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053話
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♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「ご主人様…大丈夫かな?」
街の人達を学校に連れて行きながら、あたしはさっき起きた出来事を思い出していた。
あたしには、ドーンが死んじゃった事に関して特に何も思わない。ただ、死んじゃったなとしか思えなかった。
けど、ご主人様は違った。あれほど感情を剥き出しにして泣きじゃくるご主人様は初めて見た。………ううん、初めて出会った。
ご主人様にとってドーンの存在がどれほどなのかは知らない。けど、あんなに死んだ事を苦しそうにしているという事はそれ程の存在だったんだと思う。
……死者を冒涜するつもりは無いけど、妬けちゃうな。
ご主人様はあたし達が死んだりしたら、あれほど苦しむのだろうか?
ご主人様はあたし達の為に泣いてくれるのだろうか?
ご主人様は……
ご主人様は……………
………いくら考えても分かんないや。
けど、少しでもあたし達の事を思ってくれたら嬉しいなぁ。
あたしは…ううん、あたし達はご主人様が居なくなったら凄く寂しい。前、街をご主人様1人で散策しに行った時も、急に居なくなってとっても心がギュッとなった。もしかしてあたし達は捨てられたんじゃ無いかと…。
そんな事考えただけで死にたくなる。あたしにとって、ご主人様は何よりも優先すべき事で、何より尊い人だ。
……そういえばヘレナさんが言ってたっけ?『恋は下から来るもので、愛は内側から来るものなのよ?』って。……この気持ちは『愛』なのかな?よく分かんない。
「ローリィちゃん……ワタシらは何処に向かってるのかい?」
「ん……?ああ、学校に向かってるよ!あそこはチカちゃん達が守ってるから安心して!!」
「そうかい……。…ところで…アルスさんは何処に行ったんだい?」
「逃げ遅れた人が居ないかを探しに行ってるよ!大丈夫!ご主人様ならすぐ助けてくれるよ!」
「あぁ……ありがたや。ローリィちゃん達が居なかったらどうなっていた事やら……」
「大丈夫!全員…とは言えないけど、全部助けるから!!」
他の魔物は冒険者達が倒したみたいで、学校に着くまで遭遇する事は無かった。
「ローリィ、アルス様は?」
「ご主人様なら逃げ遅れた人を助けに行ってるよ!」
「そう……。ならここで帰りを待つ」
「……そうだね」
「?どうしたのローリィ?歯切れが悪いわ?」
「……ちょっとね」
「……何かあった?」
「…後で話すよ」
続々とご主人様に助けられたであろう人達が学校に集まってきた。けど、そこにはご主人様の姿は無かった。
「ねぇ、ご主人様知らない?」
ボロボロの服を着ている男の人に声をかけた。あちこちが汚れているので、きっと魔物に遭遇したんだと思う。
「…ローリィさんか。アルスさんは他にも居るかも知れないからって俺達に魔法をかけて行っちまったよ」
「そっか…」
「…なぁ、何かあったのかい?アルスさん、いつもの飄々とした顔じゃなくて、凄く険しい顔をしてたよ?」
「…そっか。何処に行ったかわかる?」
「そうだなぁ…あの方面は広場があったと思うよ」
「ありがと!…はい、コレ飲んで!回復薬だから安心して!」
「ありがと。本当に助かったよ……」
広場…か。チカちゃん達に話して向かおうかな?
男の人からご主人様の行方を聞いたあたしは早速チカちゃん達の元へと戻った。チカちゃんの隣には、ナナとフィン君が何かを話していた。
「あ、ローリィ。丁度良い時に来たわ。フィンさんがあなたに聞きたい事があるらしいの」
「………ドーンの事?」
「…はい!!ここを探してもドーンさんの姿が見当たらないので…。何か知らないかなと…」
「……………」
こういう時どうすれば良いんだろう?あたしが言っていいのかな?それともご主人様から直接聞いた方が良いのかな?
あたしが答え方を考えていると、フィン君が何かを察したように口を開いた。
「………ドーンさんを見かけたんですか?」
「……うん」
「……その…どこで?」
「…あっちの方」
「…そうですか……。そうなんですね……」
フィン君は力無くその場に膝をつくと静かに、そう、静かに肩を震わせていた。
「……ローリィ、何があったのか教えてくれない?」
あたしはフィン君に聞かれないように小声でチカちゃん達に話した。あたしと違って、チカちゃん達はショックを受けたみたいだった。
「……そう。そんな事が…」
「…仕方ない。生きる者全てに死は訪れる。それが遅いか早いかの違いだけ」
「…でもアルス様、傷付いているでしょうね…」
「…マスターが心配」
チカちゃん達が心配している理由を聞こうと思った時、大きく地面が揺れるのを感じた。避難してきた人達は泣き叫びながらその場にしゃがみ込んでいた。
「安心してください!このエリアは私達の魔法で強化されています!建物が崩れたりはしないので安心してください!!」
チカちゃんが怖がる住民に大声で大丈夫だと伝えていた。その姿を見ながら、やっぱりチカちゃんは凄いなぁと思った。
「……何か強大な力を感じる。--ッ!!!これはマスター!?」
ナナちゃんが珍しく驚いた声をあげていた。その内容を聞いたあたしはすぐさま行動した。
「ちょっ!!ローリィ!どこ行くの!!」
チカちゃんが焦ったように声をかけるが、その声を無視してご主人様の所に向かう。あたしだって、ご主人様の魔力ぐらい感じれる。
「…一体どうしたの?」
「さっきマスターの魔力を感知した。普段とは違う魔力。…マスターが危険!?」
「ダメよ!あなたまで居なくなったらここを誰が守るの!?私達が命令されたのは街の人達を守る事。それだけは忠実に守らなきゃ!」
「………わかった」
建物から建物へ。あたしは大急ぎでご主人様の元へと走る。そして、広場の奥の方でご主人様とリッチが対峙しているのを見つけた。
「…居たっ!!待っててね!!」
建物を強く蹴り跳躍する。そして、着地すると、そこには冷たい眼をしたご主人様があたしを見ていた。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「…おや?見つかってしまったか?」
「……てめぇか?サガンを襲った張本人は?」
「はて?『襲った』と言われればそうだと答えるしかないな。だが、『襲った』つもりは無いぞ?ワレからすれば、児戯に等しいものなのだがな」
「…怠いなお前。……まぁいいや。とりあえず、お前がスケルトンなんかを操ってるんだな?」
「如何にも。あやつらはワレのシモベよ。……さて、人間よ。見事ワレを見つけた褒美として願いを1つだけ聞いてやろう。…叶えるかどうかは不明だがな」
「ケッ。お決まりの雑魚みてぇな台詞吐きやがって。……願いは要らねー。けど、1つだけ質問に答えろ」
「…ふむ。何かな?」
「なぜこの街を襲った?」
「それは至極簡単な事。命令されたからだ」
「……そうか」
「ふむ…。まだ聞きたい事があるのかな?」
「……誰に命令された?」
「魔王国大臣、ガノン様にだ。……まぁ、今回は魔王様も関与はしているがな」
「……お前をぶっ殺したらそのガノンって奴に会えるのか?」
「さぁな。……まぁ人間如きがワレに勝てるはずは無いがな……。…おや、お客さんのようだ」
「………ローリィか」
「貴様のツレかな?…まぁ、人間如きが何十人居ようとワレには勝てぬ。……さぁ、退屈させぬよう全力で参れ!!」
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
…何が退屈させぬようにだ。それはこっちの台詞だ。
何はともあれ、コイツは色々と教えてくれたし使い道は無いな。魔王軍が人質交換に応じるとか夢物語だろうし。
「ローリィ。手出しは絶対にするな」
「………はい」
珍しくちゃんと言う事をローリィが聞いた。まぁ、今回ばかりは俺の手で殺したいと思ってる。
「おや?ワレは二人掛かりでも構わぬぞ?」
「はっ。おめーみてーな雑魚に2人も要らねーんだよ」
「『弱いスライムほどよく喋る』というが、正に貴様の事だろうな」
「ははっ。ま、俺の方が強いのは事実なんだけどな」
「ぬかせ。ならば、先に攻撃してくるがよい」
「ああん?それはこっちの台詞だっつーの!!……ほら来いよ。『犬のおやつ野郎』」
「…………『呪いの鎖』」
煽られ耐性ねーなコイツ。ま、雑魚だからしょうがないか。
リッチは俺に向け魔法を放ってきた。何本もの鎖が地面から出て俺を縛ろうとする。
「…おや?この魔法はワレの中でも低級なのだがな?」
「……アンデット化して、目玉も無くしたのか?全然効いてねーよ」
効かないのは当たり前だ。サブ防具で呪い耐性が高いのを装備してるし、ダメージなんぞは元々通じない。
「ほら、さっさとお前の最強の魔法ぶっ放して来いよ。じゃねーと、傷1つ喰らわねーぞ?」
「……生意気な。『結合』、『飢餓の焔』・『悪魔の息吹』」
お?コイツ、『結合』使えるのか。けど、分からない魔法だし、どんなのだろうな。
リッチの両手から、見るからに熱そうな炎と邪悪な悪魔が出現する。悪魔は炎を取り込むと、膨張し、口から炎を吐き出す。
微かに炎から絶叫が聞こえる。炎自体のスピードはゆっくりだが、俺とリッチとの間にある鉄やレンガなどがドロドロと溶けている。
「そのまま地獄の炎に溶かされるがよい」
リッチは勝利を確信した様な表情--骨なので違うかもしれないが--で、決め台詞を吐く。
……お前、フラグ立てるの上手だね。
最初はこの魔法を受けてやろうかと思ったが、絶望を届けたくなったので打ち消してやろうと思う。
「--『終焉の刃』」
迫り来る炎に対し、剣を一閃する。側から見ればただ、薙ぎ払っただけに見えるがこのスキルは少しだけ厄介なのだ。
「ばっ!?…一体何をし--ッムン!!」
このスキルは打ち消すだけの代物ではない。無の斬撃も放っているのだ。
「よく防いだな。……だが、終わりだ」
「……終わりだと?ただ斬撃を飛ばした--
リッチの動きが止まる。間違いなく何か違和感を感じただろう。
「--なんだ!?なぜワレの手が崩れていくのだ!?」
「あぁん?その効果はお前が俺に放った魔法と同等の性質だぞ?……溶けないのには驚いたが」
そう。このスキルは『魔法を吸収し相手に返す』という性質を持っている。『カウンター』の様な弾き返すだけのもので無く、『魔術師』相手に使える『剣士』のスキルである。
「---っクソ!!何故回復しない!!」
リッチは何度か回復を試みている様だが、無駄な事だ。
「回復はしねーよ、絶対にな。……さぁ、死が訪れるのを怯えながら待つんだな。…沢山人を殺したお前には丁度いい罰だ」
「--くそ!!クソがっ!!ワレはアンデットの王!!魔王様に使える四天王の1人だぞ!?この様な魔法になど負けるはずが!!」
「ああ、アンデットの王なんだ。…なら、これもおまけしとくわ。--『聖なる結界』」
リッチを中心として聖なる結界が展開される。不死属性を持つアンデットには、もはや逃げ場はない。
「ぐおおおおオオオオオ--マ、マオウ--サマァ--………
聖なる結界から抜け出せず、リッチの体は塵となっていく。喉の部分が崩れ、喋る事も出来なくなった。
「…………」
俺のこの感情も塵のようになってくれれば良いのに。仇は打てたが、憎悪の火種はまだ小さく残っている。
「……ねぇ、ご主人様」
「………なんだローリィ?」
全てを無言で見続けていたローリィが、尋ねてくる。
「…ご主人様にとって、ドーンはどんな存在だったの?」
「…………難しい質問だな。どんな存在かは上手く言葉では言い表せられない。…けど、アイツは…なんていうか…弟みたいな存在だったかもな」
サガンで過ごすうちに、ドーンとは凄く仲良くなった。この世界に転生して初めて出来た友達だったと思う。お茶目で、責任感があって、けど何処か間抜けで。可愛い後輩のようで、弟のような感じを持っていた。
「……そう…なんだ。……ご主人様はドーンが死んで悲しい?」
「…悲しいな。でも、心がポッカリと穴が空いたほどでは無い…と思う。…どうだろ。今はそう思ってるけど、時間が経てばそうなるのかもな」
「……そう。……あたし達がもし、ドーンみたいに死んだら、ご主人様は悲しい?」
ローリィからの質問に俺は不思議な印象を受けた。普段の活発なローリィとは違う、正反対の姿があった。その様子に、『真面目に答えなければ』という直感が電流の様に走った。
「悲しい…っていう感情では言い表せ無いだろうな。お前達が1人でも欠けたら、俺は暴走するかも知れない。………まぁ、そんな事は絶対にさせないけどな」
「……ご主人様にとってあたし達ってどんな存在?」
「……身内であり、かけがえのない存在だな。俺が楽しく過ごせるのもお前達が居たからこそだ。……1人だったら正気を保ってられなかったかもしれない」
この返答が正解だったのかは分からない。けど、ローリィの表情は明るいものとなっていた。
「…うん。そっか!わかったよ!!」
「?わかったのなら、いいけど…。ん??」
ローリィはいつも通り笑っている。けれど、いつもと少しだけ違うのは俺の気のせいだろうか?
よく分からないが、敵も倒した事だし他の魔物も消滅するだろう。復興に時間はかかるだろうが、住民のケアも必要だ。ゆっくりと時間をかけて、過ぎるのを待つしかないだろう。
俺の隣に立ったローリィと学校に帰ろうとした時、悲劇の通信が届いた。
《--アルス!至急、王都まで来てくれ!!魔物、それもドラゴンの襲来じゃ!!!》
「ご主人様…大丈夫かな?」
街の人達を学校に連れて行きながら、あたしはさっき起きた出来事を思い出していた。
あたしには、ドーンが死んじゃった事に関して特に何も思わない。ただ、死んじゃったなとしか思えなかった。
けど、ご主人様は違った。あれほど感情を剥き出しにして泣きじゃくるご主人様は初めて見た。………ううん、初めて出会った。
ご主人様にとってドーンの存在がどれほどなのかは知らない。けど、あんなに死んだ事を苦しそうにしているという事はそれ程の存在だったんだと思う。
……死者を冒涜するつもりは無いけど、妬けちゃうな。
ご主人様はあたし達が死んだりしたら、あれほど苦しむのだろうか?
ご主人様はあたし達の為に泣いてくれるのだろうか?
ご主人様は……
ご主人様は……………
………いくら考えても分かんないや。
けど、少しでもあたし達の事を思ってくれたら嬉しいなぁ。
あたしは…ううん、あたし達はご主人様が居なくなったら凄く寂しい。前、街をご主人様1人で散策しに行った時も、急に居なくなってとっても心がギュッとなった。もしかしてあたし達は捨てられたんじゃ無いかと…。
そんな事考えただけで死にたくなる。あたしにとって、ご主人様は何よりも優先すべき事で、何より尊い人だ。
……そういえばヘレナさんが言ってたっけ?『恋は下から来るもので、愛は内側から来るものなのよ?』って。……この気持ちは『愛』なのかな?よく分かんない。
「ローリィちゃん……ワタシらは何処に向かってるのかい?」
「ん……?ああ、学校に向かってるよ!あそこはチカちゃん達が守ってるから安心して!!」
「そうかい……。…ところで…アルスさんは何処に行ったんだい?」
「逃げ遅れた人が居ないかを探しに行ってるよ!大丈夫!ご主人様ならすぐ助けてくれるよ!」
「あぁ……ありがたや。ローリィちゃん達が居なかったらどうなっていた事やら……」
「大丈夫!全員…とは言えないけど、全部助けるから!!」
他の魔物は冒険者達が倒したみたいで、学校に着くまで遭遇する事は無かった。
「ローリィ、アルス様は?」
「ご主人様なら逃げ遅れた人を助けに行ってるよ!」
「そう……。ならここで帰りを待つ」
「……そうだね」
「?どうしたのローリィ?歯切れが悪いわ?」
「……ちょっとね」
「……何かあった?」
「…後で話すよ」
続々とご主人様に助けられたであろう人達が学校に集まってきた。けど、そこにはご主人様の姿は無かった。
「ねぇ、ご主人様知らない?」
ボロボロの服を着ている男の人に声をかけた。あちこちが汚れているので、きっと魔物に遭遇したんだと思う。
「…ローリィさんか。アルスさんは他にも居るかも知れないからって俺達に魔法をかけて行っちまったよ」
「そっか…」
「…なぁ、何かあったのかい?アルスさん、いつもの飄々とした顔じゃなくて、凄く険しい顔をしてたよ?」
「…そっか。何処に行ったかわかる?」
「そうだなぁ…あの方面は広場があったと思うよ」
「ありがと!…はい、コレ飲んで!回復薬だから安心して!」
「ありがと。本当に助かったよ……」
広場…か。チカちゃん達に話して向かおうかな?
男の人からご主人様の行方を聞いたあたしは早速チカちゃん達の元へと戻った。チカちゃんの隣には、ナナとフィン君が何かを話していた。
「あ、ローリィ。丁度良い時に来たわ。フィンさんがあなたに聞きたい事があるらしいの」
「………ドーンの事?」
「…はい!!ここを探してもドーンさんの姿が見当たらないので…。何か知らないかなと…」
「……………」
こういう時どうすれば良いんだろう?あたしが言っていいのかな?それともご主人様から直接聞いた方が良いのかな?
あたしが答え方を考えていると、フィン君が何かを察したように口を開いた。
「………ドーンさんを見かけたんですか?」
「……うん」
「……その…どこで?」
「…あっちの方」
「…そうですか……。そうなんですね……」
フィン君は力無くその場に膝をつくと静かに、そう、静かに肩を震わせていた。
「……ローリィ、何があったのか教えてくれない?」
あたしはフィン君に聞かれないように小声でチカちゃん達に話した。あたしと違って、チカちゃん達はショックを受けたみたいだった。
「……そう。そんな事が…」
「…仕方ない。生きる者全てに死は訪れる。それが遅いか早いかの違いだけ」
「…でもアルス様、傷付いているでしょうね…」
「…マスターが心配」
チカちゃん達が心配している理由を聞こうと思った時、大きく地面が揺れるのを感じた。避難してきた人達は泣き叫びながらその場にしゃがみ込んでいた。
「安心してください!このエリアは私達の魔法で強化されています!建物が崩れたりはしないので安心してください!!」
チカちゃんが怖がる住民に大声で大丈夫だと伝えていた。その姿を見ながら、やっぱりチカちゃんは凄いなぁと思った。
「……何か強大な力を感じる。--ッ!!!これはマスター!?」
ナナちゃんが珍しく驚いた声をあげていた。その内容を聞いたあたしはすぐさま行動した。
「ちょっ!!ローリィ!どこ行くの!!」
チカちゃんが焦ったように声をかけるが、その声を無視してご主人様の所に向かう。あたしだって、ご主人様の魔力ぐらい感じれる。
「…一体どうしたの?」
「さっきマスターの魔力を感知した。普段とは違う魔力。…マスターが危険!?」
「ダメよ!あなたまで居なくなったらここを誰が守るの!?私達が命令されたのは街の人達を守る事。それだけは忠実に守らなきゃ!」
「………わかった」
建物から建物へ。あたしは大急ぎでご主人様の元へと走る。そして、広場の奥の方でご主人様とリッチが対峙しているのを見つけた。
「…居たっ!!待っててね!!」
建物を強く蹴り跳躍する。そして、着地すると、そこには冷たい眼をしたご主人様があたしを見ていた。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「…おや?見つかってしまったか?」
「……てめぇか?サガンを襲った張本人は?」
「はて?『襲った』と言われればそうだと答えるしかないな。だが、『襲った』つもりは無いぞ?ワレからすれば、児戯に等しいものなのだがな」
「…怠いなお前。……まぁいいや。とりあえず、お前がスケルトンなんかを操ってるんだな?」
「如何にも。あやつらはワレのシモベよ。……さて、人間よ。見事ワレを見つけた褒美として願いを1つだけ聞いてやろう。…叶えるかどうかは不明だがな」
「ケッ。お決まりの雑魚みてぇな台詞吐きやがって。……願いは要らねー。けど、1つだけ質問に答えろ」
「…ふむ。何かな?」
「なぜこの街を襲った?」
「それは至極簡単な事。命令されたからだ」
「……そうか」
「ふむ…。まだ聞きたい事があるのかな?」
「……誰に命令された?」
「魔王国大臣、ガノン様にだ。……まぁ、今回は魔王様も関与はしているがな」
「……お前をぶっ殺したらそのガノンって奴に会えるのか?」
「さぁな。……まぁ人間如きがワレに勝てるはずは無いがな……。…おや、お客さんのようだ」
「………ローリィか」
「貴様のツレかな?…まぁ、人間如きが何十人居ようとワレには勝てぬ。……さぁ、退屈させぬよう全力で参れ!!」
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
…何が退屈させぬようにだ。それはこっちの台詞だ。
何はともあれ、コイツは色々と教えてくれたし使い道は無いな。魔王軍が人質交換に応じるとか夢物語だろうし。
「ローリィ。手出しは絶対にするな」
「………はい」
珍しくちゃんと言う事をローリィが聞いた。まぁ、今回ばかりは俺の手で殺したいと思ってる。
「おや?ワレは二人掛かりでも構わぬぞ?」
「はっ。おめーみてーな雑魚に2人も要らねーんだよ」
「『弱いスライムほどよく喋る』というが、正に貴様の事だろうな」
「ははっ。ま、俺の方が強いのは事実なんだけどな」
「ぬかせ。ならば、先に攻撃してくるがよい」
「ああん?それはこっちの台詞だっつーの!!……ほら来いよ。『犬のおやつ野郎』」
「…………『呪いの鎖』」
煽られ耐性ねーなコイツ。ま、雑魚だからしょうがないか。
リッチは俺に向け魔法を放ってきた。何本もの鎖が地面から出て俺を縛ろうとする。
「…おや?この魔法はワレの中でも低級なのだがな?」
「……アンデット化して、目玉も無くしたのか?全然効いてねーよ」
効かないのは当たり前だ。サブ防具で呪い耐性が高いのを装備してるし、ダメージなんぞは元々通じない。
「ほら、さっさとお前の最強の魔法ぶっ放して来いよ。じゃねーと、傷1つ喰らわねーぞ?」
「……生意気な。『結合』、『飢餓の焔』・『悪魔の息吹』」
お?コイツ、『結合』使えるのか。けど、分からない魔法だし、どんなのだろうな。
リッチの両手から、見るからに熱そうな炎と邪悪な悪魔が出現する。悪魔は炎を取り込むと、膨張し、口から炎を吐き出す。
微かに炎から絶叫が聞こえる。炎自体のスピードはゆっくりだが、俺とリッチとの間にある鉄やレンガなどがドロドロと溶けている。
「そのまま地獄の炎に溶かされるがよい」
リッチは勝利を確信した様な表情--骨なので違うかもしれないが--で、決め台詞を吐く。
……お前、フラグ立てるの上手だね。
最初はこの魔法を受けてやろうかと思ったが、絶望を届けたくなったので打ち消してやろうと思う。
「--『終焉の刃』」
迫り来る炎に対し、剣を一閃する。側から見ればただ、薙ぎ払っただけに見えるがこのスキルは少しだけ厄介なのだ。
「ばっ!?…一体何をし--ッムン!!」
このスキルは打ち消すだけの代物ではない。無の斬撃も放っているのだ。
「よく防いだな。……だが、終わりだ」
「……終わりだと?ただ斬撃を飛ばした--
リッチの動きが止まる。間違いなく何か違和感を感じただろう。
「--なんだ!?なぜワレの手が崩れていくのだ!?」
「あぁん?その効果はお前が俺に放った魔法と同等の性質だぞ?……溶けないのには驚いたが」
そう。このスキルは『魔法を吸収し相手に返す』という性質を持っている。『カウンター』の様な弾き返すだけのもので無く、『魔術師』相手に使える『剣士』のスキルである。
「---っクソ!!何故回復しない!!」
リッチは何度か回復を試みている様だが、無駄な事だ。
「回復はしねーよ、絶対にな。……さぁ、死が訪れるのを怯えながら待つんだな。…沢山人を殺したお前には丁度いい罰だ」
「--くそ!!クソがっ!!ワレはアンデットの王!!魔王様に使える四天王の1人だぞ!?この様な魔法になど負けるはずが!!」
「ああ、アンデットの王なんだ。…なら、これもおまけしとくわ。--『聖なる結界』」
リッチを中心として聖なる結界が展開される。不死属性を持つアンデットには、もはや逃げ場はない。
「ぐおおおおオオオオオ--マ、マオウ--サマァ--………
聖なる結界から抜け出せず、リッチの体は塵となっていく。喉の部分が崩れ、喋る事も出来なくなった。
「…………」
俺のこの感情も塵のようになってくれれば良いのに。仇は打てたが、憎悪の火種はまだ小さく残っている。
「……ねぇ、ご主人様」
「………なんだローリィ?」
全てを無言で見続けていたローリィが、尋ねてくる。
「…ご主人様にとって、ドーンはどんな存在だったの?」
「…………難しい質問だな。どんな存在かは上手く言葉では言い表せられない。…けど、アイツは…なんていうか…弟みたいな存在だったかもな」
サガンで過ごすうちに、ドーンとは凄く仲良くなった。この世界に転生して初めて出来た友達だったと思う。お茶目で、責任感があって、けど何処か間抜けで。可愛い後輩のようで、弟のような感じを持っていた。
「……そう…なんだ。……ご主人様はドーンが死んで悲しい?」
「…悲しいな。でも、心がポッカリと穴が空いたほどでは無い…と思う。…どうだろ。今はそう思ってるけど、時間が経てばそうなるのかもな」
「……そう。……あたし達がもし、ドーンみたいに死んだら、ご主人様は悲しい?」
ローリィからの質問に俺は不思議な印象を受けた。普段の活発なローリィとは違う、正反対の姿があった。その様子に、『真面目に答えなければ』という直感が電流の様に走った。
「悲しい…っていう感情では言い表せ無いだろうな。お前達が1人でも欠けたら、俺は暴走するかも知れない。………まぁ、そんな事は絶対にさせないけどな」
「……ご主人様にとってあたし達ってどんな存在?」
「……身内であり、かけがえのない存在だな。俺が楽しく過ごせるのもお前達が居たからこそだ。……1人だったら正気を保ってられなかったかもしれない」
この返答が正解だったのかは分からない。けど、ローリィの表情は明るいものとなっていた。
「…うん。そっか!わかったよ!!」
「?わかったのなら、いいけど…。ん??」
ローリィはいつも通り笑っている。けれど、いつもと少しだけ違うのは俺の気のせいだろうか?
よく分からないが、敵も倒した事だし他の魔物も消滅するだろう。復興に時間はかかるだろうが、住民のケアも必要だ。ゆっくりと時間をかけて、過ぎるのを待つしかないだろう。
俺の隣に立ったローリィと学校に帰ろうとした時、悲劇の通信が届いた。
《--アルス!至急、王都まで来てくれ!!魔物、それもドラゴンの襲来じゃ!!!》
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