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168. 予選(3)

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 違う会場では、ナナとエリザベスの戦いが盛り上がっている。

「やるわね! ナナちゃんじゃなくて、ハツカちゃん!」

 エリザベスが、ナナを褒める。

「おば様も、とてもお強いです」

 ナナも、謙遜しながらも、エリザベスを褒める。

 ハッキリ言うと、ナナも強いが、エリザベスも相当強い。
 流石は、元No.1冒険者パーティーと言われていた、『熊の鉄槌』の団長である。

 そう、エリザベスのゴリラパンチは、1つ1つが滅茶苦茶重いのだ。
 素手なのに、カトリーヌの棍棒?並の破壊力がある。

 それにひきかえ、ナナの得物は木刀。
 もう既に分かっていると思うが、ナナの実力はこんなものじゃない。
 土木スキルを持つナナは、持つ得物により倍々とパワーアップするのだ。

「やっぱり、ヨナン君の妹ね! じゃなくて、養女ね!」

 エリザベスは、わざとやってるのか、所々、間違える。
 もしかしたら、ナナに、俺の実の妹だという事実を、サブリミナル効果で刷り込む作戦なのかもしれない。

「おば様も、まだ本気ではないですよね?」

 ナナは、冷静にエリザベスの実力を見極めてるようだ。

「流石、ヨナン君の実の妹ナナちゃん、じゃなくて、ヨナン君の養女ハツカちゃんね!
 まだ、確かに、私は奥の手を隠してるわ」

 なんか、やっぱり、サブリミナル効果を本気で狙ってるようである。
 エリザベスは、お金大好きなガメツイだけの女じゃないのだ。俺の母親として、俺とナナの事を真剣に考えてくれてるのだ。

 未だに、ナナに、実の兄だと告白出来ない俺の後押しを、なんとかしようと試みてると思われる。

 まあ、その手法が、とても馬鹿っぽく見える、サブリミナル効果作戦なのだが……

『なんか、ご主人様、エリザベスさんを馬鹿にしてます?』

 鑑定スキルが、勝手に俺の心を読んで突っ込んでくる。

「いやいや、してないから、有難く思ってるし」

『ですよ! あのエリザベスさんの馬鹿っぽい言い間違えは、ご主人様の事を思ってやってくれてるので、感謝しないといけないです!
 それが、どんなに馬鹿っぽかったとしても!』

 嘘が言えない鑑定スキルも、やはり、エリザベスの作戦の事を、馬鹿っぽいと思ってるようである。

 とか、鑑定スキルとお喋りしてる間にも、戦いは続いている。

 というか、エリザベスの体から炎が燃え上がり、焼身自殺のようになっている。

『ご主人様! それも、言い方悪いですよ!
 焼身自殺って、フェニックスみたいだとか、カッコ良い感じで言った方が良いと思います!』

 とか、ワチャワチャ言い合ってると、

「うおぉぉぉーー! アレが有名な、火拳のエリザベスか!」

 なんか、お貴族様達が盛り上がってる。
 そう、エリザベスは、ゴリラパンチのエリザベス以外にも、火拳のエリザベスという格好良い二つ名があるのだ。

 因みに、エリザベスが火拳のエリザベスと呼ばれてたのは、若い時で、まだ、公爵令嬢エリザベス時代。
 でもって、ゴリラパンチのエリザベスと呼ばれるようになったのは、冒険者になってから。
 気に食わない奴を、その剛拳で、有無を言わさず殴ってたら、そう呼ばれるようになったとか。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」

 エリザベスの滅茶苦茶なラッシュが続く。
 というか、メッチャ恐ろしい。
 最近は、出来る女の雰囲気を醸し出してたが、これが本来の荒くれエリザベスの本性なのだろう。

 気に食わない奴を、すぐボコボコにする姪っ子のカレンと、やってる事が瓜二つだし。

 まあ、カレンも火属性魔法が使えるので、エリザベスが火属性魔法が使えるのは、完全にイーグル辺境伯の血筋みたいである。

「それにしても、何で、エリザベスの奴、普通に、火魔法使わないんだ?」

 俺は、思わず疑問を口にする。

『それは、完全にイーグル辺境伯の血筋ですね。魔法使うより、直接殴りたいという本能が勝っちゃうんじゃないですか?
 カレンさんとエリザベスさんだけでなく、カトリーヌさんも、魔法の杖で、敵をボコボコにタコ殴りにしちゃいますし……』

「イーグル辺境伯の血筋の女って、どんだけ凶暴なんだよ……」

『まあ、エリザベスさんも、カトリーヌさんも、普段は猫かぶってるから、まだマシですよ!
 問題なのは、カレンさんと、アンさんですね!』

「カレンより、やっぱり、アン姉ちゃんだろ!
 アン姉ちゃんなんか、天然過ぎて、今まで、自分が人と違うと全く気付いて無かったんだから!
 俺が、どんだけ、アン姉ちゃんに、骨を折られた事か……
 しかも、アン姉ちゃんの場合、自分は全く悪くなくて、俺が虚弱体質だと本気で思ってたんだぞ!」

 俺は、当時の恐怖を思い出す。
 言うならば、握力500kgのゴリラと握手する感じで、俺は、アン姉ちゃんに木刀の握り方を教えて貰ったのだ。

 ボキボキ!!って、今でも、指の骨が粉砕骨折していく恐怖が忘れられないのだ。

 ちょっと脱線してしまったが、ナナは、エリザベスの炎を纏ったゴリラパンチの連打を、全て木刀でいなしている。

 だけれども、どうやら、パンチをいなすのが限界で、反撃する事が出来ないでいるようだ。

 まあ、だとしても、エリザベスも疲れるのか、手が止まってしまうのだけど。

 その隙を付いて、ナナは、ポケットの中から、別の木刀を取り出す。
 因みに、ナナの制服のポケットは、全て、魔法の鞄になってたりする。

 完全に、グラスホッパー商会の特注品で、しかも、俺自らが、鼻くそをほじりながら作ってやった特別製だったりする。

 ポケットが、全て魔法の鞄になってるのは勿論、完全消臭機能まで付けている。しかもGPS付き。
 これで、もう、ナナが何処に雲隠れしようとも、簡単に探し出す事が出来るのだ。

『完全にストーカーですね!』

「ストーカー言うな! 俺は、ただナナを守りたいだけなんだよ!」

 俺は、鑑定スキルに反論する。

『アッ! ご主人様、ナナさんが反撃にでましたよ!』

「当たり前だろ! アレは、ナナが大森林の木で作った木刀なんだから!」

 そう、俺は、ナナに大森林の木をプレゼントしてたのだ。
 これで、木刀を作るといいと。手紙を沿えてね。

 土木スキルを持つナナが、大森林の木で木刀を作れば、間違いなく、とんでもない木刀が出来あがるのだ。

 まあ、俺が大森林の木で作った木刀には、遠く及ばないけど。
 だけれども、大工スキルの劣化版の土木スキルで、木刀を作ればとんでもないものが、出来上がってしまうのである。

 しかも、その大森林の木で作った木刀を使うのが、これまた、土木スキルを持ってるナナ。
 また、倍々でパワーアップしてしまうのであった。

 ズダン! ズダン!

 ナナの剣撃は、一々速く、そして重い。

 エリザベスは、両腕をクロスしてなんとか受け止めるが、ナナは、容赦なく木刀を振り抜く。

 というか、もう既に、エリザベスの腕は粉砕骨折していて、腕がアチコチおかしな方向に向いていたりする。

「これ、ヤバイんじゃ……」

『ヤバイですね……』

 とか、思ってると、エリザベスは、両手を上げて降参のポーズを取る。

「ゴメンなさい。この後、屋台の応援に行かなといけないから、これ以上、腕を怪我する訳にはいかないの」

 そういえば、エリザベスは、お昼の繁盛時間に、ビクトリア婆ちゃんが出店してる、稲荷寿司の屋台を手伝うと言っていた。

 今回、ビクトリア婆ちゃんは、エリザベスの代わりに、カララム王国剣術祭に出店してる飲食店の取り纏めをしてるのだ。

 でもって、一番良い場所に、九尾教の現人神であるココノエを売り子にして、稲荷寿司屋を開いて一儲けしようと画策していたのであった。

 まあ、兎に角、そんな感じで、エリザベスは棄権して、見事、ナナも予選突破を成し遂げたのであった。

 そう、大人になったエリザベスは、闘争より、商売大好き、お金大好きな、ガメツイおばちゃんになっていたのだ。

『ご主人様、言い方!』
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