地仙、異世界を掘る

荒谷創

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20.地仙、再開する

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女神の横やりやら、生き残っているらしい迷宮主(推定)の攻撃やら、過労やらと、なんやかんやあったせいで力の流れを整え、大地を活性化させるという、地仙本来の役目がなかなか進まない訳だが、そうも言っていられない。
「てな訳で、最低でも四ヶ月は籠る。」
「また倒れないでよ?」
「応。」
力の流れを整えたり、方向を変えるのは地仙の得意とするところだ。
「今までは拠点を中心に、均等に力を流していたんだが。少し変えようと思っているんだ。」
ダロス大陸中央部には正体が判らない、膨大な力を持つモノが存在している。それが何なのかは、現時点の蛇乱の実力では見極められない。そして力の流れの源流は、恐らくその存在なのだ。迂闊に近寄れないし、絡まった力を解そうにも固すぎて、手間と危険の割りに効果は見込めない。
「と、言っても、いつかは手を着けないといけないからな。」
力を流す方向を、比較的絡まりかたが緩い大陸の北部にする事で、新たな切欠とする。
場合によっては支洞を掘る事も視野に入れておく。
経穴を定めてやる事で、流れを安定させる必要があるかもしれない。
「地仙の仕事って、実地主義だったのね。」
「俺の場合は、実力が無いから仕方ないさ。師匠なら、昼寝しながら杖をチョイチョイだ。」

後は玉鱗に任せておけば、万事差配してくれるだろうと、蛇乱は礎の間に降りた。
中央に陣取ると、凶眼を凝らし、力の流れの先を見据える。
ゆるゆると、その腕が動き始め、力の奔流に突き込まれる。抗おうとするなら呑み込まれ、腕ごともぎ取られるであろう激流は、しかし蛇乱の手を壊すどころか、導かれる様に解れながら、その方向を大きく変える。ダロス大陸の地殻より深い深度に、北に向かう力が流し込まれる。
流し込まれた力は、地殻の隅々までも染み渡りながら、しかしその勢いは滞る事もなく地表にまで達すると、大河の如く大地を流れ、潤して行く。
それは、実体の無い力。
しかし岩を砕き、土塊を崩し、ひび割れた荒野を豊かな土壌に変える。
大地ばかりでは無い。
乾ききっていた風は、爽やかに雪原を吹き抜けて行く。稀華ならば、風精達が笑いあいながら、生き生きと踊る様を見るに違いない。
今は冬。
ダロス大陸の北部なれば尚の事、命の伊吹などあろう筈も無く。ただ乾いた荒野に冷たい雪が降り積もるのみ。
常ならば。である。
一瞥では、千年変わらない死の光景。
だが雪融けの時には、大きく様変わりする事になる。
否。
既に、変化は起きていた。
渇れ果て、石と砂の溝と化していた泉は、雪下で湧き上がり、川は誰の目にも触れないまま流れを作り始めている。
雪割りと言われる花、野草の芽は、春待ち遠しいと準備を整える。
大陸の東から北東、そして北部の真ん中に。
蛇乱が礎の間に居る四ヶ月で起きた。
これがダロス大陸北部の変化である。

冬の始めに転がり込んできた珍客は、長い冬の生活の大きな潤いになっていた。
飢え死にも、凍死も心配いらない冬越し等、考えた事も無かったが、リュウグウと言うこの客を泊めていなければ、大層退屈していたかも知れない。
話は面白く、身体が鈍るからと雪かきを手伝ってくれるし、意外にも料理が達者で、女房の料理まで腕を上げてしまった位、教え上手。
男っ振りも良く、女房がぽ~っとなるのはいただけないが、本人も判っていて、絶対に二人きりにならない様に配慮してくれる。
息子も懐いているが、冒険者なんか大半がただの食い詰め者で、格好の良い者で無いとキチンと話してくれているので助かる。
今も宿屋の仕事がどれだけ人の役に立っているか、冒険者が如何に単細胞で、だらしないかを面白おかしく話している。
目を輝かせて聞き入り、時に笑い声を上げる息子や女房の姿は、見ていると幸せを感じてしまう。
「早いもんだ、あと一月足らずで冬が終わるぜ。」
「こんなに充実した冬越えは始めてだったよ。ありがとう、ご主人。」
「こちらこそ、あんたに泊まって貰えて助かった。」
同年代の気安さで、まるで友人の様に思えてしまうのは、リュウグウというこの男の明るさの為だろうか。
これだけ気さくで、気持ちの良い冒険者など、見た事が無い位だ。
「おじさん!あのお話しをもっぺんしてよ!」
「どの話しかな?ぺてん師だった先祖のか?それとも化け物を口説いて喰われた先祖の方か?」
男の名前の元になったという、海の底の都に行って、竜を騙して家宝の槍を巻き上げたという男と、女好きが高じて人食いの鬼女を口説きに行って、最後に喰われたという男の話しは息子のお気に入りだ。
もうすっかり覚えてしまったが、リュウグウは声音を変えたり、恐ろしげな顔を作ったりするので飽きがこない。
次の冬も、またリュウグウが泊まりに来て欲しいものだと思いながら、主人も暖炉の側に寄って行った。

もう間もなく冬が終わる。


     
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