上 下
118 / 135

116話 -悪夢 8-

しおりを挟む
『感謝するぞ』

ムマが半分こに割れ、血を吹き出しながら地面へと倒れた時に声が届いた。

「終わったのか?」

姿無き声の主へと俺は話しかける。

『ああ。ではお前達を元の世界へと戻してやろう』

「ちょっと待て。聞きたい事が色々とある」

締めに入ろうとしていた声の主に俺は手を上げて静止するようにジェスチャーをする。

『ふむ………。手伝って貰ったお礼に1つだけ答えてやろう』

「お前は誰でレインは一体何者なんだ?」

『……質問が2つになっているが……まぁ答えてやろう』

声の主は少し間を取った後に教えてくれる。

『私はこの世界の創造主でありレインはである』

「---は?それって--
『答えはいずれ出よう。だが、今でも近くでも無い。そして、我が娘に問いただしても答えは聞かぬだろう。……お前が自らの役目を果たす過程においておのずと分かるはずだ』

(創造主??って、つまり---

『さぁ、お前達を元の世界へと戻そう。………それと。この村の遺体を丁重に埋葬して欲しい。頼めるか?』

「……わかった」

『すまぬな。私も元に戻るまで時間が掛かるからな。………ではアルスよ。目を閉じて光を受け入れよ』

声の指示通りに目蓋を閉じると暖かい光に包まれた様な感覚がした。そして、その感覚が消えるまで待ち、ゆっくりと目を開けるとコテージへと戻っていた。

「………おかえり。アルス」

「………レインッ!!」

目を開けて真っ先に飛び込んできたのはベッドから起き上がり、笑みを浮かべているレインだった。

「「「レインッ!!!」」」

レインに近寄ろうとする前にチカ達が先にレインへと抱き付き揉みくちゃにしていた。

「い、痛いよお姉ちゃん達……」

「お腹は空いてないか?」
「気分はどう??喉乾いてない?」
「うわっ!汗びっしょり!レインちゃん、早く着替えなきゃ!」

チカ達はレインの返事を聞かず各々行動する。水や食べ物を持ってきたり、ローリィに至ってはレインの服を剥ぎ取っていた。

「き、着替えぐらい自分で出来るよ!」

「ほら!早くこれで体拭いて!」

甲斐甲斐しく世話を焼くチカ達に背を向けて俺は溜息を1つ吐く。レインの顔色はいつも通りに戻っており、スラスラと喋る様子から大丈夫そうに見えたからだ。

(ハァー……どうやら無事だった様だな)

一気に疲労が押し寄せたのか、体が重くなった様な気がする。しかし、それよりも先に俺は先程の事を思い返していた。

(……一体レインは何者なんだ?あの声もレインについては娘とか言ってたし…………。俺の想像じゃ、あの声の主はこの世界の神様とかだろうし…)

創造主という単語と、我が娘という単語。馬鹿な俺でも創造主=神ってのは分かる。じゃあ、その神様の娘ってのはなんだろうか?

(依代よりしろだったら我が娘とか言わないよな……。うーーーーん……直接聞いた方が良いのかな?)

ガヤガヤと後ろで話し声が聞こえる中、色々と考える。まず1つはレインとあの声の主。そしてもう一つは戦ったムマについてだ。

(……アイツ、魔王がどうのこうのとか言ってたよな?つーことはサガンを襲った一味に間違いは無い……。だが、何故魔王の配下がレインに取り憑いていたんだ?)

その考えに俺は自問自答する。

(…ああ、それはアレか。神様にあのムマって奴がチョッカイを出してた訳か。……ん?となると、魔王ってのはスゲェ強いんじゃないか?)

自問自答した答えに俺は更に仮説を立てていく。

(あの声の主が言っていた事が本当だとすると、魔王だけでなく、配下も神に干渉する事が出来る訳じゃん?神ってのは唯一無二の存在なのにそんな簡単に手を出せる相手なのか?)

「---ス様」

(普通、神に手を出せるのが魔王っつー事なら分かる。ゲームでもお馴染みの展開だからな。…けど、アイツは『魔王様に命令された』と言ってたよな?じゃあ、魔王がどうにかしてムマを送り込んだって事か?)

「--ルス様!」

(じゃあ、魔王っていうのはかなりヤベェ相手って事だよな?んで、手下が居るって事は……情報が筒抜けって事か?だとしたら…………俺達の事が伝わってる?)

「アルス様ッ!!」

「うわっ!?」

背後から肩を掴まれ、耳元で大声を出された事に俺は大袈裟に驚いた。

「ど、どうしたチカ??」

「レインがお腹が空いたらしいんですが……食糧を分けてくれませんか?」

「……あ、あぁ、食糧ね?」

何事かと思ったが、単なるお願いに気が抜けた。ボックスを開き食糧をチカに渡すと、チカが口を開いた。

「………アルス様。1つお聞きしても?」

「ん?」

「……アルス様も一緒かどうかは分かりませんが、私、変な声を聞いたんです」

「変な声?」

「はい。……『我が娘を頼む』と」

「………ふぅん?チカも聞いたのか」

「チカという事はアルス様もですか?」

「うん。ナナ達も聞いたのかな?」

「まだ聞いてないので分からないですけど………その声はこうも言ってました」

「なんて?」

「……『どの道に進もうとお前達の使命からは逃れられぬ。我が娘を優先に行動せよ』…と」

「…………なんやねんそれ」

「我が娘とはレインの事なんでしょうか?」

「…俺も似たような話を聞いたよ。…多分、娘ってのはレインの事なんだろうなぁ」

「……あのは一体何者だったんでしょうか?」

「女性?」

「はい。レインの背を少し高くしたような銀髪の長い髪の女性です」

「……へ?誰それ?」

「? アルス様はその女性に話しかけられたのでは?」

「いや?俺は声だけだったんだけど……どうやら、チカと俺は違ったみたいだな」

「…レインに聞きますか?」

「……いや。俺もそうしようかと思ってたけど……あの声の主が『聞いても無駄』って言ってたわ」

「そう……なんですか」

「…おのずと分かるとも言ってたな。言い方が抽象的過ぎるよなぁ?」

チカも似た様な体験をしていたという事は大収穫だ。しかし、答えは見つからない。

(……まぁダメ元でレインに聞くしかないか)

「チカ、食べ物持っていかなくて大丈夫か?」

「あっ……そうでした」

チカと共にレインの所へ行き、無駄話をソコソコしてから川の字になって就寝をするのであった。
しおりを挟む

処理中です...