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108. 荒くれ冒険者達
しおりを挟む俺達『犬の肉球』は、イナーカダの冒険者ギルドの扉をゆっくりと開ける。
いつもは、扉という扉を勢いよく開けるのだが、今日に限っては、冒険者に舐められないといけないので、自信無さげにゆっくりと開けるのだ。
ギギギギギー
逆にゆっくり開けた事により、扉の金具の軋む音が響く。
「止めろー! もっと勢い良く開けてくれ!」
扉の開く音が、とても不快な音だったため、イナーカダ冒険者ギルド会館にいる冒険者達にダメージを与えてしまったようだ。
しかし、注目は集めた。
イナーカダ冒険者ギルド会館は、思った通り、冒険者ギルドとバーが併設した造りになっており、お酒の他にも、おつまみや、軽い食事が取れる形式になっているようだ。
「団長! 僕は取り敢えず、コアの換金を行っておきます!」
「私も!」
ネム王子とジュリは、そうそうと俺達から離脱する。
俺とアリスは、イナーカダ冒険者ギルドの館内を見渡す。
イナーカダ冒険者ギルドには、いかにも荒くれ冒険者のような奴らがわんさかいる。
以外とムササビや漆黒の森の冒険者ギルドにいる冒険者達より、貫禄があるように見える。
やはり、都会にいる冒険者達より、辺境にいる冒険者の方がハードコアなのかもしれない。
何せ、この城塞都市の近くにあるダンジョンは、殆どが未攻略ダンジョンなのだ。
攻略済のダンジョンと比べて、未攻略ダンジョンは、何十倍も危険なのだ。
ギルドランキング上位を狙う有力ギルドが、この辺境に集まってきていると言っても過言ではない。
そこへ、俺達『犬の肉球』幼少組が現れたのだ。
普通、この城塞都市に来るだけでもそれなりの戦闘力が必要だ。
一般人なら冒険者を雇って、来るようなド田舎なのだ。
そんなイナーカダ城塞都市の冒険者ギルド会館に、4歳児の俺やアリスが、フラッと、来る事自体が異質に見えるのだ。
冒険者達は、俺やアリス、ジュリやネム王子を見てヒソヒソ話合っている。
俺とアリスは、緊張しているフリをしながら、バーカウンターに座る。
「いらっしゃい! 何にする?」
冒険者ギルドの受付のお姉さんが、バーカウンターに移動してきて、注文を取りにくる。
『兄様、バーのマスターが、お約束の怖いオッサンじゃないのじゃ!』
アリスが念話で話し掛けてきた。
『確かに怖そうなオッサンじゃないが、しかし今更、計画の変更は出来ないからな!』
『了解なのじゃ!』
「テキーラダブルで頼む!」
「妾は、テキーラトリプルじゃ!」
俺とアリスは計画通り、テキーラを注文する。
「あの~すいません。テキーラトリプルは出来ません!」
受付けのお姉さんが、申し訳無さそうに謝ってきた。
「何故じゃ! 妾がチビッ子だからって、舐めているのか!」
アリスは、背伸びして、いきがった雰囲気を出しながら、受付のお姉さんに怒鳴りつける。
「いえ……ウチのお店のコップにトリプル入れると溢れちゃうんです!
だから、普通テキーラはショットグラスで飲みますから、3ショットならご用意出来ますよ!」
「……」
アリスは、とても恥ずかしかったのか、耳まで真っ赤にして固まってしまった。
「ワッハッハッハッハ!」
荒くれ冒険者達の大爆笑が起こる。
「オイ! 嬢ちゃん。お子様はミルクでも飲んで、大人しくしてな!」
荒くれ冒険者から、ヤジが飛ぶ。
その瞬間! 真っ赤になって固まっていたアリスが顔を上げ、パッと、ほころぶ!
「ミルク来たぁーーーーー!」
アリスは嬉しそうに、ガッツポーズをしてる。
その様子をカウンターで換金していたジュリが、ヤレヤレといった様子で見ている。
バーカウンターにいる受付のお姉さんと、冒険者達はアリスが何で喜んでいるのか分からない。
「やったな、アリス! ミルクは出て来なかったけど、ミルクという言葉を荒くれ冒険者から引き出したのは見事だった!
今回は、アリスの勝ちだな!」
俺は、アリスを褒め称える。
「やったのじゃ! 遂に兄様に勝ったのじゃ!」
アリスは飛び跳ねながら喜んでいる。
「ハイ、ご確認下さいませ! 800万マーブルです!」
カウンターで換金していたネム王子の前に、フレシア金貨が入ったずだ袋がズドン! と置かれる。
「「「何だって!800万マーブル?!」」」
荒くれ冒険者達の視線が、ネム王子に注がれる。
「ありがとう! 僕は貴方を信用してますので、確認なんかしませんよ!」
ネム王子は、歯をキラリと光らせながら王子スマイルをして、担当していた受付嬢をノックアウトさせてしまった。
多分、この場にシャンティ先生がいたら、間違いなくネム王子は殺されていただろう。
シャンティ先生は、お金に五月蝿いのだ。
換金したお金を確認しないなんて、『犬の肉球』では、絶対に許されない行いなのだ。
慌てて、ジュリが青い顔をしながら、お金を数えている。
「オイ! アイツら何もんだ!」
ようやく、荒くれ冒険者達が俺達の異様さに気がついたようだ。
「オイオイ! よく見ろよ! アイツら全員S級冒険者だぞ!」
「嘘だろ! あの歳でS級冒険者なんてある訳ないだろ!」
「でも、あの子見ろよ! 赤毛のダークエルフだぞ!
赤毛のダークエルフは、漆黒の森王族の証。
『犬の尻尾』の漆黒の森女王、ガブリエル·ツェペシュは、僅か3歳の時にはS級冒険者だったというし、あの子も赤毛のダークエルフという事は、もしかして漆黒の森の王族なんじゃないのか?」
「だったら有り得るな……
しかし、他の奴らはなんだ?
他の奴らも全員S級冒険者だぞ!」
イナーカダの冒険者ギルドが、何やら騒がしくなってきた。
アリスが、嬉しそうにプルプル震えている。
アリスは我慢出来ずに、バーカウンターの上に飛び乗り、いつもの演説を始める。
「ワッハッハッハッハ! 何やら妾達の事で盛り上がっているようじゃな!
フフフフフ、ならば教えてやるのじゃ!
妾達こそ、勇者輩出実績No.1ギルド、『犬の肉球』なのじゃ!
どうじゃ! 驚いたであろう! 」
アリスの高笑いが、イナーカダ冒険者ギルドに響き渡る。
「何だと! 『犬の肉球』だって!
今日、突然、ギルドランキング15位入りしたギルドじゃないか!」
「『犬の肉球』って、腹黒シャンティや剣聖ケンセイ、妖精アイドルエリスが居るギルドだろ!
復活したって、風の噂で聞いてたが、まさかこんな子供達だけでやってるのか?」
「というか、何で『犬の肉球』に、漆黒の森の王族がいるんだ?
『犬の肉球』って、『犬の尻尾』の不倶戴天の敵じゃなかったのか?」
何やら情報が錯綜しているようだ。
「ワッハッハッハッハ! 妾は『犬の肉球』のエリス母様とアレックス父様の娘なのでダークエルフじゃないのじゃ!
それから、『犬の尻尾』は、何を隠そう、妾の兄様が牛耳っておるのじゃ!」
何やら、アリスが言わなくてもいい事を、調子に乗って言い始める。
「何だと、『犬の尻尾』が『犬の肉球』の傘下になっただと?
そんな馬鹿な!
冒険者ギルド最強最悪ギルドといわれている『犬の尻尾』を傘下にできる筈がないだろ!
何せ、あのギルドは、元勇者ハラダ·ハナでさえ一番下っ端なんだぞ!
団長ガブリエル·ツェペシュを筆頭に、剣鬼ブリトニー·ロマンチック、最強の盾アン·ドラクエル、表には絶対出て来ないと言われる最凶のくノ一バハオウまでいるんだぞ!
挙句に、ケルベロス教の神獣ペロ様までいるんだ!」
イナーカダの荒くれ冒険者が、『犬の尻尾』の解説をしてくれている。
「フフフフフ、そのまさかじゃ!
ガブリエル·ツェペシュは、兄様に惚れてメロメロなのじゃ!」
アリスが、荒くれ冒険者を見てニヤリと笑う。
「な……何だとぉ……!
ガブリエル·ツェペシュは、ショタコンだったのか!」
荒くれ冒険者達は、驚愕した。
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