の悲鳴は確実に、またともすれば、わりと大きく発せられていたユンファさんの嬌声は多少聞かれてしまったかもわからない。――とはいえ、さすがに先ほどのユンファさんのセリフまでは聞かれていないことだろう。あれはかなりひそめられた小声だった。
 ……しかしやはりユンファさんはどこか嬉しそうな――むしろあのセリフを隣人に聞かれた(かもしれない)ことを悦んでいるような――伏し目の微笑をうかべたままにこう言う。
 
「…馬鹿なカップルだとか…そう、思われていたりしてね……」
 
「…むしろ俺はそう思われたいです。ふふ…ユンファさんとならバカップルだと思われたいくらいですよ」
 
 俺がこう微笑むと、ユンファさんは口角を上げたまま、また甘い上目遣い気味に俺を睨みつけてくる。
 
「…僕ら、明日別れるのに…?」
 
 この悲しい言葉にも俺の微笑はかげらない。
 俺には「ある確信」があるからである。
 ――鍵が、開いた。
 
「別れないよ。俺は別れたくない。」
 
 しかし――するとふと物憂げに目を伏せたユンファさんが、その美しい憂い顔をうつむかせる。
 
「…それは…、…約束と違うじゃないか……」
 
「…ねえ、どうして俺と正式に付き合えないんです。…」と俺は開いている片手、その肘をユンファさんの顔の横に着いて、そのうつむき顔にぐっと顔を迫らせる。そして俺はかの「確信」があるために屈託のない、我ながらさわやかささえある明朗めいろうな声でこう言う。
 
「ユンファさんはきっと――きっと貴方も、俺のことが好きだ。…それなのにどうして? どうして俺と付き合えないんですか。」
 
 しかし、ユンファさんは目を伏せたままややはすへその引いた顎をずらし、はは…と眉尻を下げて笑う。
 
「……いや…今は排卵日だから、君のことを好きなような気がするだけで、…別に、本当は好きじゃないよ…、本当は…好きじゃない……」
 
「……それはどうかな…、……」
 
 と俺は言いながら、ユンファさんのその黒ハイネックの筒状のえりにおおわれた首筋に唇を寄せ、薄いニットの上からその人の首筋をかぷかぷと甘噛みしつつ――持ち上げている彼の腿をぐっと抱き寄せると、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅとまた腰を、まるで壁にぶつかりはね返っては戻ってくる振り子のような一定のテンポで振る。なおもちろんその「壁」とは彼の子宮口、そしてその付近の亀頭のおさまりのよい溜まりである。
 ……するとユンファさんは、俺の脇の下からそっとその両腕をさしこんで俺の背中を抱きよせ、
 
「……ぁ…っ♡ はぁ、…ねぇ、ん…っ♡」
 
 そうなまめかしい声を極力ひそめながらも、しかし何か言いたげである。――俺はぐちゅぐちゅぐちゅと動きを速めながら彼の耳にこうささやく。
 
「……とにかく、俺は明日も明後日あさっても、それこそ三年先まで――ユンファさんの彼氏でいたいんです…」
 
 ……なお俺のこの発言にはちょっとした俺の思惑が含まれていた。それというのは――本当は今すぐにでもこの美男子と結婚したいところではあるが、ひとまずのところ三年も付き合えば結婚と相成あいなってもまあ早すぎるということはないだろう。と、すなわち俺のこれは、「三年先まで(は彼の彼氏、その先には彼の夫)」という俺の願望を孕んでいる。
 
 ただ……俺に子宮口あたりをとにかくズンズンずりずりとこすられ突かれているユンファさんは、俺の背中にぎゅうっとしがみつきながら、「あ…っ♡」とまた確かな声量の声をあげたが、
 
「…~~~~っ♡ ぁ、♡ ッぁん、♡ や、♡ っき、気持ちいぃとこ、ばっかり、♡」
 
 と努めて小声で抗議してくる。普段のクレバーな彼ならば即座にその「三年先まで」に含まれた俺の思惑を察したことだろうが、今の彼にはその余裕もなさそうである。
 
「…っこんなのずるっん、♡」
 
 俺はその抗議の唇をほとんど無理やりふさいだ。
 そのまま腰を振っていると「んむっ…♡ んうっ…♡」と甘くもやや苦しげな鼻声をもらすユンファさんだが――しかし、その人の熱いやわい上下の唇はゆるくひらかれ、俺の舌の侵入を拒まない。
 それどころかむしろ迎合げいごうするように、むしろ媚びへつらうように、ちゅうっと俺の舌にそのほのかに甘い唇で吸いついて食らいついてくると、れるれると俺の舌をそのうるんだ舌先で舐め回してくる。
 
 すると俄然唇のほうに興が乗ってきた俺は、ユンファさんの後ろ頭を扉に押しつけるほど斜めからしっかりと唇を合わせ――首からのしなをつけた大きな動きで彼の唇をじっくりと食みながら、彼の媚態を呈するその舌の根から舌先までを差しこんだ舌で何度もしぼり取る。
 ……なおそのさなかも、ぬちゅ…ぬちゅとスピードこそ落としつつ腰も動かしつづける。
 
「…んっんん…!♡ …んぅ…っ♡ …ぅク…ッ♡」
 
 悔しげな悦びの鼻声をもらすユンファさんの舌と唇は俺にされるがまま、そうして俺に口内を撹乱かくらんされているユンファさんだったが――しかし俺に唇で押しつけられている頭をそれでも何とか横へ、そうして俺の唇から逃れた彼は、斜めった弱々しい困り顔、その涙にうるんだ横目で俺を見やる。
 
「はっ…♡ ず…ずるい…、キスは…ずるいよ…」
 
ずるいですって…? ふふ…可愛い、また俺に弱点を教えてくださったんですね…」
 
「…ち…ちがう……、……」
 
 と目を伏せるユンファさんは、なるほど俺にキスをされると、どうもとろけてしまうらしい。その表情はどことなく悔しげな困ったような感じだが、その伏し目は今のキスにか微醺びくんを帯びたようにとろんとして潤み、じんわりと火照ほてっている。今こそ攻め時だ。
 
「俺と付き合って、ユンファさん。」
 
「…へ…いや、だから…ぁん、♡ ぁ…っ♡ ぁ…っ♡」
 
 俺がまたぱちゅぱちゅと小気味よいテンポで動きだすなり、彼は眉尻を下げたままきゅっと目をつむる。
 
「…ぁ…っ♡ ぁ…っ♡ ぁ…っ♡ ずっずるい、…それもずるッぃ、♡ 僕のきもちぃ…っとこ、ばっか、あん…っ♡ つ、突か、ないでぇ……っ!♡♡」
 
 しかし先ほど勝ち筋を得ている俺は、その弱々しい色っぽい顔を間近に眺めながら、このように不敵な気分で笑う。
 
「…ふ…何故狡いんです。今はセックス中なんですから、俺が動くのは当然でしょう…?」

 すると彼はぎゅうっと俺の肩の裏の布を握りしめながら俺を抱きよせ、「だって、…」と悔しそうに言う。
 
「……つ、…っ付き合うって、いっ言っちゃいそうなの、♡ …っは、♡ だめ、だめ…き、君の…っこと、…す――っ好きになっちゃう……!♡♡」
 
「……、…、…」
 
 俺は眉をひそめながら目をつむった。
 
 ――か わ い い ……。
 しかし俺の腰の動きは止まらない。いや、止めようにも止まらない。…もとより愛する美男子に、なかばもう俺に惚れているような甘い切羽詰まった声で「好きになっちゃう」と言われては――ただ認めたくないだけで、その実もうすでに俺を愛しているかのような甘い調子でそう言われては――、俺の男の部分があまりにも歓喜らしい歓喜で満たされた。
 その騒がしい歓喜に満たされた俺の男の部分は、要するに俺の男の本能の部分をもその馬鹿騒ぎで満たし、結果として俺の衝動性をも沸き立たせる。
 むしろ動きを止められないどころか余計に――俺の騒乱そうらんの前立腺からの動きは苛烈かれつな力強さを発揮し、すると、ばちゅばちゅばちゅと打ち騒ぐ恥骨で彼の濡れそぼつ膣口を殴打おうだすることとなる。
 
「ひっ♡ アっ♡ あぁっ♡ あっ♡ …や…ぁ、あんっだめ、♡ っ激しくしな、…で、♡ …声、…っ声でちゃ、♡ ふアっ…♡ あ、あぁ…っあ…っ!♡♡」
 
 と俺のこの男の激しさにはたまらずか、ユンファさんは俺の背中にぎゅうっとしがみつき、すすり泣いているような上ずったその声を抑えようにもままならないらしい。
 それにしても普段よりそのなまめかしい声には甘い響きがある。俺はいっそ愛する美男子のこの声――「やめて」というわりに俺に甘えているかのような可愛い喘ぎ声――を他人に聞かせて、自慢したいような気分になってきた。
 
「…いっそのこと思いっきり出してしまえば? はぁ、…みんなに聞かせてやったらどうです、ちんぽでめちゃくちゃになっているユンファの可愛い声……」
 
 と俺が動きを止めないままユンファさんの耳に低い吐息でささやくと、彼は「んっ…♡」と鼻から声をもらしつつも俺から顔をそむける。
 
「…ふく、♡ …うぅ…っらめ、♡ あっぁ…♡ きっ聞かれるなんていやら、…らめ、らめ…いや、♡ ほっほんとうに、♡ ぁ…っ♡ すっ好きになっちゃうっ、♡ うぅーらめ、く、~~~~っ♡♡ …はっはげしいの、っだめ…っ♡ そ、ソンジュの、こと…っ好き…♡ 好きに、♡ なっちゃう、♡ からぁ……っ!♡♡」
 
 ユンファさんのこの泣きながら「ちる」ことを恐れているようなセリフはしかし、俺の耳に、俺にとっての好機の福音ふくいんとしか聞こえない。俺は彼の耳を唇で追った。普段の温柔おんじゅうさをも忘れ、その人の耳に獣が低く唸るような男の低い声でこうささやいた。
 
「何…? 早く俺のこと好きになれよユンファ…」
 
「……ゥ…ッ♡♡」
 
 するとユンファさんはビクンッと肩をすくめながら、膣口をぎゅーっと強くすぼめる。俺は腰の動きは止めつつも、追撃するよう彼の耳にやや強く噛みついた。また彼がビクンッとする。
 それからかぷかぷと耳たぶ、首もとを覆う黒いハイネックの襟を下げて、その白い首筋まで甘噛みする。
 
「……ん、ぁ…~~~ッ♡♡♡ や、ばか、ばかいぬ、♡ …か、噛んじゃやだ、やっ…!♡」
 
 すると口でばかり「噛まないで、いや」とは言いつつ、ユンファさんは俺の前歯や尖った犬歯にあまく噛みつかれてもそれを避けようとはしない。むしろその肌にチクリと刺さる棘のような俺の牙を許すかのように身をこわばらせてじっとしている。
 ……つまり本当はこうした少々乱暴な愛撫も悪くない、いやむしろ――。
 
「…そ…そういうの、だめぇ…♡」とユンファさんは舌をとろめかせていう。
 
「ょ…よわいの…♡ らめ…す、好きになっちゃう…そういう…の、♡ …ぼく…すき…なの……♡♡♡」
 
「……ふっ…、……」
 
 俺はもう一度ユンファさんの耳を脅すように甘噛みし、「俺のこと、好きになっちゃった…?」とほとんど獲物を得た狼の余裕さをもって彼の耳にささやく。
 
「……ぅ…、ううん……」
 
 とユンファさんは小さく首を横にふってそれを否定した。ところが彼は「ぅ…」の瞬間にコクンと頷いてもいた。あたかも「うん」と言うように。
 ――少なくとも彼の心ばかりは俺に惹かれている。どれほど思考で否定し拒んだところで、心には嘘というものが存在しない。
 ……と、今日に見た数々のユンファさんの甘い本音らしい欠片にほとんど確信している俺は、今にもその人の多少の揺らぎを感じとったところである。
 
「…俺が何故“三年先まで”と言ったかわかります…?」
 
 俺はユンファさんの耳にそう尋ねた。
 
「……、……?」
 
 しかし今の彼はどうも上手く頭がまわらないらしく、返答をしようにもそれが思いつかないようで、黙りこくっている。今の彼には少々難しい質問だったようだ。――俺は彼の赤い頬にちゅ、とキスをしてから、その熱いしっとりとした頬にこうささやく。
 
「…三年後には俺たちの関係性は変わる…――付き合って三年後には、俺たちは結婚をするからです。…三年間は彼氏、その三年間を終えた先には夫々ふうふ、つまりその三年で俺たちの関係性がお互いの夫に変わるんです。…とはいえ本当なら、俺は今すぐにでも貴方と籍を入れたいんですけれども……まあしかし、なのでとりあえずのところは三年先まで。…」
 
「……え…でも…僕、…だ、誰…とも…結婚なんか……」
 
「いいえ。ユンファさんは絶対に俺と結婚をするんです。…俺は絶対に貴方を俺だけのものにしてみせるからね、ユンファ…、……」
 
 とユンファさんの拒否を拒む俺は、ハイネックの襟を深くずり下げて、ユンファさんのその生白い首筋を唇でんだ。
 俺にそうして唇の紅いあとを二つ三つと残されると、普段ならばそれを嫌がるユンファさんは――。
 
「…ぁ……♡ …ぁ……♡ ……ぁ…♡」
 
 と俺に唇で咬まれるたびにちいさい声をもらし、どうもそのかすかな痛みに酔って恍惚としているようだ。――そして俺が今つけたばかりの紅い痕を舌先でちろちろとくすぐると、彼は「…ぁぁ……♡」と幸福そうなしとやかに善がったような声をあげながら、俺の後ろ頭に片手のひらを添えてくる。
 
「…このまま、ぼく…、き…君だけの、ものに……されちゃうの……?」
 
「…そう。このまま俺だけのものにされちゃうんです、ユンファさんは…、……」
 
 俺のこのセリフにか、きゅぅ…とユンファさんの膣内が悦んだように締まる。――俺はその悦びの反応にまた恥骨の裏を歓ばせ、にちゅにちゅにちゅとその膣内を行き来する。
 
「……は、ぁ……♡ ぁ…♡ ぁ…♡ ぁ…♡ で、でも、…」
 
 と俺の後ろ髪をくしゃりとつかむユンファさんが喘ぎながらいう。
 
「…今日だけじゃ、…だめ…? ソンジュだけの、ものに、…なるの……」
 
「駄目。貴方は今から一生俺だけのものになるんです。」
 
「……でも……でもね、ソンジュ、……」
 
 
 ユンファさんは俺の耳もと――ほとんど声になっていない、あえかな吐息ばかりで「怖い…」と言った。
 
 
「……、…」
 
 俺はその人のその言葉にハッとして動きを止めた。
 ――どうも彼のその「怖い」という言葉は、心の底から「何か」を恐れてひどく怯えている、つまりそれこそはユンファさんの深層心理からの「本音」であると俺の耳には聞こえた。
 
 怖い――俺は何かしらその根深い恐怖こそ、ユンファさんが俺の愛を拒みつづけてきた要因の一つであると直感する。
 
「……怖い…、怖いって、何が…?」
 
 しかし俺がその恐怖の正体を真剣に尋ねても、ユンファさんはこのようにおどけた風に笑ってはぐらかす。
 
「…ふふ…え? 僕そんなこと言った?」
 
「言いましたよ、俺、確かに聞いて……」
 
「いや、僕に怖いものなんてあると思うか? はは…ないよそんなもん、僕はもう随分前から怖いもの無しの男なんだぞ。」
 
「……、…」

 嘘だ――ユンファさんは「何か」を恐れている。
 いや、こういうときの彼のこの態度はいつものことだが……彼はなかば冗談っぽく俺の耳にこうささやいてくる。
 
「でも、そうだな…。絶対に三年で別れてくれるって約束するなら、付き合ってあげてもいいよ…?」
 
「……、…それは…、……」
 
 しかしその「恐れ」があってもなお、やはり確実に前には進んでいる。
 
 のである。
 ――いくら今の彼は楽天思考が強まっているとはいえ、少なくとも以前までならあり得なかった譲歩が見られる。何なら俺がその条件で妥協できるのならば、俺は今すぐにでもユンファさんの正式な彼氏とはなれるわけである。――しかしもちろん、
 
「……いや…、それは約束出来ない。俺、ユンファさんと結婚したいんです。」
 
 まさか結婚まで見据えているユンファさんとの交際期間を、俺が「三年間だけでもいいか」などと妥協できるはずはない。
 ましてやここで一度そのような約束をしてしまえば、どれほどその三年後に俺が別れたくないと食い下がったところで、「でもそういう約束だっただろ」という強いカードを彼に持たせてしまうことになる。
 ……ユンファさんは俺の耳もとでこう俺をからかうように言う。
 
「そう。…ふふ…折角のチャンスなのに、いいのか青年…?」
 
「…ラストチャンスじゃないからいいんです。……」
 
 もちろんユンファさんは俺がそれで妥協しないことを見越してそう言ったのだろう。――かといって、その条件を提示していても今どこか「迂闊なYES」を口にしたユンファさんは、以前までならば「絶対に嫌だ」とそれさえなく真っ向から断固拒否してきた。
 ……今の浮ついた思考ばかりしかできない彼であっても、いや、たとえば酒に酔った人というのが多かれ少なかれ素直な性格となるように、むしろそれだからこその「あの譲歩」は、きっとその人の鍵の開けられた心からの本音に基づいている。
 
 つまり――これでもユンファさんの視野のなかにはおそらく、俺との交際の可能性がチラつきはじめている、ということである。
 
 しかしこうして一歩前進はしたとはいえ、もちろん喜ぶにはまだ早い。
 
 当然俺たちはまだ交際には至っていないのだ。
 すると…これからどういったアプローチをすればその人の鍵の開けられた心に行動がともなうか、すなわちその美しい赤い唇が俺に嬉しい「YES」をもたらしてくれるには、俺はここからどうしてゆけばよいのか――後ほどしっかりと考えておこう。
 
 

 
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