地仙、異世界を掘る

荒谷創

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30.地仙、発見する

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降り立った大陸ダロスの状態があまりに酷かった為にすっかり見落としていたが、この世界ナカーラにある残り二つの大陸と、世界星 全体の調整もやらなくては、ダロスをどうにかしても、その内捻れが発生してナカーラが崩壊するだろう。それでは何の意味もない。
管理者腐れ女神共の所業に関しては、師匠達大仙に何やら考えもある様子。
ならば、弟子たる自分が奮起しないのは、弟子としての沽券に関わる。
「…と、言うことで、ちょっと世界の様子を見てきたいんだが。」
「また、唐突ね。」
「そうでもないさ。リュウグウの話を聞いた辺りから、考えてはいたんだ。」
リュウグウの主である迷宮主は、地脈の力を取り入れられずに衰弱していっているのだそうだ。
完全に消滅したりするのはまだ先であるが、別にそれを座して待つ必要は無い。
迷宮主と協力出来れば、大地の管理はかなり安定するのだから。
「無人の大陸を先に調べて、一度戻ってからリュウグウを連れて、ミゼット大陸を回ってくる。」
「わざわざ彼を迎えに来るの?」
どのみち、ダロス大陸をあまり長期に渡って放置する訳には行かない。先にミゼット大陸を見ても良いが、人が暮らす大陸より、無人の大陸の方が厄介な可能性があった。
「何が出るか、判らないからな。」
「一人で大丈夫なの?」
「独りが慣れているから。仕切りは玉鱗に任せる。」
【御意。】
この蛇乱という地仙は元々、独りで好きにしていた生活が長い為に単独行動を好む。
それこそ師匠である大仙の呼び出しでもなければ何処かに仙洞でも掘って引きこもり、術の研鑽に没頭するタイプである。
真面目な所はある意味で同じだが、社交性もある稀華とは正反対と言えるだろう。
目付きの悪さだけでなく、根本的に人と付き合う事に向いていないのだ。
ともあれ稀華に話をした五分後には、諸々の出立準備を整えて静鱗洞の表に立っていた。
「行ってくる。」
「行ってらっしゃい。」
「シュ…」
【行ってらっしゃいませ。】
軽く手を振ってから、雲を呼び、トンボを切って飛び乗ると蛇乱は空に飛び立った。

ナカーラ世界の南半球。地球で言うところの南極に相当する場所にあるのは、とりあえず無名の大陸だった。
やはり南極大陸と呼ぶのが妥当だろうか、
事前に女神達から教えられた知識が正しければ、この世界の人間はまだ到達どころか観測すらしておらず、完全に無人。
一年を通しての平均気温は氷点下35度程の厳しい環境であり、適応する動植物も居ない死の大陸である筈だ。
「…どこまで嘘つきなんだ、あの腐れ女神ババァ共…」
確かに生物は多くはない。
しかし、死の大陸と言えるほど少なくも無い状態だ。
ペンギンやアザラシ類…ならばともかく、毛長牛や、六脚の馬等、あり得ない生物が群れで飼われているのはどうなのか。
挙げ句にあからさまな建造物がある。
「…とりあえず、降りて見るか。」
気温は零下20度。只人なら、防寒服を着込んでいたとしてもかなり厳しい寒さだが、仙人の端くれである地仙にとっては、どうという程の事は無い。
特に器物由来の仙人である蛇乱は、暑さ寒さにほとんど影響を受けなかった。
稀華やリュウグウを連れて来なかった理由の一つでもある。
コルノに至っては、間違いなく冬眠に入った事だろう。
さて、建物である。
人の気配は無いが、何かが居るのは間違い様だ。
先程見た牧場といい、綺麗に除雪されている建造物といい、無人だと言い張るのは無理があり過ぎる。
「…迷宮主?ちょっと反応が違う様だが…」
沓の踵で地面を打つ。
地下にかなりの広さの空間が広がっている。
術によるものでは無い様だが、幾つもの命がそこにある。蟻の巣に近いと言えば判りやすいだろうか。
「…凄いな。御手本に成る程、経穴経路が整っている…」
蛇乱が感じ取れた範囲だけだが、おそらく大陸全体に張り巡らされた力の経路は、師匠である『百万畳の』大仙が構築したと言われたら納得してしまえる程に精緻に、そして強固に張り巡らされている。
力の根元が感じられないが、もしも其があったなら極地でありながら、この世界で最も豊かな大地となっているに違いない。
「さて、流石に勝手口を作る訳にはいかんか。」
完全に無人だったら、適当に入口を作ればそれで済むが、住人が居る様だ。
ならば正規の入口から訪問するのが、最低限守らねばならない道理だろう。
入口は建造物の中なので、するすると滑る様に、そちらへと歩を進める。
一足で数メートルは進む歩方は、仙人ならではと言える歩き方だ。砂の上、水の上、火の上、果ては雲の上すら歩けてしまう。
また、この地に仙人に連なる何者かが居るならば、仙人の訪れに気付くに違いない。
建造物は、素材不明の何かで作られている。黒く、ヌラリとした光沢を持つそれは、蛇乱の知るあるものと、良く似ていた。
「…西洋竜ドラゴン…それも、恐ろしい程強い竜の鱗だ。」
基本的に天にあり、天候を司る神とも、その眷属とも言われる龍とは、似て否なる存在。
荒れ狂う力と、憤怒や強欲、傲慢、怠惰と狡猾さ。
東洋龍ロンが自然の力の象徴が肉体を持った存在だとするならば、西洋竜ドラゴンは人の欲望/羨望の権化が受肉した存在と言える。
勿論それが全てではないが、仙人であっても御し難い、強大な存在である事は間違いない。
「その鱗が、何千枚使われてるんだか…」
敵意は感じられない。
しかし、此方に気が付いて居ないとは思えない。
蛇乱は慎重に、建物の扉に手を掛けた。










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