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24.地仙、相対する
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シンハ王国が地峡に作った開拓村は、僅か一年足らずの間に半ば街の様になっていた。
本国から兵士とその家族のみならず、加工職人から物量管理を行う役人達、大工や人足組などが続々と到着したのである。
錆山、いや『元』錆山からは良質の鉄鉱石が続々と産出され、その移送の為の道が急ピッチで整備されると、警備と休憩の為の関所が設けられた。
今のところ、商人の介入が認められていないのは、ランバンの老賢王ガルタの意見による。
街道や関所に関しては、多数の国と国境を接し、西方の平野部における物流に明るいホルクの協力が。
開拓村から街へ作り替える際の区画整備などは、今やガド戦王国への壁となっているゼニアのノウハウを提供されている。
未だ、対外的に同盟を宣言してはいないが、既に四国同盟は動いており、この祝福された地峡の開拓が、それをより強固なものとしていた。
そんな開拓街の真新しい官舎で、開拓責任者であり、駐屯部隊の隊長でもあるヤルズは部下から上がってきた報告に、そのゲジゲジ眉毛を跳ね上げた。
「大人数の夜営跡だと?」
「はっ!道を外れた位置に、少なくとも二十人以上の規模のものが三ヶ所見つかっております。」
「新しいものか?」
「下草などの状態から、ここ数日のものです。」
「うぬぅ…」
ゲジゲジ眉毛のヤルズは兵団長。政治的な判断等の詳細は、勿論知らされてすら居ないが、地峡開拓の責任者を任ぜられているのだから、当然、馬鹿では無い。
「何処かの国が送り込んで来たか…馬を出して構わん、追い掛けろ!ただし、手を出すな!規模と、行く先を確かめるんだ!」
指示を出したながら自らは机に向かい、ヤルズは国元への報告書を書き始めた。
ソーン王国は、ホルクの南方にある農業国家である。
と、言っても育つのは専ら豆だけだ。
俗にソーン豆と呼ばれるのは、地球で言うならば、ひよこ豆と呼ばれる豆だ。この豆は成長が早く、繁殖力も強い。ソーン国内であれば、冬以外毎月収穫出来てしまう。
しかし、ソーンの外でいくら手を掛けようと、決して発芽しないという不思議な豆だった。
この豆と、少量水揚げされる水産物が、この小国の産業であり、命綱である。
騎士が50名足らず、一般の兵はほぼ農家との兼業で、人数は400人にも届かないという、軍隊と呼べる程の戦力も無い有り様。
つまり、戦争にでもなれば勝ち目は無く、国境を接し、かつ西方物流の要といえるホルクの機嫌を損ねる事は、絶対に避けるというのが国の方針である。
だと言うのに、ある日届いたホルクからの抗議文に、ソーン王城は上を下への大騒ぎになった。
「このイチノセ商会という奴らは何をやったんだ!」
「建物はもぬけの殻だと!?」
「商会の認可は誰が出した!」
昼を過ぎても怒鳴り会うばかりであった御前会議は、その後、より一層紛糾する。
ホルクばかりでなく、ゼニアとランバン、シンハからも抗議文が届いたせいである。
内容は皆同じ。シンハ国で不審な行動があった商会の詳細を問いただすモノであった。具体的に何をしたのかまでは書かれていないが、国家の機密盗難とガド戦王国との癒着が暗に疑われているらしい。
慌てて事実関係を調べて、張本人であるイチノセ商会とやらを捕縛に動けば、実体がまったく無い有り様。これでは言い訳も出来ない。
「一体、何者なんだ!?何としても見つけ出せ!!」
その日、御前会議は深夜にまで及び、結局なんの方策も打ち出せなかったという…
鬱陶しい騎馬での追跡を、分隊に別れてやり過ごし、数日掛けて完全に振り切って進む事、半月。
信じられない程豊かな森林地帯に入り、更に三日。
リュウグウ・イチノセと、その部隊は天を支えているかの如き巨木に辿り着いた。
「…凄いな。世界樹と言われても信じてしまいそうだ…」
「そうかい?単に1番早く芽吹いただけさ。」
思わず溢れた感嘆に、金属が擦れる様な不快な音混じりの声が応えた。
「!?」
慌てて身構えれば、巨木の根元にぽっかりと口を開けている洞窟。
いつの間にか、1人の男が姿を現していた。
「なんという、魔眼…」
「いや、ただの生まれつきだ。」
ぬけぬけと言い放つ男こそが、鬼神ジャラという奴に相違ないだろう。恐ろしい目付きだ。視線を向けられただけで、隊の包囲に歪みが生まれる。
感情に乏しい筈の隊員が、怯んでいるのだ。
「…マリーカとやらは、出てこないか。手下に戦わせて、自分は逃げ隠れとは片腹痛い。」
「名乗りもせん奴に会わせてやる必要は無いな。」
「主の為の力を掠めとる盗人が。」
「寝言は寝て言いな。」
隊の士気を維持する為にも、リュウグウは敢えて挑発する。
しかし、目の前の鬼神は挑発など何処吹く風といった風情で、さらりと返してくる。
「…覚悟してもらおう。」
先祖伝来の家宝『龍貫』を、慎重に構える。その瞬間、鬼神の覇気が膨れ上がった。
本国から兵士とその家族のみならず、加工職人から物量管理を行う役人達、大工や人足組などが続々と到着したのである。
錆山、いや『元』錆山からは良質の鉄鉱石が続々と産出され、その移送の為の道が急ピッチで整備されると、警備と休憩の為の関所が設けられた。
今のところ、商人の介入が認められていないのは、ランバンの老賢王ガルタの意見による。
街道や関所に関しては、多数の国と国境を接し、西方の平野部における物流に明るいホルクの協力が。
開拓村から街へ作り替える際の区画整備などは、今やガド戦王国への壁となっているゼニアのノウハウを提供されている。
未だ、対外的に同盟を宣言してはいないが、既に四国同盟は動いており、この祝福された地峡の開拓が、それをより強固なものとしていた。
そんな開拓街の真新しい官舎で、開拓責任者であり、駐屯部隊の隊長でもあるヤルズは部下から上がってきた報告に、そのゲジゲジ眉毛を跳ね上げた。
「大人数の夜営跡だと?」
「はっ!道を外れた位置に、少なくとも二十人以上の規模のものが三ヶ所見つかっております。」
「新しいものか?」
「下草などの状態から、ここ数日のものです。」
「うぬぅ…」
ゲジゲジ眉毛のヤルズは兵団長。政治的な判断等の詳細は、勿論知らされてすら居ないが、地峡開拓の責任者を任ぜられているのだから、当然、馬鹿では無い。
「何処かの国が送り込んで来たか…馬を出して構わん、追い掛けろ!ただし、手を出すな!規模と、行く先を確かめるんだ!」
指示を出したながら自らは机に向かい、ヤルズは国元への報告書を書き始めた。
ソーン王国は、ホルクの南方にある農業国家である。
と、言っても育つのは専ら豆だけだ。
俗にソーン豆と呼ばれるのは、地球で言うならば、ひよこ豆と呼ばれる豆だ。この豆は成長が早く、繁殖力も強い。ソーン国内であれば、冬以外毎月収穫出来てしまう。
しかし、ソーンの外でいくら手を掛けようと、決して発芽しないという不思議な豆だった。
この豆と、少量水揚げされる水産物が、この小国の産業であり、命綱である。
騎士が50名足らず、一般の兵はほぼ農家との兼業で、人数は400人にも届かないという、軍隊と呼べる程の戦力も無い有り様。
つまり、戦争にでもなれば勝ち目は無く、国境を接し、かつ西方物流の要といえるホルクの機嫌を損ねる事は、絶対に避けるというのが国の方針である。
だと言うのに、ある日届いたホルクからの抗議文に、ソーン王城は上を下への大騒ぎになった。
「このイチノセ商会という奴らは何をやったんだ!」
「建物はもぬけの殻だと!?」
「商会の認可は誰が出した!」
昼を過ぎても怒鳴り会うばかりであった御前会議は、その後、より一層紛糾する。
ホルクばかりでなく、ゼニアとランバン、シンハからも抗議文が届いたせいである。
内容は皆同じ。シンハ国で不審な行動があった商会の詳細を問いただすモノであった。具体的に何をしたのかまでは書かれていないが、国家の機密盗難とガド戦王国との癒着が暗に疑われているらしい。
慌てて事実関係を調べて、張本人であるイチノセ商会とやらを捕縛に動けば、実体がまったく無い有り様。これでは言い訳も出来ない。
「一体、何者なんだ!?何としても見つけ出せ!!」
その日、御前会議は深夜にまで及び、結局なんの方策も打ち出せなかったという…
鬱陶しい騎馬での追跡を、分隊に別れてやり過ごし、数日掛けて完全に振り切って進む事、半月。
信じられない程豊かな森林地帯に入り、更に三日。
リュウグウ・イチノセと、その部隊は天を支えているかの如き巨木に辿り着いた。
「…凄いな。世界樹と言われても信じてしまいそうだ…」
「そうかい?単に1番早く芽吹いただけさ。」
思わず溢れた感嘆に、金属が擦れる様な不快な音混じりの声が応えた。
「!?」
慌てて身構えれば、巨木の根元にぽっかりと口を開けている洞窟。
いつの間にか、1人の男が姿を現していた。
「なんという、魔眼…」
「いや、ただの生まれつきだ。」
ぬけぬけと言い放つ男こそが、鬼神ジャラという奴に相違ないだろう。恐ろしい目付きだ。視線を向けられただけで、隊の包囲に歪みが生まれる。
感情に乏しい筈の隊員が、怯んでいるのだ。
「…マリーカとやらは、出てこないか。手下に戦わせて、自分は逃げ隠れとは片腹痛い。」
「名乗りもせん奴に会わせてやる必要は無いな。」
「主の為の力を掠めとる盗人が。」
「寝言は寝て言いな。」
隊の士気を維持する為にも、リュウグウは敢えて挑発する。
しかし、目の前の鬼神は挑発など何処吹く風といった風情で、さらりと返してくる。
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