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第一章 ヨナン・グラスホッパー編
73. ザマー百裂拳
しおりを挟む『ご主人様……何、ニヤついてるんですか?
アスカに罵られて嬉しかったんですか?』
どうやら、ヨナンは、アスカに、「アンタ、覚えときなさい!」と罵られて、思わずニヤケてしまっていたようだ。
「ああ、嬉しいぜ! やっとアスカ本人に、直接ザマー出来たんだからな!」
『ザマーより、罵られた事の方に、ニヤついてたように見えたんですけど……』
「断じて違う!」
『いや……アスカの奴隷になってた時、嬉しそうにアスカの足の指を舐めてたじゃないですか?』
「それは、アスカの魅了スキルのせいであって、決して、俺の性癖じゃないからな!」
『本当ですか?』
「ああ! 決して違う。俺は、エドソン達を殺し、実の妹のナナをトップバリュー男爵の性〇隷にしたアスカを、心の底から憎んでるんだ!」
そう、ヨナンは決して忘れないのだ。性悪女アスカにされた酷過ぎる仕打ちを。
今でも、グラスホッパー商会の情報網全て使って、生き別れた本当の妹ナナを探してるが、一向に見つからないでいたのだ。
『それにしても、本当にナナさん見つかりませんね……』
「ああ。優秀なグラスホッパー商会の情報網を持ってしても見つからないって、もしかしたら、この国には居ないのかもしれんな……」
湿っぽい話をしながらも、カララム王国学園の至る所に設置したカメラと連動してる鑑定スキルによって、アスカの行動は、逐一、ヨナンから見て左斜め上にある小さなウィンドウに映し出されてたりする。
『アスカが、また、ルイ王子の前でハンカチ落としてますよ!』
鑑定スキルが、一々報告してくる。
「まあ、余っ程、最初のイベントの失敗が納得出来ないんだな」
そんなアスカのおバカな映像を見つつ、カララム王国学園の入学式が、講堂で始まる。
「まず初めに、生徒会長カレン・イーグルの話になります!」
司会者に言われて、カレンが壇上に上がる。
「エッ!? どういう事……ルイ王子が、生徒会長じゃないの?『恋愛イチャイチャキングダム』では、ルイ王子が生徒会長で、カレン・イーグルは、秋の剣術祭まで登場して来なかった筈なのに!」
アスカが、驚いてる姿が、逐一ヨナンの左端に固定されてる小さなウィンドウに映し出されている。
高性能マイクも、学園の至る所に設置されてるので、小声でもバッチリ声が聞こえちゃうのだ。
そんな映像や音声を、鑑定スキルは取捨選択して、ヨナンに提供している。
『どうやら、アスカがプレイしてた乙女ゲームは、恋愛イチャイチャキングダムって言う名の乙女ゲームみたいですね。
それから、どうやら、そのゲームの中では、ルイ王子が生徒会長だったらしいですよ?』
鑑定スキルが、念話で話しかけてくる。
因みに、ヨナンの独り言も現在、どういう理屈なのが、鑑定スキルが消音にしてたりする。
まあ、映像を流すのと、同じ原理とか、訳の分からない事を言っていた。
「ああ。なんか、結構変わってるようだな。多分、これって俺のせいだ……」
そう。ヨナンは、カララム王国国王に、レッドドラゴンの血を50ミリリットル献上した。
龍の血は、1ミリリットル飲めば、寿命が1年、20ミリリットル飲めば、20年寿命が延び若返る効能がある。
それは、龍の肉みたいに、1回限りの効能ではなく、何度でも繰り返し使えるとても貴重なマジックアイテムなのだ。
でもって、現在、カララム王国国王は、ドラゴン肉と龍の血で、16歳ぐらいにまで若返ってたりしている。
ルイ王子は、一応、第1王位継承者なのだが、最早、絶対に存命中に、カララム王国の王様にはなれないと言われているのだ。
それによって、急激に、ルイ王子のカララム王国内で地位が低下。
カララム王国学園でも、本来なら、カララム王国第1王子のルイ王子が生徒会長をやるのが通例なのだが、代わりに人気がある、カララム王国学園最強の女、剣鬼カレン・イーグルが、投票の末、カララム王国学園の生徒会長になってしまったとか。
『う~ん……確かに、ご主人様のせいですね……ですが、いつの間にか、アスカに、またザマー出来てますよ!』
鑑定スキルが、嬉しそうに指摘してくる。
「ああ。狙ってやった訳では無かったんだけどな……」
ヨナンは、思わず苦笑い。
アスカは、また、ハンカチを落とし呆然としている。
最早、ルイ王子を攻略しても、全く旨味がなくなってしまった事に気付いてしまったのだろう。
『ちょっと、可愛そうになりました?』
「いや、全く?自業自得だろ!」
こんな感じで、ヨナンは、アスカにザマーを、入学早々にも関わらず、たくさん成し遂げる事に成功したのだった。
ーーー
入学式から、数日後。
『ご主人様! 何かまた、イベントが開始しそうですよ!』
「おっ! 体育館裏だな! すぐ、行く!」
ヨナンは、いつどんな時でも、『恋愛イチャイチャキングダム』のイベントが始まりそうになると、走ってアスカの元に現れ、邪魔し続けていた。
「アンタ! 一体何なのよ!」
今回も、イベントをぶち壊されて、アスカがヨナンにブチ切れる。
「はっ? 何言ってんだ? たまたまだろ?」
ヨナンは、惚けてみせる。
「たまたまって、毎回『恋愛イチャイチャキングダム』のイベントの度に、見計らったようにやって来て邪魔しておいて、たまたまですって?!」
「何言ってんだ?『恋愛イチャイチャキングダム』?
言ってる意味が、全く分かんないんだけど?」
そう。ヨナンは、『恋愛イチャイチャキングダム』など、本当に知らない。
ただ、学園中に設置してるカメラの映像を見てから、急いで駆けつけてるだけだから。
最早、ストーカーと言った方が、正しかったりする。
「アンタ、私は分かってんだからね!
アンタが、私と同じ日本からの異世界転生者だって事!
普通、同じ異世界転生者なら、お互いの利益の為に、ここは協力する所じゃないの!」
「本当に、お前何言ってんだ? ちょっと、妄想癖がキショいんだが?」
ヨナンは、シラを貫き通す。
「キィッーー!! アンタがその気ならイイわよ! だけど覚悟しときなさい!
絶対に後悔させてやるんだから!」
アスカは、捨てセリフを吐いて去っていってしまった。
まあ、ヨナンの前から去っても、カララム王国学園中に設置されたカメラの映像が逐一、鑑定スキルに取捨選択されて、ヨナンの左斜め上の、あまり日常生活に気にならない位置で流れてるんだけどね。
勿論、シャワーシーンとかは、勝手に鑑定スキルがカットしたりしている。
『ご主人様、相当アスカは、イラついてますね』
「だな。このままボロボロになるまで、追い込み続けてやんよ! 俺が、アスカにされた恥辱や痛みに比べたら、まだまだ鼻糞ほどの仕返ししか出来てねーからな!」
ヨナンの仕返しは、まだまだ始まったばかりだった。
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