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鋼鉄の戦士
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『セント・パニッシュ・ゴールデン!!』
『セント・パニッシュ・クウェイク!!』
『セント・パニッシュ・スパイラル!!』
「聖なる輝きよ!今、一つとなれ!」
『セイント・プリンセス・パニッシュメント・ジャベリン!!』
黄金の太陽、大いなる大地、母なる海の聖なる光が一つとなり、如何なる邪悪をも消滅させる断罪の光の槍と成る。
最凶にして最悪の魔皇帝ドワルイデスすらも打ち倒した聖王女最強の必殺技だ。
しかし、皇弟ドズルイデスは、避けようともしない。
「……ふ、ふふふ、ふはははは!」
「……そんな!?」
「効いて無い!?」
「あれは、女王様の光の衣!?」
ドズルイデスを守るのは、光の衣。
「光の女王は取り込んだ!俺は闇の力と、光の女王の力を持つ、究極の存在と成ったのだ!!」
「そんな!?」
「目障りだった兄も居ない!俺は無敵だ!ふはははは!!」
「負けるもんか!もう一度だ!」
「ええ!」
「……」
再び紡がれる光の槍。
しかし……
「無駄だ!カオス・ジョルト!!」
ドズルイデスから放たれた混沌の波動は聖王女の光の槍を打ち砕き、大地を穿つ。
「「「きゃあぁぁぁ!」」」
軽々と吹き飛ばされ、叩きつけられ、地に伏せる聖王女達。
「……ぐぅっ、痛った……」
土塊にまみれながら、呻くのは大地聖王女
「かはっ……ひゅ~、ひゅ~…」
辛うじて上半身を起こそうともがく紺碧聖王女
そして……
「……ほう?」
ドズルイデスの視線の先に立つのは、聖王女のリーダーにして、光の女王の姪。
後から聖獣に選ばれた二人とは違う、生まれながらの聖女。
気高き黄金の姫ゴールデン・プリンセス
その姫は踵を返すと、脱兎の如く駆け出した。
「……え……?」
「………ちょ、ちょっと………」
『フェニックス・ウィング!!』
セイント・ギアを解除して高機動モードに切り替え、戦場から去っていく。
「……」
「………ふ、ふはははは!」
瞬く間に小さくなる黄金王女の姿。
呆然と見送る二人と、笑うドズルイデス。
「これは傑作だ!あの兄を倒した伝説の戦士が、これ程脆いとはな!」
ドズルイデスの衣はドワルイデスの漆黒では無く、元から黒に近い灰色でしか無かった。
生まれもった衣の色で力の強弱が決まり、力の限界が決まってしまう闇の一族において、ダークグレーのドズルイデスは漆黒のドワルイデスと常に比べられ、侮られ続けて来た。
光の女王を取り込んだ今、その衣は純白に侵食され寧ろグレーにまで薄れてしまった。
この色ではドズルイデスの下につく闇の一族はほぼ居ないだろう。
しかし
「それでも忌々しい伝説の戦士を倒せば、あの兄を越える偉業を成し遂げる事が出来る」
それで満足だった。
「………巫山戯るな!」
次の瞬間、凄まじい怒気と共に膨大なエネルギーが生み出される。
「!?…や、やめ…」
「カオス・ブラスト!!」
「駄目、よけてぇ!!」
放たれたエネルギー弾は、一直線に逃げる的に、過たず突き刺さり……
その衝撃は、遠く離れた二人にすら届く程だった。
「さて、雑魚は片付いた……お前達はどうしたい?」
「……なに?」
「どういう意味よ」
「……俺はお前達が聖獣に選ばれる前から戦ってきた……」
それは本当の事だ。
ドワルイデス自身が指揮を取り始めるまで、人界侵攻軍の指揮官はドズルイデスであった。
「聖王女では無い、光の力ですら無い装備で我々ドクライン帝国と渡り合った事は、驚嘆に値する。まあ、それもあの金メッキに唆されるまでではあったが……」
伝説の戦士『聖王女』を探していた黄金王女に見出だされ、それぞれ聖獣ターコイズ・リンクスと聖獣スピネル・ユニコーンホエールに見初められた二人はそれまで所属していた特殊部隊『機甲天女部隊』を除隊して聖王女となった。
「俺が落胆したのを、お前達は知らぬだろう……」
「……知るかよ」
「………何が言いたいの?」
「我が軍門に降れ、伝説の戦士。それが嫌だと言うなら、死んでもらう」
ドズルイデスの目が細められる。
目の前の二人、大地聖王女と紺碧聖王女が立ち上がり、構えたからだ。
それでこそ、と力を練り直した時
「……えっ!?」
「な、なんで!?」
セイント・ギアが消える。
そして、姿を見せたのは二頭の聖獣。
地の聖獣ターコイズ・リンクスと海の聖獣スピネル・ユニコーンホエールだ。
「お、おい…」
思わず手を伸ばした大地聖王女…いや、山河楓の手を避けると、聖獣ターコイズ・リンクスは風のように駆けて行く。
聖獣スピネル・ユニコーンホエールもまるで海に潜るように地に潜り、姿を消した。
紺碧聖王女の青島 汀も、何が起きたのか理解できない。
否、理解はしたのだ。
認めたくはないが……
「……聖獣など、こんなものか」
光の獣、聖なる獣。伝説の戦士に力を与える、神にも等しいとされる聖獣の本性。
「そんな……」
「奴等は命を惜しむ。今まではフェニックスの手前、逃げ出さなかったに過ぎん」
「それは」
「覚えがあるだろう?」
覚えはある。
ドワルイデスとの決戦以前にも、ハイパークライーンやドクライン四天王との戦いの時等に呼んでも直ぐに来なかったり、突撃しようとした大地聖王女の動きが不自然に止まったりした事はあった。聖獣とのシンクロ率が低いせいだと黄金聖王女に叱責され、そうなのかと思ったのだが……
「聖獣は、所詮力のある獣に過ぎん。契約に縛られているフェニックスが居なければ、人の為になど戦わんよ」
「……ちくしょう」
「それでも、私たちは貴方の思い通りにはならないわ」
悔しげに呻きながらも、装備ケースからナイフを抜いて構える山河。
同じく拳銃を構えるのは青島。
「光の力を失っても抗うか」
「……元から、無しで戦って来たんだ」
「そうよ。最初に戻っただけ……」
違うとすれば、仲間も装備も足らないだけだ。
「……オレ達だけじゃ勝てねぇだろうな」
「……残念だけど、そうね」
「仕方ねぇよな」
「自業自得だもの」
かつて
突如として侵攻してきたドクライン帝国に対して、光の王国の加護を得ていなかった人界は一方的に蹂躙された。
歴戦の兵士ほど、クライーンの餌食となり無気力にされたのだ。
だが、各国の軍が無力化されていく中でクライーンの特性も判明していく。
クライーンには、未婚で男性経験の無い女性を無気力にする事が出来なかったのだ。
また女性の振るうナイフや拳銃等の小さな武器は、クライーンを傷つける事が出来た。
致命傷こそ与えられないが、ある程度傷つける事で追い払えたのだ。
更に日本の夢魅町には、クライーンが現れない事も明らかになる。
その理由は当初謎とされたが、郷土研究者である吉祥寺晃帆女史による『吉祥天女伝説』の解析により判明した。
かの地の民間伝承に残る天女がドクライン帝国と対極にある光の王国から遣わされた聖王女と共に戦った戦士であり、数百年前に闇の皇帝を討ち取ったという事。
その力を宿した三つの宝具が、吉祥天女を祀る社に納められている事。
そして、その宝具を解析して作り出されたのが『科学武装テクター・ギア』だ。
男性経験の無い若い女性の生命エネルギーを増幅、攻撃用に転換してクライーンを消滅させる事の出来るこの兵器により、人類は一度はドクライン帝国の尖兵を押し返す。
ドクライン四天王が陣頭指揮を取り始め、光の王国が『伝説の聖王女』を遣わすまで、テクター・ギアを纏った『機甲天女』こそが人類の希望の星だったのだ。
だが己の命を、文字通り『消費』して戦うテクター・ギアは装着者の身体を蝕む。
戦う中で傷付き、衰弱する者も多いテクター・ギアを纏って戦ってさえ、クライーンを消滅までさせるのは簡単ではない。
故に、光の王国の介入で聖獣の加護を得た聖王女と成れる道が示された時、迷うことなく二人は選んだのだ。
二人だけではない。
黄金の聖王女に見出だされた少女達は、次々にテクター・ギアを捨てた。
それは間違ってはいない。
セイント・ギアを纏った聖王女は単独でもクライーンを浄化出来る。
世界全体でたった96人の聖王女は、その数でドクライン帝国と互角に戦っている。それ故、黄金聖王女などは機甲天女部隊を『屑鉄の紛い物』と呼んで憚らなかった程だ。
だが、ここに居るのはたったの二人。
聖獣が逃走した今、光の力を振るう事も出来ない。
『いつまでも仲間面すんなよ』
『私達がドクライン帝国を倒すのでご心配なく』
「……さいってーだったな、あたし達」
「…そうね、ほんと、最低」
聖王女の中でも頭角を現し、黄金の聖王女と共にドワルデスとの決戦に赴く前、激励に来た元機甲天女部隊の面々に言い放った言葉が、甦る。
傷付きながらも助けてくれた先輩に、苦楽を共にした同輩に、憧れてくれた後輩に。
そして
「……姐御……すまねぇ……」
「隊長…ごめんなさい」
「後悔の懺悔は済んだか?さあ、最期だ」
膨れ上がる膨大なエネルギー
『カオス・ブラスト!!』
放たれるのはゴールデン・プリンセスを撃ち落とした一撃。
汀を背に庇おうとする楓も、楓に覆い被さろうとする汀も、覚悟を決めたその時。
『亀甲防盾!』『風神扇!』『アイギスの鏡!』『ドッキリ・マジック!』『ウォール・オブ・ジェリコ!!』
幾重にも張られ、砕ける防御。
『狐火!』『空破弾!』『チャーム・キッス!』『オール・イン・ワン!』
カオス・ブラストのエネルギーを相殺すべく撃ち込まれる必殺攻撃。
そして
「おおおぉ!! 翔覇断!!」
ザンッ!!
裁ち切るは深紅の刃
大鷲を模した朱の甲冑
翻るのはトレードマークの純白のロングコート
その背に背負うは朱金の繡『大いなる翼』
「楓、汀。無事かい?」
「姐御……」
「……隊長」
その切っ先はドズルイデスを正面に捉え、微動だにしない。
だが、仲間の無事を喜ぶ微笑みが口許に。
「……よお。久しぶりだなドズルイデス」
「……覚えていたか。会いたかったぞ。久しいな鷲の戦士」
喜びすら浮かべ、ドズルイデスはゆっくりと腰の剣を引き抜く。
「なんだ、そりゃ」
不敵に笑う鷲の剣士
「……俺が本当に欲したのは、お前だ。気高く、強き剣士……あんな黄金聖王女などとは比べる気にもならん」
「光栄だね、だけど無駄さ」
楓と汀を護る様に駆けつけ、構える戦乙女達。
その先陣に立つのは、ドクライン帝国と真っ向から戦い続けていた武人。
夢魅町出身の10代少女達を束ねる機甲天女部隊の鬼教官にして、唯一の20代女性でありながら最強と言われる熱血の剣士。
「この織田 伊草と極東本部のヴァルキュリア部隊は、誰一人としてあんたになんぞ靡かねぇよ」
「悪魔とは、手厳しいな」
「……楓!汀!」
「「はい!」」
「いけるな?」
「勿論だ!姐御」
「もう、負けません!」
グルゥ
キュイ
「?」
「あなた達!?」
楓の足にすり寄ったのは、唐獅子に似た黄色のアニマロイド。
汀に寄り添う青いイルカのアニマロイド。
それはテクター・ギアの通常形態。
聖獣に選ばれた時二人から別れを告げた、かつて二人の相棒であった。
「すまねぇ、もう一度力を貸してくれ。頼む仔獅子」
「お願い、ドルフィン」
身勝手な事を言っていると自嘲気味の二人に、しかし、機械仕掛けの二体は心から喜ぶ。
「……いくぜ、ライオット!」
「ドルフィン!テクターセット!」
GO!!
「突撃一番槍!テクター・ライオット!」
「ラピッドシューター!テクター・ドルフィン!」
高機動超近接戦闘型の格闘仕様は山河 楓の代名詞だった。
大地聖王女が中距離からの特殊攻撃を得意としていたのは、思えば聖獣ターコイズ・リンクスが臆病だったからだ。
同じ様に、本来中長距離からの射撃を得意とした青島 汀のドルフィンは、その技術を余すところ無く活かす連射仕様だ。
紺碧聖王女は聖獣スピネル・ユニコーンホエールが、自らの牙を使った近接戦闘に特化していた故に前衛を務めたが、久しぶりに纏ったテクター・ギアは正しく二人を支える唯一無二であった。
「……極東本部所属、機甲天女全13人。推して参る!」
「ドクライン帝国魔皇帝ドズルイデス、受けて立つ!」
後に『本当の伝説』と謳われる戦いは実に20時間に及ぶ。
最終的に炊き出しすら始めた仲間達に見守られながら、織田 伊草が壮絶な殴り合いを制し、血塗れの右腕を高々と突き上げ、雄叫びを上げた。
「一夜明けて荒野で行われた講和会談は、歴史の教科書を見れば必ず載っている。
皇帝ドズルイデスは光の女王ルミネアを解放、人界からの全戦力の引き上げと賠償を打診。光の王国はクライーン被害者の救済と、ドクライン帝国との相互不可侵条約の締結を希望する。
立ち会い者は当時の極東本部。織田、山河、青島の三名および特別アドバイザーとして吉祥寺女史。
この条約は戦後二百年を越えた今も遵守されている。三世界の交流、混血も進んだ。
かく言う私も父が闇の一族で、母は人間のハーフだ。君たちも混血の人は多いな」
見渡せば講義を聞いている学生の五割は混血だろう。時代は進んだのだ。
純血主義者はいない訳ではないが、初期のテロ紛い行為が厳しく取り締まられた為、個人的な嫌悪感程度に留まっている。
「センセー」
「何かな?」
徐に挙手した生徒の質問は、この講義ではお馴染みなものだ。
「関係者のその後知りたいんですけどー」
「教科書には載っていないからね。まず光の女王ルミネアは現在も在位しているのは知っての通りだ。皇帝ドズルイデスは先頃帝位を譲って隠居している。継いだのは長男のドアツイデスだ。織田、山河、青島をはじめとするヴァルキュリア部隊と聖王女は元々普通の少女達だから、それぞれの生活に戻った者が殆どだ。一部にエリートである聖王女優位を主張したグループも居たが、それほどの活動は行われなかったな」
「黄金聖王女は今、どうしてるんですかー?」
「存命だが、現在は公の場には出てきていないな。詳しくは光の王室広報を読めば良いとおもう」
戦後、エリート理論を振りかざして、テロ行為を繰り返した事は伏せられているがね……
「さて、他に質問が無いようならこれで今日の講義を終了する。次回は……」
「お疲れさまでした、千草先生」
「……受講ナンバー72は要注意」
「了解です。どっちですか?」
「黄金信奉者ね。闇族系の人から距離を取っていたし」
「困ったもんですね」
「ほんと、平和のありがたみが判らない人は困るわ」
「今日はこれから皇帝陛下と?」
「元、皇帝陛下ね。今は兄貴が皇帝だもの」
「そうでした、つい」
「おば様達に伝言とかある?」
「大丈夫です。毎日話してますから」
「ウチもです。毎日扱かれてます!」
明るく笑うのは『英雄の娘達』
後に山河楓は元四天王の一人、剛拳のナグリッドと結ばれる。
青島汀は光の女王側近だった文官と子を成す。
織田伊草の娘である千草とは、幼い頃から共に過ごした親友同士である。
『セント・パニッシュ・クウェイク!!』
『セント・パニッシュ・スパイラル!!』
「聖なる輝きよ!今、一つとなれ!」
『セイント・プリンセス・パニッシュメント・ジャベリン!!』
黄金の太陽、大いなる大地、母なる海の聖なる光が一つとなり、如何なる邪悪をも消滅させる断罪の光の槍と成る。
最凶にして最悪の魔皇帝ドワルイデスすらも打ち倒した聖王女最強の必殺技だ。
しかし、皇弟ドズルイデスは、避けようともしない。
「……ふ、ふふふ、ふはははは!」
「……そんな!?」
「効いて無い!?」
「あれは、女王様の光の衣!?」
ドズルイデスを守るのは、光の衣。
「光の女王は取り込んだ!俺は闇の力と、光の女王の力を持つ、究極の存在と成ったのだ!!」
「そんな!?」
「目障りだった兄も居ない!俺は無敵だ!ふはははは!!」
「負けるもんか!もう一度だ!」
「ええ!」
「……」
再び紡がれる光の槍。
しかし……
「無駄だ!カオス・ジョルト!!」
ドズルイデスから放たれた混沌の波動は聖王女の光の槍を打ち砕き、大地を穿つ。
「「「きゃあぁぁぁ!」」」
軽々と吹き飛ばされ、叩きつけられ、地に伏せる聖王女達。
「……ぐぅっ、痛った……」
土塊にまみれながら、呻くのは大地聖王女
「かはっ……ひゅ~、ひゅ~…」
辛うじて上半身を起こそうともがく紺碧聖王女
そして……
「……ほう?」
ドズルイデスの視線の先に立つのは、聖王女のリーダーにして、光の女王の姪。
後から聖獣に選ばれた二人とは違う、生まれながらの聖女。
気高き黄金の姫ゴールデン・プリンセス
その姫は踵を返すと、脱兎の如く駆け出した。
「……え……?」
「………ちょ、ちょっと………」
『フェニックス・ウィング!!』
セイント・ギアを解除して高機動モードに切り替え、戦場から去っていく。
「……」
「………ふ、ふはははは!」
瞬く間に小さくなる黄金王女の姿。
呆然と見送る二人と、笑うドズルイデス。
「これは傑作だ!あの兄を倒した伝説の戦士が、これ程脆いとはな!」
ドズルイデスの衣はドワルイデスの漆黒では無く、元から黒に近い灰色でしか無かった。
生まれもった衣の色で力の強弱が決まり、力の限界が決まってしまう闇の一族において、ダークグレーのドズルイデスは漆黒のドワルイデスと常に比べられ、侮られ続けて来た。
光の女王を取り込んだ今、その衣は純白に侵食され寧ろグレーにまで薄れてしまった。
この色ではドズルイデスの下につく闇の一族はほぼ居ないだろう。
しかし
「それでも忌々しい伝説の戦士を倒せば、あの兄を越える偉業を成し遂げる事が出来る」
それで満足だった。
「………巫山戯るな!」
次の瞬間、凄まじい怒気と共に膨大なエネルギーが生み出される。
「!?…や、やめ…」
「カオス・ブラスト!!」
「駄目、よけてぇ!!」
放たれたエネルギー弾は、一直線に逃げる的に、過たず突き刺さり……
その衝撃は、遠く離れた二人にすら届く程だった。
「さて、雑魚は片付いた……お前達はどうしたい?」
「……なに?」
「どういう意味よ」
「……俺はお前達が聖獣に選ばれる前から戦ってきた……」
それは本当の事だ。
ドワルイデス自身が指揮を取り始めるまで、人界侵攻軍の指揮官はドズルイデスであった。
「聖王女では無い、光の力ですら無い装備で我々ドクライン帝国と渡り合った事は、驚嘆に値する。まあ、それもあの金メッキに唆されるまでではあったが……」
伝説の戦士『聖王女』を探していた黄金王女に見出だされ、それぞれ聖獣ターコイズ・リンクスと聖獣スピネル・ユニコーンホエールに見初められた二人はそれまで所属していた特殊部隊『機甲天女部隊』を除隊して聖王女となった。
「俺が落胆したのを、お前達は知らぬだろう……」
「……知るかよ」
「………何が言いたいの?」
「我が軍門に降れ、伝説の戦士。それが嫌だと言うなら、死んでもらう」
ドズルイデスの目が細められる。
目の前の二人、大地聖王女と紺碧聖王女が立ち上がり、構えたからだ。
それでこそ、と力を練り直した時
「……えっ!?」
「な、なんで!?」
セイント・ギアが消える。
そして、姿を見せたのは二頭の聖獣。
地の聖獣ターコイズ・リンクスと海の聖獣スピネル・ユニコーンホエールだ。
「お、おい…」
思わず手を伸ばした大地聖王女…いや、山河楓の手を避けると、聖獣ターコイズ・リンクスは風のように駆けて行く。
聖獣スピネル・ユニコーンホエールもまるで海に潜るように地に潜り、姿を消した。
紺碧聖王女の青島 汀も、何が起きたのか理解できない。
否、理解はしたのだ。
認めたくはないが……
「……聖獣など、こんなものか」
光の獣、聖なる獣。伝説の戦士に力を与える、神にも等しいとされる聖獣の本性。
「そんな……」
「奴等は命を惜しむ。今まではフェニックスの手前、逃げ出さなかったに過ぎん」
「それは」
「覚えがあるだろう?」
覚えはある。
ドワルイデスとの決戦以前にも、ハイパークライーンやドクライン四天王との戦いの時等に呼んでも直ぐに来なかったり、突撃しようとした大地聖王女の動きが不自然に止まったりした事はあった。聖獣とのシンクロ率が低いせいだと黄金聖王女に叱責され、そうなのかと思ったのだが……
「聖獣は、所詮力のある獣に過ぎん。契約に縛られているフェニックスが居なければ、人の為になど戦わんよ」
「……ちくしょう」
「それでも、私たちは貴方の思い通りにはならないわ」
悔しげに呻きながらも、装備ケースからナイフを抜いて構える山河。
同じく拳銃を構えるのは青島。
「光の力を失っても抗うか」
「……元から、無しで戦って来たんだ」
「そうよ。最初に戻っただけ……」
違うとすれば、仲間も装備も足らないだけだ。
「……オレ達だけじゃ勝てねぇだろうな」
「……残念だけど、そうね」
「仕方ねぇよな」
「自業自得だもの」
かつて
突如として侵攻してきたドクライン帝国に対して、光の王国の加護を得ていなかった人界は一方的に蹂躙された。
歴戦の兵士ほど、クライーンの餌食となり無気力にされたのだ。
だが、各国の軍が無力化されていく中でクライーンの特性も判明していく。
クライーンには、未婚で男性経験の無い女性を無気力にする事が出来なかったのだ。
また女性の振るうナイフや拳銃等の小さな武器は、クライーンを傷つける事が出来た。
致命傷こそ与えられないが、ある程度傷つける事で追い払えたのだ。
更に日本の夢魅町には、クライーンが現れない事も明らかになる。
その理由は当初謎とされたが、郷土研究者である吉祥寺晃帆女史による『吉祥天女伝説』の解析により判明した。
かの地の民間伝承に残る天女がドクライン帝国と対極にある光の王国から遣わされた聖王女と共に戦った戦士であり、数百年前に闇の皇帝を討ち取ったという事。
その力を宿した三つの宝具が、吉祥天女を祀る社に納められている事。
そして、その宝具を解析して作り出されたのが『科学武装テクター・ギア』だ。
男性経験の無い若い女性の生命エネルギーを増幅、攻撃用に転換してクライーンを消滅させる事の出来るこの兵器により、人類は一度はドクライン帝国の尖兵を押し返す。
ドクライン四天王が陣頭指揮を取り始め、光の王国が『伝説の聖王女』を遣わすまで、テクター・ギアを纏った『機甲天女』こそが人類の希望の星だったのだ。
だが己の命を、文字通り『消費』して戦うテクター・ギアは装着者の身体を蝕む。
戦う中で傷付き、衰弱する者も多いテクター・ギアを纏って戦ってさえ、クライーンを消滅までさせるのは簡単ではない。
故に、光の王国の介入で聖獣の加護を得た聖王女と成れる道が示された時、迷うことなく二人は選んだのだ。
二人だけではない。
黄金の聖王女に見出だされた少女達は、次々にテクター・ギアを捨てた。
それは間違ってはいない。
セイント・ギアを纏った聖王女は単独でもクライーンを浄化出来る。
世界全体でたった96人の聖王女は、その数でドクライン帝国と互角に戦っている。それ故、黄金聖王女などは機甲天女部隊を『屑鉄の紛い物』と呼んで憚らなかった程だ。
だが、ここに居るのはたったの二人。
聖獣が逃走した今、光の力を振るう事も出来ない。
『いつまでも仲間面すんなよ』
『私達がドクライン帝国を倒すのでご心配なく』
「……さいってーだったな、あたし達」
「…そうね、ほんと、最低」
聖王女の中でも頭角を現し、黄金の聖王女と共にドワルデスとの決戦に赴く前、激励に来た元機甲天女部隊の面々に言い放った言葉が、甦る。
傷付きながらも助けてくれた先輩に、苦楽を共にした同輩に、憧れてくれた後輩に。
そして
「……姐御……すまねぇ……」
「隊長…ごめんなさい」
「後悔の懺悔は済んだか?さあ、最期だ」
膨れ上がる膨大なエネルギー
『カオス・ブラスト!!』
放たれるのはゴールデン・プリンセスを撃ち落とした一撃。
汀を背に庇おうとする楓も、楓に覆い被さろうとする汀も、覚悟を決めたその時。
『亀甲防盾!』『風神扇!』『アイギスの鏡!』『ドッキリ・マジック!』『ウォール・オブ・ジェリコ!!』
幾重にも張られ、砕ける防御。
『狐火!』『空破弾!』『チャーム・キッス!』『オール・イン・ワン!』
カオス・ブラストのエネルギーを相殺すべく撃ち込まれる必殺攻撃。
そして
「おおおぉ!! 翔覇断!!」
ザンッ!!
裁ち切るは深紅の刃
大鷲を模した朱の甲冑
翻るのはトレードマークの純白のロングコート
その背に背負うは朱金の繡『大いなる翼』
「楓、汀。無事かい?」
「姐御……」
「……隊長」
その切っ先はドズルイデスを正面に捉え、微動だにしない。
だが、仲間の無事を喜ぶ微笑みが口許に。
「……よお。久しぶりだなドズルイデス」
「……覚えていたか。会いたかったぞ。久しいな鷲の戦士」
喜びすら浮かべ、ドズルイデスはゆっくりと腰の剣を引き抜く。
「なんだ、そりゃ」
不敵に笑う鷲の剣士
「……俺が本当に欲したのは、お前だ。気高く、強き剣士……あんな黄金聖王女などとは比べる気にもならん」
「光栄だね、だけど無駄さ」
楓と汀を護る様に駆けつけ、構える戦乙女達。
その先陣に立つのは、ドクライン帝国と真っ向から戦い続けていた武人。
夢魅町出身の10代少女達を束ねる機甲天女部隊の鬼教官にして、唯一の20代女性でありながら最強と言われる熱血の剣士。
「この織田 伊草と極東本部のヴァルキュリア部隊は、誰一人としてあんたになんぞ靡かねぇよ」
「悪魔とは、手厳しいな」
「……楓!汀!」
「「はい!」」
「いけるな?」
「勿論だ!姐御」
「もう、負けません!」
グルゥ
キュイ
「?」
「あなた達!?」
楓の足にすり寄ったのは、唐獅子に似た黄色のアニマロイド。
汀に寄り添う青いイルカのアニマロイド。
それはテクター・ギアの通常形態。
聖獣に選ばれた時二人から別れを告げた、かつて二人の相棒であった。
「すまねぇ、もう一度力を貸してくれ。頼む仔獅子」
「お願い、ドルフィン」
身勝手な事を言っていると自嘲気味の二人に、しかし、機械仕掛けの二体は心から喜ぶ。
「……いくぜ、ライオット!」
「ドルフィン!テクターセット!」
GO!!
「突撃一番槍!テクター・ライオット!」
「ラピッドシューター!テクター・ドルフィン!」
高機動超近接戦闘型の格闘仕様は山河 楓の代名詞だった。
大地聖王女が中距離からの特殊攻撃を得意としていたのは、思えば聖獣ターコイズ・リンクスが臆病だったからだ。
同じ様に、本来中長距離からの射撃を得意とした青島 汀のドルフィンは、その技術を余すところ無く活かす連射仕様だ。
紺碧聖王女は聖獣スピネル・ユニコーンホエールが、自らの牙を使った近接戦闘に特化していた故に前衛を務めたが、久しぶりに纏ったテクター・ギアは正しく二人を支える唯一無二であった。
「……極東本部所属、機甲天女全13人。推して参る!」
「ドクライン帝国魔皇帝ドズルイデス、受けて立つ!」
後に『本当の伝説』と謳われる戦いは実に20時間に及ぶ。
最終的に炊き出しすら始めた仲間達に見守られながら、織田 伊草が壮絶な殴り合いを制し、血塗れの右腕を高々と突き上げ、雄叫びを上げた。
「一夜明けて荒野で行われた講和会談は、歴史の教科書を見れば必ず載っている。
皇帝ドズルイデスは光の女王ルミネアを解放、人界からの全戦力の引き上げと賠償を打診。光の王国はクライーン被害者の救済と、ドクライン帝国との相互不可侵条約の締結を希望する。
立ち会い者は当時の極東本部。織田、山河、青島の三名および特別アドバイザーとして吉祥寺女史。
この条約は戦後二百年を越えた今も遵守されている。三世界の交流、混血も進んだ。
かく言う私も父が闇の一族で、母は人間のハーフだ。君たちも混血の人は多いな」
見渡せば講義を聞いている学生の五割は混血だろう。時代は進んだのだ。
純血主義者はいない訳ではないが、初期のテロ紛い行為が厳しく取り締まられた為、個人的な嫌悪感程度に留まっている。
「センセー」
「何かな?」
徐に挙手した生徒の質問は、この講義ではお馴染みなものだ。
「関係者のその後知りたいんですけどー」
「教科書には載っていないからね。まず光の女王ルミネアは現在も在位しているのは知っての通りだ。皇帝ドズルイデスは先頃帝位を譲って隠居している。継いだのは長男のドアツイデスだ。織田、山河、青島をはじめとするヴァルキュリア部隊と聖王女は元々普通の少女達だから、それぞれの生活に戻った者が殆どだ。一部にエリートである聖王女優位を主張したグループも居たが、それほどの活動は行われなかったな」
「黄金聖王女は今、どうしてるんですかー?」
「存命だが、現在は公の場には出てきていないな。詳しくは光の王室広報を読めば良いとおもう」
戦後、エリート理論を振りかざして、テロ行為を繰り返した事は伏せられているがね……
「さて、他に質問が無いようならこれで今日の講義を終了する。次回は……」
「お疲れさまでした、千草先生」
「……受講ナンバー72は要注意」
「了解です。どっちですか?」
「黄金信奉者ね。闇族系の人から距離を取っていたし」
「困ったもんですね」
「ほんと、平和のありがたみが判らない人は困るわ」
「今日はこれから皇帝陛下と?」
「元、皇帝陛下ね。今は兄貴が皇帝だもの」
「そうでした、つい」
「おば様達に伝言とかある?」
「大丈夫です。毎日話してますから」
「ウチもです。毎日扱かれてます!」
明るく笑うのは『英雄の娘達』
後に山河楓は元四天王の一人、剛拳のナグリッドと結ばれる。
青島汀は光の女王側近だった文官と子を成す。
織田伊草の娘である千草とは、幼い頃から共に過ごした親友同士である。
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