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052話
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ローリィに敵と認識されない様に必要最低限の呼吸でその場を過ごす。武者髑髏の眼の光が無くなった頃、ローリィが何かに気付く。
「ンンーッ?ナァニコレェ?」
俺の事かと思い、冷たい汗がドバッと出たが俺ではなかった様だ。ローリィはその『ナニ』かを乱暴に取り出した。
「キャハハッ!ブヨブヨシテテキモチワルーイ!」
目を凝らして見ると、何かピンク色の球体を持っていた。ローリィの表情と相まっておぞましい光景だ。
……アレは魔核の様なモノなのだろうか。だが、俺が持っている魔核は固く、あの様にブヨブヨはしていない。
「ナンダロナー。コレコワシテいいかなー?」
魔核だったらちょっと欲しい。けど、ローリィに話しかけるタイミングが見つからない。狂戦士化は一度入ったらアイテムを使わなければならないのだ。しかも、それはある一定条件を満たしてなければ使えないアイテムなのだ。
「ねーねー!ご主人様ってば!!コレ壊してもいいの!?」
アイテムを使うべきか悩んでいるとローリィが物体を持ちながらこちらへ近づいてきた。
(ヤバイ!何か動いてしまったか!?……こうなったらありったけの課金アイテム使って防御を上げるしか…)
「ねぇってば!!!なんで無視するのよーっ!!!」
ローリィの大声に身構えてしまったが、少し勝手が違ったようだ。狂戦士化は解かれており、そこには普段と変わらない顔をしたローリィが立っていた。
「ロ、ローリィか??」
「当たり前じゃん!!ご主人様の他にはあたししかここに居ないじゃん!!」
「お、お前狂戦士化はどーなってんだ?」
「え?そんなのさっき自力で解いたよ?会話出来なくなるじゃん!」
「は?…いやいやいや!あの状態自力で解けたのか??」
「解けるに決まってるじゃん!出来なかったら皆に迷惑かかるじゃんかー!」
「え?アイテム必要だったよな?」
俺はリストを開き目当てのモノを探す。そして、その目当てのモノは確かに存在していた。
「…ローリィ、このアイテムに見覚え無いか?」
「ん?…ああ、『安らぎのアロマ』でしょ?最初の頃はお世話になったなぁー。あの香りは普段でも落ち着く良い香りだよねー!」
「うん…いや、コレ狂戦士化を解くのに必須アイテムなんだけど…」
「昔はねー!でも、今は自分で狂戦士化操れるから要らないかなぁー」
……どうなってんだ?狂戦士化はこの香りを嗅がせないと解除出来なかった筈なのに…。
「と こ ろ で !コレどーするの??ぶっ壊してもいいの?」
「ん?…ああ、それね。一先ず俺が預かっててもいいか?魔核とは違うようだし、知ってる人が居たら聞いてみたいからさ」
「うん、わかった!ならコレ渡しとくね!」
ローリィから物体を預かる。よくよくみて見ると、カエルの卵1つが巨大になってる感じだ。手触りも…とても気持ち悪い。
ボックスに物体を入れておき、周囲を見回す。武者髑髏を倒した事で、後ろで餓狼と戦っていた魔物達も消滅したようだ。
「っし。後は裏門前に出た雑魚を討伐したら終わり--
《アルス!!応答しろ!!》
慌てた声が脳内に響く。その声に嫌な予感を覚えながらも返答する。
《どうしたコンラッド?》
《お前ら一体どこで戦ってるんだ!?》
《魔の森近くに武者髑髏っつー魔物が出たからそいつをぶっ殺してた》
《はぁ!?そんな遠くにいるのか!?》
《なんだよ?なんかあったのか?》
《ええい!街中に突如魔物が出現した!急いで帰ってきてくれ!!冒険者が戦っているが時間の問題だ!》
《何!?俺達の所で終わりじゃなかったのか!?》
《それは知らん!だが、非常に強い魔物が出現している!急いでくれ!!!》
《わかった!急いで帰還する!》
「ローリィ!転移するぞ!来いっ!」
ローリィの手を握り裏門へ転移する。裏門へ着くと、その場にはチカ達しか居なかった。
「他のヤツらは!?」
「街に出現した魔物を討伐しに行きました。私達も向かいたかったのですが、アルス様と連絡が取れなくて帰ってくるのを待っていました!」
「なら、急いで中に入るぞ!コンラッドから連絡が入った。非常に強い魔物が出現したらしい!各自の判断で動いてくれ!!」
「「「了解!!!」」」
「ナナ、お前は学校に向かえ!そこに住民を避難させろ!俺が来るまで防御壁を張っててくれ!」
「わかった。しかし、受け入れ人数は限りがある」
「無理矢理詰め込め!お前の能力を信じてるぞ!誰一人怪我をさせるなよ!!」
「……任せて」
「チカ!転移した後、逃げ遅れた住民が居ないか探してくれ!見つけたら学校に連れて行け!」
「わかりました!」
転移しようとした時、サガンの街から火柱の様なものが噴き上がった。
「--っくそ!!お前ら行くぞ!!!!」
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「……テルロの反応が消滅したようだ。という事はあちら側に強敵が向かった様だな」
「報告します!召喚の準備終了しました!リッチ様の一声でいつでも出陣出来ます!」
「…うむ。では、くれぐれも全滅させぬように…。1/3程度までなら減らしても構わん。……さぁ、始めよ」
リッチが宙に手をかざすと街中が怪しく光る。そして、地面からおびただしい量の蟲、ゾンビ、スケルトンが出現する。魔物達は、何が起きているのか分からない住民に牙を向け、蹂躙を開始する。いち早く出現に気付いた兵士達が応戦するが、数に圧倒されジリジリと後退していく。そこに冒険者も加わり膠着状態が続く。
「……それ、追加をしてやろう」
再び地面が怪しく光り、魔物が出現する。膠着状態だった戦線が一気に崩壊し始める。気の弱い兵士は逃げ惑い、怖がる住民達はその場から根が生えた様に動けなくなる。
「--お前ら!!1人で逃げるんじゃねぇ!!!!逃げるなら住民と一緒に逃げろ!!」
「ちょっ!ドーンさん!煽ってどうするんですか!!」
「ああん!?逃げ出す奴を気にかけてどうすんだよ!それよりも、今戦っている奴の邪魔にならない事が先だろ?」
「それはそうですけど!!」
「フィン!お前はとにかく住民を避難させろ!オレはここに残って少しでも時間を稼ぐ!」
「分かりました!コンラッドさんがアルスさんに連絡したそうですから、すぐに来ると思います!それまでは無事でいてください!」
「はっ。この装備のお陰で大丈夫さ!--ほら!早く行け!」
フィンは動けない住民の尻を叩き避難を開始する。ドーンは少しでも逃げる時間を稼ぐ為、戦場へと身を投げ出す。
「お前ら!!きっとすぐにアルスさん達が助けに来てくれる!それまで頑張って、絶対に死ぬな!!」
ドーンの檄が兵士達へと伝わる。返事をする暇は無いが、『アルス達が助けに来る』という事だけで勇気が湧いてくる。
---死ななければ回復魔法できっと治してくれるだろう。
単純で確証もない戯言ではあるが、兵士達には充分に鼓舞する言葉になった。
押され気味であった戦線が瀬戸際の所で耐え始める。アルスに教えてもらった戦い方で何とか踏ん張りつつある。
「……ふむ。これを1兵士が耐え切るか。……どれ、少し絶望を浴びせようか」
リッチはドーンが居る場所に向けて魔法を放つ。ドーンがソレに気付いたのは、着弾する前であった…。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
火柱が上がった場所に、焦げた臭いが立ち昇る。俺が着いた時には周囲には焼け焦げた肉の様なモノばかりだった。
「ッ!!!くそっ!!!---『女神の祝福』!!」
アルスは少しでも生きていれば、体力が全回復する魔法を使う。……あくまでも『Destiny』の世界の話ではあるが。
「……そう…だよな」
魔法を使用しても動き出す者はいない。つまり、全員死んだという事だ。
「…チッ。やっぱ人が死んだのを見ると悲しくなるな」
硬直が始まっているのか、ジワジワと死体の部位が動く。その光景は死の旅への挨拶みたいだ。
「!!ご主人様ッ!!!こっち来て!!!」
何やらローリィが叫んでいる。慌てて声のする方へ向かうと、瓦礫の下敷きになっている黒焦げが見えた。
「どうしたんだローリィ?」
「…こ、これ!!この防具って…!!!」
ローリィが指差す先には見覚えのある防具が見えた。
「…は?……おいおい嘘だろッ!?」
必死に瓦礫を退かす。瓦礫は空洞が出来るように重なっており、中からは蒸し焼きにされたであろうドーンの姿があった。
「……はは。ドーン…なのかよ?」
--認めたくない。だが、現実は証明している。苦悶の表情で動かなくなっているのは紛れも無いドーンだという事を。
「--『癒しの雨』!『完全治癒薬』!!!」
魔法とアイテムをドーンへ使用する。しかし、ドーンの傷は癒えても動く気配は無い。
「嘘だ…嘘だ嘘だ!!おい!起きろって!!!」
効果があるという事はまだ生きているはず…。か細い糸の様な希望を持ちながら、回復やアイテムを再度使う。
「--『復活の福音』」
スキルを使い、蘇る事を祈る。このスキルは名の通り『復活』させるスキルだ。
「おい…何か返事しろよ!!頼む…頼むよぉ……」
スキルを使った後、ドーンを強く揺さぶる。脳みそでは『ドーンは死んでいる』と浮き出ているが、俺の心がソレを認めない。
「おい、ドーンッ!!……目を開けてくれよ…」
ローリィが泣きじゃくる俺の肩にそっと手を置いてくれる。
「ッ!ローリィ、お前も蘇生のスキルあったよな?ドーンに使ってくれないか?」
「……ご主人様。それは無理だよ」
「なんでだ?なんで無理なんだ!?」
「……もうドーンの魂は昇っちゃったんだよ」
「それでも!!!まだ可能性はあるかも知れないだろ??俺達の魔法やスキルなら復活出来ただろ!?」
「………………」
いや、分かってるんだ。本当は可能性なんて一欠片も無いって。…でもさ、ソレを認めてしまったらダメなんだよ。だってドーンには、産まれてくる赤ん坊もいるんだぜ??あんなに楽しみにしてたじゃんか…。
「……コヒュッ」
俺が1人打ち拉がれていると、何やら呼吸音みたいなのが聞こえた。
「……コヒュッ。……へへ、何泣いてるんだい?」
「…ドーン…か?お前、生き返ったのか!?待ってろ!!今すぐ回復を---
「…落ち着きなって。そんな事しても無駄だって分かってんだろ?」
「でも…でも!お前は生き--
「…ちょっくら神様にお願いしてきてよ。お別れ出来る様にしてもらったんだ…」
「お別れとか………言うなよ…」
「へへっ……。神様と喋っちまったからな…」
表情は分からないが、ドーンがいつもの笑みを浮かべているのが分かった。
「時間ねぇし…お願い…聞いてくれねぇか?」
「……なんだよ」
「…ヘレナに…。愛していると伝えてくれ」
「……あぁ、あぁ!!」
「それとよ…産まれてくる子供にも……神様と一緒にお前を天国から見守ってるって…」
「…あぁ!必ず伝える!!」
「へへっ……。アルスさん、あんた達と出会えて楽しかったよ…」
「………………」
「……神様が迎えに来たみてぇだ…。アルスさん、街の皆を必ず護ってくれよな…」
ドーンの顔を両手で挟み、目と目を合わせ力強く頷く。
「あぁ!必ず護る!!」
「へへっ……。たの…ぜ
か細く聞こえていた呼吸音が消える。ドーンが最後の言葉を伝えるのを待っていたかの様に雨がポツポツと降り始めた。
「…………ご主人様…」
「……『死者の外衣」
アイテムを取り出し、ドーンの遺体を優しく包む。
「…………」
無言で瓦礫を再度、ドーンを雨から守る様に積み直す。
「……さて、他の所に行くぞ」
「…………うん」
「ドーンと約束したからな。誰一人死なせない…」
「…行こう。ご主人様」
ドーンの剣をしまい込み、他の戦場へと急ぐ。この時の俺にははっきりとした記憶が無い。あるのは、目に付く魔物をひたすら殺すだけ。楽には殺さず、毒や酸などを使ってだ。住民の避難はローリィに任せ感覚を鋭くし、救援に向かう。探知すると、住民の大体は学校に集まっているみたいだ。学校周辺にチカとナナが張った結界が見える。
逃げ遅れた住民を学校に行くように指示し、サガンの街をひたすら散策する。長い時間がかかったが、見落としが無い限り全てを周り終えた。
そして……間違いなく敵のボスであろうリッチの姿を見つけたのだった。
「ンンーッ?ナァニコレェ?」
俺の事かと思い、冷たい汗がドバッと出たが俺ではなかった様だ。ローリィはその『ナニ』かを乱暴に取り出した。
「キャハハッ!ブヨブヨシテテキモチワルーイ!」
目を凝らして見ると、何かピンク色の球体を持っていた。ローリィの表情と相まっておぞましい光景だ。
……アレは魔核の様なモノなのだろうか。だが、俺が持っている魔核は固く、あの様にブヨブヨはしていない。
「ナンダロナー。コレコワシテいいかなー?」
魔核だったらちょっと欲しい。けど、ローリィに話しかけるタイミングが見つからない。狂戦士化は一度入ったらアイテムを使わなければならないのだ。しかも、それはある一定条件を満たしてなければ使えないアイテムなのだ。
「ねーねー!ご主人様ってば!!コレ壊してもいいの!?」
アイテムを使うべきか悩んでいるとローリィが物体を持ちながらこちらへ近づいてきた。
(ヤバイ!何か動いてしまったか!?……こうなったらありったけの課金アイテム使って防御を上げるしか…)
「ねぇってば!!!なんで無視するのよーっ!!!」
ローリィの大声に身構えてしまったが、少し勝手が違ったようだ。狂戦士化は解かれており、そこには普段と変わらない顔をしたローリィが立っていた。
「ロ、ローリィか??」
「当たり前じゃん!!ご主人様の他にはあたししかここに居ないじゃん!!」
「お、お前狂戦士化はどーなってんだ?」
「え?そんなのさっき自力で解いたよ?会話出来なくなるじゃん!」
「は?…いやいやいや!あの状態自力で解けたのか??」
「解けるに決まってるじゃん!出来なかったら皆に迷惑かかるじゃんかー!」
「え?アイテム必要だったよな?」
俺はリストを開き目当てのモノを探す。そして、その目当てのモノは確かに存在していた。
「…ローリィ、このアイテムに見覚え無いか?」
「ん?…ああ、『安らぎのアロマ』でしょ?最初の頃はお世話になったなぁー。あの香りは普段でも落ち着く良い香りだよねー!」
「うん…いや、コレ狂戦士化を解くのに必須アイテムなんだけど…」
「昔はねー!でも、今は自分で狂戦士化操れるから要らないかなぁー」
……どうなってんだ?狂戦士化はこの香りを嗅がせないと解除出来なかった筈なのに…。
「と こ ろ で !コレどーするの??ぶっ壊してもいいの?」
「ん?…ああ、それね。一先ず俺が預かっててもいいか?魔核とは違うようだし、知ってる人が居たら聞いてみたいからさ」
「うん、わかった!ならコレ渡しとくね!」
ローリィから物体を預かる。よくよくみて見ると、カエルの卵1つが巨大になってる感じだ。手触りも…とても気持ち悪い。
ボックスに物体を入れておき、周囲を見回す。武者髑髏を倒した事で、後ろで餓狼と戦っていた魔物達も消滅したようだ。
「っし。後は裏門前に出た雑魚を討伐したら終わり--
《アルス!!応答しろ!!》
慌てた声が脳内に響く。その声に嫌な予感を覚えながらも返答する。
《どうしたコンラッド?》
《お前ら一体どこで戦ってるんだ!?》
《魔の森近くに武者髑髏っつー魔物が出たからそいつをぶっ殺してた》
《はぁ!?そんな遠くにいるのか!?》
《なんだよ?なんかあったのか?》
《ええい!街中に突如魔物が出現した!急いで帰ってきてくれ!!冒険者が戦っているが時間の問題だ!》
《何!?俺達の所で終わりじゃなかったのか!?》
《それは知らん!だが、非常に強い魔物が出現している!急いでくれ!!!》
《わかった!急いで帰還する!》
「ローリィ!転移するぞ!来いっ!」
ローリィの手を握り裏門へ転移する。裏門へ着くと、その場にはチカ達しか居なかった。
「他のヤツらは!?」
「街に出現した魔物を討伐しに行きました。私達も向かいたかったのですが、アルス様と連絡が取れなくて帰ってくるのを待っていました!」
「なら、急いで中に入るぞ!コンラッドから連絡が入った。非常に強い魔物が出現したらしい!各自の判断で動いてくれ!!」
「「「了解!!!」」」
「ナナ、お前は学校に向かえ!そこに住民を避難させろ!俺が来るまで防御壁を張っててくれ!」
「わかった。しかし、受け入れ人数は限りがある」
「無理矢理詰め込め!お前の能力を信じてるぞ!誰一人怪我をさせるなよ!!」
「……任せて」
「チカ!転移した後、逃げ遅れた住民が居ないか探してくれ!見つけたら学校に連れて行け!」
「わかりました!」
転移しようとした時、サガンの街から火柱の様なものが噴き上がった。
「--っくそ!!お前ら行くぞ!!!!」
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「……テルロの反応が消滅したようだ。という事はあちら側に強敵が向かった様だな」
「報告します!召喚の準備終了しました!リッチ様の一声でいつでも出陣出来ます!」
「…うむ。では、くれぐれも全滅させぬように…。1/3程度までなら減らしても構わん。……さぁ、始めよ」
リッチが宙に手をかざすと街中が怪しく光る。そして、地面からおびただしい量の蟲、ゾンビ、スケルトンが出現する。魔物達は、何が起きているのか分からない住民に牙を向け、蹂躙を開始する。いち早く出現に気付いた兵士達が応戦するが、数に圧倒されジリジリと後退していく。そこに冒険者も加わり膠着状態が続く。
「……それ、追加をしてやろう」
再び地面が怪しく光り、魔物が出現する。膠着状態だった戦線が一気に崩壊し始める。気の弱い兵士は逃げ惑い、怖がる住民達はその場から根が生えた様に動けなくなる。
「--お前ら!!1人で逃げるんじゃねぇ!!!!逃げるなら住民と一緒に逃げろ!!」
「ちょっ!ドーンさん!煽ってどうするんですか!!」
「ああん!?逃げ出す奴を気にかけてどうすんだよ!それよりも、今戦っている奴の邪魔にならない事が先だろ?」
「それはそうですけど!!」
「フィン!お前はとにかく住民を避難させろ!オレはここに残って少しでも時間を稼ぐ!」
「分かりました!コンラッドさんがアルスさんに連絡したそうですから、すぐに来ると思います!それまでは無事でいてください!」
「はっ。この装備のお陰で大丈夫さ!--ほら!早く行け!」
フィンは動けない住民の尻を叩き避難を開始する。ドーンは少しでも逃げる時間を稼ぐ為、戦場へと身を投げ出す。
「お前ら!!きっとすぐにアルスさん達が助けに来てくれる!それまで頑張って、絶対に死ぬな!!」
ドーンの檄が兵士達へと伝わる。返事をする暇は無いが、『アルス達が助けに来る』という事だけで勇気が湧いてくる。
---死ななければ回復魔法できっと治してくれるだろう。
単純で確証もない戯言ではあるが、兵士達には充分に鼓舞する言葉になった。
押され気味であった戦線が瀬戸際の所で耐え始める。アルスに教えてもらった戦い方で何とか踏ん張りつつある。
「……ふむ。これを1兵士が耐え切るか。……どれ、少し絶望を浴びせようか」
リッチはドーンが居る場所に向けて魔法を放つ。ドーンがソレに気付いたのは、着弾する前であった…。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
火柱が上がった場所に、焦げた臭いが立ち昇る。俺が着いた時には周囲には焼け焦げた肉の様なモノばかりだった。
「ッ!!!くそっ!!!---『女神の祝福』!!」
アルスは少しでも生きていれば、体力が全回復する魔法を使う。……あくまでも『Destiny』の世界の話ではあるが。
「……そう…だよな」
魔法を使用しても動き出す者はいない。つまり、全員死んだという事だ。
「…チッ。やっぱ人が死んだのを見ると悲しくなるな」
硬直が始まっているのか、ジワジワと死体の部位が動く。その光景は死の旅への挨拶みたいだ。
「!!ご主人様ッ!!!こっち来て!!!」
何やらローリィが叫んでいる。慌てて声のする方へ向かうと、瓦礫の下敷きになっている黒焦げが見えた。
「どうしたんだローリィ?」
「…こ、これ!!この防具って…!!!」
ローリィが指差す先には見覚えのある防具が見えた。
「…は?……おいおい嘘だろッ!?」
必死に瓦礫を退かす。瓦礫は空洞が出来るように重なっており、中からは蒸し焼きにされたであろうドーンの姿があった。
「……はは。ドーン…なのかよ?」
--認めたくない。だが、現実は証明している。苦悶の表情で動かなくなっているのは紛れも無いドーンだという事を。
「--『癒しの雨』!『完全治癒薬』!!!」
魔法とアイテムをドーンへ使用する。しかし、ドーンの傷は癒えても動く気配は無い。
「嘘だ…嘘だ嘘だ!!おい!起きろって!!!」
効果があるという事はまだ生きているはず…。か細い糸の様な希望を持ちながら、回復やアイテムを再度使う。
「--『復活の福音』」
スキルを使い、蘇る事を祈る。このスキルは名の通り『復活』させるスキルだ。
「おい…何か返事しろよ!!頼む…頼むよぉ……」
スキルを使った後、ドーンを強く揺さぶる。脳みそでは『ドーンは死んでいる』と浮き出ているが、俺の心がソレを認めない。
「おい、ドーンッ!!……目を開けてくれよ…」
ローリィが泣きじゃくる俺の肩にそっと手を置いてくれる。
「ッ!ローリィ、お前も蘇生のスキルあったよな?ドーンに使ってくれないか?」
「……ご主人様。それは無理だよ」
「なんでだ?なんで無理なんだ!?」
「……もうドーンの魂は昇っちゃったんだよ」
「それでも!!!まだ可能性はあるかも知れないだろ??俺達の魔法やスキルなら復活出来ただろ!?」
「………………」
いや、分かってるんだ。本当は可能性なんて一欠片も無いって。…でもさ、ソレを認めてしまったらダメなんだよ。だってドーンには、産まれてくる赤ん坊もいるんだぜ??あんなに楽しみにしてたじゃんか…。
「……コヒュッ」
俺が1人打ち拉がれていると、何やら呼吸音みたいなのが聞こえた。
「……コヒュッ。……へへ、何泣いてるんだい?」
「…ドーン…か?お前、生き返ったのか!?待ってろ!!今すぐ回復を---
「…落ち着きなって。そんな事しても無駄だって分かってんだろ?」
「でも…でも!お前は生き--
「…ちょっくら神様にお願いしてきてよ。お別れ出来る様にしてもらったんだ…」
「お別れとか………言うなよ…」
「へへっ……。神様と喋っちまったからな…」
表情は分からないが、ドーンがいつもの笑みを浮かべているのが分かった。
「時間ねぇし…お願い…聞いてくれねぇか?」
「……なんだよ」
「…ヘレナに…。愛していると伝えてくれ」
「……あぁ、あぁ!!」
「それとよ…産まれてくる子供にも……神様と一緒にお前を天国から見守ってるって…」
「…あぁ!必ず伝える!!」
「へへっ……。アルスさん、あんた達と出会えて楽しかったよ…」
「………………」
「……神様が迎えに来たみてぇだ…。アルスさん、街の皆を必ず護ってくれよな…」
ドーンの顔を両手で挟み、目と目を合わせ力強く頷く。
「あぁ!必ず護る!!」
「へへっ……。たの…ぜ
か細く聞こえていた呼吸音が消える。ドーンが最後の言葉を伝えるのを待っていたかの様に雨がポツポツと降り始めた。
「…………ご主人様…」
「……『死者の外衣」
アイテムを取り出し、ドーンの遺体を優しく包む。
「…………」
無言で瓦礫を再度、ドーンを雨から守る様に積み直す。
「……さて、他の所に行くぞ」
「…………うん」
「ドーンと約束したからな。誰一人死なせない…」
「…行こう。ご主人様」
ドーンの剣をしまい込み、他の戦場へと急ぐ。この時の俺にははっきりとした記憶が無い。あるのは、目に付く魔物をひたすら殺すだけ。楽には殺さず、毒や酸などを使ってだ。住民の避難はローリィに任せ感覚を鋭くし、救援に向かう。探知すると、住民の大体は学校に集まっているみたいだ。学校周辺にチカとナナが張った結界が見える。
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