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097話 -いざ、ジュエリア王国へ 6-
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店へと入るとそこは至って普通の飲食店であった。ただ、喧騒は全く無く、どちらかと言えば楽しそうに会話する声と、店員を呼ぶ声、食器の音が聞こえる良い音色であった。
「こんばんわ。7人だが、席は空いているかね?」
「……奥の席でなら。ただ、座敷と言ってジパング風のお席となっておりますが…」
「ああ。そこで構わないよ」
「ではお席にご案内しますね」
店員さんに案内してもらった部屋は正に和風な物で、ご丁寧に座布団まで敷かれていた。
「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」
「あぁ。ありがとう。……あ、ちょっと待ってくれるかな?」
店員が下がろうとした時、オニキスさんが呼び止める。
「これを厨房に居るオーナーに渡してくれないかな?」
「…………」
「ああ、大丈夫。変な物では無いから」
「…分かりました」
店員さんは不思議そうな顔をしながらも部屋から出て行く。
「何を渡したんですか?」
席に座りながら--もちろんオニキス夫妻が上座だ--オニキスさんへと尋ねる。
「…まぁ昔のちょっとした思い出ですね」
「???」
「アナタ。それだけじゃ伝わらないわよ」
「ふふふっ。そうだね。……覚えていればこちらに来ると思いますので、楽しみにしててください」
「????」
「ご主人様ぁー!早く料理決めよーよ!」
「ボクはコレとコレ」
「私はコレにするわ」
「……ナナお姉ちゃん達早いね…」
チカ達はすぐにメニューを見てたのか、もう頼む物を決めてた様だ。
「オニキスさん達にもメニュー渡せよー?」
「ふふ、ご心配無く。私達はこの店では決まってとあるメニューを頼むんです」
オニキスさんは朗らかな笑みを浮かべながらコーラルさんの頷き合う。
「とあるメニューって?」
「そのメニューの後ろに書いてありますよ」
メニューの後ろを見てみると、『お客様の気分』という文字が書かれてあった。値段は『?』とも書かれていた。
「……何ですかコレ?」
「これはですね、文字通り注文した客の気分に合わせたメニューを提供してくれるんです。持ち合わせが無い時は『安めで』とお願いすれば良いんですよ」
「はぇー………シェフの気まぐれパスタみたいなもんか」
「? 何ですかそのメニューは?」
「あ、えと……こっちの話っす…」
「私達はいつもコレを頼むんです。まぁ記念日に利用しているので、ちょっと豪勢にしてもらってますけどね」
コーラルさんが少し微笑みながら教えてくれる。このメニューは本当に客の気分に合わせた料理を出すらしく、何かの記念日にはそれ相応の料理を、ムシャクシャしている時には激辛の料理を、落ち込んでいる時には安らぐ料理をと、様々な料理を出してくれるらしい。
「……俺もコレにしようかなぁ?」
「あたしはこの『肉塊』ってのを頼むっ!」
「……………」
ローリィの品を探してみると、『肉の塊。食べ切れることが出来るか?』と大食いメニューみたいな文字が並んでいた。
「レインは決まった?」
「んー………私はチョコチョコ摘みながら食べたいんだよね」
「なら私の少し分けてあげるわ」
「ボクも」
「あたしもー」
「ありがと。なら、サラダだけで良いわ。……皆はお酒呑むの?」
「んー………呑んでみようかな?」
「ご主人様が呑むならあたしも!」
「私も!」
「ボクも!!!」
「オニキスさん達は何を呑むの?」
「私達はその時に頼みますよ」
「? その時ってー?店員が来た時ー??」
「覚えていればオーナーが顔を出すと思いますので……。来なかったら改めて注文しますよ」
「……顔見知りなんですか?」
オニキスさんの言い方的に引っかかるものがあった。それを尋ねてみると、オニキスさんは頷いて話してくれる。
「このお店のオーナーとは妻と会う前から友人でして…。王宮に料理人として勤めていて、私達が引退した同時期に彼も独り立ちしましてね」
「なるほど…。だから何かを渡したんですね?」
「ええ。渡した物は私と彼にしか分からない物なんです。覚えていれば多分…………………どうやら来たみたいですね」
オニキスさんの話の途中でドスドスと力強い足音が聞こえ、座敷へと姿を現したのは熊みたいなガタイをした男性だった。髪型はスキンヘッドで、顔にはシワが刻まれており歴戦の戦士かと思うくらいだった。
その戦士は俺とチカ達を一瞥した後、少しだけ動揺した様に思えた。だが、上座に座っているオニキスさんを見て、無邪気な笑顔を浮かべた。
「やぁマルクス。久しぶりだね」
「久しぶり過ぎるぞオニキス!姿を見せないからおっ死んだかと思ってたぜ!」
(こ、声がめちゃ可愛い……)
熊みたいなガタイをしているのに、声がとても高い。その声で野郎口調なもんだから、歴戦の戦士というイメージがすぐに壊れた。
マルクスと呼ばれた男性はコーラルさん側へと回り、肩を叩く。
「コーラルちゃんも久しぶりだな。相変わらず綺麗だな!」
「あらあら。マルクスも格好いいままね」
「照れるぜ!」
ローリィが気を利かせ、男性が座れる広さを作る。男性はローリィへと『悪りぃな嬢ちゃん』と気さくな笑みを浮かべてから、コーラルさんの隣へと座る。
「マルクス。厨房を空けてて良いのかい?」
「ハッ!調理なんざ若い奴らで回せるさ!それよりもオニキス達の方が優先だからな!」
「それじゃあ、まずは注文をお願いしても良いかしら?私達はいつもので、アルスさん達の注文を聞いてくれるかしら?」
「おうよ!……んじゃ、オニキス達はいつものアレだな?飲み物もアレでいいのか?」
「ええ。久し振りに私達も呑みたいから」
「……流石に度数は下げとくぜ?んじゃ、嬢ちゃん達の注文を聞こうか」
「えと……それじゃぁ--
男性は俺達が注文する度に大声で厨房へと通していた。…笑っちゃダメだとは思うが、笑いそうになってしまう俺は何て最低な奴なんだ!!
「--以上でお願いします」
「あいよ!じゃ、俺はオニキス達のを作ってくるから待ってろ!」
男性は膝を叩いた後腰を上げ厨房へと移動する。
「……ビックリしたでしょ?」
コーラルさんがニヤニヤとしながら俺へと話しかけてくる。
「そ、そうっすね……」
「昔は今よりももっと声は高かったのよ?女の子と間違われるくらい」
「ふふっ…懐かしいね。それが嫌だから料理人なのに、兵士の訓練にも参加してたよね」
「……オニキスさんから料理人って聞かされてなかったら歴戦の戦士かと思ってましたよ」
「剣の実力もありますよ。ただ、暴力は嫌いだそうで」
「………」
「見た目と大違いよねー?」
コーラルさんはクスクスと笑いながら昔話をしてくれる。マルクスさんはオニキスさんと同い年らしく、どっかの村出身らしい。料理人を目指していたマルクスさんは当時ガリガリのヒョロヒョロだったらしいが、王宮の厨房も兵士と同じく厳しい縦社会だったらしい。
ある時、その縦社会で散々精神がやられたマルクスさんが辞めようかを迷っている時に腹を空かせたオニキスさんが声を掛けたらしい。オニキスさん曰く、『椅子に座っている姿は正に棒のようだった』らしく、マルクスさんの話を聞いたオニキスさんが、『オレ、腹減ってるからさ。とにかくボリュームのある物を作ってくれ』と頼んだとか。
んで、オニキスさんは厨房の偉い人に話をしに行ったらしく、『料理の実験台になるから彼に料理を作らせてくれ』と頼み込んだ。その偉い人も『味の評価は必ずしてくれ。アイツは手順が悪いだけだから』とマルクスさんの事を気にかけていたそうだ。
それでマルクスさんはオニキスさんの『味が濃くてピリ辛で、ボリュームあって元気の出る料理』という無茶な注文をしたらしい。マルクスさんはその要望に『無理だ』と言ったらしいが、『まずは作る事から始めよう。教えてもらってるだろ?』と突っぱねたらしい。
んで、時間は掛かったが出てきた料理を食べたオニキスさんは『旨いじゃん!これで料理人辞めるとかバカらしいぞ!』と言ったらしい。その時の味は要望通りの物で、オニキスさんはその料理を一心不乱に食べたとか。『旨い旨い!』と言いながら食べるオニキスさんにマルクスさんは照れ臭そうな顔をしながら小さな声で『ありがとうございます』と言ったらしい。
それからオニキスさんは訓練後の食事の時にはマルクスさんにお願いをする様になり--もちろん、忙しい時間帯を避けて--、オニキスさんの無理難題な注文に応え続け行くと、マルクスさんの手順の悪さも改善していったとか。元々、料理人としての素質があったらしく、マルクスさんは最終的にソニア達の食事を提供する専任者に昇り詰めたらしい。
その時にはマルクスさんとオニキス夫妻は休みを合わせて遊んだりしていたらしい。マルクスさんは新米兵士に何を食べさせるべきかをオニキスさんに相談し、オニキスさんはマルクスさんに、気落ちしている兵士に『元気の出るメニュー』を作ってくれと頼んだりと、良い関係を築いたとか。
んで、マルクスさんは後継もできた事で夢だったお店を開く事にし、王宮の料理人を引退。オニキス夫妻も同時期に引退し、結婚記念日などの時にはこのレガロというお店を利用してたんだってさ。マルクスさんには家族は居ないらしいけど、我が子のようにオニキス夫妻の子供を可愛がってくれたんだとか。………何かすっごい心がホッコリした。
「--とまぁ、色々と端折りましたがね」
「…素晴らしい友情ですわ。オニキスさんが居たからこそ、マルクスさんは独り立ち出来たのですね」
「うん……。2人の関係は生涯の友と言っても過言では無い」
「素敵ねぇー。オニキスさんあってのマルクスさんって事なのね」
「ハハハッ!そんな事はありませんよ。ただ、私はその時お腹が空いてただけなんですから」
「私もマルクスの味見に駆り出されたのよ?『女性の意見も必要だから』って」
「コーラルと行くと、新作のケーキが絶対に出てきたなぁ」
「『王女様に出す予定だから、厳しく評価してくれ!』って………そんな言われたら味なんて分からないわよ」
オニキスさんとの昔話を聞き、笑い合っていると座敷に良い匂いが届く。
「……俺の過去の話は居るところでしろよなー?」
少し顔を赤らめながらマルクスさんが料理を持って来た。
「あらあら。ごめんなさいね?つい懐かしくって」
「見ず知らずの人に聞かれるなんて恥ずかしいだろーが!……まぁそん時の事はずーっと覚えてるけどよ」
そんな言葉を言いながらマルクスさんはテーブルに次々に料理を置いていく。そして、お酒が届いたと同時にオニキスさん主導の元、乾杯をするのであった。
「こんばんわ。7人だが、席は空いているかね?」
「……奥の席でなら。ただ、座敷と言ってジパング風のお席となっておりますが…」
「ああ。そこで構わないよ」
「ではお席にご案内しますね」
店員さんに案内してもらった部屋は正に和風な物で、ご丁寧に座布団まで敷かれていた。
「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」
「あぁ。ありがとう。……あ、ちょっと待ってくれるかな?」
店員が下がろうとした時、オニキスさんが呼び止める。
「これを厨房に居るオーナーに渡してくれないかな?」
「…………」
「ああ、大丈夫。変な物では無いから」
「…分かりました」
店員さんは不思議そうな顔をしながらも部屋から出て行く。
「何を渡したんですか?」
席に座りながら--もちろんオニキス夫妻が上座だ--オニキスさんへと尋ねる。
「…まぁ昔のちょっとした思い出ですね」
「???」
「アナタ。それだけじゃ伝わらないわよ」
「ふふふっ。そうだね。……覚えていればこちらに来ると思いますので、楽しみにしててください」
「????」
「ご主人様ぁー!早く料理決めよーよ!」
「ボクはコレとコレ」
「私はコレにするわ」
「……ナナお姉ちゃん達早いね…」
チカ達はすぐにメニューを見てたのか、もう頼む物を決めてた様だ。
「オニキスさん達にもメニュー渡せよー?」
「ふふ、ご心配無く。私達はこの店では決まってとあるメニューを頼むんです」
オニキスさんは朗らかな笑みを浮かべながらコーラルさんの頷き合う。
「とあるメニューって?」
「そのメニューの後ろに書いてありますよ」
メニューの後ろを見てみると、『お客様の気分』という文字が書かれてあった。値段は『?』とも書かれていた。
「……何ですかコレ?」
「これはですね、文字通り注文した客の気分に合わせたメニューを提供してくれるんです。持ち合わせが無い時は『安めで』とお願いすれば良いんですよ」
「はぇー………シェフの気まぐれパスタみたいなもんか」
「? 何ですかそのメニューは?」
「あ、えと……こっちの話っす…」
「私達はいつもコレを頼むんです。まぁ記念日に利用しているので、ちょっと豪勢にしてもらってますけどね」
コーラルさんが少し微笑みながら教えてくれる。このメニューは本当に客の気分に合わせた料理を出すらしく、何かの記念日にはそれ相応の料理を、ムシャクシャしている時には激辛の料理を、落ち込んでいる時には安らぐ料理をと、様々な料理を出してくれるらしい。
「……俺もコレにしようかなぁ?」
「あたしはこの『肉塊』ってのを頼むっ!」
「……………」
ローリィの品を探してみると、『肉の塊。食べ切れることが出来るか?』と大食いメニューみたいな文字が並んでいた。
「レインは決まった?」
「んー………私はチョコチョコ摘みながら食べたいんだよね」
「なら私の少し分けてあげるわ」
「ボクも」
「あたしもー」
「ありがと。なら、サラダだけで良いわ。……皆はお酒呑むの?」
「んー………呑んでみようかな?」
「ご主人様が呑むならあたしも!」
「私も!」
「ボクも!!!」
「オニキスさん達は何を呑むの?」
「私達はその時に頼みますよ」
「? その時ってー?店員が来た時ー??」
「覚えていればオーナーが顔を出すと思いますので……。来なかったら改めて注文しますよ」
「……顔見知りなんですか?」
オニキスさんの言い方的に引っかかるものがあった。それを尋ねてみると、オニキスさんは頷いて話してくれる。
「このお店のオーナーとは妻と会う前から友人でして…。王宮に料理人として勤めていて、私達が引退した同時期に彼も独り立ちしましてね」
「なるほど…。だから何かを渡したんですね?」
「ええ。渡した物は私と彼にしか分からない物なんです。覚えていれば多分…………………どうやら来たみたいですね」
オニキスさんの話の途中でドスドスと力強い足音が聞こえ、座敷へと姿を現したのは熊みたいなガタイをした男性だった。髪型はスキンヘッドで、顔にはシワが刻まれており歴戦の戦士かと思うくらいだった。
その戦士は俺とチカ達を一瞥した後、少しだけ動揺した様に思えた。だが、上座に座っているオニキスさんを見て、無邪気な笑顔を浮かべた。
「やぁマルクス。久しぶりだね」
「久しぶり過ぎるぞオニキス!姿を見せないからおっ死んだかと思ってたぜ!」
(こ、声がめちゃ可愛い……)
熊みたいなガタイをしているのに、声がとても高い。その声で野郎口調なもんだから、歴戦の戦士というイメージがすぐに壊れた。
マルクスと呼ばれた男性はコーラルさん側へと回り、肩を叩く。
「コーラルちゃんも久しぶりだな。相変わらず綺麗だな!」
「あらあら。マルクスも格好いいままね」
「照れるぜ!」
ローリィが気を利かせ、男性が座れる広さを作る。男性はローリィへと『悪りぃな嬢ちゃん』と気さくな笑みを浮かべてから、コーラルさんの隣へと座る。
「マルクス。厨房を空けてて良いのかい?」
「ハッ!調理なんざ若い奴らで回せるさ!それよりもオニキス達の方が優先だからな!」
「それじゃあ、まずは注文をお願いしても良いかしら?私達はいつもので、アルスさん達の注文を聞いてくれるかしら?」
「おうよ!……んじゃ、オニキス達はいつものアレだな?飲み物もアレでいいのか?」
「ええ。久し振りに私達も呑みたいから」
「……流石に度数は下げとくぜ?んじゃ、嬢ちゃん達の注文を聞こうか」
「えと……それじゃぁ--
男性は俺達が注文する度に大声で厨房へと通していた。…笑っちゃダメだとは思うが、笑いそうになってしまう俺は何て最低な奴なんだ!!
「--以上でお願いします」
「あいよ!じゃ、俺はオニキス達のを作ってくるから待ってろ!」
男性は膝を叩いた後腰を上げ厨房へと移動する。
「……ビックリしたでしょ?」
コーラルさんがニヤニヤとしながら俺へと話しかけてくる。
「そ、そうっすね……」
「昔は今よりももっと声は高かったのよ?女の子と間違われるくらい」
「ふふっ…懐かしいね。それが嫌だから料理人なのに、兵士の訓練にも参加してたよね」
「……オニキスさんから料理人って聞かされてなかったら歴戦の戦士かと思ってましたよ」
「剣の実力もありますよ。ただ、暴力は嫌いだそうで」
「………」
「見た目と大違いよねー?」
コーラルさんはクスクスと笑いながら昔話をしてくれる。マルクスさんはオニキスさんと同い年らしく、どっかの村出身らしい。料理人を目指していたマルクスさんは当時ガリガリのヒョロヒョロだったらしいが、王宮の厨房も兵士と同じく厳しい縦社会だったらしい。
ある時、その縦社会で散々精神がやられたマルクスさんが辞めようかを迷っている時に腹を空かせたオニキスさんが声を掛けたらしい。オニキスさん曰く、『椅子に座っている姿は正に棒のようだった』らしく、マルクスさんの話を聞いたオニキスさんが、『オレ、腹減ってるからさ。とにかくボリュームのある物を作ってくれ』と頼んだとか。
んで、オニキスさんは厨房の偉い人に話をしに行ったらしく、『料理の実験台になるから彼に料理を作らせてくれ』と頼み込んだ。その偉い人も『味の評価は必ずしてくれ。アイツは手順が悪いだけだから』とマルクスさんの事を気にかけていたそうだ。
それでマルクスさんはオニキスさんの『味が濃くてピリ辛で、ボリュームあって元気の出る料理』という無茶な注文をしたらしい。マルクスさんはその要望に『無理だ』と言ったらしいが、『まずは作る事から始めよう。教えてもらってるだろ?』と突っぱねたらしい。
んで、時間は掛かったが出てきた料理を食べたオニキスさんは『旨いじゃん!これで料理人辞めるとかバカらしいぞ!』と言ったらしい。その時の味は要望通りの物で、オニキスさんはその料理を一心不乱に食べたとか。『旨い旨い!』と言いながら食べるオニキスさんにマルクスさんは照れ臭そうな顔をしながら小さな声で『ありがとうございます』と言ったらしい。
それからオニキスさんは訓練後の食事の時にはマルクスさんにお願いをする様になり--もちろん、忙しい時間帯を避けて--、オニキスさんの無理難題な注文に応え続け行くと、マルクスさんの手順の悪さも改善していったとか。元々、料理人としての素質があったらしく、マルクスさんは最終的にソニア達の食事を提供する専任者に昇り詰めたらしい。
その時にはマルクスさんとオニキス夫妻は休みを合わせて遊んだりしていたらしい。マルクスさんは新米兵士に何を食べさせるべきかをオニキスさんに相談し、オニキスさんはマルクスさんに、気落ちしている兵士に『元気の出るメニュー』を作ってくれと頼んだりと、良い関係を築いたとか。
んで、マルクスさんは後継もできた事で夢だったお店を開く事にし、王宮の料理人を引退。オニキス夫妻も同時期に引退し、結婚記念日などの時にはこのレガロというお店を利用してたんだってさ。マルクスさんには家族は居ないらしいけど、我が子のようにオニキス夫妻の子供を可愛がってくれたんだとか。………何かすっごい心がホッコリした。
「--とまぁ、色々と端折りましたがね」
「…素晴らしい友情ですわ。オニキスさんが居たからこそ、マルクスさんは独り立ち出来たのですね」
「うん……。2人の関係は生涯の友と言っても過言では無い」
「素敵ねぇー。オニキスさんあってのマルクスさんって事なのね」
「ハハハッ!そんな事はありませんよ。ただ、私はその時お腹が空いてただけなんですから」
「私もマルクスの味見に駆り出されたのよ?『女性の意見も必要だから』って」
「コーラルと行くと、新作のケーキが絶対に出てきたなぁ」
「『王女様に出す予定だから、厳しく評価してくれ!』って………そんな言われたら味なんて分からないわよ」
オニキスさんとの昔話を聞き、笑い合っていると座敷に良い匂いが届く。
「……俺の過去の話は居るところでしろよなー?」
少し顔を赤らめながらマルクスさんが料理を持って来た。
「あらあら。ごめんなさいね?つい懐かしくって」
「見ず知らずの人に聞かれるなんて恥ずかしいだろーが!……まぁそん時の事はずーっと覚えてるけどよ」
そんな言葉を言いながらマルクスさんはテーブルに次々に料理を置いていく。そして、お酒が届いたと同時にオニキスさん主導の元、乾杯をするのであった。
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