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024話
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♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「ただいまー!討伐してきたよー!」
ギルドへと入った俺は開口一番、受付にいるレニーへと話しかける。中には冒険者達が居たが、俺達が見えた瞬間に人垣が割れる。
「アイツらだけで…?」
「いや、倒したとか嘘だろ?」
「アイツら何者だ?」
「知らん。駆け出しじゃないのか?」
ヒソヒソと俺達をチラ見しながら、冒険者達が話し合っている。そういうのはあまり気にしない俺でも、この視線は好きではない。
「ア、アルスさん!本当にと、討伐したんですか!?」
目をパチクリさせながら、レニーが尋ねる。
「うん。兵士達も全員無事だよ」
「ボクとチカが回復させた」
「怪我人を治すのは私達しか出来ませんからね」
「……ムカッ」
「はぁー…。喧嘩売るような真似すんなって。怒るよ」
「「…しゅみましぇん」」
普段よりキツめの言い方をすると、見るからにチカ達はしょんぼりと肩を落とした。
「…な、何が起きてるのか分からないですけど、討伐って事でいいんでしょうか…?」
チカ達をチラ見しながら、何とも言えない表情でレニーが話す。
「んー…おっと、レニーさんよりも適任者が来たよ」
俺の目線に釣られてレニーは階段の上を見る。そこにはコンラッドが居た。
「気付いていたか。…レニー、後は俺の仕事だ」
着いてこいと言わんばかりにコンラッドは自分の部屋へと戻る。
「お前ら、コンラッドさんの部屋に行くぞ」
チカ達を引き連れ、コンラッドの後を追う。階段まで埋まっていた人垣がまた割れる。その中を進んで行くのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「失礼しますよっと」
前回とは違い、ノックせずに入る。その失礼な振る舞いをコンラッドは注意しない。
「ああ、全員そこのソファーに座ってくれ」
飲み物を準備しながら、コンラッドは俺達を促す。全員が席に着いた所で、コンラッドか自分の机の前に立つ。
……飲み物は自分のだけかよ!
「ふぅ……。さて、まずは礼を言わせてくれ。お前達のお陰でこの街、そして兵士達が救われた」
深々と頭を下げるコンラッド。
「いいよコンラッドさん。俺もドーンが危ないって聞いたから出向いたし。それに、チカ達も助けたいって言ってたからね」
「それでもだ。…俺に出来るものがあれば何かお礼をしたいのだよ。それくらい、感謝しているんだ」
俺達を見つめる眼差しはとても熱い。…でもうっすらと笑っているような気がするのは俺だけか?
「お礼って言ってもねぇ……。何か欲しい物ある?」
チカ達に問いかけると、全員首を振る。
「…だよねぇ。コンラッドさん、俺達はお礼なんて要らないよ」
「…そうか。ならば致し方無いな」
ニヤリと口元を歪め、コンラッドは話を続ける。
「アルス、お前達のランクをD+にすると言っていたな。覚えているか?」
「ああ。コンラッドさんが書類を作るって言ってたよな」
オアシスの件だったよな?でも、あれから音沙汰無いし、どうなってるんだろうとは気になってた。
「ああ、その件だ。…しかし、今回の功績を追加しなければならない」
……あ、何となく読めたぞ?
「いやぁ、本来ならD+昇格の書類を出すはずだったんだが、まだ出さなくて良かったなぁ」
コンラッドは嬉々とした表情で机に戻ると一枚の紙を取り出す。
「さてさて、アルス達が欲しい物でもあればこれになる事は無かったのだが、何も無いと言うからなぁ。仕方ないよなぁ」
満面の笑み--或いは邪悪--を浮かべ、俺にその紙を渡す。
「………Cランク昇級書」
紙の上に書いてある文字を口に出すと、高らかな笑い声が聞こえた。
「そうだ。お前らに物欲が無いから、俺に出来る事はこれしか無いのだ。いやぁ、お前達ラッキーだったな!」
何がラッキーじゃ!!ラッキーだったのはおめーじゃねーか!
「アルス様、それは何ですか?」
俺の持っている紙に疑問を持ったチカが問いかけてきた。
「ああ、これは俺達の冒険者ランクが上がりますよーって言う書類だ。簡単に言うと、ランクアップだな」
まぁ、コンラッドに嵌められたって言い方が正しいかもだけどね。
この件に対してネガティブな感情を持っていたが、チカ達は違ったようだ。
「ランクアップですか!?それなら私達強くなれたって事ですよね!」
「嬉しい。また星が1つ増えた」
「おおー!なんかキラキラ輝いてる気がする!」
…違う。そのランクアップじゃ無いんだよ…。キラキラもしてないよ…。
先程まで喧嘩していたのが嘘のように、チカ達は仲良く喋り合っている。乳がデカくなったとか、身長が伸びたとか外見的に変わったと喋っている。……変わってないから!!
「そうだ!お前達はCランク冒険者になったのだ!」
チカ達が勘違いして喜んでいるのを、コンラッド喜んでると勘違いする。この場でまともなのは俺だけのようだ。
「あー……それで?Cランクになって何か特典でもあるのか?」
変な質問となってしまったが、無理矢理話題を変えた。
「特に何も無いぞ?まぁ、Aランクに昇格となれば国王陛下に謁見する事があるとは思うが…」
何も無いんかい。見返り無しとか、冒険者ってのは夢が無い仕事だな。
「まぁ、Cランクになったという事は沢山の依頼が受けれる様になったという事だ。それに、サガンの街ではCランク冒険者は色々と優遇されるぞ?」
「ふーん…?例えばどんなのだよ」
「まぁ、家を購入するとき3割引とか通行料免除とかだな」
「は!?通行料?なんだそれ!?」
「うん?説明してなかったか?ギルドで外に出る依頼を受ける時手数料として、10G引いているんだぞ?」
…し、知らなかった。それじゃ、他の駆け出しの冒険者達は少ない報酬から更に引かれていたのか…。
「駆け出しは金が必要なのに…可哀想だな」
まぁ、俺は金持ってたからそれは別に良いんだけどさ。
「だから、最初は顔を売れと言っただろう?ギルドを通さない依頼であれば、通行料は取らん」
「…ん?つーことは、ギルドの運営費をそこから徴収してるって事か?」
「無論だ。こちらも慈善活動では無いからな。それとは別に、依頼主からもランクによって依頼料を貰っているがな」
な、なんてこった…。コイツら金勘定に対しては物凄いがめついぞ!
「ちょっと待てよ?…つーことは、ギルドを介さなければ手数料は取らないって事?」
「その通りだ。お使い程度に手数料を出すのも馬鹿げている話だろう?まぁ、直接交渉してもギルドを介してないからポイントは貰えんがな」
くそぅ、なんて良く出来た仕組みなんだ。
簡単に言うと、『ギルドを通せば、ポイントと手数料を引かれた報酬が貰える。直接だとまともな金額が手に入るが、ポイントは貰えない』という事だ。
「はぁー…なるほどなぁ、よく出来てるわ。感心するよ」
「これは冒険者業として普通の事なんだがな。知らない奴はお前くらいだと思うぞ?」
仕組みについて感心していると、部屋をノックする音が聞こえた。
「おっ。随分と早い到着だな」
コンラッドがドアの前に行き、ノックした人物を招き入れる。
部屋へと入ってきた人物は、立派な顎髭を蓄えた男であった。
んー…どこかで見たような気がするな。
部屋へと入った男は足早に俺たちの元へと向かって来る。
「…アルスよ。オレの事を覚えているか?」
「えっ?あっ…えーっと……」
「…まぁ、無理も無いな。オレとは牢屋で会っているぞ?」
牢屋??俺、犯罪者の友達なんて居ないんだけど?
「牢屋…??んー???」
「……フィンを救ってくれただろう?覚えていないのか?」
「--ああっ!!フィンの叔父さん!!」
思い出した!俺達が捕まった時にフィンの横に居たダンディなおっさんか!!
「くっくっくっ。カーバイン、どうやら名前は覚えられてない様だな」
名前も何も、聞いた覚えないんだけど?
「ぬぅ……。アルスよ、オレの名前はカーバイン。サガンを守る兵士団の長だ」
「あ、ども…。アルスです」
挨拶を終えると、カーバインが俺の隣にドシリと座る。4人は座れる広さなので、狭くは無い。
「ああ、アルス。カーバインはお前に伝えたい事があるそうだ」
「え?何ですか?」
コンラッドがカーバインを促すと、カーバインがこちらを振り向き、ガッシリと手を握る。
「アルスよ!またもや貴殿に助けられた!!」
いきなりの大声に俺は飛び跳ねる。チカ達も驚いたのか、耳を塞いでいる。
「前はフィンの命。そして、今回は我が兵士達の命!貴殿には沢山の命を救ってもらっている!本当に、本当に感謝するっ!!!!」
力強く手を握られながら、頭を下げられる。…感謝してくれるのは分かるけど、痛いってば!
「あー別に気にしないでくだ--
「貴殿が居なければ!住民まで危険が及んでいたであろう!」
ち、近い!!そんなに顔を近づけないでくれ!!
「礼として、貴殿が望む物を用意しよう!!!!!」
「いや、もう礼とかお腹いっぱいなんで要らない--
「ならば!!貴殿らが望む額を準備しよう!!冒険者には金が必要であろう!!!」
ああああああ!そう言えばこの人体育会系だった!!本当に人の話聞かねーのな!!
「要らないですって!!本当にそんな事しなくていいですって!」
大声で拒絶を表すと、その声に連動する様にチカ達の雰囲気が変わる。その雰囲気に当てられてか、カーバインは落ち着きを取り戻す。
「……すまない、興奮していた様だ。許してほしい…」
「…はい。本当に気にしないで下さい」
俺が落ち着く様目配せすると、チカ達の雰囲気は戻る。
「…さて、アルス、カーバイン。落ち着いた所で本題に入ろう」
コンラッドが真面目な顔をして自分の椅子に座る。
「アルス、お前が前提案した話を覚えているか?」
「提案…?」
「兵士団とギルドの両方に所属するという話だ」
「ああ、その話ね。覚えているよ」
「あの後、カーバインにもその話を伝え了承は取っておいた。『アルスが街の住民に顔を覚えられ、実力を証明したら』という制限付きだったがな」
「仕方ないだろう。知らない奴が街を守ると言っては反感を買うかも知れんからな。…最初っから兵士団に所属すれば大丈夫だったのだがな…」
「カーバイン。その話はもう終わった事だろう。アルス自身が選んだ事なんだから」
「…お前が横取りしようと企まなければ、話は簡単になったものを」
「…人聞きの悪い事は言わないでくれ。あくまでも、本人の希望を尊重しただけだ」
…本人の前で争わないで欲しいんだけど。どういう顔しとけばいいか分からねーじゃん!
「…で?話が逸れているみたいだけど、続きは?」
静かに睨み合っていたコンラッド達に声をかけると、話の続きをしてくれる。
「ああ、すまない。…幸か不幸か、アルス達の実力は今回ので兵士達に充分知れ渡った。今頃、生存した兵士が同僚に話しているだろう」
「ここに来るまでに、色々と話を耳にしたぞ。それに、住民達にもその話はもう伝わっているだろう」
…また噂か。変な噂になってない事を祈る。
「そうそう、アルス達とこの前宴会を開いた時に、俺は住民から色々とお前達の話を聞いたぞ?…まぁ、中身は言わないが全員が好感を持っていたぞ」
「は、はぁ…。それは良かったって事ですか?」
「ああ。これで、実力と売名行為は済んだ。後は、お前達を両方に組み込むだけとなった」
「…確認なのだが、アルスよ。お前が言った『ウチとギルドの両方に所属する』という意思に変わりはないか?」
コンラッド達が俺を真っ直ぐに見つめる。もちろん、あの時の言葉はチカ達と話し合って決めた事だから偽りでは無い。
「はい。その気持ちには変わりありません」
俺の言葉に満足げに頷くカーバイン達。少し重かった雰囲気が霧散していく。
「…そうか。それではアルスよ!これからも共に宜しく頼む!」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
カーバインとガッチリ握手を交わす。そのままチカ達とも握手するが、俺の時とは違い、優しく握手をしていく。
こうして、俺達はサガンの兵士団とギルドの両方に所属する事となった。この様な事は前代未聞の為、色々とする事があるという。正式に兵士団として活動するのは辺境伯からの許可が下りてからとの事だった。それまでは、依頼を受けたり、遊んでいても構わないとの事。
それと、兵士団に所属すると言ったが俺達はあくまでも『冒険者』であり、兵士団と共に戦う事はない。『独立遊軍』として組織に組み込まれるらしい。俺としてもそっちの方が多いに助かる。何せ兵士団って言うと、イメージ的に厳しい感じがするからだ。
……俺はヘタレだから、そういうのは本当に苦手。強制的にだったら従うけど、自ら進んではしたくない。
その他にも色々と話をし、時刻はもう20時となっていた。カーバインもコンラッドもまだ仕事が残っているらしく、俺達だけ先に帰る事にした。
外に出ると、満天の星空が見える。これからの事を考えると、少々面倒くさい位置にいると思う。けど、流れに身を任せながら進むしかないと、自分を慰めつつ宿へと帰っていくのであった。
「ただいまー!討伐してきたよー!」
ギルドへと入った俺は開口一番、受付にいるレニーへと話しかける。中には冒険者達が居たが、俺達が見えた瞬間に人垣が割れる。
「アイツらだけで…?」
「いや、倒したとか嘘だろ?」
「アイツら何者だ?」
「知らん。駆け出しじゃないのか?」
ヒソヒソと俺達をチラ見しながら、冒険者達が話し合っている。そういうのはあまり気にしない俺でも、この視線は好きではない。
「ア、アルスさん!本当にと、討伐したんですか!?」
目をパチクリさせながら、レニーが尋ねる。
「うん。兵士達も全員無事だよ」
「ボクとチカが回復させた」
「怪我人を治すのは私達しか出来ませんからね」
「……ムカッ」
「はぁー…。喧嘩売るような真似すんなって。怒るよ」
「「…しゅみましぇん」」
普段よりキツめの言い方をすると、見るからにチカ達はしょんぼりと肩を落とした。
「…な、何が起きてるのか分からないですけど、討伐って事でいいんでしょうか…?」
チカ達をチラ見しながら、何とも言えない表情でレニーが話す。
「んー…おっと、レニーさんよりも適任者が来たよ」
俺の目線に釣られてレニーは階段の上を見る。そこにはコンラッドが居た。
「気付いていたか。…レニー、後は俺の仕事だ」
着いてこいと言わんばかりにコンラッドは自分の部屋へと戻る。
「お前ら、コンラッドさんの部屋に行くぞ」
チカ達を引き連れ、コンラッドの後を追う。階段まで埋まっていた人垣がまた割れる。その中を進んで行くのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「失礼しますよっと」
前回とは違い、ノックせずに入る。その失礼な振る舞いをコンラッドは注意しない。
「ああ、全員そこのソファーに座ってくれ」
飲み物を準備しながら、コンラッドは俺達を促す。全員が席に着いた所で、コンラッドか自分の机の前に立つ。
……飲み物は自分のだけかよ!
「ふぅ……。さて、まずは礼を言わせてくれ。お前達のお陰でこの街、そして兵士達が救われた」
深々と頭を下げるコンラッド。
「いいよコンラッドさん。俺もドーンが危ないって聞いたから出向いたし。それに、チカ達も助けたいって言ってたからね」
「それでもだ。…俺に出来るものがあれば何かお礼をしたいのだよ。それくらい、感謝しているんだ」
俺達を見つめる眼差しはとても熱い。…でもうっすらと笑っているような気がするのは俺だけか?
「お礼って言ってもねぇ……。何か欲しい物ある?」
チカ達に問いかけると、全員首を振る。
「…だよねぇ。コンラッドさん、俺達はお礼なんて要らないよ」
「…そうか。ならば致し方無いな」
ニヤリと口元を歪め、コンラッドは話を続ける。
「アルス、お前達のランクをD+にすると言っていたな。覚えているか?」
「ああ。コンラッドさんが書類を作るって言ってたよな」
オアシスの件だったよな?でも、あれから音沙汰無いし、どうなってるんだろうとは気になってた。
「ああ、その件だ。…しかし、今回の功績を追加しなければならない」
……あ、何となく読めたぞ?
「いやぁ、本来ならD+昇格の書類を出すはずだったんだが、まだ出さなくて良かったなぁ」
コンラッドは嬉々とした表情で机に戻ると一枚の紙を取り出す。
「さてさて、アルス達が欲しい物でもあればこれになる事は無かったのだが、何も無いと言うからなぁ。仕方ないよなぁ」
満面の笑み--或いは邪悪--を浮かべ、俺にその紙を渡す。
「………Cランク昇級書」
紙の上に書いてある文字を口に出すと、高らかな笑い声が聞こえた。
「そうだ。お前らに物欲が無いから、俺に出来る事はこれしか無いのだ。いやぁ、お前達ラッキーだったな!」
何がラッキーじゃ!!ラッキーだったのはおめーじゃねーか!
「アルス様、それは何ですか?」
俺の持っている紙に疑問を持ったチカが問いかけてきた。
「ああ、これは俺達の冒険者ランクが上がりますよーって言う書類だ。簡単に言うと、ランクアップだな」
まぁ、コンラッドに嵌められたって言い方が正しいかもだけどね。
この件に対してネガティブな感情を持っていたが、チカ達は違ったようだ。
「ランクアップですか!?それなら私達強くなれたって事ですよね!」
「嬉しい。また星が1つ増えた」
「おおー!なんかキラキラ輝いてる気がする!」
…違う。そのランクアップじゃ無いんだよ…。キラキラもしてないよ…。
先程まで喧嘩していたのが嘘のように、チカ達は仲良く喋り合っている。乳がデカくなったとか、身長が伸びたとか外見的に変わったと喋っている。……変わってないから!!
「そうだ!お前達はCランク冒険者になったのだ!」
チカ達が勘違いして喜んでいるのを、コンラッド喜んでると勘違いする。この場でまともなのは俺だけのようだ。
「あー……それで?Cランクになって何か特典でもあるのか?」
変な質問となってしまったが、無理矢理話題を変えた。
「特に何も無いぞ?まぁ、Aランクに昇格となれば国王陛下に謁見する事があるとは思うが…」
何も無いんかい。見返り無しとか、冒険者ってのは夢が無い仕事だな。
「まぁ、Cランクになったという事は沢山の依頼が受けれる様になったという事だ。それに、サガンの街ではCランク冒険者は色々と優遇されるぞ?」
「ふーん…?例えばどんなのだよ」
「まぁ、家を購入するとき3割引とか通行料免除とかだな」
「は!?通行料?なんだそれ!?」
「うん?説明してなかったか?ギルドで外に出る依頼を受ける時手数料として、10G引いているんだぞ?」
…し、知らなかった。それじゃ、他の駆け出しの冒険者達は少ない報酬から更に引かれていたのか…。
「駆け出しは金が必要なのに…可哀想だな」
まぁ、俺は金持ってたからそれは別に良いんだけどさ。
「だから、最初は顔を売れと言っただろう?ギルドを通さない依頼であれば、通行料は取らん」
「…ん?つーことは、ギルドの運営費をそこから徴収してるって事か?」
「無論だ。こちらも慈善活動では無いからな。それとは別に、依頼主からもランクによって依頼料を貰っているがな」
な、なんてこった…。コイツら金勘定に対しては物凄いがめついぞ!
「ちょっと待てよ?…つーことは、ギルドを介さなければ手数料は取らないって事?」
「その通りだ。お使い程度に手数料を出すのも馬鹿げている話だろう?まぁ、直接交渉してもギルドを介してないからポイントは貰えんがな」
くそぅ、なんて良く出来た仕組みなんだ。
簡単に言うと、『ギルドを通せば、ポイントと手数料を引かれた報酬が貰える。直接だとまともな金額が手に入るが、ポイントは貰えない』という事だ。
「はぁー…なるほどなぁ、よく出来てるわ。感心するよ」
「これは冒険者業として普通の事なんだがな。知らない奴はお前くらいだと思うぞ?」
仕組みについて感心していると、部屋をノックする音が聞こえた。
「おっ。随分と早い到着だな」
コンラッドがドアの前に行き、ノックした人物を招き入れる。
部屋へと入ってきた人物は、立派な顎髭を蓄えた男であった。
んー…どこかで見たような気がするな。
部屋へと入った男は足早に俺たちの元へと向かって来る。
「…アルスよ。オレの事を覚えているか?」
「えっ?あっ…えーっと……」
「…まぁ、無理も無いな。オレとは牢屋で会っているぞ?」
牢屋??俺、犯罪者の友達なんて居ないんだけど?
「牢屋…??んー???」
「……フィンを救ってくれただろう?覚えていないのか?」
「--ああっ!!フィンの叔父さん!!」
思い出した!俺達が捕まった時にフィンの横に居たダンディなおっさんか!!
「くっくっくっ。カーバイン、どうやら名前は覚えられてない様だな」
名前も何も、聞いた覚えないんだけど?
「ぬぅ……。アルスよ、オレの名前はカーバイン。サガンを守る兵士団の長だ」
「あ、ども…。アルスです」
挨拶を終えると、カーバインが俺の隣にドシリと座る。4人は座れる広さなので、狭くは無い。
「ああ、アルス。カーバインはお前に伝えたい事があるそうだ」
「え?何ですか?」
コンラッドがカーバインを促すと、カーバインがこちらを振り向き、ガッシリと手を握る。
「アルスよ!またもや貴殿に助けられた!!」
いきなりの大声に俺は飛び跳ねる。チカ達も驚いたのか、耳を塞いでいる。
「前はフィンの命。そして、今回は我が兵士達の命!貴殿には沢山の命を救ってもらっている!本当に、本当に感謝するっ!!!!」
力強く手を握られながら、頭を下げられる。…感謝してくれるのは分かるけど、痛いってば!
「あー別に気にしないでくだ--
「貴殿が居なければ!住民まで危険が及んでいたであろう!」
ち、近い!!そんなに顔を近づけないでくれ!!
「礼として、貴殿が望む物を用意しよう!!!!!」
「いや、もう礼とかお腹いっぱいなんで要らない--
「ならば!!貴殿らが望む額を準備しよう!!冒険者には金が必要であろう!!!」
ああああああ!そう言えばこの人体育会系だった!!本当に人の話聞かねーのな!!
「要らないですって!!本当にそんな事しなくていいですって!」
大声で拒絶を表すと、その声に連動する様にチカ達の雰囲気が変わる。その雰囲気に当てられてか、カーバインは落ち着きを取り戻す。
「……すまない、興奮していた様だ。許してほしい…」
「…はい。本当に気にしないで下さい」
俺が落ち着く様目配せすると、チカ達の雰囲気は戻る。
「…さて、アルス、カーバイン。落ち着いた所で本題に入ろう」
コンラッドが真面目な顔をして自分の椅子に座る。
「アルス、お前が前提案した話を覚えているか?」
「提案…?」
「兵士団とギルドの両方に所属するという話だ」
「ああ、その話ね。覚えているよ」
「あの後、カーバインにもその話を伝え了承は取っておいた。『アルスが街の住民に顔を覚えられ、実力を証明したら』という制限付きだったがな」
「仕方ないだろう。知らない奴が街を守ると言っては反感を買うかも知れんからな。…最初っから兵士団に所属すれば大丈夫だったのだがな…」
「カーバイン。その話はもう終わった事だろう。アルス自身が選んだ事なんだから」
「…お前が横取りしようと企まなければ、話は簡単になったものを」
「…人聞きの悪い事は言わないでくれ。あくまでも、本人の希望を尊重しただけだ」
…本人の前で争わないで欲しいんだけど。どういう顔しとけばいいか分からねーじゃん!
「…で?話が逸れているみたいだけど、続きは?」
静かに睨み合っていたコンラッド達に声をかけると、話の続きをしてくれる。
「ああ、すまない。…幸か不幸か、アルス達の実力は今回ので兵士達に充分知れ渡った。今頃、生存した兵士が同僚に話しているだろう」
「ここに来るまでに、色々と話を耳にしたぞ。それに、住民達にもその話はもう伝わっているだろう」
…また噂か。変な噂になってない事を祈る。
「そうそう、アルス達とこの前宴会を開いた時に、俺は住民から色々とお前達の話を聞いたぞ?…まぁ、中身は言わないが全員が好感を持っていたぞ」
「は、はぁ…。それは良かったって事ですか?」
「ああ。これで、実力と売名行為は済んだ。後は、お前達を両方に組み込むだけとなった」
「…確認なのだが、アルスよ。お前が言った『ウチとギルドの両方に所属する』という意思に変わりはないか?」
コンラッド達が俺を真っ直ぐに見つめる。もちろん、あの時の言葉はチカ達と話し合って決めた事だから偽りでは無い。
「はい。その気持ちには変わりありません」
俺の言葉に満足げに頷くカーバイン達。少し重かった雰囲気が霧散していく。
「…そうか。それではアルスよ!これからも共に宜しく頼む!」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
カーバインとガッチリ握手を交わす。そのままチカ達とも握手するが、俺の時とは違い、優しく握手をしていく。
こうして、俺達はサガンの兵士団とギルドの両方に所属する事となった。この様な事は前代未聞の為、色々とする事があるという。正式に兵士団として活動するのは辺境伯からの許可が下りてからとの事だった。それまでは、依頼を受けたり、遊んでいても構わないとの事。
それと、兵士団に所属すると言ったが俺達はあくまでも『冒険者』であり、兵士団と共に戦う事はない。『独立遊軍』として組織に組み込まれるらしい。俺としてもそっちの方が多いに助かる。何せ兵士団って言うと、イメージ的に厳しい感じがするからだ。
……俺はヘタレだから、そういうのは本当に苦手。強制的にだったら従うけど、自ら進んではしたくない。
その他にも色々と話をし、時刻はもう20時となっていた。カーバインもコンラッドもまだ仕事が残っているらしく、俺達だけ先に帰る事にした。
外に出ると、満天の星空が見える。これからの事を考えると、少々面倒くさい位置にいると思う。けど、流れに身を任せながら進むしかないと、自分を慰めつつ宿へと帰っていくのであった。
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しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。
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これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?
依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、
いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。
誰かこの悪循環、何とかして!
まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて
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