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あばよ
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ハイランドは海を持つ国である。
では、その反対側には何があるのか。
昼なお昏きウルミー樹海
ハイランド王国を他国から切り離す天然の要害である。
果てしない樹海の向こうには、戦人族の小国家がひしめき合い、戦に明け暮れていると言われるが、定かではない。
そして、その樹海に住まう者こそ樹人族であった。
木の葉の頭髪を持ち、木目の浮いた肌と枯れ木の如き痩身。
その肩口から腕に添って伸びる蔓の様な触腕は、身長の数倍まで伸ばす事が出来る。
なによりウルミー樹海の木々と交信して、思うままに操る事が出来る彼等は樹海の絶対者と言って良い程だ。
「ディーゴと何処で出会ったか?」
「そりゃあ、オレら樹人の里だ」
「剣光人族ってなぁ、ウルミー樹海の端っこに住んでんだ」
「そんなに数は多くねぇけどな!」
ギャハハハハ!
昼間は喧嘩をしていた癖に、今は肩を組んで上機嫌な二人の八百屋
ディーゴの話なら混ぜろと押し掛けてきた二人は、聞かれもしないのに饒舌に話し始めた。
「けどよ」
「樹海そのものが助けられたんだ、ディーゴ達によ」
ズ…ズン……
地響きをたてて、巨大な亀の骨骼標本の様な怪物が倒れ伏す。
その背に据えられた禍々しき玉座に座す魔人冥枢機卿ヒビルは、しかし、その白き顏に薄ら笑いを貼り付かせたまま、骨鬼、幽鬼を蹴散らす剣光人を眺めるだけだ。
身に纏うのは、金糸銀糸がふんだんに使われた最高位聖職者の法衣。
だが、その者を見て『聖職者』だと判断するものは居ないだろう。
天を舞う神鳥の聖紋は組み合わさった骨の死鳥に、手にした聖杓には翼を持つ神娘ではなく、淫猥な嘲笑を浮かべる魔鳥女鬼が刻まれ、置き換えられている。
そして一見穏やかに、鷹揚に笑うその眼に浮かぶのは、歪んだ愉悦。
数多の命を呑み込んできたウルミー樹海と、骸を支配する冥枢機卿の力は相性が良すぎた。
そして、瘴気を纏う骨鬼、幽鬼は存在するだけで周囲の生気を奪い、樹木どころか土地そのものを枯らして死に至らしめる。
数体なら差程の影響は出ないが、その数が百、千となってくれば……
既に下草は枯れ果て、樹木は茶色い葉を落とし、地は灰の如く乾燥して力を失いつつあった。
ディーゴが押し寄せる死の軍勢を根こそぎ撥ね飛ばしている内には、地に臥していた屍骨城亀の眼窩に鬼火が灯り、身を起こして再び歩き始める。
風を裂く蔓の鞭が、飛び回る幽鬼の頭を粉砕する。
骨鬼が大蛇に巻かれたかの如く締め上げられ、砕かれた。
そして、巨大な屍骨城亀にも無数の蔓……触腕が絡み付くと、遂に地面に縫い止める事に成功した。
「小賢しい……木偶如きが……」
冥枢機卿は忌々しげに周囲を取り囲む樹人族を睥睨すると、遂に玉座から立ち上がる。
禍々しい法衣の裾をはためかせ、穢れた聖杓を振り上げた冥枢機卿
鮮血の如く赤い方陣が描き出され、呪が唱えられる。
やがて開かれたるは冥界の扉
その向こうから不気味な嘶きと共に、何者かが迫ってくる。
「地獄27階層の君主!罪人を寿ぎ、聖人を踏み躙るもの!聖女を瀆し、魔を孕ませたるもの!ここに来たれ!その名……な!?」
ドドドドドドドド ド ド ド ド ! ! !
樹海に轟くは雷鳴の如く
猟豹の如く地を駈けながら、天を翔ぶ隼をも置き去りに
薄紫の装甲のそこかしこには、剣呑なる刃を備え
機械仕掛けの単戦車は、その背に機械手甲の男を乗せて開かれた扉に飛び込んでいった
「その様な相手に、一体どうやって勝ったのですか?」
「それよ」
「最初、ディーゴが何回切っても死ななくてよ」
「あのデカブツだけで三回はブッ殺したぜ」
「バカやろ、五回だろ」
女王の問いに、言い争いながらも仲良さげに肩を組む樹人族の二人は漫才めいた言い合いをしながらも律儀に答える。
「「やっぱ、王乃剣のおかげだよな!」」
「ディーゴが持ってるだろ?あの剣さ!」
「あれは樹人族の長老のじい様のじい様の、そのまたじい様が根をはる前から在るんだぜ」
「樹人族は、王乃剣の管理者の末裔なんだってよ!」
「そんでよ、あのデカブツを何回かブッ殺した辺りで、長老から『ディーゴを里に』って声が届いてよ」
「ディーゴだけ里に行かせてよ!」
「頑張ったんだぜ!オレ達!」
「んでよ!ビュッ!と駆けていったディーゴが」
「ビュビューン!って駆け戻ってきて、ズバッっとクソ野郎を真っ二つにして仕舞いよ」
「「スッキリしたよなぁ!」」
ギャハハハ!!
月の光に照らし出されるのは、巨大な屍骨城亀
そして二つに断たれた魔人冥枢機卿
激戦の跡には瘴気で枯れ果てた下草、砕かれた樹木が此処彼処に転がり、生き物の気配は虫一匹も在りはしない。
だが……
「……ククククク……愚か者共め……」
二つに分かたれた冥枢機卿の上半身がフワリと浮き上がり、やはり浮く様に立ち上がった自らの下半身に乗ると、瞬く間に接合してしまう。
法衣に傷一つもなく、冥枢機卿ヒビルは憎々しげに断ち切られた聖杓を投げ棄てる。
「おのれ、勇者め。またしても邪魔を……」
「するに決まっているだろう?」
「なに!?」
月光を背に、屍骨城亀の背に立つのは機械手甲の三白眼。
「貴様!」
「今度はちゃんと殺してやるよ」
嘯くその機械手甲には、赤黒く脈打つモノが握られている。
「そ、それは!!」
「あばよ。冥神の使徒ヒビル」
グシャ。
「……………!」
機械手甲が何かを握り潰すと同時に、呪いの法衣は千々に千切れ飛び、風に砕けて塵と消えた。
地に伏した屍骨城亀も風に吹かれる端から灰となる。
その様子を、月と樹海だけが見届けていた……
では、その反対側には何があるのか。
昼なお昏きウルミー樹海
ハイランド王国を他国から切り離す天然の要害である。
果てしない樹海の向こうには、戦人族の小国家がひしめき合い、戦に明け暮れていると言われるが、定かではない。
そして、その樹海に住まう者こそ樹人族であった。
木の葉の頭髪を持ち、木目の浮いた肌と枯れ木の如き痩身。
その肩口から腕に添って伸びる蔓の様な触腕は、身長の数倍まで伸ばす事が出来る。
なによりウルミー樹海の木々と交信して、思うままに操る事が出来る彼等は樹海の絶対者と言って良い程だ。
「ディーゴと何処で出会ったか?」
「そりゃあ、オレら樹人の里だ」
「剣光人族ってなぁ、ウルミー樹海の端っこに住んでんだ」
「そんなに数は多くねぇけどな!」
ギャハハハハ!
昼間は喧嘩をしていた癖に、今は肩を組んで上機嫌な二人の八百屋
ディーゴの話なら混ぜろと押し掛けてきた二人は、聞かれもしないのに饒舌に話し始めた。
「けどよ」
「樹海そのものが助けられたんだ、ディーゴ達によ」
ズ…ズン……
地響きをたてて、巨大な亀の骨骼標本の様な怪物が倒れ伏す。
その背に据えられた禍々しき玉座に座す魔人冥枢機卿ヒビルは、しかし、その白き顏に薄ら笑いを貼り付かせたまま、骨鬼、幽鬼を蹴散らす剣光人を眺めるだけだ。
身に纏うのは、金糸銀糸がふんだんに使われた最高位聖職者の法衣。
だが、その者を見て『聖職者』だと判断するものは居ないだろう。
天を舞う神鳥の聖紋は組み合わさった骨の死鳥に、手にした聖杓には翼を持つ神娘ではなく、淫猥な嘲笑を浮かべる魔鳥女鬼が刻まれ、置き換えられている。
そして一見穏やかに、鷹揚に笑うその眼に浮かぶのは、歪んだ愉悦。
数多の命を呑み込んできたウルミー樹海と、骸を支配する冥枢機卿の力は相性が良すぎた。
そして、瘴気を纏う骨鬼、幽鬼は存在するだけで周囲の生気を奪い、樹木どころか土地そのものを枯らして死に至らしめる。
数体なら差程の影響は出ないが、その数が百、千となってくれば……
既に下草は枯れ果て、樹木は茶色い葉を落とし、地は灰の如く乾燥して力を失いつつあった。
ディーゴが押し寄せる死の軍勢を根こそぎ撥ね飛ばしている内には、地に臥していた屍骨城亀の眼窩に鬼火が灯り、身を起こして再び歩き始める。
風を裂く蔓の鞭が、飛び回る幽鬼の頭を粉砕する。
骨鬼が大蛇に巻かれたかの如く締め上げられ、砕かれた。
そして、巨大な屍骨城亀にも無数の蔓……触腕が絡み付くと、遂に地面に縫い止める事に成功した。
「小賢しい……木偶如きが……」
冥枢機卿は忌々しげに周囲を取り囲む樹人族を睥睨すると、遂に玉座から立ち上がる。
禍々しい法衣の裾をはためかせ、穢れた聖杓を振り上げた冥枢機卿
鮮血の如く赤い方陣が描き出され、呪が唱えられる。
やがて開かれたるは冥界の扉
その向こうから不気味な嘶きと共に、何者かが迫ってくる。
「地獄27階層の君主!罪人を寿ぎ、聖人を踏み躙るもの!聖女を瀆し、魔を孕ませたるもの!ここに来たれ!その名……な!?」
ドドドドドドドド ド ド ド ド ! ! !
樹海に轟くは雷鳴の如く
猟豹の如く地を駈けながら、天を翔ぶ隼をも置き去りに
薄紫の装甲のそこかしこには、剣呑なる刃を備え
機械仕掛けの単戦車は、その背に機械手甲の男を乗せて開かれた扉に飛び込んでいった
「その様な相手に、一体どうやって勝ったのですか?」
「それよ」
「最初、ディーゴが何回切っても死ななくてよ」
「あのデカブツだけで三回はブッ殺したぜ」
「バカやろ、五回だろ」
女王の問いに、言い争いながらも仲良さげに肩を組む樹人族の二人は漫才めいた言い合いをしながらも律儀に答える。
「「やっぱ、王乃剣のおかげだよな!」」
「ディーゴが持ってるだろ?あの剣さ!」
「あれは樹人族の長老のじい様のじい様の、そのまたじい様が根をはる前から在るんだぜ」
「樹人族は、王乃剣の管理者の末裔なんだってよ!」
「そんでよ、あのデカブツを何回かブッ殺した辺りで、長老から『ディーゴを里に』って声が届いてよ」
「ディーゴだけ里に行かせてよ!」
「頑張ったんだぜ!オレ達!」
「んでよ!ビュッ!と駆けていったディーゴが」
「ビュビューン!って駆け戻ってきて、ズバッっとクソ野郎を真っ二つにして仕舞いよ」
「「スッキリしたよなぁ!」」
ギャハハハ!!
月の光に照らし出されるのは、巨大な屍骨城亀
そして二つに断たれた魔人冥枢機卿
激戦の跡には瘴気で枯れ果てた下草、砕かれた樹木が此処彼処に転がり、生き物の気配は虫一匹も在りはしない。
だが……
「……ククククク……愚か者共め……」
二つに分かたれた冥枢機卿の上半身がフワリと浮き上がり、やはり浮く様に立ち上がった自らの下半身に乗ると、瞬く間に接合してしまう。
法衣に傷一つもなく、冥枢機卿ヒビルは憎々しげに断ち切られた聖杓を投げ棄てる。
「おのれ、勇者め。またしても邪魔を……」
「するに決まっているだろう?」
「なに!?」
月光を背に、屍骨城亀の背に立つのは機械手甲の三白眼。
「貴様!」
「今度はちゃんと殺してやるよ」
嘯くその機械手甲には、赤黒く脈打つモノが握られている。
「そ、それは!!」
「あばよ。冥神の使徒ヒビル」
グシャ。
「……………!」
機械手甲が何かを握り潰すと同時に、呪いの法衣は千々に千切れ飛び、風に砕けて塵と消えた。
地に伏した屍骨城亀も風に吹かれる端から灰となる。
その様子を、月と樹海だけが見届けていた……
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