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第1話
015. 登場人物が増え始めます1
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ハァ、ハァ。
息を切らして走るボク。
でも、足を止めるわけにはいかない。
「ガンバッてるわね~」
女神・エリィの心無い声援に、ボクは答えることができなかった。
え、薄情者?
マラソンをしてるわけじゃないけど、普段からのコイツがどんな人か知らないわけじゃないでしょう?
って、そんなことじゃなくて。
本当に今はそんな余裕はないの!
なんでかって……?
◇ ◇ ◇
「オナカ空いたなぁ」
「そうねぇ」
ボクの腹の虫が鳴る音が夕闇に響いた。
陽も暮れてきたし、そろそろ休みたいところなんだけど、食料は昼に食べたカンパンで最後だった。
思えば、前にいた世界でこんな風にお腹を空かせて歩くことなんて、あまりなかったなぁ。
「もうちょっと歩いて、安全なところで休みましょう」
ハクがそういうんだから、それが良いんだろう。
確かに、こんな山道じゃいつ何が襲ってくるか分からない。
すぐ横は急な崖。
それでもやっぱり、空腹ってのは正直な感想で……ん?
「なんだろ、いいニオイが……
しませんか?」
「本当ね。
でも、これって……
あ、ちょっと」
ニオイに鼻先をひっかけられたように足が勝手に動いていた。
ハクの止める声も聞かずにだ。
そして、踏み外した。
「うわぁあああ!」
正確には、足を置く場所もないような宙にまで歩を進めた、が正しかった。
ドシンッ。
幸いにもすぐに着地はできた。
前のめりに倒れる形で落ちたが、それほどの高さはなかったらしい。
鈍い痛みはあったけど、これくらいなら。
そう思っていると、目の前にお宝があった。
「うわ、うまそ」
滴り落ちる脂。
鼻腔を直接殴りにかかってくる香り。
串にささった大きな肉の塊が、火に掛けられていた。
ゴクリ、とノドが鳴る。
なんなら、このまま齧り付いてもいい。
ボクの目は目の前のごちそうにくぎ付けだ。
火傷?
そんなのはこの胃袋に文句を言ってくれ。
「オイ」
うるさい。
食わせてくれ。
「なぁ」
「うるさいってば。
ん?」
目の前に突如現れた肉の塊に、思考を持っていかれて、誰かが声をかけてきたことに気が付かなかった。
視線をあげると、そこにはこの肉が収まる予定だった口が見えた。
「なんだテメェ?」
だいぶ、クチの悪い口だった。
「空からいきなりやってきて、オイラたちの飯時に何の用だい?」
みれば、悪いクチは大勢のようだ。
訂正、悪いのはクチだけじゃなくてガラもだった。
「コ、コンバンハー」
挨拶を返してくれるような教育を受けている集団には見えない。
ボサボサの頭、衣服どころか見える肌すらも薄汚い。
そして、人相は限りなく……
いい人達には見えなかった。
だって、ガチャガチャとそれぞれが手に武器を取り始めたんだもの。
「ちょっと、お腹が空いて……
いいにおいだな~って」
「オイラたちもハラぁ空いてたんだ。
仕事終わりでな」
「そうですよね~。
でも、なんのお仕事かは、あまり聞きたくはない、かな~」
しどろもどろにしゃべるボク。
必死に笑顔を意識したけど、自分でもわかるほど口元は引きつっていた。
「なぁ、一緒にくっていかねぇか?
その後でもいいだろう」
「遠慮しますぅ。
それに、その後、ナンデスッテ~?」
こんな時でも、肉から落ちた脂の粒が炎に炙られて一段といいニオイがした。
目の前の男の手にはなんだかやけにギラついた短剣が握られている。
「そ、それでなにを?」
「見てわかんないかねー」
エリィが茶化すが、その彼らの思惑には期待を寄せたくはなかった。
「へへ、いいじゃねぇ――」
カペッ!?
短剣の男が顔を近づけてきたが、脂っこい息が届く前に吹っ飛んで行った。
ボクの耳すれすれに、後ろから一本の足が突き出て男の顔面を蹴り飛ばしたのが横目で見えた。
見覚えのある、草履と白い肌の脚。
「ハクさん!」
男が舌を噛んだのか、間抜けな音を立てて倒れるのと同時に、ハクはボクの手を取って一目散にその場を駆け抜けた。
手を引かれる、というよりは朝、家を飛び出る時にカバンを掴んでそのまま走り出すように、ボクはヒラヒラと宙で揺れていた。
肉汁が火のついた薪にあたり、ジュウという音がした。
ハァ、ハァ。
息を切らして走るボク。
でも、足を止めるわけにはいかない。
「ガンバッてるわね~」
ここで女神・エリィのさっきの心無い声援が投げかけられた、という訳だ。
そりゃあ、足を止めたら彼らの夕食が再開されて、ボクたちもそこに一皿、追加のおかずにされてしまいそうだからね。
なんでわかるかって?
今も、追いかけてくる怒声と、引き留めようとする矢が、逃げるボクらの背後からたっぷり届いてるんだから。
息を切らして走るボク。
でも、足を止めるわけにはいかない。
「ガンバッてるわね~」
女神・エリィの心無い声援に、ボクは答えることができなかった。
え、薄情者?
マラソンをしてるわけじゃないけど、普段からのコイツがどんな人か知らないわけじゃないでしょう?
って、そんなことじゃなくて。
本当に今はそんな余裕はないの!
なんでかって……?
◇ ◇ ◇
「オナカ空いたなぁ」
「そうねぇ」
ボクの腹の虫が鳴る音が夕闇に響いた。
陽も暮れてきたし、そろそろ休みたいところなんだけど、食料は昼に食べたカンパンで最後だった。
思えば、前にいた世界でこんな風にお腹を空かせて歩くことなんて、あまりなかったなぁ。
「もうちょっと歩いて、安全なところで休みましょう」
ハクがそういうんだから、それが良いんだろう。
確かに、こんな山道じゃいつ何が襲ってくるか分からない。
すぐ横は急な崖。
それでもやっぱり、空腹ってのは正直な感想で……ん?
「なんだろ、いいニオイが……
しませんか?」
「本当ね。
でも、これって……
あ、ちょっと」
ニオイに鼻先をひっかけられたように足が勝手に動いていた。
ハクの止める声も聞かずにだ。
そして、踏み外した。
「うわぁあああ!」
正確には、足を置く場所もないような宙にまで歩を進めた、が正しかった。
ドシンッ。
幸いにもすぐに着地はできた。
前のめりに倒れる形で落ちたが、それほどの高さはなかったらしい。
鈍い痛みはあったけど、これくらいなら。
そう思っていると、目の前にお宝があった。
「うわ、うまそ」
滴り落ちる脂。
鼻腔を直接殴りにかかってくる香り。
串にささった大きな肉の塊が、火に掛けられていた。
ゴクリ、とノドが鳴る。
なんなら、このまま齧り付いてもいい。
ボクの目は目の前のごちそうにくぎ付けだ。
火傷?
そんなのはこの胃袋に文句を言ってくれ。
「オイ」
うるさい。
食わせてくれ。
「なぁ」
「うるさいってば。
ん?」
目の前に突如現れた肉の塊に、思考を持っていかれて、誰かが声をかけてきたことに気が付かなかった。
視線をあげると、そこにはこの肉が収まる予定だった口が見えた。
「なんだテメェ?」
だいぶ、クチの悪い口だった。
「空からいきなりやってきて、オイラたちの飯時に何の用だい?」
みれば、悪いクチは大勢のようだ。
訂正、悪いのはクチだけじゃなくてガラもだった。
「コ、コンバンハー」
挨拶を返してくれるような教育を受けている集団には見えない。
ボサボサの頭、衣服どころか見える肌すらも薄汚い。
そして、人相は限りなく……
いい人達には見えなかった。
だって、ガチャガチャとそれぞれが手に武器を取り始めたんだもの。
「ちょっと、お腹が空いて……
いいにおいだな~って」
「オイラたちもハラぁ空いてたんだ。
仕事終わりでな」
「そうですよね~。
でも、なんのお仕事かは、あまり聞きたくはない、かな~」
しどろもどろにしゃべるボク。
必死に笑顔を意識したけど、自分でもわかるほど口元は引きつっていた。
「なぁ、一緒にくっていかねぇか?
その後でもいいだろう」
「遠慮しますぅ。
それに、その後、ナンデスッテ~?」
こんな時でも、肉から落ちた脂の粒が炎に炙られて一段といいニオイがした。
目の前の男の手にはなんだかやけにギラついた短剣が握られている。
「そ、それでなにを?」
「見てわかんないかねー」
エリィが茶化すが、その彼らの思惑には期待を寄せたくはなかった。
「へへ、いいじゃねぇ――」
カペッ!?
短剣の男が顔を近づけてきたが、脂っこい息が届く前に吹っ飛んで行った。
ボクの耳すれすれに、後ろから一本の足が突き出て男の顔面を蹴り飛ばしたのが横目で見えた。
見覚えのある、草履と白い肌の脚。
「ハクさん!」
男が舌を噛んだのか、間抜けな音を立てて倒れるのと同時に、ハクはボクの手を取って一目散にその場を駆け抜けた。
手を引かれる、というよりは朝、家を飛び出る時にカバンを掴んでそのまま走り出すように、ボクはヒラヒラと宙で揺れていた。
肉汁が火のついた薪にあたり、ジュウという音がした。
ハァ、ハァ。
息を切らして走るボク。
でも、足を止めるわけにはいかない。
「ガンバッてるわね~」
ここで女神・エリィのさっきの心無い声援が投げかけられた、という訳だ。
そりゃあ、足を止めたら彼らの夕食が再開されて、ボクたちもそこに一皿、追加のおかずにされてしまいそうだからね。
なんでわかるかって?
今も、追いかけてくる怒声と、引き留めようとする矢が、逃げるボクらの背後からたっぷり届いてるんだから。
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