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245. 銀の厄災
しおりを挟むブリジアは気を取り直し、歩きでモフウフ城塞都市の城門を出て、改めて空中に飛び上がった。
「恥ずかしかったのじゃ……」
ブリジアが、モフウフ上空に張ってあった【聖級結界】に盛大にぶち当たるのを大勢の住民達に目撃されていたようで、モフウフ王宮から城門に続く大通りを歩いている間中、ずっとクスクス笑われ続けたていたのだ。
モフウフでは、姫やペロがたまに上空を飛び回っているので、今更、幼女が1人で空を飛んでいたとしても、それ程大騒ぎにはならないのだが、あれ程、盛大に結界にぶつかれば人の目にも止まるというものだ。
「成程のう。上空に【聖級結界】が張っておるので、戦時中だというのに安心して、通常通り生活しておるのじゃな。
街の者達も、妾が身を持って【聖級結界】にぶつかったお陰で、しっかりモフウフ城塞都市の上空に【聖級結界】が張られている事が分かって良かったじゃろう!」
ブリジアは、いつものように大きめな声で独り言を言いながら、都合良く自分を肯定するのだった。
「ん? 軍隊がおるようじゃな。
あそこで戦っておるのか?
しかし、軍隊が動いておらぬようじゃが、何をしておるのじゃ?」
もう少し近づいて見ると、何やら見知った2人が一騎打ちをしているようであった。
「ん。あそこに牛田がおるのじゃ!」
ブリジアは、牛田さんを見つけて隣に着地する。
「どうなっておるのじゃ?」
「これはブリジア様、私のマイホームの設計図を見てもらえますかな!」
牛田さんは、開口1番、懐から家の設計図を取り出しブリジアに見せてきた。
ブリジアが、『ウルフデパート』出店の打ち合わせにモフウフに訪れた時に、
牛田さんが『シルバーウルフ』の大賢者サナルに、新築マイホームを魔法で蜂の巣にされてからというもの、もぬけの殻になっている。という話を聞きつけ、『シルバーウルフ』の団長として責任を感じ、ブリジアが資金を提供するから新しい家を建てる試算を出すように牛田さんに話をしていたのだった。
「それは今じゃなくでも、良いじゃろ……」
ブリジアは呆れた顔で、牛田さんを見やる。
「大丈夫でございますよ!
こちらの戦場は、大将同士の一騎打ちとなっておりますから、兵士は暇を持て余しておりますし。
もう既に、戦い始めてから5時間近くになっており皆ダラけておりますよ!
そんな事より、この設計図を見て下さいませ!」
ブリジアは、そのまま30分近く牛田さんのマイホーム計画の話を聞かされて、なんとか牛魔王と牛神·パウロの元に逃げてきた。
「牛魔王よ、 それでどんな感じなのじゃ?」
ブリジアは疲れ切った表情で、牛魔王に質問する。
「大変だったな。今は牛田には近づかない方がいいぞ。
捕まったら最後、永遠にマイホーム建設の話を聞かされるからな」
「それは、身を持って知っているのじゃ」
ブリジアは、苦笑いしながら答える。
「見ての通り、ガルムの旦那と敵の大将ガープの実力は拮抗している。
この調子じゃあ、今日中には決着つかないと俺は思うんだが」
「確かに、そのようじゃな……」
「俺達も手を出すなと言われていた手前、どうしたものかと手をこまねいていた所だ」
牛魔王も困った様子で、ガルム達の闘いを見守っている。
「ガルムもガープも騎士道を貫く、頭の固い武人じゃからな……
多分、1度口にした事は覆す事はないじゃろうな。
フム、ここは妾に任せるのじゃ!
お主らも、このまま闘いを見続けるのも大変じゃろ!」
ブリジアがドンっと、胸を叩く。
「どうするつもりなんだ?」
牛魔王がブリジアに質問する。
「今日の所は停戦して、明日また、一騎打ちを再開する事を提案するつもりじゃ!」
「そんな事が、可能なのか?」
牛魔王が、不安気な表情でブリジアを見つめる。
「多分、大丈夫じゃろ!
ガープも古い知り合いじゃしな!」
ブリジアはそう言うと、ガルムとガープが闘っている上空にフワリと浮き上がって行き、通る声でガープとガリムに語りかけた。
「ガープ! ガルム!
一騎打ちの最中に悪いが、妾の話を聞いて貰えるか!」
ガキィーン! ガコーン!
ガープとガルムは、集中している為かブリジアの言葉に全く反応しない。
「妾を無視するとは、いい度胸じゃ!
これはお仕置きが必要じゃのう」
ブリジアは、そう言うと、久々に本来の姿である二股の巨大な銀狼に変身する。
ブリジアが変身した途端、辺りが急に暗くなり、重苦しい空気というか、空気が完全に重くなった。
グガオォォォォォォォォォォ………ンン!!
二股の巨大な銀狼が、雄叫びをあげる。
流石に、ここまでくるとガープとガリムもブリジアに気付く。
「銀の厄災か」
ガープが、ポツリと呟いた。
新漆黒の森の兵士達が、ざわつき始める。
「『銀の厄災』って、1000年前の厄災の原因となった神獣の事か?」
牛魔王が牛神·パウロに問いかける。
「間違いありません。
まさか、ブリジア様の正体が『銀の厄災』とは……
1000年前 突如として現れ、300を超える城塞都市を焼き払った言われている伝説の神獣。
唯一、ケルベロスの縄張りだったイヌヤマだけが、焼き払われるのを間逃れたと言い伝えられていますが、それでも3柱のケルベロスが全力で闘って、やっと追い払う事に成功したと言い伝えられています。
実際に、1000年前にケルベロスが、『銀の厄災』をイヌヤマから追い払った事が切っ掛けになって、『ケルベロス教』が成立したといわれてますから、ブリジア様は、1つの宗教を成立させる切っ掛けになったといっても過言ではない、伝説級の神獣という事です。
厄災指定の神獣とは、人の手では決して倒す事が出来ないだろうと言われている人に害を成す神獣で、この世にたった2体しか存在していません。
そして、『銀の厄災』以外のもう1体の神獣とは、20年前の黒龍戦争の時、西の大陸と東の大陸で暴れまくった『黒の厄災』現黒龍王国の王、黒龍なので、その凄さが分かりますよね。」
ケルベロス教のモンクである牛神·パウロが、興奮気味に『銀の厄災』について、早口で説明してくれた。
「その伝説級の『銀の厄災』を、大ボスはオナペットにしてるんだよな……」
牛魔王が青ざめた顔をして、額から冷や汗を流している。
勿論、先程まで、ブリジアを捕まえてマイホーム計画を鬱陶しいほど語っていた牛田さんも、同様に大量の冷や汗を、額からドバドバと流しているのだった。
これは余談だが、数百年後に3体目の厄災指定の神獣『紅の厄災』が誕生し、大陸中で大騒動を撒き起こすのは、また別のお話。
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