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046話

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「それじゃサガンへと向かいましょうか!」

王都に来る時よりも、少し太ったポーロさんが馬車へ乗り込む。行きとは違い、今回は馬車が合計4台並び荷物もパンパンである。

王都に3ヶ月も居たのにポーロさんとは全く出会わなかった。どうやらポーロさんは、王都に事務所を持っているらしく、殆どそこで商談をしていたらしい。事務所の二階には家族が住んでるらしく、仕事が終わったらすぐ自宅に戻り食事をしていたそうだ。

「いやぁー、チカさん達のおかげで馬車代が3割で済みましたよ。荷馬でも無いのに申し訳ないですね」

「ブランさんに聞いたら、最高級とあってそこそこの重量なら運べるみたいですね。チカも馬達と話してたので、キツくなったら早めに休憩をとりましょう」

「ええ、勿論ですとも!…しかし、馬と話せるとは流石エルフですなぁ」

「凄いですよね。俺も話せるようになりたいものですよ」

「ぶふふ。話せるようになったら私は文句を言われそうですな。『もっと良い餌を喰わせろ』とかね」

「ハハハ!それは俺も言われそうですね、気をつけとかないと。……あ、ポーロさん。レインの勉強道具を買って貰いありがとうございます。凄く喜んでましたよ」

「いえいえ。アルスさんがレインちゃんを保護したと耳にしましてね。それに、あの家庭教師とは仲が良くてですね、色々と話を聞いていましたので」

「え?そうなんですか!?」

「実は…あの依頼を受けるように言ったのは私なんですよ。商売柄、そういう情報は細かく集めてましたので暇している奴に声を掛けたんですよ」

「そんな繋がりがあったんですね…」

「相性も良かったみたいですね。昨夜の晩に『レインの家庭教師を続けたいのだが、頼み込んでくれないか?』と息を巻いて言いに来ましたよ」

「へぇ?それは知らなかったですよ。…うん、あの先生なら任せられるし、大丈夫ですよ。ただ、サガンに着いたらレインを孤児院に預けるつもりだったんですよ…」

「ほぉ?そういう考えでいらしたのですか…。ならば、孤児院の先生として雇えばよろしいのでは?勿論、報酬ではなく給与という形にはなると思いますが…」

「そうですね…。まぁ、俺の一存で孤児院の先生は決められませんので辺境伯様にお伺いの手紙でも出しときましょうかね?」

「街の為になるなら大歓迎だと思いますけどね。…さてと、人通りが少なくなって来たので速度を上げますね。警戒の方お願いします」

「わかりました」

それからは、魔法をバンバン使いサガン目指してひたすらに走った。荷物も多いので、宿場町に泊まるのは難しかった。なので、今回は野営がメインとなったが魔法を常に使っていると寄り道もしない分、2日でサガンに着いてしまった。こればっかりはポーロさんも苦笑いを浮かべるしかなかった。

そして、俺達は3ヶ月振りにサガンへと戻ったのであった。

♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

闇が支配する大広間にて、何者かが声高らかに話している。その何者かの足元には階段があり、その下には異形のモノ達が広間を埋め尽くしていた。何者かの近くにはおどろおどろしい髑髏のロウソク台がいくつも並び、その者だけを照らしていた。

「---という事である!決行は7日後の血に染まる満月が出た日である!各々、準備を念入りにしておけ!以上だ!!」

異形のモノ達は頭を深く下げると、大広間から出て行く。そして、その場には4人の姿だけが残る。

「我が魔王軍の四天王よ!そなた達は表に出る事は許さぬ。ただし、そなた達の師団は自由に動かしてくれ!」

「ガノン殿、1つ良いか?」

四天王と呼ばれた中の1人が、階段上にいる何者かに尋ねる。

「なんだ?イフリートよ」

「ガノン殿の計画では、あの街を『半壊する程度』とあったのだが、そこは我の軍に任せてはくれまいか?」

「…それは困るな。イフリートの軍では半壊程度では済まぬであろう。あくまでも、囮であり本命はあちらだ」

「我の軍には血気盛んな奴らが沢山居てな、そいつらに教える意味でも任せて欲しいのだ」

「……………いや、それでもダメだな。計画通り、イフリートは本命の方に力を注いでくれ」

「……そうか。無理を言ってすまない」

「くすくす…脳筋ばかりだと大変な事で」

「…煩いぞウンディーネ」

「其方が妾の役目を奪おうとするからじゃ。妾の配下ならば、ガノン殿の計画通りに出来るだろうよ。……手加減という言葉を理解してあるからの。妾の配下はな」

「…喧嘩を売っているのか?」

「…そのような事は今はしないで欲しいのだがな。イフリートの事は理解した。だが、今回は私の計画通りに動いて欲しい。他は異論あるか?」

仲裁に入ったガノンが、他の2人に尋ねるが返答が無かったため、この話は終わりとする。

「無いようだな。…では、手筈通り宜しく頼む。………あ、そうそう。言い忘れていたが、『勇者』と思われる者がいたら生け捕りにせよ。…まぁ、最悪殺さなければ手足の一本ぐらいは目を瞑ろう。捕獲次第、こちらへと帰還する事。良いな?」

「「「「承知」」」」

ガノンが部屋の袖に消えて行くと、それに合わせたようにロウソクの火が消える。そして、四天王と呼ばれた者達もいつのまにか消えていったのであった。

♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

「長期に渡る護衛をありがとうございました。報酬はギルドに出しておりますので、受け取ってください。…あと、これは馬車代です」

サガンに入りポーロさんの事務所へ送り届けた後、小袋を渡される。

「いえ、ついででしたのでお気になさらず」

「いいえ!これは正当な報酬です!アルスさん達のお陰で出費が少なくなったのですから、その分はしっかりとお渡ししなければなりません!」

「でも…本当に要らないんですよ?」

「ならば、レインちゃんの将来の為に貯蓄として受け取っては貰えませんか?」

「…そうですね!それならば、ありがたく頂きます!」

経験豊富というか何というか。確かに俺達がずっとレインの面倒を見れる保証は無い。もしかしたら、不治の病とかにかかって死んでしまうかもしれないし、魔物にもすげー強い奴がいて殺されるかもしれないからね。『保険』という意味で貯めていった方が良いだろうな。

ポーロさんからの小袋をありがたく頂戴し、依頼を終える。まだ、昼になって間もないのですぐ宿に向かうという事はしない。一度、ギルドに立ち寄って報告してから食事にしようと思う。

チカ達を連れギルドに向かうと門番から連絡があったのか、ギルド前にコンラッドさんが立っていた。

「おお!アルスよ、おかえり!王都は楽しかったか?」

「ああ、すげー楽しかったよ。…と言いたいところだけど、殆ど騎士団なんかと訓練ばっかりしていたからなぁ。観光なんかはしてないな」

「それは勿体無いな。あそこには色々と名所があるんだけどな。『泉』には行ったか?」

「ああ、コインを投げる泉だろ?王都の真ん中にあるヤツなら行ったよ」

「あそこは常に綺麗になってるからな。観光客からも評判がいいんだ。……っと、世間話はここまでにしておいて、アルスよ、お前に伝えたい事がある。ちょっと執務室まで来てくれんか?」

「……厄介事ならお断りだよ」

「抜かせ。俺がいつ厄介事を言ったのだ?…まぁ、とりあえず着いてこい」

コンラッドの後について行き、執務室へと入る。少しだけ調度品が変わってはいたが、その他には変わりがない。

ソファに座る--コンラッドの机から、チカ、俺、ナナ、ローリィの順で--とコンラッドが水晶を机に置く。そして、俺達に飲み物まで準備してくれた。……これは何か面倒な事が起きそうですねぇ!!

「さて…。まずはポーロさんからの依頼の報酬を渡しておこう」

コンラッドは机の上にある箱から小袋を取り出し、チカに渡す。そのまま受け取ると、今度は書類を俺に渡す。

「…また書類かよ」

「まぁそう言うな。俺だって毎度毎度準備するのは面倒なんだよ」

今回の書類は1枚では無く、6枚ほど綴られていた。しかも、長文が記載されており読むのが億劫になった。

「…読むのめんどくさいから、要約して話してくれない?」

「…話せば長くなるがいいか?要約したいところだが、中々難しくてな」

俺に渡した書類をチカ達にも渡す。その事を不思議に思いながらも、配り終えるのを待つ。

「えー…では説明するぞ?まず、この書類の1枚目に書かれている事はお前達にの身分証の発行についてだ。王都のギルマスからも嘆願があってな、『この街』の身分証を作る事にした。この道具に魔力を通してサインしてくれ」

コンラッドが俺達に鉛筆の様な物を渡す。手に持ち魔力を通すとほのかに黄色のインクが出てきた。そのま名前を書くと、ラメペンの様にキラキラと名前が輝いている。

「書けたようだな。これで、身分証の分は終了だ。くれぐれも他の国に行く時は、『サガン』の出身だと言う事を忘れないように。…では2枚目に移ってくれ」

紙をめくると1枚目よりも更に細かい字が記載されている。

「次は、『サガン』での防衛登録についてだ。お前達は独立遊軍として行動してもらうから、ちょっと特殊な存在になる。まぁ、名前だけは軍に所属しているが有事の際にはお前達の判断で行動してよいという事だ。さっきと同じ様に下にサインをしてくれ」

書き終えると、次の紙に移る。

「次は『王都』に駐在している時のお前達についてだ。あの腹黒…王都のギルマスがお前達を気に入っているという話は何百回も聞いている。アルス、お前は騎士団や近衛に訓練しているだろう?」

「うん、ジルさんの『お願い』でね」

「…やはり腹黒だな。それでだ、アルスは面識があるから大丈夫だと思うが、チカ達は別だ。王城内に気軽に入れる様に登録が必要なのだ。ギルマスの考えではチカ達にも指南役を頼むみたいだぞ?」

「…私達が、ですか?」

「そうだ。ゴードン夫妻と依頼を受けていただろう?俺もゴードンとは仲が良いから、色々と話は聞いている。指南役としても適正だそうだから、ぜひにという事だ」

「ボク達で教えられるかな?」

「それは分からん。しかし、魔法という分野ではお前達以上の適任者は居ないのは確かだ。それに、弓や杖の使い方などな。…ローリィは近衛を鍛えて欲しいと言われているが、どうだ?」

「うーん…肉弾戦ならともかく、近衛って殆ど護衛でしょ?あたし護衛系のスキルは自信無いんだよねー」

「ああ、護衛に関しては引き続きアルスに指南してもらう様になってるから安心しろ。ローリィには『生け捕り』にする為の捕縛術を希望しているようだ」

「生け捕りかー。んー…なら大丈夫だとは思う!」

「そうか。他の者達も大丈夫であれば下にサインをしておいてくれ。次に行くぞ」

次を捲ると、前よりも文字が少なくなっていた。少ないと言っても、そこそこの量はあるが。

「さて、次の紙には『王国内の通行料免除』について書いてある。腹黒…ギルマスが言うには何故かお前達は王都の防衛において、サガンと同じ様な状態にあるみたいだな?」

「あー…防衛の時にはサガンみたいに独立遊軍として参加するってなってたね」

「ギルマスが言うには、お前から言ったそうだが……まぁそれは良い。それで、サガンとは違い王都の防衛となると正式に加入する事になる。まぁ、例によって特殊ではあるが出撃した場合は報酬金が出る様になっている。それについての要綱が次の2枚に書かれている。よく読んで、理解してからサインしてくれ」

…書かれているって言われてもなぁ。難しい言葉が並んでると頭がパンクするんだよ。…あ、そうだ。『賢者』に切り替えて暗記しておこう。

文面をじっくりと読み、最後の紙にサインをする。内容は完璧に覚えたので大丈夫だ。

「終わったようだな。では、本題に入ろうと思う」

「えぇ…?さっきのが本題じゃなかったのかよ?」

「さっきのはあの腹黒からの『お願い』だったからな。それとは別に重要な事だ」

真面目な顔をしながらコンラッドは、対面に座る。

「さて、お前達は今現在Cランクであったよな?」

「そうだよ?誰かが無理矢理上げてくれたお陰でね」

「そうか。その誰はまた無理強いをするかも知れないな」

「は…?って事はまさか!?」

「おめでとうアルス君。君は何と飛び級でB+に昇格したぞ!!」
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