地仙、異世界を掘る

荒谷創

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25.地仙、決闘する

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各々が、一つの流派の免許皆伝級の腕前を付与され、主の造り出した鋼より硬い合金の剣を振るい、お互いに声を交わす必要も無く、無意識下で繋がっているが故の完璧なる連続連携攻撃。
浅手であれば、瞬きの内に完治してしまう回復力と、無尽蔵の如き体力。
感情が乏しいからこその、冷静な判断力。
主が、貴重なリソースを注ぎ込んで造り出した、人造人間ホムンクルスの剣士達。
如何な鬼神と言えど、無傷ではいられない…筈だった。
「ははははは。」
嗤いながら此方の攻撃を捌き続ける鬼神は、腰の剣を引き抜く程の事も無いとばかりに、未だ無手のまま。
「子供扱いするか!」
あしらわれても構わずに攻撃を続ける剣士達。間隙に龍貫で仕掛け様とすれども、果たせず下がるしかない。
「…くっ!一体、何が…」
リュウグウが仕掛けようとする度、見えない何かが阻む。
ぞくりと背筋を凍らせる感覚に、距離を取らざるを得ない。この感覚に逆らえば、間違いなく殺られる事になる。
「これが、鬼神か!」

無表情のまま、切りかかってくる剣士達をあしらいながら、唯一蛇乱の放つ殺気に反応している槍の男を観察して、少なからず興味を覚える。
(腕前はまあまあ。鍛え方次第では大きく化ける奴だな…)
自覚は全く無いが、蛇乱は地仙にしては戦闘に対して強いタイプだ。それは『百万畳の』師匠の方針でもある。
同門の仙人達も皆、武威で知られているが、その武闘派が青ざめて逃げ出す大仙のシゴキを、嬉々としてこなしていたのが蛇乱という仙人だ。
槍手の動向に注意を払いながらも、蛇乱の意識の大半はダロス大陸を流れる気脈と、洞天の礎の間に向けられている。無表情剣士の事など、無意識の反射だけで十分という有り様だ。
いかに連携が完璧と言えども、どこまでも型通りの攻撃など、ちょっと剣の腹を叩いてやるだけでどうにでも出来る。
蛇乱にとって問題は、この一団の目的と、一体、何処の勢力なのかが判らない事だ。
蛇乱や稀華は、この世界で他者と関係をほとんど作っていない。
明確な敵対者が、本来この世界を管理すべき女神四柱というのは頭の痛い事態ではあるが、その関係とは思えない。鬼神やら女神マリーカやらは、以前吹雪から助けた兵士達が言い出した事の筈だ。蛇乱の事を知る四女神共の手下が、そう呼ぶはずも無い。
一方で、どこか人間達の国が、討伐隊を送り込んできた訳でもないだろう。
それはこの無表情剣士を見れば判る事だ。武器一つ見ても、この世界の工作技術を大きく越えた、恐らくチタン合金製。明らかに工業品の画一規格品。
と、なれば残る可能性は迷宮主の手勢と言うことなのだが…
「…弱すぎる…」
槍の男は只人から、仙人の世界に爪先を踏み入れた位の腕前だが、主力であろう剣士達は、迷宮主が送り込んできた刺客とは到底思えない。
蛸、蟹、鮟鱇を送り込んできた迷宮主とは、別口がいるのだろうか?

「…提案がある。」
「聞こうか。」
半日過ぎて、剣士達が立ち上がれなくなった後、リュウグウは提案をする。
「俺と、一騎打ちをしろ。」
「構わんが、オレに勝てる気かい?」
「まさか。」
実力差は天と地ほど。
「自分勝手な事は重々承知だが、こいつらを見逃して欲しい。主に返してやりたい。」
「いいぜ。ただし、お前には色々話がある。」
「勝ってから言ってくれ。」
苦笑い。
「イチノセ流槍術正統リュウグウ・イチノセ。」
「『百万畳の』弟子。名は蛇乱。『絶界の』二つ名を持つ、地仙だ。」
腰から半月刀を引き抜いて、構える蛇乱。
朱塗りの槍を構え、内気を練るリュウグウ。
「…穿て、龍貫。イチノセ流大極『荒神討ち』!」
「控えよ羅刹刀。これはオレの戦いだ。」
神速の槍はその切っ先に、全てを貫く意思を纏い。
主に命じられた宝貝はその力を奮う事無く、鋼の剣として迎え撃つ。
「届かず…か。無念。」
「いや?なかなか、だった。」
槍の穂先を、刃の切っ先一点で受けきられ、敗北を認めるリュウグウ。
蛇乱にしてみれば、正にまあまあ、というレベルだが、楽しかったのは確かだ。無表情剣士達とは比べるべくもなく、精達との訓練とも違う手合わせは蛇乱にとって新鮮であった。
「さてと、じゃあリュウグウはオレの住処にご招待だ。後の連中は、帰っていいぞ。」
「恩に着る。」
「…裏切る気か…リュウグウ。」
「頭の中まで単純か?使えそうにないんだが。」
「そう言わんでくれ、それだけ主のリソースが少ないんだ…何人動ける?」
「今は1、12、25の3個体だ。二時間で全個体の活動が可能。」
無表情の中に、僅かに苛立ちを含んだ声音で応えるのは剣士のリーダー格。
「俺の仕える主は、変わる事は無い。ただ負けちまった。俺は捕虜になった。お前達は戻って主を護ってくれ。」
「…了解した。帰還する。」




















    
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