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118. 牛魔王軍勝利

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「まあ、そういうこった!
 俺はお前に、負ける気がしねえ!
 お前が、まだ剣帝でいられるのは、まだまだ猫耳娘が本気を出していないからだ!
『シルバーウルフ』の本拠地はムササビ自治国家だったよな?
 なら、4年前に突然現れ、すぐに消息をたった、1人で未攻略S級ダンジョンを攻略した猫耳娘の幼女の噂は、伝わっていないのか」

 牛魔王がガリクソンに語りかける。

「それなら、聞いた事がある。
 しかし、何かの冗談だと思ってた。
 ソロで、未攻略のS級ダンジョンを攻略するなんて不可能だ。
 誰もムササビでは信じていなかった」

「ムササビではな。
 でも、漆黒の森では違う。
 色んなダンジョンで、返り血を浴びながら素手で魔物を倒しまくっている幼女が度々目撃されていたからな!
 その幼女は、いつも1人で笑いながら魔物を血祭りに上げているんだ。
 その様子を目撃した者は、その光景があまりに恐ろしすぎて、大体その場でオシッコをチビってしまうらしい」

「ぎゅ……牛魔王よ……
 その……オシッコを漏らしてしまうという情報は必要な事なのか……」

 ガリクソンが、牛魔王に真面目な顔をして質問する。

「ああ、必要だ!
 それ程、凄まじいのだ!
 猫耳娘の拳の威力は、凄まじいんだ。
 小さな体なのに、どうしてそんな威力が出せたのか誰にも解らないらしい」

「闘気を使ってたんじゃないのか?」

「勿論、今の猫耳娘は闘気を使える筈だが、その頃の猫耳娘は全く闘気など使っていなかったのだ!」

「そしたら、おかしいじゃないか?
 闘気を使わないで、どうやってS級のダンジョンマスターを倒したのだというのだ?」

 ガリクソンは疑問に思った事を質問した。

「猫耳娘の拳は闘気を破壊するのだ!
 そして、S級のダンジョンマスターを倒したのが4年前、そして今は、闘気も使える筈だし、大賢者並の魔法まで使えるのだ!
 多分、猫耳娘は全く闘気を使っていない素の状態で剣王にまで登りつめている筈だ!
 何せ、猫耳娘が剣を持って闘気を使ったのは、猫耳娘が考えついた必殺技、チンコスライスという鬼畜すぎる技を使った時だけだからな……」

 ガリクソンは愕然とする……
 完全に、『犬の尻尾』の戦力を過小評価していた。
 剣王であるブリトニーが最大戦力だと思われていたのだが、本当のブリトニーの実力は剣王以上だったのだ。

 実際に、牛魔王は剣帝である自分を全く恐れていないし、アン·ドラクエルも全く実力を出し切っていない。

 この2人より、実力が上と思われるガブリエル·ツェペシとブリトニー·ロマンチックが、『シルバーウルフ』の本隊が向かったダンジョンにいるのだ。

 ガリクソンは、無性に不死の魔女ブリジアの事が心配になってきた。

「牛魔王よ! ガブリエルとブリトニーはお前と比べてどれ程強いのだ?」

 ガリクソンは、恐る恐る牛魔王に質問した。

「アアァ! 俺様と比べてだ!
 ガブリエル様を、俺と比べるなんて、出来る訳ないだろ!
 俺はガブリエル様と戦った時、触る事さえできなかったのだぞ!
 猫耳娘と戦ったとしても、瞬殺だな!
 勿論、アン嬢ちゃんにも殺られると思う。
 あの3人は、別格だ。
 本物中の本物だ。
 3人とも、元々の血筋も本物だが、その中でも歴代1、2を争う才能を持ってるんじゃないのか?
 それにしても、大ボスは、あの3人をよく仲間に、引き入れ事ができたな。
【魅力】スキルを持ってたとしても、偶然見つけるなんて、不可能に近いしな。
 ガブリエル様と猫耳娘は始まりの魔女の結界から出たら、スグに見つけたと言ってたな……」

「スグにか?牛魔王よ! その話、もっと詳しく聞かせてくれないか!」

 ガリクソンが、始まりの魔女の名前が出た途端、目の色を変えて牛魔王の話に食いついてきた。

「オイオイ! いきなりどうしたよ?
 まず、戦いから始めないといけないんじゃないのか?
 ギャラリーからもブーイングが起き始めてるぜ!」

「クッ! ならば、戦いが終わった後、存分に、お前の主《あるじ》ゴトウ·サイトと、始まりの魔女の話を聞かせてもらうとしよう!」

 ガリクソンはそう言うと、剣を鞘から抜いた。

「やはり、男はそうでなくちゃな!」

 牛魔王は冒険者バックの中から2本のバトルアックスを取り出した。

「ウオオオォォォォォ……!!」

 牛魔王が雄叫びを上げると、体に赤黒い闘気が、薄らと現れた。

「ウム……良い闘気だ。
 薄く薄く濃密に練られている。」

 ガリクソンが感心して、牛魔王の闘気を観察する。

「ワッハッハッハッハ!
 分かるか!  これはガブリエル様の一族なった事で、得た闘気だ!
 俺様は、グランドマスターとガブリエル様2人に忠誠を誓っている。
 最近、ガブリエル様が【族長】スキルを得た事により、俺の闘気もガブリエル様に似てきたのだ!」

「成程な……
 確かに闘気の濃密さは、初代ダークエルフの王の魔素と似ているな……
 やはり、始まりの魔女が、ガブリエルを助ける為に、ゴトウ·サイトを寄越したという仮説は合っていたのか……
 ゴトウ·サイトが始まりの魔女の結界から出て、最初にガブリエルに会うという事も出来すぎているしな……」

「何、ブツブツ言ってるんだ!
 来ないなら、コチラからいくぜ!」

 牛魔王がバトルアックスを振るう。

 すると【斬撃波】が発動し、ガリクソンに襲いかかる。

 スパーン!!

 ガリクソンは一太刀で牛魔王の【斬撃波】を払い避ける。

「やるな! 流石は剣帝といった所か!
 しかし、俺様の【斬撃波】は、この程度ではないぜ!」

 牛魔王は両手で太鼓を叩くように、素早くバトルアックスを振るう。

 ズサッ! ズサッ! ズサッ! ズサッ! ズサッ!

 見るからに重そうな【斬撃波】が、ガリクソンを襲う。

 スパーン! スパーン! スパーン! スパーン!

 ガリクソンも一刀一刀、闘気を込めながら【斬撃波】を叩き落とす。

「ハァハァ! やるな!」

 牛魔王は、息を切らしながらガリクソンに語りかける。

「ハーハー……そなたもな。
 こんなに重い【斬撃波】は、久しぶりに受けたぞ!
 しかし、最初からそんなに飛ばして魔素総量は大丈夫なのか?」

 ガリクソンは、牛魔王の魔素の事を考えない無謀な攻撃を、疑問に思う。

「ワッハッハッハッハ!
 やはり、最初の攻防はド派手なのが格好いいからな!
 見ろ!  ギャラリーも盛り上がっているだろ!」

 ガリクソンは、牛魔王に言われ移住区の方を振り返ると、大歓声が起こっていた。

「盛り上がってきたな! 
 よし! ここからが真剣勝負だ!」

 牛魔王は、姫に持たせてもらっているポーションをグビグヒ飲んだ。

「ウッ!  苦い……
 魔素が、みるみる回復するのが感じるぞ!
 良薬口に苦しといった所か……
 しかし、勇者パーティーのエリスのポーションはとても美味しいと聞くが、そんなんで本当に効くのか?
 俺様には、とても苦いガブリエル様のポーションの方が効きそうだと思うけどな!」

「エリスさんのポーションは、1度だけ飲んだ事があるが、美味しくて凄い効き目だったぞ!」

 エリスのポーションを飲んだ事があるガリクソンが、感想を述べる。

「そ……そうなのか……
 ガブリエル様には悪いが、1度エリスさんのポーションも飲んでみたいな……
 アン嬢ちゃんの父ちゃんと同じパーティーの筈だから、1度アン嬢ちゃんにエリスさんのポーションを譲って貰えるように頼んでみるとするか!」

 スパーン!

 ガリクソンが話の途中で、牛魔王に斬り掛かる。

 ガギッ!!

 牛魔王はバトルアックスを交差させ、ガリクソンの剣を受け止める。

「悪いな!  話の途中だったが、隙があったので打ち込ませてもらった」

 ガリクソンが軽口を叩く。

「フン! そういうセリフは、俺様にかすり傷の1つでも付けた時に言うセリフだぜ!」

 2人は距離を取り、睨み合う。

 ガリクソンが剣を鞘に戻し【一撃】の動作に入った。

【一撃】だけは、まともに受ける訳にはいかないので、牛魔王は真剣な目付きでガリクソンの一挙手一投足を伺う。

 ガリクソンが1歩ずつすり足で、牛魔王に近づいてくる。

 牛魔王は、ガリクソンの【一撃】を、自分のタイミングで発動させる為に、わざと、ガリクソンの間合いに入った。

 その瞬間、

 ガリクソンの剣が鞘から瞬速で牛魔王の首筋目掛けて斬り掛かる。

「遅い!」

 牛魔王は、いつもブリトニーとヤナト達の朝練を観戦していた。
 ブリトニーがやり過ぎないように見張っているのもあったのだが、ブリトニーの技を少しでも盗む為に、毎日見ていたのだ。
 それと比べると、剣帝ガリクソンの剣筋は圧倒的に遅い。
 ハエが止まる程のスピードだ。
 とは言っても、ブリトニーとガリクソンのスピードを比べた場合のスピードだ。
 牛魔王には、ブリトニーのような神速のスピードはない。
 しかし、毎日ヤナト達の朝練を見てた事で、目は慣れていた。
 ギリギリの所でガリクソンの【一撃】を躱し、バトルアックスで、ガリクソンの持つ剣を弾き飛ばした。

「ワッハッハッハッハ!
 勝負あったな!」

「うむ……私の負けのようだ」

 ガリクソンが自分の負けを認めた。

「この勝負、『シルバーウルフ』副団長、ガリクソンさんが負けを認めた為、牛魔王軍、モフウフの城主、牛魔王さんの勝利とします!
 よって、牛魔王軍と『シルバーウルフ』による5回勝負は、3対2で、牛魔王軍の勝利と致します!」

 アンちゃんが、牛魔王と牛魔王軍の勝ち名乗りを上げた。

 同時に、モフウフの街全体から大歓声が起こり、その後、モフウフの街では、酔えや歌えやのどんちゃん騒ぎが、朝まで続いたのであった。
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