6 / 9
弱さを恐れた
しおりを挟む
「イヴァルディは、戦人族の砦でディーゴと会ったのですよね?」
「左様ですな」
荒々しき武人の種族。
魔法の素養を持つが、手にした武器に流して一時的に魔法武器とする事にしか出来ない為、かつての差別主義者などは『あれは魔物の一種だ』などと揶揄していた。
それが本物の魔物達に城を追われ、命からがら流れ着いた先が戦人族の砦だったというのだから皮肉なものだ。
「それが今や『タヒコ・イヴァルディ』と呼ばれる様になるとは……」
「タヒコ…ですか?」
「戦人族の古い言葉で、共に戦う者という意味です。戦人族は自分達と深い縁を結んだ異民族の名に、意味のある言葉を乗せる習わしがあります」
戦士ならザン、善き隣人ならマゴトやガガンジ
否定的な意味ならゲラダ
もっと端的にドラヴ等というのもある。
「信頼されたのですね」
「面映ゆいですがな。ディーゴはスヴァクと呼ばれます」
「裁き……」
「ディーゴは、魔将ジオを討ちましたので」
魔神ガルナックは数多の魔物を魔界より召還し、強大な眷属を生み出したが、その他にも強力な配下を従えていた。
【三魔人】
奇怪宰相クロマス
冥枢機卿ヒビル
そして魔将ジオ
人としての知能や技能を有する魔人は、魔神ガルナックに魂を売り渡し、人を辞めた存在だ。
「魔将……元々の彼は……」
「既にその名は戦人族において忌名となっています。お呼びになりませんように……」
かつては誉れとして呼ばれた名は、未来永劫呼ばれる事も、子供に付けられる事もない。
戦人族を裏切り、力に溺れた魔人ジオとして、戒めの為に語られる。
「でも……」
「……私を含め、種族差別主義だったもの達にも、勿論責任はあります。戦人族の誇りを軽んじた国そのものにも、罪があるでしょう。しかし、かの者が行った非道は、赦されない」
「弱き者は不要!!」
年老いたもの、怪我や病で剣を振るえなくなったもの、才に乏しく他者より技量が劣るもの
挙げ句には戦士でない職人や商人、農民
幼い子供や妊婦を狙い、小規模の集落を焼き討ちする。
「戦いこそが戦人の全て!」
「戦いだけが戦人の望み!」
ガルナックの眷属である火炎邪竜キィスマッグの背に乗り、ハイランド東南部戦人族の地であるクピンガ高地を荒らし回った。
「そこに、戦人族の最も偉大な戦士、三人の大戦士長筆頭だった誇りなど、欠片も残ってはいませんでした」
「自分以外の大戦士長を騙し討ちにし、罪なき同族の村を五つ焼き払って、魔神ガルナックに取り入った卑怯者」
「キィスマッグが墜ち、ディーゴと対した時も、その傲岸さは変わりませんでした」
「切った者の血を啜る魔剣を墜ちた騎竜に突き立て、その命を吸い上げながら奴は弱者に生きる資格は無いと言い切りました」
戦人族は戦士の種族だ。それ故、弱肉強食、力の信奉者も多く存在する。
特に若者はその傾向が強く、先達の戒めに反発して暴力に走る時がある。
ディーゴと魔将が対峙した時、その周囲には多くの若者達が倒れ、呻き声を上げていた。
火炎邪竜と同じ色の鎧を纒い、竜を模した兜の武者は、魔将に心酔し『赤竜隊』を名乗って、各地で被害を出した若者達である。
彼らは、つい先程……神殿に備え付けられた古代の大砲によって火炎邪竜が撃ち落とされるまで、魔将の命令でディーゴに襲い掛かかり、そして暴風の如きディーゴによって薙ぎ倒された。
「それでも、彼等は信じていました。魔将が勝つことを」
火炎邪竜の生命を吸い尽くし、鉱人族並みに巨大化した大戦士長が、禍々しく脈動する魔剣を振るい猛然と斬り掛かる。
対するディーゴの手には、戦人族が古くより愛してきたスクラマサクスとターゲットシールド。
騙し討ちに散った二人の大戦士長の遺品である。
魔力を引き出す宝石の護符に飾られた逸品ではあるが、どう足掻いてもただの鋼の武具だ。
魔剣と打ち合うなど不可能。
ましてや小柄な剣光人と巨大化した魔将の体格差は大人と幼児ほどにある。
大きく跳び退いて躱しても、追撃されてジリ貧になるだけだと、敵も味方も、そう考えた。
カンッ
軽い音と共に魔剣が跳ね除けられ、魔将がまるで万歳するかの如く大きく仰け反るまでは。
「まるで相手になりませんでした。魔将の振るう魔剣は岩すら断ち切り、風圧で周囲の赤竜隊を吹き飛ばす程であったのに」
「砂礫の神殿を解放した後で、砦に戻ったディーゴに聞いたのです。魔将の魔剣は恐ろしく無かったのか、と」
「ディーゴは少し困った様に言いましたよ」
『力任せで見るところもない剣だった』
「ディーゴに斬られ地に伏した魔将の肉体は、急速に老化しました……いえ、元に戻ったのでしょう……奴は齢70を越えていました。戦人族としては、長老格と言っても良い」
「ディーゴは、奴が『弱さを恐れた』と言っていました。老いの恐怖……大戦士長として敬われる剣技が衰えていく」
「それを何より恐れたが故に、若さに固執したと」
血を啜り、所有者に若さと活力を与える魔剣。
「その力に酔い、溺れ、再び失う事を更に恐れる」
「火炎邪竜の膨大な生命力で膨れ上がった肉体、もて余す程の筋力。年若く、小柄なディーゴに対する侮り」
「勝てるという慢心と、負ける事、失う事への恐怖」
そこには『剣士の技量』も『武人としての覚悟』も無い。
『あんなのは、そこらの巨鬼と変わらない』
「それは、あの場にいた赤竜隊の若者にも、何となく伝わったのだと思います。いま、彼等は贖罪と故郷の復興の為に身を粉にして働いていますから」
「左様ですな」
荒々しき武人の種族。
魔法の素養を持つが、手にした武器に流して一時的に魔法武器とする事にしか出来ない為、かつての差別主義者などは『あれは魔物の一種だ』などと揶揄していた。
それが本物の魔物達に城を追われ、命からがら流れ着いた先が戦人族の砦だったというのだから皮肉なものだ。
「それが今や『タヒコ・イヴァルディ』と呼ばれる様になるとは……」
「タヒコ…ですか?」
「戦人族の古い言葉で、共に戦う者という意味です。戦人族は自分達と深い縁を結んだ異民族の名に、意味のある言葉を乗せる習わしがあります」
戦士ならザン、善き隣人ならマゴトやガガンジ
否定的な意味ならゲラダ
もっと端的にドラヴ等というのもある。
「信頼されたのですね」
「面映ゆいですがな。ディーゴはスヴァクと呼ばれます」
「裁き……」
「ディーゴは、魔将ジオを討ちましたので」
魔神ガルナックは数多の魔物を魔界より召還し、強大な眷属を生み出したが、その他にも強力な配下を従えていた。
【三魔人】
奇怪宰相クロマス
冥枢機卿ヒビル
そして魔将ジオ
人としての知能や技能を有する魔人は、魔神ガルナックに魂を売り渡し、人を辞めた存在だ。
「魔将……元々の彼は……」
「既にその名は戦人族において忌名となっています。お呼びになりませんように……」
かつては誉れとして呼ばれた名は、未来永劫呼ばれる事も、子供に付けられる事もない。
戦人族を裏切り、力に溺れた魔人ジオとして、戒めの為に語られる。
「でも……」
「……私を含め、種族差別主義だったもの達にも、勿論責任はあります。戦人族の誇りを軽んじた国そのものにも、罪があるでしょう。しかし、かの者が行った非道は、赦されない」
「弱き者は不要!!」
年老いたもの、怪我や病で剣を振るえなくなったもの、才に乏しく他者より技量が劣るもの
挙げ句には戦士でない職人や商人、農民
幼い子供や妊婦を狙い、小規模の集落を焼き討ちする。
「戦いこそが戦人の全て!」
「戦いだけが戦人の望み!」
ガルナックの眷属である火炎邪竜キィスマッグの背に乗り、ハイランド東南部戦人族の地であるクピンガ高地を荒らし回った。
「そこに、戦人族の最も偉大な戦士、三人の大戦士長筆頭だった誇りなど、欠片も残ってはいませんでした」
「自分以外の大戦士長を騙し討ちにし、罪なき同族の村を五つ焼き払って、魔神ガルナックに取り入った卑怯者」
「キィスマッグが墜ち、ディーゴと対した時も、その傲岸さは変わりませんでした」
「切った者の血を啜る魔剣を墜ちた騎竜に突き立て、その命を吸い上げながら奴は弱者に生きる資格は無いと言い切りました」
戦人族は戦士の種族だ。それ故、弱肉強食、力の信奉者も多く存在する。
特に若者はその傾向が強く、先達の戒めに反発して暴力に走る時がある。
ディーゴと魔将が対峙した時、その周囲には多くの若者達が倒れ、呻き声を上げていた。
火炎邪竜と同じ色の鎧を纒い、竜を模した兜の武者は、魔将に心酔し『赤竜隊』を名乗って、各地で被害を出した若者達である。
彼らは、つい先程……神殿に備え付けられた古代の大砲によって火炎邪竜が撃ち落とされるまで、魔将の命令でディーゴに襲い掛かかり、そして暴風の如きディーゴによって薙ぎ倒された。
「それでも、彼等は信じていました。魔将が勝つことを」
火炎邪竜の生命を吸い尽くし、鉱人族並みに巨大化した大戦士長が、禍々しく脈動する魔剣を振るい猛然と斬り掛かる。
対するディーゴの手には、戦人族が古くより愛してきたスクラマサクスとターゲットシールド。
騙し討ちに散った二人の大戦士長の遺品である。
魔力を引き出す宝石の護符に飾られた逸品ではあるが、どう足掻いてもただの鋼の武具だ。
魔剣と打ち合うなど不可能。
ましてや小柄な剣光人と巨大化した魔将の体格差は大人と幼児ほどにある。
大きく跳び退いて躱しても、追撃されてジリ貧になるだけだと、敵も味方も、そう考えた。
カンッ
軽い音と共に魔剣が跳ね除けられ、魔将がまるで万歳するかの如く大きく仰け反るまでは。
「まるで相手になりませんでした。魔将の振るう魔剣は岩すら断ち切り、風圧で周囲の赤竜隊を吹き飛ばす程であったのに」
「砂礫の神殿を解放した後で、砦に戻ったディーゴに聞いたのです。魔将の魔剣は恐ろしく無かったのか、と」
「ディーゴは少し困った様に言いましたよ」
『力任せで見るところもない剣だった』
「ディーゴに斬られ地に伏した魔将の肉体は、急速に老化しました……いえ、元に戻ったのでしょう……奴は齢70を越えていました。戦人族としては、長老格と言っても良い」
「ディーゴは、奴が『弱さを恐れた』と言っていました。老いの恐怖……大戦士長として敬われる剣技が衰えていく」
「それを何より恐れたが故に、若さに固執したと」
血を啜り、所有者に若さと活力を与える魔剣。
「その力に酔い、溺れ、再び失う事を更に恐れる」
「火炎邪竜の膨大な生命力で膨れ上がった肉体、もて余す程の筋力。年若く、小柄なディーゴに対する侮り」
「勝てるという慢心と、負ける事、失う事への恐怖」
そこには『剣士の技量』も『武人としての覚悟』も無い。
『あんなのは、そこらの巨鬼と変わらない』
「それは、あの場にいた赤竜隊の若者にも、何となく伝わったのだと思います。いま、彼等は贖罪と故郷の復興の為に身を粉にして働いていますから」
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした
セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。
牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。
裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる