和習冒険活劇 少女サヤの想い人

花山オリヴィエ

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 チントンシャントンテン、チントンシャンテトテン。
 華美な装飾を施された部屋に、三味線や太鼓の楽の音が響く。それらは芸子たちの舞いを飾り立てていた。
 ここは大菅屋に設けられた応接間を兼ね備えた奥座敷。
 戸や壁、天井や欄間に至るまで華やかさの極みといったこの場に、不釣り合いな客が二人いた。
 昨日、辻斬りを倒して捉えたサヤとその連れ、イオリであった。二人は互いに横目で見合うのみで口を開きはしなかった。目の前に並べられた豪勢な食事や酒にも、お互いの意思を伝え合うためにもその白い歯をのぞかせることは無かった。
 そんな硬い表情の二人に代わって、べっとりとした笑顔を崩さず、二人にしきりに酒を勧めているのは、この置屋の主人であった。主人は恰幅のいい、髷を結うのに必要最低限の頭髪を掻き掻き、芸子が舞いを踊れば手をたたき、拍子をつけ、盛んに場を盛り上げようとしていた。
 やがて、二人の芸子の踊りがひと段落し、耳に入るものは表の虫の音だけになった頃、この云われなき持て成しの理由を主人に問うた。

 「あの~…… なんでジブン達がここに連れてこられたんでしょ――!?」

 イオリの言葉がその意味を完結させる前に、主人は海老が跳ねのけるに後ずさった。
 その距離、実に畳で言うところの三枚分の距離。
 畳と着物越しに膝から先が擦れる音と共に、主人は距離を取り、ダラダラと脂汗を顔に浮かべながら、サヤたちを睨みつける。まるでガマガエルが餌の虫を見つめるようにである。
 そして、次にこの男がとった行動はといえば。

「申し訳ございませんでしたァァッッ!」

 盛大に振りかぶって、額を畳に落とすその姿はガマガエルそのものの姿である。
 この土下座の姿を他に形容するほうが難しいであろう。

「何卒――
 ナニトゾ! 
 この度の一件はどうか、どうかご内密に!」

 鬼気迫る勢いで額を畳に擦りつける主人。
 その勢いに、質問を投げかけたイオリはたじろぐばかりであった。

「どうか頭をあげてください。ジブン達には何が何だかさっぱりわかりませんよ」

 額にくっきりと残った畳の編目を見せる形で主人は顔を上げた。

「この度の辻斬りの騒動、アレはうちの芸子の差し金だったのです」
「昨晩、一緒にサヤが捕まえた、あの女の人ですか?」

 懐から取り出した手拭いで額の脂汗を拭いながら主人は続ける。

「ハァ…… 
 あの芸子、名はサクラコと云うのですが、年を取って指名、つまりは客がとれなく、お座敷にも呼ばれなくなった事を逆恨みして、ならず者を使ってのことだったようです。」
「確かに、斬られていたのは年若く、売れていた芸子さんから順に斬られていたようですからね。そういうことでしたか」
「まったく、嘆かわしいことですが、こんなことが世間様に知れ渡ってしまっては、うちの店は……
 これはホンのお気持ちです……
 どうか……」

 そう言って、主人がポンポンと手を叩く。すると奥座敷の戸がスッと開き、芸子が一人進み入ってきた。手には朱塗りのお盆を持ち、その上には紙包みが一つ乗っていた。
 彼女はイオリの前に膝をつき、盆を差し出す。化粧と装飾を施したその芸子は昨日、サヤに守られ、顔を涙で濡らした、誰あろう、サユリコことオユリであった。

「えぇ、ジブンたちとしましても面倒事は好みませんので……」

 恐らく紙包みに入っているのは恐らく、金であろう。
 要は口止め料である。
 そろりとイオリの手が伸びるが、ソレを制するようにサヤが口を挟む。

「そんなものはどうでもいいんだよ。ボク達は探し物があってここに居るんだから」
「そんなものって。せっかく頂けるんですから貰っておいたほうが……」
「いいの! 
 それよりさっさと本題に入る」

 イオリはばつの悪そうにメガネを持ち上げ、言葉を選ぶ。
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