ざまぁ?的な物語?かも?

荒谷創

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とある伯爵令嬢の場合

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婚約破棄ですか?

貴族学園主宰の卒業夜会の席で『私』ことオクスタン伯爵家令嬢アンバレットは、突然エーブリエタース侯爵令息バグリ様に指を突きつけられ、一方的に婚約破棄を申し渡されたので御座います。

「貴様の様な売女が、この俺の婚約者などと、役不足もはだはだしいわ!」

「…あの…」
「なんだ!不足があるというのか!図々しいにもほぞがあるぞ!」
「いえ、その…」
「貴様のような足軽女が、俺に話しかけるなんて、百年遠いわ!」
「そうよそうよ!ダーリンはあたしに虫酸が走るくらい、くびり竹なんだから!あんたみたいな不細工な女なんか、お詫びじゃないのよ!」

どうしましょう…
バグリ様の腕に絡み付いているご令嬢は、確かフール子爵家のパープリン嬢。
子爵家令嬢であるにも関わらず、礼儀を全く弁えていないと、悪い意味で評判の方ですわ…

「どうした!返事をしないか!」
「あの…」
「今さら何言ったってムダですぅ~♪あんたがあたしにやった冤罪は、ぜ~んぶ証拠が作ってあるんですぅ~!悪役令嬢は死刑になっちゃう延命なのよ!」

聞いてくれませんね。
自分たちの世界に入り込んでいる、とでも言いましょうか…
私が口を開けば、大声で威嚇する様に妄言を垂れ流してきます。
せっかくのパーティーが、台無しですわね。
参加している生徒も、来賓の方々も、突然の事にこちらを注視されていますわ。
楽隊も、演奏を止めてしまって、余計にバグリ様とパープリン嬢のキンキン声が会場に響き渡ります。

「貴様のパープリンへの贈与はわかるぞ!我が家の財産狙いの貴様にとっては、まさに目の上の痰壺なのだからな!」
「あたしは、ダーリンが無一文の乞食だって愛しているの!」
「おお、愛しいパープリン!君こそ、学園という掃き溜めに咲いた鷺だ!」
「ダーリン!」
「パープリン!」

あの、盛り上がるのは勝手なのですが、ここはパーティー会場なのです。
抱き合って、口付けを交わすのはちょっと…
「ちょ…」
「愛している!」
「嬉しい!あの女を死刑にしたら、結婚式ね!…あん♪もう、ダーリンったらぁ♪」

いえ、その、バグリ様、パープリン嬢の胸をまさぐるのは、その…

「…お前達、何をやっている…」
「邪魔するな!いいところだと言うのに、空気をよべないのか、まったく…誰だ、貴様!」
「そうよ!邪魔しないでよ!」

お二人共に、何を言っているのかしら。
救世主の如く、声をお掛けくださった方に、私は淑女の礼を取ります。

「は!この売女の男か。」
「引っ込んでなさいよ!」
「…あの…」
「女は黙っていろ!男の会話に割り込もうなんて、なんて鼻息なんだ!」
「きゃー!ダーリンかっこいいー!」
 
…もう、諦めましょう。
多分、この方々は私の言葉を聞く気は皆無です。
なにより、もう手遅れですわ。

「アンバレット嬢は、下がっていなさい。」
「はい。ありがとうございます。」
「待て!まだ終わってないぞ!」
「冤罪の証拠があるんだから!」

いえいえ、私は下がらせて頂きます。
一応、格上である侯爵家の顔を立てないといけない段階では、無くなった訳ですし。
視界の隅に、蒼白になったエーブリエタース侯爵様と、泡を吹いて倒れているフール子爵夫妻が見えますが仕方ありませんね。

「ちっ!まあいい、貴様はあの売女にたぶらかされた喪男か。残念だったな、あの女は死刑だ。下手にかまい倒すと貴様も同罪にしてやるぞ。」
「顔は良いけど、目のほど知らずね!ダーリンは偉いんだから!」

お二人共、衛士近衛が、恐ろしい形相で背後に来ていますわよ…

「ふぎゃ!」
「もがー!?」

粛々と、楽隊が演奏を再開しました。

「アンバレット嬢、大丈夫ですか?」
「勿体なく存じます。大丈夫ですわ。」
「…それにしても、何だったのだろうか。どうも意味不明な事を喚いていたが…」

あの方々は、勉強が何より嫌いで逃げ回っていますからね…

「はだはだしい…は、甚だしい…か?役不足は、意味を知らないのだろうが。」
「…不足があるは、不服がある…と言いたかったのでしょう。図々しいにもほぞがある、は程がある、ですわね。」

そうなると…

「足軽女は、何だろう?百年遠い、は、百年早い、だろうが。」
「…虫酸が走るくらい、くびり竹は、意味が判っていないのと、首ったけ…でしょうか…」
「ああ、多分だが。お詫びじゃないは、お呼びじゃないと言うつもりだったんだな。」

足軽女は、多分、尻軽女だと思います。
口には、しません。出来ません。はしたない。

「冤罪は…犯罪?かな。死刑になる延命って、運命だろうな…」

死刑になるのに、延命は無いですものね…

「パープリン嬢に対する贈与は、何だと思う?」
「…憎悪、では無いでしょうか…」
「なるほど。目の上のたん瘤を痰壺と言う程だからな。」

小気味良くお笑いになられてますが、目が笑っておりませんわ…

「国が創った貴族の学園を掃き溜め呼ばわりした上、鷺が咲くとは、わざと言っているとしか思えないが…」
「…色々な言葉が、中途半端に混ざっているのでしょう…」
「空気をよべないとか言われたな。あれは、空気を読めない、だろうな。」

あの方々に、空気を読めないと言われたというのは、かなりショックですわよね。

「鼻息…は、何だ?意味が判らんが…」
「…生意気、だと思います。」
「…もしかして、脳に病でも抱えているのかも知れんな…」

言い過ぎ…では、ありませんわね。

「喪男とは?」
「存じません。」

多分、間男でしょう。

「かまい倒す…」
「庇いだてすると、ではないでしょうか。目のほど知らず、は身の程知らずだと思います。」
「奴らを尋問するなら、通訳が要るな…」
「関わりたく無いのですが…」
「案ずるな。アンバレット嬢は、これ以上奴らに関わる必要は無い。」
「ありがとうございます。」
「なんの。こんな時くらい、頼ってくれ。」
「はい。殿下。」

そう、この方こそ我が国の第一王子殿下。
二ヶ月後には立太子を済ませ、王太子…次代の王に成られるお方なのです。
貴族の末席に名を連ねるのならば、ご尊顔は必ず知っている筈なのですが…
なにより…

「第一、あの者は何を言っていたのやら。」

本当に。

「あの者の婚約者は…」
「アルバレート伯爵家令嬢のオルタンス様ですわ。」
「今日は居ない筈だな。」
「あの方は、二つ学年が違いますから。卒業の夜会には出席されていませんわ。」
「それでも、自分の婚約者を間違えるとは…」

オルタンス様は、確かパープリン様の同級生の筈ですけれど…
アンバレット・ド・オクスタン
オルタンス・ド・アルバレート
…まさか、名前がうろ覚えなのでは。
まさか、ね……
…ありそう。

その後はつつがなく暦は過ぎ去り。
私は予定通り、第二王太子妃として輿入れいたしました。
いずれは、側妃として王にお仕えする事になります。

そうそう、アルバレート伯爵令嬢のオルタンス様は、勘当されたバグリ様ではなく、弟君と婚約されました。まだ12才の弟君ですので、少し歳の差はありますが、貴族としては珍しいという程ではありませんね。

フール子爵家はパープリン様を勘当なさいましたが、家格をかなり落とされました。男子の跡継ぎも無いので、何処かから養子を迎えるそうですわ。

そして、バグリ様とパープリン様は勘当されて平民と成りました。
ただ、意外にもお二人共にお互いに対する愛には、一点の曇りもなかった様です。
いつでも二人の世界に浸ってしまうラブラブっぷり?は、近所から生暖かい目で見られているんですって。
そして、もっと意外だったのは、パープリン様が素晴らしいお菓子職人だった事と、バグリ様が遣り手の商売人だった事でしょう。
パープリン様が考案された『パープリンプリン』や『パープリンドーナツ』は貴族にも大人気。
お茶会で、コレが無ければ始まらないとさえ、言われていますわ。
そしてバグリ様は、機知に富んだ話術での売り込みが凄いそうです。
私は、単に言い間違えているんだろうな、とは思っていますけどね。


















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