身も蓋もない蹂躙

荒谷創

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ポンコツダンジョンマスターとお目付け役の会話

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「百傑迷宮の白骨王様に宣戦布告されたぁ!?」
「あ~、うん。死と獣の神様主催のパーティーでね」
顎が外れんばかりに大口を開けて驚愕する補佐役サージュ
折角男装の麗人で、前の世界のトップモデルが帽子を脱いで食べちゃう位の美形なのに……
「すまんねぇ、迷宮主がこんなポンコツで……」
心底すまなそうに頭を下げる中年男迷宮主に、男装の麗人補佐役は苛々を募らせ、睨み付ける。
「分かっているなら、何とかしなさいよ!」

そう言われても、一体何が原因でこうなったのかは、こっちが聞きたいよ。
怒鳴り付けられ、思わずぼやく中年男迷宮主
こちらは補佐役とは到底釣り合わない残念な容姿である。
胴長、短足、がに股で姿勢もあまりよろしくない。
ウエストサイズも平均値よりは、やや太い。
少しばかり垂れた目尻には柔和な笑みが張り付いている。
どことなく『穴熊』を思わせる風貌のこの新米迷宮主が支配するのは、まだ『二つ名』どころか、地上へ入口すら開いていない『未成熟迷宮』だ。

世界に数万はあるという迷宮の中でも、特に優れた功績を上げた上位100迄の迷宮と迷宮主に与えられる名誉ある『百傑迷宮』の称号。
今回、それを贈られた白骨王は勇者と聖女を擁するパーティーを退けた偉業を達成した実力者である。
本来、四十路の元リーマンなポンコツ迷宮主の事なんぞ、歯牙にも掛けない様な大物迷宮主……の筈なんだけどなぁ……

所属する『焔と鉄』神派と『死と獣』神派は、そのあるじたる『焔と鉄の神』様と、『死と獣の神』様も含めて普段は殆ど交流が無い。
むしろ『焔と鉄の神』は『命と泉の女神』と夫婦神で、『命と泉の女神』の弟神であり、重度のシスコンである『死と獣の神』とは仲が悪いというのは、神派では有名な話だ。
そんな関係もあって、だいたいの迷宮主達は会場でも同神派同士でかたまっていたのだが……
元リーマン四十路新米迷宮主、自称ショボくれ太郎こと蘇暮  蓮太郎そぼ  れんたろうはまだ迷宮主歴三ヶ月の仮免期間中。
顔見知りが居ないどころか、自分の神派がどの辺りに固まっているのかすら判らなかった。
会場で給仕でも捕まえればどうにかなったと気付いたのは、自分の迷宮に帰って補佐役サージュに顛末を説明している最中という体たらく。
ともかく、会場をふらふらしていたら、いつの間にか『死と獣の神』神派の集まった中に迷い混んでいた次第。
そこで談笑していた迷宮主達に『あのう、すみません。焔と鉄の神様の神派の迷宮主って何処に行けば良いですか?』と尋ねてしまった訳だ。

「……終わった……大物迷宮主さま方どころか、死と獣の神様の面子にも泥を塗って……」
「いや、死と獣の神さまは『こんな間抜けな奴が迷宮主になれるなんて』って呆れてはいたけど、怒ってはいなかったよ?」
膝から崩れ落ち頭を抱える麗人に、もっさり迷宮主蓮太郎はのほほんと言葉を返す。
「その証拠に、このダンジョンバトル?はスーパーハンディキャップルールにしてくれたし」
良い神様だよねぇ♪と笑みすら浮かべる迷宮主を絞め殺したい衝動に駆られながらも、補佐役サージュは何とか体勢を立て直す。
「スーパーハンディキャップルールですか?」
「そ。さすがに何のハンデも無しじゃ見世物にもならないからって」

準備期間は3ヶ月

『疑似空間』に、与えられたDPダンジョンポイントでバトル用の仮設ダンジョンを設置してのフラッグ戦

勝者は敗者に対して一つ命令権を得る。これは敗者が実行出来る範囲の事に限られる命令で、尊厳と長期に渡るものと存在維持に関わるものは却下される。

DPは『白骨王』が100万
蓮太郎が1000万

壁や床等をすり抜けられる非実体系モンスターは使用禁止

魔法等で空間跳躍の類いも禁止

迷宮主本人及び補佐役は疑似コアルームにおいて配下に指示を出すだけで、直接戦闘行為は禁止

ダンジョンバトルに使用しなかったDPは自由にして良い

バトルの結果、どちらが勝利しても互いの立場や評価に変更は無い

バトル結果で今後に遺恨を残さず、エキシビションとして神にバトルを披露出来た事を誇るべし

「どうだい?こっちには損もないし、相手は遥かに格上だ。本気で喧嘩仕掛けられるより、万倍安心ってもんだろう?」
「それはそうですけど、威張らないで!」


補佐役サージュ視点】
私達補佐役は偉大なる神々によって造り出され、迷宮主を手助けして世界の発展に寄与するのが使命。
そしてもしも迷宮主が世界に貢献せず、あまつさえ神に刃を向けるというのなら、神より与えられた力で迷宮主を処分する権限すらある神の使途だ。
サージュは千二百年程前に造り出され、今までに26回迷宮主に仕えた。
幸い、この手で滅しなければならない程の愚物にあたった事は無かったけれど、様々な迷宮主を見てきたものだ。
私の助言を受け入れず大都市近くに迷宮を造った為に、早々に発見されてあっさりと人間に潰された者。
逆に人里離れた場所に迷宮を造ったものの、田舎過ぎて誰にも認知されずDPが枯渇した者。
細かい事が苦手だと迷宮を一本道にした挙げ句、自身で戦う事を好み、軍隊に圧倒された者。
罠だらけの迷宮にしてモンスターが放てなくなり、罠が突破されたら手も足も出せなかった者。
格上の迷宮主と戦争を起こして叩き潰された者。
様々だ。
そういう面ではこのレンターロという冴えない迷宮主は、可もなく不可もないといった評価となるだろう。
小国セレジアの子爵領の領都から、馬車でおよそ三日の距離。
北側に山、西に大河、東には海があり、無理な拡張さえしなければ地脈からのDP収入だけでも維持管理位は余裕で出来る立地に、堅固な岩山型迷宮を造り出し、現在は保有DPを貯蓄している所。
いまだ地上への開口部を設けておらず、内部構造も未設定、モンスターの召還もしないで、日々迷宮主のプライベート空間で引き込もっている。
決断力が無いタイプなのだろうか。
違う気もする。何となくだが、ダラダラ迷っている様には見えない。
『焔と鉄の神』様からは、異世界からの召還者故、ゆっくりやっていけば良いとのお言葉をいただいているし、『命と泉の神』様からも何やら加護をいただいている気配がある。
性格は悪くない。
なんかいつも気だるげで何事も積極性は無いが、この世界出身の迷宮主と違って補佐である私を無意味に崇めたり、高圧的かつ変態的に支配しようとしたりしないのはポイント好感度が高い。


……なんて、軽く考えていた過去の補佐役をぶん殴りたい。


















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