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045話

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「…そんなに出現してんのか?」

「ああ、アルスさんが出た後ぐらいからかな?まぁ、数はそんなにも無いけど、決まった時間に攻めてくるんだよ」

「……なんか奇妙だな。その決まった時間って何時---
「アルス様、ここじゃなんですし何処かでお話をした方が良いかと…。人通りも増えてきて、邪魔って声がちらほら聞こえてきますわ…」

我に返り周囲を見回すと、通りの真ん中で立ち止まって話をしている俺達に冷たい目線が向けられていた。

「そ、そうだな。おい、ドーン。とりあえずギルドに向かおうぜ。そこで話の続きを聞かせてくれ」

その場から逃げるように俺達はギルドへと向かい、中に併設してある酒場に入る。

「…ふぅ、ちょっと喉乾いたな…。なんか飲むか?」

「酒以外を頼む。…もちろんアルスさんのオゴリだよな?」

「はいはい。…すいませーん、メニューください」

「ドーンさん、僕はギルドマスターにこの書状を届けに行きますね」

「ああ、よろしく。お前が帰ってくるまで、アルスさんと話をしとくよ」

「それじゃ、皆さん。また後で」

そういうとフィンは受付へと消えていった。店員がメニューを持って来てくれ、適当にジュースを頼む。

「…アルスお兄ちゃん、この『苺みるく』っての美味しいの?」

「美味しいよ。…甘い物が苦手じゃなかったらね」

「…なら僕コレにする」

レインが自分で注文をしていると、不思議な顔をしたドーンが視界に入る。

「…ん?どうした?そんな変な顔して」

「…アルスさん、その子は一体…??」

「その子…?ああ、レインの事ね。訳あって俺達で保護した子だよ」

「…ビックリした。遂に子供を作ったのかと焦ったぜ…」

「俺が??ハハハ、ねーよ!まだ嫁さんも見つけてねーのに、子供をどうやって作るんだよ?」

「…はぁ。チカちゃん達も気の毒だぜ…」

「ん?なんか言ったか?」

「何にも言ってねーよ。…それで、どういう経由で保護したんだ?言えない感じだったら聞かねーけどさ」

「ああ、話せば長くなるけどよ…………

それからドーンに、俺達とレインの出会いを全て話した。いずれはサガンにも連れて行く予定なので、隠す理由が無いと思ってだ。

「……へぇー。そんな事があったんだなぁ。…しっかしまぁ、行く先々でよく問題を起こす人だなぁ、アルスさんは」

「好きで起こしてる訳じゃねーよ。巻き込まれる体質なんだよ」

「体質ねぇ…。トラブルメーカーの様な気がするけど…。っと、フィンが帰ってきたぜ」

ドーンの目線に釣られて動かすと、階段を降りてくるフィンの姿が目に入った。そのまま、フィンはこちらへと向かってくる。

「おう、お疲れさん。えらく時間かかったな?ギルマスに何か言われたか?」

席に座ろうとするフィンにドーンが話しかける。やや、疲れた顔をしながらフィンは飲み物を頼んでいた。

「何かコンラッドさんからの書状に、ムカつく所があったみたいで…。延々と愚痴を聞かされてました」

「…そ、それは大変だったな」

「…アルスさん、一体何しでかしたんです?連絡用の水晶でコンラッドさん達喧嘩してましたよ?アルスさんの話題で」

「…ん?俺何もしてないぞ??なぁ、ローリィ?」

「うんっ!!!ご主人様は何もしてないよ!」

俺の問い掛けに満面の笑みで返事をするローリィ。その笑顔が眩しかったのか、フィンは顔を俯かせる。

「フィン…余計な事聴くとお前がコンラッドさんにまた責められるぞ?」

「そうですね…。イタタタッ……また胃が痛くなって来ました」

「どうしたんだフィン??何か悪い物でも食べたのか??」

「何も食べてないですよ…。ここ最近ストレスの所為か胃が痛いんですよね…」

「ストレス…?なんかムカつくことでもあったのか?」

「……色々あるんですよ。僕にも」

そういうとフィンはポケットから何かを取り出し、水とともに飲む。胃のあたりをさすりながら、話題を変える。

「…ふぅ。そういえば、アルスさん達はどこかへお出かけだったんじゃないですか?」

「ん?…ああ、買い物に行く途中だったんだよ。俺のなんだけどね」

「アルスさんのですか?…沢山持ってるイメージなんですが…」

「俺が持ってんのは、防具ばっかりだからなー。普段着なんかは全く持ってないんだよ」

「そういや、アルスさんはいつも同じ鎧着てるもんな。チカさん達はコロコロ服が変わってるけど」

「それはアルス様が私達を優先してくださったからですわ」

「愛されるねーチカさん達は」

ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら、ドーンは俺を見る。何か言いたい事があるのかと思い、聞こうと思ったがフィンが先に口を開いた。

「愛されてると言えばドーンさん、アルスさんにあの事言わなくていいんですか?」

「あの事??何のことだよドーン?」

「…あー……いや別に、そんな今言わなくても良いのかなー…なんて」

急に話を振られたドーンが激しく動揺し始める。

「なんだぁ?そんな様を見せられたら気になるじゃねーか?」

「いやぁ、そのだな………フィン、お前から言ってくれ」

「あの事はドーンさんから言った方が良いと思いますよ!そんなんだからヘレナさんに怒られるんですよ!!」

「うん…そうだよね……だから怒んないで?お前が怒ると心臓に悪い…」

「はぁ……。ほら、早く言ってください!!」

ドーンは注文した飲み物を一気に飲むと、しぶしぶながら口を開いた。

「…あのよ…そのー………出来たみたいなんだ」

「出来た??何がだ?」

「そのぅ……ヘレナのお腹によ、出来たんだよ」

その言葉で俺の脳みそはフル回転した。…出来たってのは赤ちゃんが出来たって事なんだよな??

「…それは、お前とヘレナさんの間に子供が出来たって事か?」

「…そうらしい。た、待望の子供がな、出来たんだよ!!」

アルコールは入ってないはずなのだが、ドーンの顔はとても赤い。祝福の言葉を言おうとした時、先に口を開かれた。

「おめでとうございますドーンさん!!!」
「男??女か???」
「うわああああああ!ほんとにおめでとうっ!!」

チカ達が席から勢い良く立ち上がり、ドーンへ近寄り肩を叩く。少し出遅れたが俺もドーンに祝福の言葉を送る。

「おめでとうドーン。お前も遂に父親になったんだな!」

「あははは…ちょっと恥ずかしいけど、やっと…な」

それからは、酒場でドーンとヘレナさんの話で盛り上がった。まだ初期らしく、性別も分からないとのこと。ドーンも出張する前に聞いたらしく、これ以上詳しい事は分からなかったのだが、フィン曰く『知らなかったのはドーンさんだけ』との事。ドーンもフィンからその話を聞いて何故か納得していた。どうやら、王都に行くのに至れり尽くせりの防具や資金を貰ったらしい。

そんなこんなで、ドーンから重大なお知らせを聞いた俺達は興奮状態にいた。サガンに帰る頃には性別も分かるだろうと思い、その日を楽しみにしておくことにした。

3時間ほどドーン達と話し、解散となった。ドーン達も要件が終わったので急いで帰るらしく、ヘレナさんによろしくと言伝を頼み、ドーン達を見送った。フィンだけ名残惜しそうに帰って行ったのだが、なんでだろうな?

「…それにしてもドーンに子供か…」

ドーン達が乗った馬車が小さくなるのを見ながら呟く。

「…自分の事のように嬉しく思いますわ。サガンに帰る時にはお土産を沢山買って帰りましょうか」

「そうだな、おもちゃとか沢山買って行くか」

馬車がゴマ粒ほどになり、俺達はそのまま王都へと戻る。それから、俺の服を買うという面倒なイベントを終わらせ、その日は終わるのであった。

♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

「----という事じゃ。ま、アルスなら余裕じゃろう」

「へーへー。んじゃ、さっさと倒してくるわ」

ドーン達が来てから3ヶ月が過ぎた。翌日からチカ達はゴードン夫妻と依頼を受け続け、ゴードンからお墨付きを貰うほどまで成長した。レインの先生となる人も見つかり、面接をした結果採用となった。その人は勉強も出来たが、武術面も教えるのが上手でレインもグングンと伸びていった。その先生曰く、『レインさんはそこらへんの駆け出しの冒険者よりも技術面では上ですね。まぁ、子供というハンデがありますけどこれから成長していけば高ランクも夢じゃありませんね』だそうだ。

それから、王都での俺達の評判もかなり良くなった。チカ達が依頼で出掛けてる間、俺は腹黒爺--ジルの事だ--の所為で、近衛兵達と訓練をひたすらしていた。講師役として、騎士団とも訓練をしたのだが実力差があり過ぎたため、主にパーティプレイを主軸にした戦い方を教えた。と言っても、あくまで俺のショボいゲーム脳ではしっかりとしたことは教えれなかった。

その時に役に立ったのが『本』であった。王都には図書館があり、その中から戦闘についての知識を学んだ。ジョブを『賢者』にして本を読んでみると、面白い事に全ての内容を暗記出来たのだった。調子に乗った俺は、訓練の傍らに図書館に通い詰め、この世界の『魔法』と『技術』を理解した。

理解したおかげなのかは分からないが、騎士団からは俺の指導は高評価であった。中にはスキルを閃く者もいた。俺の覚えているスキルとは違うものであったが、それに近いものであり威力も申し分無いものであった。騎士団と稀に外に魔物討伐へと赴き、実地訓練を行うとやはり中には頭角を表す者もおり、騎士団の団長からは大いに喜ばれた。

近衛兵はというと、基本的に城内に待機しており王族の護衛をしている。近衛兵の訓練とは言ったが、殆どは室内で暗殺者などが王族や貴族を狙う際の訓練であった。なので、室内で俺の気配を読み取る練習をした。だが、思った以上に近衛兵の質は高く、俺も少しばかり本気を出した。一度全力を出して訓練してみたら誰一人気付かず、標的を気絶させてからやっと気付くという事になったので、少しだけにしておいた。

近衛兵と騎士団の違いは純粋に『質』であった。言っちゃ悪いが、騎士団10人と近衛兵1人で釣り合うぐらいだ。近衛兵は魔法もそこそこ使えるので、たまーにチカ達を連れてきて指南してもらった。…俺が教える時より意欲的だったのはしょうがない事だよね。

そして、今現在。腹黒爺の『お願い』で王都周辺に出没する『鎧百足』の討伐に出向くことになった。どうやら近くの森に巣を作り始めたらしく、商人達や旅人から依頼が押し寄せてるのだとか。『お願い』という事は依頼を通していないという事だ。言うなればタダ働きである。

腹黒には今までこのようなお願いばかりされて来たので、最初の頃みたいに反論する事は諦めた。ちゃっちゃと終わらせて帰ってこようと思う。

そうそう、昨日ポーロさんが宿に来て『明日サガンに帰る』と言われた。チカ達も明日は休みだったので今日ゴードン夫妻にそう伝えるように言っておいた。腹黒にも伝えると、『有事の際はよろしく』とだけ言われた。ゴネると思っていたのだが、少し拍子抜けだった。

「さぁーて、さっさと終わらしてお土産を買いに行かないとな」

すぐさま執務室から転移し、王都の外へ出る。そのまま指定された場所に行き瞬時に討伐する。チカ達が居ない間、殆どソロだったので戦い方にはかなり慣れた。

討伐後、倒し切ったかを確認してからギルドに報告し、宿で勉強をしているレインと一緒に買い物に出かけた。途中、依頼を終えたチカ達と合流しその日はゴードン夫妻と王都で最後の晩餐を堪能したのであった。
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