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第1話

046. 初めての街です15

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 黒猫はジョッキの中身を桃色の小さな舌で舐めて言った。

「牛乳と卵と、これは、はちみつ?」

 猫がしゃべったこともそうだが、味を分析したのにも驚いた。

「隠し味にレモンが入ってるわね?」
「そう、です」
「なるほどね~
 美味しいわけだ」

 ここでようやく気が付いた。
 この少し低めの猫の声が最初に注文してきた声だと。
 そうじゃなければ少女の声で、兜をかぶっている偉丈夫いじょうふだという思い込みをするわけがなかった。

「いい飲み物じゃないか。
 気に入ったよ」

 黒猫はナッハッハと小気味よく笑うと、黒い前脚を台越しにボクに差し出してきた。
 舌と同じくピンク色の肉球が器用にコインを掴んでいた。

「美味かったよ。
 いつもここで店を出しているのかい?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「じゃあ、この客は?」

 そう言って黒猫は銀色に光る毛並みのしっぽで後ろを指示した。

「お、おぉ!?」

 いつのまにかボクらを中心に人だかりができている。

「あ、あれ!?
 いつの間にこんなに人が!?」

 おおい、兄ちゃん、ワシにも一杯もらえんかね。
 ぼくにもちょうだい!
 オレも飲んでみてぇ! 
 ノドが渇いてたんだ。

 それこそ老若男女を問わず、ボクの作ったミルクセーキを飲みたいと言ってくれる人が大勢集まっていた。

「ちょ、ちょっとおまちください。
 今、順番に作りますからっ」

 なんとか、一列に並んでもらい、台を挟んで一対一のやり取りができるように場所を整理した。
 そして、順番に、手順を守って一杯ずつ作っていった。

 一人がミルクセーキを受け取って口にすると、その感想がまた道を歩く人を止める。
 そうしてどんどんと列は伸びていった。

「はい、お待たせしました」
「はい、ありがとうございます」
「はい、お待たせしました……
 あぁ、こんな量のお客さん、一人じゃ無理だよぉ」

 並ぶ人は増えていく一方、作る速さにも量にも限界がある。

 あぁ、ハクったら……
 こんな事ならいてくれればいいのに……

 そう思って、半ば泣きべそをかいていると、ボクの後ろに置いてあった箱、卵の殻を入れていた木のソレに誰かがトスンと座った。

「卵を割って、黄身と白身に分ければいいんですか?」

 なんと、あの超高身長の女の子が背を曲げて黄身の仕分けを手伝ってくれていた。

「え?
 どうして……」
「ほらほら、お客さんが並んでますよ」

 台を挟んで向こう側では列がさらに伸びて、グネグネと蛇行だこうしているのを黒猫がきれいに整理してくれていた。

「はいはい。 
 ミルクセーキの販売の列はこっちだよ。
 そこ、割り込みするんじゃないよっ」

「ね?
 今は作っちゃいましょう。
 仕上げはアナタがお願いします」

 ウン、と返事をして自分の作業に取り掛かった。
 一人と一匹が手伝ってくれたおかげで、提供のスピードは段違いに速くなった。
 作る速さが、飲み干す速さを上回った。
 段々と短くなっていく列の長さを商品と代金の受け渡しの際に確認することが出来るほどの心の余裕も出来てきた。

「ありがとう。
 おかげでスゴく助かってるよ。
 ボクはイツキ。
 キミはどうしてボクを手伝ってくれるの?」
「なんでって……
 素敵だと思ったからです。
 アタシも、彼女も。
 あ、アタシはラギって言います。
 それと彼女っていうのは列の整理をしている黒猫さんの事で、彼女は――
 あら?」

 ラギと名乗った少女が手早くたまごの黄身を分け、卵黄を溶きながら話してくれた。
 そこまで話すと、彼女の手が止まった。

 通りの真ん中で何やら騒いでいる声がする。
 
「おいおい!
 マジかよぉ!?」
「ホントだって!
 さっきそこで買った飲み物にヨォ!
 くさったタマゴが入っていたらしくてよぉ!
 飲んだヤツはハラがイテぇっていうんだよッ!!」

 まるで大通り沿いに並ぶ列のお客や、歩く人々に向けてわかりやすく説明する大きな声。

 あら、ほんと?
 どうしよう、並ぶのやめようか……

 そんな声がぽつぽつと聞こえ始めた。

「ちょっと、急用を思い出したの……」

 今、ボクがミルクセーキを受け渡そうとジョッキを差し出した女性は、台の上に置いていたコインをスッとその手に戻してしまった。

「そ、そんなはずは……」

 そして、先ほど大声で主張していた男が二人、ボクの前にやってきた。

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