地仙、異世界を掘る

荒谷創

文字の大きさ
20 / 44

19.地仙、○○する

しおりを挟む
二千年以上前。ダロス大陸にも、豊かな自然があった。五十を越える国家があり、人々は魔獣と生存競争を繰り広げながらも、逞しく暮らしていたのだ。
技術的にも、文化的にも今と変わりない、いや、むしろ洗練された時代であったと言われている。
おかしくなり始めたのが、何時からだったのか…今や、誰にも判らないが、決定的な終わりはおよそ千二百年程前だった。
ある朝、大陸のほぼ中心、もっとも栄えた国の都が消え去った。
目に見えない力の竜巻が巻き起こり、触れたもの、近付いた物をすべて吸い込んだのである。 
それは風では無かった。どんな暴風が、国一つを無にせしめるだろう。
人を、家畜を、屋根を、壁を、道を、木を、岩を、城を、強大な魔獣すら消え失せた。
その足元に、大地の底を通りすぎ、冥界にすら達するだろう大穴を穿ち、天の星すら呑み込む程に立ち上がる。
人々は神に祈った。四柱の女神に。
しかし。
それまで民草の声に応え、降されていた啓示は沈黙し、それどころか大地の荒廃が始まった。
川が、泉が、沼が干上がり。
畑が、森が、山が枯れる。
地盤が砕け、山が崩れ。
僅かな水と食べ物をめぐり、人々が争う。
一つの国が滅ぶのに、僅か一年。
そこから、更に滅ぶのに半年。
荒廃は竜巻から大陸全体に広がっていった。
ダロス大陸の東側に存在した国々は、生き残る道をミゼット大陸に求め、一丸となって地峡を渡った。
その先にあるミゼット大陸の国を攻め滅ぼしても、進むしか無かったのである。自らが生きる為に。
生き残れなかった国も、勿論あった。
ダロス西側、北や南の方面にあった国は、そのほとんどが大地の荒廃に呑まれて消えた。
余談だが、この時消えずに地峡の先で建国出来た国には、今のシンハ王国の元になった国が含まれている。ダロス大陸の北西部に在りながら、荒廃した大陸から逃れ、地峡を越えられたこの国は、脱出に成功した国々の中でも稀有な例である。喜びも哀しみも分かち合い、苦しい時には助け合うという気質が起こした奇跡なのかも知れない。
そうして、千年前にはダロス大陸から全ての命が消えたのである。
ここは神に呪われた大陸ダロス。
未来永劫、命が生まれる事の無い荒野の大陸。

ああ。苦しい。
死にゆく体にうんざりする。
いつまでもこの地を守ってなんになるのだろう?
働くのは頭だけ。
それだって、辛うじて考えられるってだけだ。
誰か。
居ないのか、ここを救える誰か。
死が、じわじわと染み込んでくる。
怒りは好きじゃない。でももうそれくらいしか命に出来ない。
ああ。みんな、どこに行ったのか。
苦しい。
苦しい。

薄っぺらい金メッキの鳥から、小さなモノが飛び降りた。
良かった。
気付いたんだな。それに乗っていてはいけないんだ。
小さなモノは、小さな声で何かを言っている。聞こえない。
耳は良かったのに。
もっとずっと小さな声でも、聞こえたのにな。死にかけると、こんなモノなのか。悔しいなぁ。

洞窟の入り口に、小さな緑が生じた。
最初に、一つだけ。乾いた砂利混じりの地面を押し上げ芽生えた緑は、見るまに双葉となり、まっすぐに伸びて枝葉が生じ、大きく、大きく、もっと大きく育っていく。
そして若木となる頃には、周りには一面下草が生じていた。
若木は、伸びる。伸びて、伸びて。
追いかけてくる他の木々に負けぬ様に。
巨木に成った頃、鳥が巣を作り始めた。虫達が古い葉を食らい、多すぎる芽を間引く。小さな獣が実った果実をもぎ取って、種を運ぶ。いつの間にか泉が湧き、川が生まれて河となる。水の中には魚やエビが泳ぎ回る。
乾いた大地を、緑が埋めて行く。水気など全く無かった土が豊かな土へと変わって行く。
それはあっという間の出来事であった。
千年の呪縛が、解けて、溶けて、熔けて、融けて。

「タコ、カニときて、次はなんでアンコウなんだよ。」
「なんか蛇乱と外に出ると、厄介事が寄ってくる気がするわね。呪いかなんかばら蒔いて無い?」
「シュ。」
「ひでぇ…」

そうだ。
負けてなどやるものか。
小さなモノよ。
いずれ…










しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...