ハイランド英雄譚

荒谷創

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弱さを恐れた

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「イヴァルディは、戦人ヒュム族の砦でディーゴと会ったのですよね?」
「左様ですな」
荒々しき武人の種族。
魔法の素養を持つが、手にした武器に流して一時的に魔法武器とする事にしか出来ない為、かつての差別主義者イヴァルディなどは『あれは魔物の一種だ』などと揶揄していた。
それが本物の魔物達に城を追われ、命からがら流れ着いた先が戦人ヒュム族の砦だったというのだから皮肉なものだ。
「それが今や『タヒコ・イヴァルディ』と呼ばれる様になるとは……」
「タヒコ…ですか?」
戦人ヒュム族の古い言葉で、という意味です。戦人ヒュム族は自分達と深い縁を結んだ異民族の名に、意味のある言葉を乗せる習わしがあります」
戦士ならザン剣の友、善き隣人ならマゴト親しい人ガガンジ賑やかな人
否定的な意味ならゲラダ厭な奴
もっと端的にドラヴ等というのもある。
「信頼されたのですね」
「面映ゆいですがな。ディーゴはスヴァク裁きの剣と呼ばれます」
「裁き……」
「ディーゴは、魔将ジオを討ちましたので」


魔神ガルナックは数多の魔物を魔界より召還し、強大な眷属を生み出したが、その他にも強力な配下を従えていた。
【三魔人】
奇怪宰相ノーブルクロマス
冥枢機卿カーディナルヒビル
そして魔将デモンロードジオ
人としての知能や技能を有する魔人は、魔神ガルナックに魂を売り渡し、存在だ。
魔将ジオ……元々の彼は……」
「既にその名本名戦人ヒュム族においてとなっています。お呼びになりませんように……」
かつては誉れとして呼ばれた名は、未来永劫呼ばれる事も、子供に付けられる事もない。
戦人ヒュム族を裏切り、力に溺れた魔人ジオとして、戒めの為に語られる。
「でも……」
「……私を含め、種族差別主義だったもの達にも、勿論責任はあります。戦人ヒュム族の誇りを軽んじた国そのものにも、罪があるでしょう。しかし、かの者が行った非道は、赦されない」



「弱き者は不要!!」
年老いたもの、怪我や病で剣を振るえなくなったもの、才に乏しく他者より技量が劣るもの
挙げ句には戦士でない職人や商人、農民
幼い子供や妊婦を狙い、小規模の集落を焼き討ちする。
「戦いこそが戦人ヒュムの全て!」

「戦いだけが戦人ヒュムの望み!」

ガルナックの眷属である火炎邪竜レッドワイバーンキィスマッグの背に乗り、ハイランド東南部戦人ヒュム族の地であるクピンガ高地を荒らし回った。
「そこに、戦人ヒュム族の最も偉大な戦士、三人の大戦士長筆頭だった誇りなど、欠片も残ってはいませんでした」
「自分以外の大戦士長を騙し討ちにし、罪なき同族の村を五つ焼き払って、魔神ガルナックに取り入った卑怯者」
「キィスマッグが墜ち、ディーゴと対した時も、その傲岸さは変わりませんでした」

「切った者の血を啜る魔剣を墜ちた騎竜キィスマッグに突き立て、その命を吸い上げながら奴は弱者に生きる資格は無いと言い切りました」

戦人ヒュム族は戦士の種族だ。それ故、弱肉強食、力の信奉者も多く存在する。
特に若者はその傾向が強く、先達の戒めに反発して暴力に走る時がある。
ディーゴと魔将ジオが対峙した時、その周囲には多くの若者達が倒れ、呻き声を上げていた。
火炎邪竜キィスマッグと同じの鎧を纒い、竜を模した兜の武者は、魔将ジオに心酔し『赤竜隊』を名乗って、各地で被害を出した若者達である。
彼らは、つい先程……神殿に備え付けられた古代の大砲によって火炎邪竜キィスマッグが撃ち落とされるまで、魔将ジオの命令でディーゴに襲い掛かかり、そして暴風の如きディーゴによって薙ぎ倒された。
「それでも、彼等は信じていました。魔将ジオが勝つことを」

火炎邪竜キィスマッグの生命を吸い尽くし、鉱人ゴレム族並みに巨大化した大戦士長魔将ジオが、禍々しく脈動する魔剣を振るい猛然と斬り掛かる。
対するディーゴの手には、戦人ヒュム族が古くより愛してきたスクラマサクスとターゲットシールド。
騙し討ちに散った二人の大戦士長の遺品である。
魔力を引き出す宝石の護符に飾られた逸品ではあるが、どう足掻いてもただのはがねの武具だ。
魔剣と打ち合うなど不可能。
ましてや小柄な剣光人ディーゴと巨大化した魔将ジオの体格差は大人と幼児ほどにある。
大きく跳び退いて躱しても、追撃されてジリ貧になるだけだと、赤竜隊味方ヒュム族も、そう考えた。

カンッ

軽い音と共に魔剣が跳ね除けられ、魔将ジオ大きく仰け反るまでは。

「まるで相手になりませんでした。魔将ジオの振るう魔剣は岩すら断ち切り、風圧で周囲の赤竜隊を吹き飛ばす程であったのに」
「砂礫の神殿を解放した後で、砦に戻ったディーゴに聞いたのです。魔将ジオの魔剣は恐ろしく無かったのか、と」
「ディーゴは少し困った様に言いましたよ」

『力任せで見るところもない剣だった』

「ディーゴに斬られ地に伏した魔将ジオの肉体は、急速に老化しました……いえ、元に戻ったのでしょう……奴は齢70を越えていました。戦人ヒュム族としては、長老格と言っても良い」
「ディーゴは、奴が『弱さを恐れた』と言っていました。老いの恐怖……大戦士長として敬われる剣技が衰えていく」
「それを何より恐れたが故に、若さに固執したと」
血を啜り、所有者に若さと活力を与える魔剣。
「その力に酔い、溺れ、再び失う事を更に恐れる」
火炎邪竜キィスマッグの膨大な生命力で膨れ上がった肉体、もて余す程の筋力。年若く、小柄なディーゴに対する侮り」
「勝てるという慢心と、負ける事、失う事への恐怖」
そこには『剣士の技量』も『武人としての覚悟』も無い。

『あんなのは、そこらの巨鬼ブル・オーガと変わらない』

「それは、あの場にいた赤竜隊の若者にも、何となく伝わったのだと思います。いま、彼等は贖罪と故郷の復興の為に身を粉にして働いていますから」



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