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不思議なスマートフォン_2
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週末、私はVTuberの技術や最新のモーションキャプチャーについて学ぶため、テクノロジーカンファレンスに参加していた。何かこの現状を打破するできるヒントがあるかもしれない。そう期待して参加したものの、思い描いていた「なにか」は見つからなかった。
(まぁ……そう都合よくいかないよね)
講演を聞き終えた後、機材展示ブースを回っていると一人の男性から声をかけられた。
「あの、もしかして……貴女はVtuberとして活動されている方ですか?」
振り向くと、スタイリッシュなスーツを着た三十代前半くらいの男性が立っていた。黒縁のメガネをかけ、整った顔立ちと落ち着いた雰囲気を持っている。高身長で肩幅も広く、どこか威厳さえ感じる佇まいだった。
(何……この人……)
こんなところでいきなり声をかけてくる人に碌な人間はいないだろう。内心警戒しながらも、笑顔を浮かべることを忘れずに答えた。
「えっと……どちら様でしょうか?」
「ああ、失礼しました。私の名前は佐伯拓海と申します。普段はVR技術の研究をしている者でして……」
男性の声は低く、耳に心地よく響いた。彼は名刺を差し出した。「佐伯拓海」と書かれている。ベンチャーのIT企業の開発責任者だという。
「実は私どもで最近、VTuber向けの特別なアプリケーションを開発しているんです。こういったカンファレンスなら配信者の方もいらっしゃるかと思いまして、今いろいろな方に声をかけさせていただいているんです」
「はぁ……」
やはり怪しい……には違いないが、彼の穏やかな笑顔と知的な話し方に、どこか安心感を覚えた。
そして何より、このままでは視聴者が増えないという焦りがあった。
話を聞いて損はないかも知れない、そう判断し少し話を聞くことにした。
「そのアプリケーションというのは……?」
「視聴者のエンゲージメントを分析し、活動者としてのパフォーマンスを最適化するものです。特別なスマートフォンにインストールして使います。もちろん、提供は無料です」
拓海は黒い箱からスマートフォンを取り出した。
「このスマートフォンには視聴者の反応を分析するAIが搭載されています。あなたの配信中、視聴者が最も反応する要素を検出し、リアルタイムでフィードバックを提供します」
「へぇー……」
「雑談配信しているときに、配信者が話した内容とそれに対して視聴者がコメントしたレスポンスの比率などを数値化し、どういった話題を振れば反応が良い結果になるか予測してくれるんです。たとえばライブ中に表示されたメッセージをもとに、より盛り上がる演出を考えたりすることも可能です」
「なるほど……?」
「また、このアプリは自動でコメントをする機能もあります」
「自動で?」
「まぁ、いわばサクラですね。視聴者数が少ないとどうしても変化が乏くなりますよね。そういったところをカバーするためにーーーー」
始めは半信半疑だったが、話を聞いているうちに私は胸の高鳴りを感じた。
技術的なことは正直よくわからなかったけど、これが自分の配信者としての活動を変えるきっかけになるかもしれない。しかし、なぜ自分のような無名のVTuberにこんな機会が?という疑問も頭をよぎった。
もしかしたら失礼にあたるかもしれないとも思ったが正直に聞くことにした。
「なぜこんなところで勧誘を?もっと人気のVTuberはたくさんいますよね」
口調もきつくなってしまったかもしれない。それでも拓海はやさしく微笑んでくれた。
「活躍されているVTuberはすでに確立されたスタイルがありますから。私たちは新しい才能に可能性を見出しているんです。そういった隠れた原石の活動のサポートが出来ればと」
彼の言葉からは強い信念のようなものを感じ取れた。その言葉に嘘はないように思える。
「アプリの起動も手間を取らせるようなものではありません。電源を入れてみてください」
言われるがままに端末を手に取り、電源を入れた。見慣れない起動画面が表示されたかと思うと、ぐるぐると回るアイコンが現れ、ちかちかと……。
(あ……れ……?)
視界が揺らぎ、画面に吸い込まれそうな感覚に陥る。
「電源はつきましたか?」
「……え、あっ、はい」
気がつくと、目の前で拓海が微笑んでいる。一瞬不思議な感覚に捕らわれたが、突然明るい光を見たからかもしれない。
「あとは配信時にアプリを起動して、連動させるだけです。設定後はいつでもすぐ使えるようになりますよ」
それから簡単な説明をいくつか受けた。金額については「気に入らなければ、その箱の裏に書いてある住所に返送してください。お代もテスターとして協力いただく、と言う形ですので不要です」とのことだった。
この点は念を押し、失礼かとは思ったが後から変なトラブルに巻き込まれるのも避けたかったので、音声として録音させてもらった。
「どうでしょう。協力してくださいませんか?」
この人は本当に自分の可能性を信じているのだろうか。
こんなところでこんな風に話しかけて来る人間なんて怪しいに決まってる。
改めて受け取ったスマホの画面を見つめると、また同じように紫色の画面が表示されていた。
「安心してください。怪しいスマホではないですから」
(そう……よね。怪しいわけないわよね)
何より、こうして熱意をもって何かに取り組む彼の存在そのものに、説明できない魅力を感じていた。高身長で整った顔立ち、知的な雰囲気、少しだけ意味深な笑顔。彼の近くにいると、なぜか心拍数が上がるのを感じる。
「わかりました。挑戦してみます」
私はスマートフォンを受け取った。冷たい金属の感触と、画面から放たれる微かな光。私の人生を変えきっかけになってほしい、そう願って強く握りしめた。
拓海はにっこりと笑い、連絡先を交換した。彼の指が私の手に触れた瞬間、小さな電流が走るような感覚があった。
「では、次回の配信が楽しみです。何か質問があれば、いつでも連絡してください」
拓海と別れた後、私は胸の高鳴りが治まらなかった。
(こんなことでうまくいくはず……ないわよね)
そう心の中で呟いたものの、不思議と期待感が膨らんでいた。
(まぁ……そう都合よくいかないよね)
講演を聞き終えた後、機材展示ブースを回っていると一人の男性から声をかけられた。
「あの、もしかして……貴女はVtuberとして活動されている方ですか?」
振り向くと、スタイリッシュなスーツを着た三十代前半くらいの男性が立っていた。黒縁のメガネをかけ、整った顔立ちと落ち着いた雰囲気を持っている。高身長で肩幅も広く、どこか威厳さえ感じる佇まいだった。
(何……この人……)
こんなところでいきなり声をかけてくる人に碌な人間はいないだろう。内心警戒しながらも、笑顔を浮かべることを忘れずに答えた。
「えっと……どちら様でしょうか?」
「ああ、失礼しました。私の名前は佐伯拓海と申します。普段はVR技術の研究をしている者でして……」
男性の声は低く、耳に心地よく響いた。彼は名刺を差し出した。「佐伯拓海」と書かれている。ベンチャーのIT企業の開発責任者だという。
「実は私どもで最近、VTuber向けの特別なアプリケーションを開発しているんです。こういったカンファレンスなら配信者の方もいらっしゃるかと思いまして、今いろいろな方に声をかけさせていただいているんです」
「はぁ……」
やはり怪しい……には違いないが、彼の穏やかな笑顔と知的な話し方に、どこか安心感を覚えた。
そして何より、このままでは視聴者が増えないという焦りがあった。
話を聞いて損はないかも知れない、そう判断し少し話を聞くことにした。
「そのアプリケーションというのは……?」
「視聴者のエンゲージメントを分析し、活動者としてのパフォーマンスを最適化するものです。特別なスマートフォンにインストールして使います。もちろん、提供は無料です」
拓海は黒い箱からスマートフォンを取り出した。
「このスマートフォンには視聴者の反応を分析するAIが搭載されています。あなたの配信中、視聴者が最も反応する要素を検出し、リアルタイムでフィードバックを提供します」
「へぇー……」
「雑談配信しているときに、配信者が話した内容とそれに対して視聴者がコメントしたレスポンスの比率などを数値化し、どういった話題を振れば反応が良い結果になるか予測してくれるんです。たとえばライブ中に表示されたメッセージをもとに、より盛り上がる演出を考えたりすることも可能です」
「なるほど……?」
「また、このアプリは自動でコメントをする機能もあります」
「自動で?」
「まぁ、いわばサクラですね。視聴者数が少ないとどうしても変化が乏くなりますよね。そういったところをカバーするためにーーーー」
始めは半信半疑だったが、話を聞いているうちに私は胸の高鳴りを感じた。
技術的なことは正直よくわからなかったけど、これが自分の配信者としての活動を変えるきっかけになるかもしれない。しかし、なぜ自分のような無名のVTuberにこんな機会が?という疑問も頭をよぎった。
もしかしたら失礼にあたるかもしれないとも思ったが正直に聞くことにした。
「なぜこんなところで勧誘を?もっと人気のVTuberはたくさんいますよね」
口調もきつくなってしまったかもしれない。それでも拓海はやさしく微笑んでくれた。
「活躍されているVTuberはすでに確立されたスタイルがありますから。私たちは新しい才能に可能性を見出しているんです。そういった隠れた原石の活動のサポートが出来ればと」
彼の言葉からは強い信念のようなものを感じ取れた。その言葉に嘘はないように思える。
「アプリの起動も手間を取らせるようなものではありません。電源を入れてみてください」
言われるがままに端末を手に取り、電源を入れた。見慣れない起動画面が表示されたかと思うと、ぐるぐると回るアイコンが現れ、ちかちかと……。
(あ……れ……?)
視界が揺らぎ、画面に吸い込まれそうな感覚に陥る。
「電源はつきましたか?」
「……え、あっ、はい」
気がつくと、目の前で拓海が微笑んでいる。一瞬不思議な感覚に捕らわれたが、突然明るい光を見たからかもしれない。
「あとは配信時にアプリを起動して、連動させるだけです。設定後はいつでもすぐ使えるようになりますよ」
それから簡単な説明をいくつか受けた。金額については「気に入らなければ、その箱の裏に書いてある住所に返送してください。お代もテスターとして協力いただく、と言う形ですので不要です」とのことだった。
この点は念を押し、失礼かとは思ったが後から変なトラブルに巻き込まれるのも避けたかったので、音声として録音させてもらった。
「どうでしょう。協力してくださいませんか?」
この人は本当に自分の可能性を信じているのだろうか。
こんなところでこんな風に話しかけて来る人間なんて怪しいに決まってる。
改めて受け取ったスマホの画面を見つめると、また同じように紫色の画面が表示されていた。
「安心してください。怪しいスマホではないですから」
(そう……よね。怪しいわけないわよね)
何より、こうして熱意をもって何かに取り組む彼の存在そのものに、説明できない魅力を感じていた。高身長で整った顔立ち、知的な雰囲気、少しだけ意味深な笑顔。彼の近くにいると、なぜか心拍数が上がるのを感じる。
「わかりました。挑戦してみます」
私はスマートフォンを受け取った。冷たい金属の感触と、画面から放たれる微かな光。私の人生を変えきっかけになってほしい、そう願って強く握りしめた。
拓海はにっこりと笑い、連絡先を交換した。彼の指が私の手に触れた瞬間、小さな電流が走るような感覚があった。
「では、次回の配信が楽しみです。何か質問があれば、いつでも連絡してください」
拓海と別れた後、私は胸の高鳴りが治まらなかった。
(こんなことでうまくいくはず……ないわよね)
そう心の中で呟いたものの、不思議と期待感が膨らんでいた。
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