地仙、異世界を掘る

荒谷創

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23.地仙、準備する

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とりあえず差し迫った危機は無いので、ダロス大陸北部に支洞を掘る事にする。守護者は、とりあえず現地で精を呼ぶと決めた。
「大丈夫なの?怪しい一団が向かってきてるんでしょう?」
「シュ。」
「別に今日、明日に来やしないからな。一日十五里位進んで来てるが、到着まではまだまだ掛かる。今のうちにやっておくさ。」
そんなモノを待っている程、ノンビリしていても仕方がない。
他の地仙なら、十年以上掛けて行う様な事だが、師匠にすらワーカホリック呼ばわりされる蛇乱は待っていられないらしい。
まったく、仙人らしからぬせっかちさである。
「雲に乗っていくのかしら?」
「そりゃそうだ。」
雲に乗り空を飛ぶのは、仙人の術としては初級も良いところだが、地仙のみならず、天仙でも出来ない者は多い。
飛来椅や飛行靴、羽衣などの宝貝は種類も数も多く、空を飛べる騎獣に乗って居れば、事足りてしまうので、わざわざ術を使う意味が無いのというのが理由とされているが、実はもう一つ別の理由がある。
道教の神であり、上仙。
石猿こと、斉天大聖孫悟空のせいである。
只人はその力に憧れる者も多いが、仙人の世界ではどうしても、暴れ猿の印象が強く、筋斗雲に乗るイメージが着いて回る為、雲に乗る事そのものが憚られるのだ。
特に天仙には嫌われている。まあ、御大が暴れた時に直に被害を被った者も居るから、仕方ないと言えるだろう。
因みに師匠達はちゃっかり存在感を消して、その暴れっぷりを肴に宴会をしていたらしい。
稀華の曾々祖父である南天老君もこの時、石猿退治に駆り出されており、ぶん殴られて師匠達の宴会卓に突っ込みかけた。
せっかくの酒と料理を、台無しにされたくなかった師匠が受け止めたのが、付き合いの始まりなのだと言うから、世の中何が幸いするか判らないものだ。

閑話休題

ともあれ、蛇乱は雲を作り出すと、とんぼを切ってヒョイと乗る。
「駆けろ、疾く。」
命じれば、違いなく。
一飛び六千里で飛び立てば、やがて大陸北部の山岳地帯が見えてくる。
未だに雪融けは遠く、一面銀世界であるが、蛇乱の目には雪の下に芽吹いている命と、更に地下を無秩序に走る未熟な地脈。そのまた下に渦を巻きつつある力の本流が見えていた。
「さて、やるか。」
言うなり、雲から飛び降り、そのまま独楽の様に回転すると、積もった雪を吹き飛ばして着地する。
そして、やおら口を開いた新たな洞窟に若き地仙は入って行った。

地殻の下に渦巻く力を、その勢いを殺す事無く滞留させる為、まずは広い空間を作り出す。
物理法則に影響されないとは言え、その本質は大地という身体に流れる血液の様なものなのだ。
しかし、擬似的な物であるが故に、その流体性は水よりも粘性を帯びていると言って良い。
迂闊に塞き止めてしまえば、固まり、再び動かすのに膨大な力が必要性になるという、馬鹿らしい話しになってしまう。
「さあて、流れろ流れろ、坂道下って滝となり、岩をも砕け。激しき流れと成りて、大地の隅々、網の目の如く。」
蛇乱の導きの通り、力はその流れを変えた。
常に下流へと流れ続ける。
あたかも無限回廊の如く、閉じられた空間を流れ、加速して行く。
やがて幾多に枝分かれした支流は北の大地に拡がり、勢いのまま力の奔流が西に向かう。
「さて、後は守護者を喚ばないとなぁ。」
静鱗洞と同一の礎の間を創り、陣を敷くと、守護者となる精を喚ぶ。
武人の礼を取るのは、身の丈4mにもなる虎頭の大男。その手に携えるのは、躍りかかる金虎の意匠が勇ましい金虎三叉戟。
銀髪の女武人が纏うは、白虎を象った軽鎧。
両の腕に爪を備えた手甲と脚甲。
弧を描く紅い唇の端から、八重歯と言うには剣呑過ぎる牙が覗いている。
【お召しにより参上つかまつり候。】
【主上、何なりとお命じくださいませ。】

本来、主の為にある竜脈の力を、どうやら自分たちの欲を満たす為に、堂々と横取りしているらしい。
「あげく、無駄に垂れ流すなど…」
「だから、表情は作れって。仕方ねぇなぁ…まあ、おかげで美味い飯が食えるんだから、無駄って訳でもないだろ?」
前情報では、呪われた地峡では満足に補給も出来なかったはずだ。
ミゼット大陸の方面では下草や低木がかろうじてあり、ダロス大陸に至っては不毛の荒野であるはずだった。
正直、助かったとさえ言える。
「なんせ、豆以外持ってきて無かったからなぁ…」
肉に魚に、野草や果実まで。現地調達が出来なかったら撤退していたかも知れない。
主が造り出したこいつらは、演技は出来ても応用は効かない。
合流してから確認した時に食糧が全部、豆の袋だった時には、流石のリュウグウも天を仰いだものだった。
情緒が育たない。
主に与えられた以外の知識や知恵を持たない…いや、持とうとしない。
剣を振るわせれば、並の兵士10人分以上の働きはするし、一糸乱れぬ連携はその戦力を更に10倍に引き上げるだろう。
しかし、神相手にどこまで通用するものだろうか。
「まあ、それでも殺るしか無いんだがな…」























        
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