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084話 -六道ダンジョン 6-

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「……目に見える成果はこれだけか」

フロアを探索した結果、出てきたのは武器と防具だけであった。チカ達が隠し部屋なんかを探したりしてくれたが、このフロアには全く無く、フロアの中央に宝箱がポツンと山積みにされていただけだった。

「『銅の剣』に『鋼の短剣』、『錫の籠手』に『ひのきの杖』ですか…」

「防具も弱い物ばかり。特に『銅の鎧』は『ひのきの杖』で凹みが出来る」

「ゴミだねゴミ!こんなの宝箱に入れる必要無いじゃんね!」

「隠し部屋も無ければ罠も無い…。意味合いがわかんないなぁ」

「アルス様、この武器や防具はどうしますか?持ち帰りますか?」

「売っても金にならんだろうし宝箱に戻しておこう」

見つけた武器や防具を宝箱に丁寧に戻し部屋から出る。命がけで降りてきた事に見合わない対価だった。

「……さてと。あとはここを降るだけだな…」

俺が落ちて行ったであろう穴を覗き込みながら呟く。ナナに魔法を頼んでから下へと降りる。今回の穴の深さはそこまででも無く、すぐに地面へと到着した。

「…広いですね」

「確か壁側に燭台があった様な………あったあった」

薄暗いまま右側へと歩き壁へと辿り着く。そこに燭台がありそれに魔法で火を灯す。すると壁伝いに火が走り各燭台へと火が移り部屋を明るくする。

「なるほど。こういう仕組みなのか」

「ボス前って感じがするね!」

ナナとローリィはこの部屋のギミックに感心している様だ。ローリィはどちらかというと雰囲気に興奮しているようだが。

「アルス様。扉があるのですが」

「ああ。あの向こうがアスラが居る部屋だ。…ま、ボスって事だ」

「それならジョブは戻した方が良さそうですね」

「だな。……俺も剣士以外に変えとかないとな」

チカ達は各々ジョブを元に戻す。剣士系統のジョブが使えないので、どんな前衛職にするかを考える。ローリィは武闘家系統なので被らない方がいい。前回は俺一人だったので次々にジョブを変更したが万能性に優れたジョブが良さそうだ。

「……けどなぁ。流石にアスラ相手でも俺達には勝てないだろうし…」

アスラは第1回目のイベントボスだ。まだリリースしてから日が経ってない中だからこそ難易度は鬼畜であった。しかし、それは初回だからであって古参プレイヤーならば余裕で討伐出来るだろう。……特に俺の様な廃課金者であれば尚更だ。

結局バランスを考えた上で『召喚士』にしておいた。この召喚士というジョブは文字通り召喚獣を使役する事に長けている。それこそジョブレベルによって使役する召喚獣の強さや数が変わるが、カンストしているから問題無い。また召喚士にはややこしいモノがあり、基本的に武器や防具は全種類装備する事が出来る。だが、その武具の特殊効果は一切使用出来ず、ただの飾りとなる。また召喚士には専用の武具は無い。その代わりに使役する召喚獣のを変える事が出来る。分かりやすく言うなれば、馬にガッチガチの鎧を装備させたり、龍の色を変えたり出来るというモノだ。

……まぁ正直言えば『召喚士』というジョブは人気が無い。むしろ使っているプレイヤーは居ないと思う。だって強さイコール召喚獣だからね。カンストしているプレイヤーの方が珍しいかも。

召喚獣の強さも後半のさらに後半にならないと使い物にならない。最後になって怒涛の強さの召喚獣を使役出来るが、そこまでたどり着くには最短で5ヶ月掛かる。使えるのも『上級悪魔』とかいう雑魚で、狩場で放置するとワンパンで沈むレベルだ。

とまぁ色々召喚士というジョブは優遇されていないが、唯一カンストした時にだけある特殊能力を得る。その特殊能力とは『依存』という物である。『Destiny』の攻略サイトにも明記されてないので、多分知っている人は少ないかもしれないが、この『依存』という能力は『プレイヤーのステータス』を丸々引き継ぐ事が出来る。まぁ極端に簡単な言い方をすれば『強くてニューゲーム』の状態という事だ。

例を出すと、俺の基本ジョブレベルはカンストしている。その恩恵により体力や攻撃力、防御力などの全ては最高となっている。……あぁ、言い忘れていたけど『召喚士』ってのは後衛職ね?でもその後衛職が前衛職の強さを引き継ぐとなれば分かりやすいだろう。普通なら前衛と後衛だとステータスに差ができるからね。

その他にも『依存』という特殊能力は使い勝手が良いのだが、それはアスラとの戦いの時にでも。………まぁこのジョブをカンストするまでどんだけ全滅した事か。だからあんまり思い入れはよく無いんだよね。

「うーっし。準備できたぞ」

「あれれ??ご主人様は召喚士にしたの?」

「アルス様が後衛職だなんて珍しいですね…」

「これだとバランスが悪い。ボクが前衛になろうか?」

「大丈夫だよ。いざとなれば前衛になる事だって出来るし。俺がこれにした理由はアスラの召喚対策だからね」

「……ならば『大僧正』にすれば良いのでは?」

「チッチッチ。違うんだなーこれが。大僧正だとチカのジョブと被っちまうだろ?流石に回復役は2人も要らないっしょ」

「しかしマスター。『大僧正』ならアスラ対策の召喚が出来る」

「それはそれだけど、召喚士を選んだのは召喚獣を囮に出来るってメリットもある。『大僧正』の召喚だとHP管理が面倒だからね。それに防御力が低い」

「………その為の私達なのでは無いでしょうか?」

「……………ッ?!」

チカが不思議そうに質問してくる。確かに言われればそうだ。『バランス、バランスが大事』と思いながらも、その為のパーティだという事がすっぽりと抜け落ちていた。

「チカ。マスターには別の考えがあるのかもしれない。何故ならボク達のマスターなのだから」

「……確かにそうかも。アルス様、申し訳ありません…」

「ハハ………ハハハハハ………」

「ねーねー。どうでも良いから早く行こうよー!あたし暇ーっ!!」

ナナがチカへと軽い叱責をしたのだが、それは俺にとっては悪い方向へと進む叱責となった。ナナに言われたチカは何だかスッキリとした表情をしているし、今更『確かにそうだわ。俺間違えてたわー』と言える雰囲気でも無い。

(……未来の俺に丸投げしよう。今考えたって何も思い浮かばないしね)

果たしてナナの期待に応える事は出来るかどうかは、近い未来の俺に託すことにした。

「………よっし!!それじゃ……行くぞ」

再度確認をした後に扉をゆっくりと開ける。そして真っ暗な闇が広がるフロアへと足を踏み入れるのであった。
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